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記事 72件
  • 長谷川幸洋コラム第50回 集団的自衛権の行使容認を「戦争に巻き込まれる」と反対している場合ではない

    2014-05-29 20:00  
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    ウォッカで乾杯する習近平国家主席とプーチン大統領。〔PHOTO〕gettyimages
    中国とロシアの連携が急速に進んでいる。中国もロシアも「力による現状変更」を実践している国際秩序への挑戦者だ。両国はともに国連安全保障理事会で拒否権を持つ常任理事国でもある。ということは、両国が国際法に違反しても国連は制裁できない。事実上、国連は無力である。鮮明になった中国の野心
    この両国が連携し、これから事実上の同盟関係にまで発展するとなると、世界情勢への影響は計り知れない。ロシアによるクリミア侵攻からわずか2か月で世界情勢は猛烈な勢いで急展開している。いま日本が立っている地点は、そういう局面だ。中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は5月20日、上海で会談し「他国への内政干渉や一方的な制裁に反対する」との内容の共同声明を出した。戦勝70周年行事を合同で開催することでも合意した。これは「ドイツのファシズムと日本の軍国主義」に対する両国の勝利を祝う趣旨であり、当然ながら、とくに中国は日本を念頭に置いている。続いて同夜には、同じ上海で開かれたアジア相互協力信頼醸成会議(CICA)で習主席が基調講演し「アジアの安全保障はアジアの人々が守る」という趣旨の「新しいアジア安全観」を唱えた。これは「中国主導でアジア安保秩序を構築していく」という宣言だ。言い換えれば「米国の好き勝手にはさせないぞ」という話である。アジア相互協力信頼醸成会議(CICA)とは聞き慣れないが、カザフスタンのナザルバエフ大統領が1992年の国連総会で創設を提唱した。99年に15ヵ国で発足し、現在は中ロはじめパキスタン、イラン、トルコ、韓国、イスラエルなど26カ国が加盟している。日本や米国はオブザーバーの立場だ。中国の脅威にさらされているベトナムは加盟しているが、フィリピンやマレーシア、インドネシア、それからロシアと対立しているウクライナもオブザーバーにとどまっている。報道によれば、ベトナムの国家副主席は会議で中国の名指しを避けながらも、南シナ海での衝突事件を念頭に中国をけん制する発言をした、という。中国は首脳会談でロシアと接近しただけでなく、プーチン大統領も出席した国際会議で中国主導の秩序構築を目指す考えを高らかに宣言した。いまや中国の野心は鮮明である。アメリカは中国に弱腰
    習主席は昨年6月、オバマ米大統領との会談で「太平洋は米中両国を受け入れるのに十分に広い」と訴えて事実上、米中による太平洋の縄張り分割を提案した。オバマはこのとき「日本が米国の同盟国であるのを忘れるな」と反撃したが、その5ヵ月後に中国が一方的に防空識別圏を設定すると、米国は識別圏の撤回を求めなかった。それどころか、翌月には訪中したバイデン副大統領が「米国と中国は世界でもっとも重要な二国間関係である」として「新しい形の(米中)大国関係」を呼びかけた。この「新型大国関係」という用語と発想は、もともと中国が提唱したものだ。中国に対する米国の宥和的姿勢が見え始めていたところへ、ロシアがクリミア半島に侵攻した。欧米は経済制裁をしたが、それ以上の手段は手詰まりになって、クリミアは実質的にプーチンの手中に落ちてしまった。これをみた中国が南シナ海で大胆な行動に出る。ベトナムの巡視船への体当たりである。米国は中国の行動を口で批判はしたが、それ以上、軍事はもとより効果的な経済制裁オプションをとる姿勢は見えない。そういう中で、今回のプーチンと習近平の首脳会談、そしてCICAでの習演説という流れである。