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堀潤 連載第6回 『「クール・ジャパン」を成功させるには』
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堀潤 連載第6回 『「クール・ジャパン」を成功させるには』

2013-06-11 12:00
     安倍政権が主要政策に掲げ推進する「クール・ジャパン」。経済産業省を中心に、アニメ・ゲームをはじめとしたポップカルチャーや漆・陶芸といった伝統工芸品など、日本の文化芸術を幅広く海外に売り込むための法整備や資金支援のための仕組みづくりなどを急いでいる。

     しかし、映画、ドラマ、ポップソングなどの輸出は、すでに先行する韓国がアジア各地や欧米の音楽・映画市場で着実に実績を重ね売り上げを伸ばしており日本は水をあけられている。

     去年暮れ、アメリカ・ニューヨークのタイムズスクエアで行われた恒例の年越しカウントダウンイベントでは韓国人歌手のPSY(サイ)が招かれ、アメリカで200万枚を売り上げた「江南スタイル」を熱唱。VIP級の扱いで全米中にテレビ中継された。肌も目も、髪の毛の色も違う数万人の観客達が、PSYの歌やダンスを真似して共に踊って年越しをした様子は印象的でもあり「何故、日本には出来なかったか」と考えさせられた。

     韓国では、巨大メーカー・サムスンが設けたシンクタンクが戦略を練り、その青写真にそって政府が強力に文化産業の輸出を後押しする。経産省クール・ジャパン海外戦略室の担当者は「基本的には、日本も韓国の戦略モデルにならう形で進めていく」と語り、政府と民間の協業による輸出支援策を速やかに実行に移すと力を込める。

     しかし肝心の民間企業関係者からは「日本に韓国型モデルは絶対にできない。制約が多すぎる」との声もあがる。

     クール・ジャパンは熱を帯びた成功モデルになりうるのか---。今回、筆者は、経産省でクールジャパン政策の中心人物、海外戦略室長補佐の小田切未来氏(32)とスマートフォン向けソーシャルゲームで成長を続ける株式会社gumi代表の國光宏尚氏(38)を直撃。日本の文化輸出政策の未来を査定した。

    小田切が明かすクールジャパン戦略の実態

     政府が推進するクールジャパン政策とは具体的にどのような取り組みを指すのか。小田切氏はまずこう切り出した。

     「クールジャパンとは何か、実は、一般には誤解されている部分もあります。日用品を作る会社に営業にいった時に、クールジャパンをアニメや漫画だけしか取り扱わないとする偏狭な理解を感じました。メインは確かにファッション、食、音楽、アニメなどですが、本質的には商業施設、温泉、日本の魅力を発信できるものすべてを指します。

     クールジャパン戦略をどう進めているのか、韓国のコンテンツ戦略がそうであるように、事前に設定されたプロセスにしたがい実施・実行しています」

     小田切氏によると、日本のクールジャパン戦略の柱は次の三つ。

     一つ目は海外に展開したい企業とプロモーションに長けた企業とのマッチング。二つ目は、公募で募ったビジネスやプロジェクトの早期支援。三つ目が、ファンドの設立による資金支援の拡充だ。

     マッチングは既に具体的な案件が進んでいる。コンテンツの輸出にあわせ、現地での消費材の販売をセットにした戦略を基本フォーマットにする。例えばテレビ番組の「料理の鉄人」。番組コンテンツ自身の海外輸出にあわせて、国内の食材・食器メーカーと共に現地進出することで市場の拡大をはかるという。

     他にもiPhoneケースに日本の漆を使ったプロダクトの開発、初音ミクの海外現地版の拡大など、早期支援や将来的なファンドを活用した資金支援などを拡充していく計画だ。国内市場が衰退していく中で、特に、新興国市場をターゲットに進めていくと話す。

     一方で、小田切氏は彼らが抱える課題についても率直に語る。

     「現在のクールジャパン戦略の批判点。それは、点が面になっていないこと。単なるイベントにおわってしまうといった指摘です。

     実際の企業の戦略面におけるボトルネックとしては、収益モデルの不透明性、不動産担保がない中での資金調達、海外進出の足がかりとなる拠点を見つけるのが難しいこと、言語の問題、華僑ネットワークのような現地の情報・ノウハウ・人材の不足、などです」

     対応策として、小田切氏が今後の構想をこう明かす。

     「対応策としては、拠点となるようなメディア空間を作る。物理的、精神的空間を作っていきたいと考えています。出資だけが大切という訳ではありません。現地企業へのサポートなど、お金の使い方は様々だと考えています。

     海外にクールジャパン発信拠点になる、『ジャパンイニシアチブモール』や『ジャパンストリート』の設立、日本食を提供する食品街の建設を想定しています。その際、このアクションを点にとどまらせることなく、面となるように尽力せねばなりません。

     さらに、機構のガバナンスとしては、どういった企業に支援を行うかの基準の形成が急務。ビジネスの波及効果、収益が上がる見込みがあるか、国のブランド形成に役立つかなどがあげられます。

     クールジャパン推進機構法案が6月に通れば、秋には、こういったアクションが具体的にスタートできる地盤が整うので、みんなでクールジャパンをもり立てていけたらと思っています」

    「クールジャパンの方向性は間違っている」

     小田切氏の説明を隣で腕組をして聞いていた國光宏尚氏。かつて、中国の大学に留学後、バックパッカーとして世界各地を訪ね、ロサンゼルスを拠点に映画のプロデューサーとして活躍、ドラマやアニメの制作で実績を積んだ後、ゲームの制作会社を設立するという異色の経歴を歩んできた。

     國光氏が代表を務めるgumiは、スマートフォン向けのソーシャルゲームで急成長し、現在東南アジア各地への進出を加速させている。

     「僕こそミスター・クールジャパンですよ」と冗談めかして笑う彼の見立ては厳しかった。

     「クールジャパンの今の方向性は間違っています。問題は、国が支援をしすぎで過保護であること。現地と一人もつながれない雑魚企業を支援する必要はありません。企業に関していえば、いいものを作れば売れると未だに思っていますが、これは大きな間違いです。売れるモデルの構築が大切。

     例えば、ハリウッド映画は全世界同時公開というプロモーションを行い、確実に一定の収益をあげていますが、あれは事前に綿密に構築された盤石のビジネスモデルがあって機能します。アメリカのやり方はそこにソフトをのせていくという手順。世界各地の関係企業などとの事前調整を相当しっかりやっています。

     日本は未だ個別の支援基準の話が中心で、収益見込みがあるかないかという個別対応。プラットフォームをつくるのにはそれなりの大きな金が必要になりますが、そこにこそ国が集中的に投資するべきかと思います。実際、アメリカでは100億くらいの金をピクサーがかけているのに対して、日本はせいぜい数億くらいしかかけられていないというのが実情です」 
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