私は5月18日放送の「たかじんのそこまで言って委員会」で「日本にとって悪夢のシナリオは中国とロシアが手を握ることだ」と話したばかりだ。だが、1週間も立たないうちに、悪夢が現実になって動き出している。予兆はあった。プーチンは3月18日の演説で、クリミア問題でロシアの立場に理解を示した中国に言及し「感謝している」と述べていた。中国はこれに呼応するように、同月27日の国連総会でクリミアの住民投票無効を指摘した総会決議を棄権した(4月4日公開コラム)。新疆ウィグル自治区の独立問題を抱える中国は、たしかにクリミア問題で微妙な立場にあるが、基本的には米欧と対立するロシアと連携しようとしているのは明白だ。中国はこれからロシアとの2国間関係を強め、CICAのような日米欧抜きのフォーラムも使って、自前のアジア秩序構築に全力を傾けるだろう。「新しい勢力図」を早く描こうとするのだ。 
  • 長谷川幸洋コラム第49回 砂川事件の最高裁判決「自衛は他衛、他衛は自衛」という相互依存こそ防衛の本質

    2014-05-22 20:00  
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    極東有事を想定した米韓軍事合同演習には沖縄の海兵隊など在日米軍も参加した photo gettyimages
    「日米安保条約で米軍に基地を提供したときから日本は集団的自衛権を容認してきた」という論点を、5月2日公開コラムで紹介した。今回はその続きを書く。米軍基地と「戦争巻き込まれ論」
    まず1960年に改定された日米安保条約を確認すると、第6条で「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」とある。ここで条約は「日本の安全」とともに「極東における国際平和と安全」にも寄与する、と定めている。とはいえ当時、日本側の主たる関心は「日本自身の安全」だった。一方、米国側は日本はもとより、極東の平和にも重大関心を抱いていた。米国は韓国、台湾と相互防衛条約を結んでおり、西側自由陣営の盟主として韓国、台湾が共産勢力の手に落ちるのは絶対に阻止しなければならなかった。日米の関心のズレが明確になるのは、その後、沖縄返還交渉が始まったときだ。波田野澄雄・筑波大学名誉教授(外務省の日本外交文書編纂委員長)が2013年12月に外交史料館報に書いた「沖縄返還交渉と台湾・韓国」という論文によれば、当時の佐藤栄作首相は「極東防衛と日本防衛のバランスについて発言のぶれが目立つ」という。つまり、韓国と台湾という極東の安全が日本にとって重要と認識しつつも、国内では「日本防衛以外の目的で基地が使用されれば、日本が戦争に巻き込まれる」という国民感情が強かった。そこで、佐藤は政府要人や外務省幹部に対して「(沖縄の基地は)『日本の安全のために必要』という考え方の徹底が必要なり」と説いていた、という。「戦争巻き込まれ論」はいまに始まった話ではない。沖縄返還をめぐる交渉時にも「日本が戦争に巻き込まれる。だから基地は日本だけのために使え」という議論が起きていたのだ。ちなみに、当時の巻き込まれ論は「基地は日本だけのために使え」論だったが、いまの巻き込まれ論は「武器は日本だけのために使え、友邦のために使うな」である。両者はどこが違うかといえば、使用する武器弾薬は日本の基地で補給されるのだから、戦う相手側からみれば、本質的に違いはない。さらに言えば「基地や武器を日本だけのために使え」論なら、日本防衛のために使う基地や武器という話になるから個別的自衛権で説明できる。ところが友邦のためにも使うとなると、集団的自衛権でないと説明できない。沖縄返還時には極東防衛のための基地使用を容認
    脱線した。本論に戻す。日米の関心は当初、日本だけか、それとも極東をどう含めるかでズレていたが、結局、日本は極東、すなわち韓国や台湾にも沖縄の基地は重要と認めて、沖縄返還交渉をまとめる。それが先のコラムでも触れた佐藤首相のナショナル・プレスクラブ演説だ。つまり、朝鮮半島有事に基地が必要になったときは「前向きに、かつすみやかに態度を決定する」と表明した。事実上、基地の使用はOKと米国に譲歩したのだ。極東の範囲についても議論になった。日本は朝鮮半島有事を想定していたが、米国は当時、台湾や戦争中だったベトナムも含めるべきという立場だった。結果的に日米共同声明や佐藤演説で言及されたのは韓国と台湾だけだ。とはいえ、日本は沖縄返還後もベトナムに出撃する米軍に基地使用を認めてきたのは事実である。極東の範囲には過去の議論で想定されていた韓国、台湾、フィリピンのほか、ベトナムも周辺地域として含めることを事実上、容認していた。つまり何を言いたいか。日本は日米安保条約で日本だけでなく極東の平和にもコミットしたが、沖縄返還時には具体的に一歩踏み込んで、朝鮮半島有事でも基地の使用を認めた。認めなければ、沖縄が戻ってこなかったからだ。先のコラムで紹介した岸信介首相や内閣法制局長官の国会答弁(1960年3月31日、参院予算委員会)は、目的を日本防衛に限ったうえで「米軍への基地提供は集団的自衛権とも考えられる」という内容だった(東京新聞の署名コラムlも参照)。だが、それから10年以上を経た72年の沖縄返還のときには、日本防衛だけでなく極東、とりわけ朝鮮半島の防衛にも基地の使用を容認したのである。そうであれば、ますまず集団的自衛権の容認にならざるをえない。繰り返すが、波田野論文にあったように佐藤首相は当初、日本防衛が主眼である点を強調しようとしていたが、それはあくまで国内向けだった。最終的には、演説で述べたように韓国防衛にも基地の使用を認めた。韓国防衛が日本防衛につながるからだ。 
  • 長谷川幸洋コラム第48回 ベトナム船衝突事件から読み解く中国の「尖閣侵攻リスク」

    2014-05-16 12:00  
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    中国の公船が5月2日以降、南シナ海のパラセル(西沙)諸島付近でベトナムの巡視船などに繰り返し体当りや放水をしていた。現場海域で進める石油掘削作業をベトナムに邪魔させないための実力行動である。衝突はベトナム側の発表であきらかになったが、中国外務省は8日、中国とベトナムの船舶が衝突したという事実関係そのものを否定した。その後、中国は「ベトナム側が衝突してきた」と言い分を修正した。このあたりは階級章などを外してロシアの武装勢力であることを隠しながら、クリミアに侵攻したロシアの手口をほうふつとさせる。私は3月6日公開コラム以降、一貫してロシアのクリミア侵攻が中国に伝染する可能性を指摘してきたが、わずか2ヵ月で早くも現実になった形だ。中国は「力による現状変更」の意思を変えるつもりはまったくない。こうした中国の力づくの挑戦は遠からず、東シナ海の尖閣諸島をめぐっても現実になるとみるべきだ。日本は集団的自衛権の見直しはもとより、漁民を装った尖閣侵攻など、いわゆる「グレーゾーン」問題への対応も急がなければならない。こう書くと、必ず一部から「中国の脅威を煽っている」という反発がある。そういう意見に対しては「起こるかもしれない危機を予想して対応策を考えるのが政治だ」と答えよう。それは原発事故とまったく同じである。原発でも事故が起きる可能性はあったのに「起きない」という前提で政策が展開され、惨事を招いた。原発反対を叫んでいる同じ勢力が集団的自衛権見直し反対を叫ぶのは、私に言わせれば、やや滑稽でさえある。原発も中国の動向も、日本にとっては同じ大きなリスク要因である。リスクには対応策を整えておくべきだ。見たくないシナリオだからといって、中国の尖閣侵攻リスクから目をそらせてはいけない。 

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  • 長谷川幸洋コラム第45回 ジャーナリストにとって「社外原稿」「社内原稿」の違いなどない!

    2014-04-24 21:15  
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    photo thinkstockphotos
    ロシアのクリミア侵攻について書いた私の新聞コラム「私説」に対して、ジャーナリストのF氏が「政府与党が喧伝するそのまんま」と批評した。
    東京新聞での「F氏の再反論」
    私が指摘したポイントは「国連の無力化」と「中国への伝染効果」そして「集団的自衛権の行使を前提にしたアジア太平洋地域における集団防衛体制構築」の3点である。私は続編の「私説」や本欄コラムで、F氏の批評について「デタラメを言ってもらっては困る」と反論したが、F氏はその後も東京新聞の「新聞を読んで」(4月13日付)というコラムで再反論を載せている。短い文章だが、ジャーナリストやジャーナリズムの本質を考えるうえで見逃せない部分を含んでいるので、もう一度、書いておきたい。まず、F氏とはだれか。『週刊ポスト』の連載コラム「長谷川幸洋の反主流派宣言」(4月18日号)で実名を公開したので、ここでも明らかにする。二木啓孝である。二木は13日付の新聞コラムでこう書いている(残念ながらネット上には公開されていない)。 <「ところで前回のこの欄で集団的自衛権行使容認の『私説 論説室から』に触れたところ、3月19日の『私説』で反論があった。『論説委員が社説と異なる意見を公表できないようだったら、全体主義と紙一重だろう。東京新聞には言論の自由がある証拠と受け止めていただきたい』」>問題は、この次の部分だ。<「私は『私説』の主張に違和感があることを述べたのであって『こんな主張は載せるな』とはひと言も書いていない」>これだけ読むと、あたかも「二木が『こんな主張は載せるな』と唱えた」と私が書いたかのように読める。これはまったくの間違いだ。私の意図はコラム本文を読んでいただければ、完全にあきらかである。問題の部分は二木の批評を指して書いたのでは「ない」。コラム冒頭で断ったように、別の一般読者から社に寄せられた「社説と真逆で許されない」という意見に対して書いたものだ。「社説と異なるのはダメ」という一般読者の意見があったので「いや、それだったら全体主義と紙一重じゃありませんか」と反論したのである。詐術もいいところ
    二木について書いた部分は、最初に引用したように「政府与党が喧伝するそのまんま」という批評についてである。次の通りだ。<「『新聞を読んで』(3月16日付)という外部執筆者のコラムでは『(私の)論法は政府与党が喧伝するそのまんま』という批評もあった。だが、私と同じロジックで今回の侵攻を解説した政府与党関係者の発言は寡聞にして知らない。私の意見は完全に私のオリジナルである」>つまり、二木は私が言ってもいないことを、あたかも言ったかのように書いてみせ、そのうえで「『こんな主張は載せるな』とはひと言も書いていない」と居直っている。 
  • 長谷川幸洋コラム第44回 他国への攻撃を日本への攻撃とみなし反撃する根拠が「集団的自衛権」である理由

    2014-04-17 20:00  
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    かつて議論を呼んだ自衛隊によるインド洋上での給油活動 〔PHOTO〕gettyimages
    安倍晋三政権が目指す集団的自衛権の憲法解釈変更にからんで「集団的自衛権を行使しなくても、個別的自衛権の行使で対応できる」という意見が与野党から出ている。日本周辺で起きた有事の際、米軍を守るのに集団的自衛権の行使は必要なく、従来から政府が合憲としてきた個別的自衛権の拡大解釈で対応可能、という主張である。この意見は与野党だけでなく、集団的自衛権の行使容認に反対ないし慎重な新聞などマスコミの間でも根強い。いずれ国会で本格的な論争になるだろうが、ここでは議論を一段と活性化させるためにも、ひと足先に考えてみる。「日本が攻撃目標になっている」と"みなす”ケース
    たとえば、公明党は米艦船が自衛隊艦船と並走している時に攻撃を受ければ、日本は個別的自衛権の行使で米艦船を防御できると繰り返している。山口那津男代表は私がコメンテーターとして出演した4月5日放送のBS朝日「激論!クロスファイア」でも「集団的自衛権の行使はリアリティがない」と強調した。日本共産党は4月10日付「しんぶん赤旗」の「主張」で同じようなケースを挙げて、次のように書いている。〈 元内閣官房副長官補(安全保障担当)の柳沢協二氏は著書で、第1次安倍政権時に『公海上で米艦が攻撃された場合の自衛隊の対応については、日本近海であれば、そのような攻撃は通常、日本への攻撃の前触れとして行われ、日本有事と認定できるため、・・・個別的自衛権によって米艦の護衛が可能』と説明していたことを明かしています(『検証 官邸のイラク戦争』)。高村氏が挙げる事例は個別的自衛権で対応できるのに、無理やり集団的自衛権行使の類型に入れ、それを正当化する口実に使っているだけです。 〉ここで「高村氏が挙げる事例」というのは、同紙によれば「A国が日本を侵略するかもしれない状況下で、日米安保条約に基づき日本近海で警戒行動をとる米艦をA国が襲った。日本は集団的自衛権の行使になるからといって米艦を守らず、米艦は大損害を受けた。A国はその後、日本を侵略してきた」というケースである。もう1つ、例を挙げよう。結いの党の江田憲司代表の主張だ。江田は近著『政界再編』(角川ONEテーマ21)でこう言っている。〈 今、問題とされているケースは、本来「個別的自衛権」の範疇に包摂されるべきものであり、これまで認められてこなかった「集団的自衛権」をわざわざ持ち出すようなケースではない。 〉〈 太平洋で米軍の艦船と自衛隊の艦船が並走していたところ、たまたま敵国のミサイルが米軍の艦船に命中した。それに対して反撃した場合、集団的自衛権の行使にあたるのではないかというのですが、これなどはまさに机上の空論です。そういう事態というのは、実際には既に日米に対して開戦している状況でしょうし・・・もしかしたら自衛隊の艦船を狙ったものかもしれない。そうなら即座に反撃する、それが現場の常識、感覚ではないか。 〉(同書、41~42ページ)これらは、いずれも完全に同じケースとは言い切れない。だが「日本が攻撃目標になっている」と「日本がみなしている」点で山口、柳沢(日本共産党)、江田の3例は共通している。具体的に言えば、たとえば北朝鮮が米艦船を狙ってミサイルを発射したとしても、日本は「日本艦船に対する攻撃」とみなす、というケースである。 
  • 長谷川幸洋コラム第43回 クリミアめぐる国連決議でわかった「G20の分裂」「冷戦に逆戻り」「集団的自衛権の必要性」

    2014-04-10 20:00  
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    ハーグ核サミット会場では、潘基文・国連事務総長とオバマ大統領がウクライナ問題について話し合う光景が photo gettyimages
    ロシアによるクリミア併合問題で国連が3月27日、総会を開き、併合に先立って実施されたクリミアの住民投票について「なんの正当性もない」と批判する決議案を採択した。住民投票について、決議は「クリミア自治共和国とセバストポリの現状変更を認める根拠にはならない」と断言している。
    国連総会でクリミア併合問題の「住民投票は無効」
    決議は「ロシア」と国名の名指しこそ避けたものの、明確なロシア批判である。

    3月20日公開のコラムで書いたように、国連は当初、安全保障理事会で住民投票を無効とする決議案を採択しようとした。ところが、ロシアが拒否権を行使したために、それは否決されてしまった。
    今回は安保理ではなく総会の決議である。だから住民投票を無効と断じたところで、国連憲章の上では、現状を改める実効的強制力はない。
    あくまで象徴的なものだ。とはいえ、クリミア併合問題に対する国際世論を推し量るうえでは、それなりに意味がある。
    棄権が58ヵ国
    まず、評決結果である。決議案に賛成したのは、米国やカナダ、日本など100カ国に上った。これに対して反対は11カ国だった。棄権が58カ国である。この数字をどうみるか。
    反対した国を挙げると、当事国であるロシアのほかアルメニア、ベラルーシ、ボリビア、キューバ、北朝鮮、ニカラグア、スーダン、シリア、ベネズエラ、ジンバブエの11カ国である。もともと親ロシアや反米だったり、北朝鮮やシリアなどテロとの関係が濃い、あるいは政情不安や崩壊寸前の国々である。
    これらは「まあ、そんなものだろう」と思う。
    新興国はそろってロシアの肩を持った
    興味深いのは棄権した国々だ。58という数字を多いと見るか、少ないと見るか。私は「意外に多い」と感じる。たとえば、中国やブラジル、インド、アルゼンチン、南アフリカといった20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議(G20)のメンバー国も棄権に回った。
    ちなみにG20を構成する国と地域の中で、賛成したのは日本とカナダ、米、仏、独、伊、英、EUのG7メンバー国・地域と豪、インドネシア、韓国、メキシコ、サウジアラビア、トルコである。ロシアはもちろん反対だ。
    つまり、G20の中でも中国、ブラジルなどBRICsを構成する有力な新興国はそろってロシアの肩を持つようにして棄権に回り、残りの新興国が賛成したという構図である。はっきり言えば、G20も分裂気味なのだ。
    今回の事態でロシアは事実上、G8を追放された。日米欧はG7の枠組みの下で結束を保っているが、国連以外でロシアを加えた国際的枠組みといえば、G20しかない。ところが、そのG20も結束していないことがはっきりしたのだ。
    そういう事態が今回の国連総会決議によって浮き彫りになった。
    ほかにもアルジェリアとかアフガニスタン、エチオピア、イラク、エジプトといった政情不安の国々も棄権に回っている。反対と棄権を合わせると、実に69カ国に上る。国連加盟国全体193カ国の35%強である。 
  • 安倍晋三首相・特別インタビュー【第3回】 「消費増税で景気が腰折れしないよう状況をよく見ていきたい」

    2014-04-04 20:00  
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    日米韓の連携強化は抑止力の向上にもつながる
    長谷川: 今回、日米韓首脳会談がようやく実現しました。これは、ずばりどのような感じだったんでしょうか。安倍: オバマ大統領に相当努力をしていただきまして、日本と韓国にそれぞれに働きかけを行っていただいた。「日米韓が連絡を密にしていくことによってより平和で安定した地域になっていくだろうという認識を共有しましょう」と。 日本も韓国もそれぞれ米国と同盟関係にあります。もし朝鮮半島で何かが起こった時には、米韓同盟軍が対応するうえにおいても、日米同盟の中において在日米軍が日本の支援を受けて活動することによって、初めて力として強い抑止力を示すことができる。そういう意味においても日米韓は決定的に必要な関係です。そのことをもう一度確認しましょうよ、というものです。今後、軍事的にも日米韓の協議をしっかりと進めていくことは抑止力の向上になっていくだろうということです
  • 安倍晋三首相・特別インタビュー【第2回】 「中国の脅威に対するアジア・太平洋の安全保障の考えは?」

    2014-04-04 12:00  
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    中国はクリミアの問題を見て何を考えているのか
    長谷川: 中国についてさらにお聞きします。先ほど総理はハーグのサミットにおいて、東シナ海と南シナ海の問題を念頭に置いて、日本やアジアの国々にとっても対岸の火事ではないということを主張した、ということでした。私は、その認識が各国にどれくらい強く共有されるのかが重要なポイントだと思っています。その辺り、総理の感触をお聞かせください。安倍: ウクライナの問題がヨーロッパ、EUだけの問題ではなく、世界全体の問題だという認識をG7で共有することが重要だと思っています。ですから、G7の会合において、私が発言するチャンスを得たときに、少し説明をしながらその話をしました。G7の代表のみなさんは、私の話に大変興味深く耳を傾けてくださり、さらに私のあとに発言した方たちは「安倍さんが言ったように」という形で言及してくださいました。アジアにおける中国の脅威と、その力を背景とした現状変更の試みを許してはいけないということを明確にしておかなければ、それは世界にも波及していきます。そういう観点を念頭に置きながらこの問題を議論していくべきだということは共通の認識になったと思います。長谷川: 先日もフィリピンの大統領が、『The New York Times』のインタビューで、中国が南シナ海において、1995年以来、たとえばミスチーフ環礁、スカボロー礁を実効支配している状況を、かつてのヒトラーに対する宥和政策になぞらえて、警告しています。つまり、まさしく力による現状変更の試みが南シナ海で行われつつあったと。とりわけ日本においては、尖閣諸島の問題があるわけです。だからこそ心配で、そういう認識が世界の人々に共有されるということがとても大事だと思うわけです。中国は今、ロシアのクリミアの冒険を見て、何を考えているんでしょうか?安倍: 中国はすでに、南シナ海において、係争中の岩礁等を軍事力を背景として獲得していっています。フィリピンに対しても、ベトナムに対してもそうですね。そして、南沙諸島、西沙諸島において一方的に「9ドット」というものを指定して、自分たちの排他的経済水域を相手の了解を得ることなく指定してきています。それに対して、東南アジアの国々は大変な脅威を感じている。そこで、やはり海洋法条約に則ってお互いに行動しよう、何か偶発的な出来事が起こってはいけないからきちんと行動規範を決めましょう、ということを提案しています。防空識別圏もそうです。事前に何の相談もなく、しかも、国際的な常識を破る形でいきなり設定して、そこを通る民間航空機はすべて中国に通報しろと主張しています。これはあまりに非常識なことであり、国際社会からも強く非難されています。日本と中国は切っても切れない関係

    安倍:われわれと中国との関係は、特に経済においては、切っても切れない関係にあると思います。日本は中国に輸出して利益を上げていますし、多くの企業が投資をしてやはり利益を上げています。同時に中国は日本からの投資によって、1000万人以上の雇用を生み出しています。かつ日本にしかできない半製品を輸入して加工することで、日本も含めた欧米諸国に輸出をして多くの利益を上げている。つまり、切っても切れない関係なんです。ですから、その関係性の中において、平和的に台頭していくことによって経済を成長させ、国民を豊かにしていく。それが中国の通っていくべき道だと思います。海洋、あるいは海洋資源というのは国際公共財ですから、「国際社会と一緒に活用していきましょう」という立場をとるべきなんですね。「これは私のものだ」と軍事力を背景に獲得していこうという姿勢は改めさせなければいけない。ASEANの一つひとつの国は、確かに軍事力では中国と比べものになりません。だからこそ、お互いの助け合いが必要です。共同して、中国を排他的に追い出していこうということではなく、中国にも輪の中に入ってもらって、公共財である海を国際法のルールに則って一緒に使いましょう、ということを私たちは申し上げているわけです。こういう認識をアジアだけではなく、G7の国々とも共有したい。そこで中国も正しい方向に転換してほしいと思いますね。 
  • 長谷川幸洋コラム第42回 ロシアの拒否権発動、集団的自衛権行使容認を巡るジャーナリストF氏の勘違い

    2014-03-27 20:00  
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    国連安全保障理事会で国連憲章を手にロシアを批判するウクライナのヤチェニュク首相
    photo gettyimages
    ロシアのプーチン大統領がクリミア編入を宣言した。これに先立って、国連は安全保障理事会でクリミアの住民投票自体を無効とする決議案を採択しようとしたが、常任理事国であるロシアが拒否権を行使したために否決された。つまり、国連は無力だった。
    予測通りだった「国連の無力化」
    私は3月6日公開のコラム「ロシアのクリミア侵攻は『ヒトラーのズデーテン侵攻』の繰り返し!?国連が機能しない"規律なき世界"はどこへ向かうのか」で、1番目のポイントして「国連の無力化」を指摘したが、ここまではその通りの展開である。コラムで指摘した2番目のポイントは「中国への伝染効果」である。もしも武力の威嚇による「クリミア編入」が既成事実化してしまい、それに対して国際社会が事実上、何もできないなら、同じく「力による現状変更」をもくろむ中国が乱暴な行為に走る可能性は十分にある。日本にとってクリミア危機が「対岸の火事」でないのは、北方領土返還交渉に影響があるからだけではない。もっと根本的には、ルール無視の行動が中国に伝染する可能性があるからだ。北方領土問題はロシアが実効支配している地域を日本に返還するかどうか、という問題である。これに対して中国の脅威は日本の領土である尖閣諸島を奪われるかどうか、という問題だ。後者のほうが、はるかに深刻であるのは言うまでもない。しかも中国はロシア同様、国連安保理の常任理事国である。ということは、中国が尖閣諸島の武力奪取に動いたとしても、今回同様、国連は実質的に機能しない。中国はあらゆる非難決議に拒否権を行使できるからだ。つまり、国連は頼りにならない。今回のクリミア侵攻は、中国にとって絶好のテストケースになっただろう。日本が「ウクライナ」にならないために
    安保理が機能しないとなれば、日本はどうやって国を守るか。残された手段は国連憲章第51条に基づく「個別的または集団的自衛権の発動による自己防衛」しかない。条文は以下の通りだ。『この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。』もともと、第51条は安保理の機能マヒという事態を心配した南米の国々が要求して設けられた条項である。いま目にしている事態は、まさしくロシアの拒否権行使による安保理の機能マヒだ。ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)のような集団的自衛権に基づく地域的な集団防衛体制に加盟していない。だから国連が無力になると、もはや武力侵攻に対して自力で戦う以外になす術がない。それを見越してプーチンは動いたのである。だが、日本は違う。日米安全保障条約に基づく日米同盟がある。中国に尖閣諸島を武力侵攻されたとき、安保理が中国の拒否権行使で機能しなくても、憲章第51条と日米安保条約に基づいて米国が集団的自衛権を発動してくれれば、日米で中国に対抗できる。そんな日米同盟を強化する、さらに将来をにらんでアジア太平洋地域の集団防衛体制を考えるためにも、日本は集団的自衛権の行使を容認すべきだ、というのがコラムの3番目のポイントだった。以上は当たり前だが1番目から3番目に至るまで、すべて私が考えたロジックである。ロシアがクリミアに侵攻したのは3月1日であり、4日目の5日夜に執筆し、翌6日に公表した。その後、12日付東京新聞の「私説」という署名コラムでも同じ趣旨を書いた。政府与党が喧伝するはずがない
    先週のコラムでも書いたが、東京新聞は集団的自衛権の解釈見直しに反対する社説を書き続けてきたから、この私説コラムは読者の反響を呼んだ。一般読者だけでなく外部有識者による「新聞を読んで」という欄(16日付)でも取り上げられた。その欄でジャーナリストのF氏は私の私説コラムについて、こう書いている。『この論法は、このところ政府与党が喧伝するそのまんま。中国の出方には注意すべきだが、一足飛びに集団的自衛権とは乱暴だし、少なくとも東京新聞はそう主張してこなかった。まるで他紙の社説を読まされた気分である。』いったい政府与党のだれが、私が主張したような「論法」を喧伝していたのか。初出を執筆した5日夜、あるいは私説コラムを書いた11日までの間に、私はそんな分析や意見を読んだことも聞いたこともない。それどころか、このコラムを書いている19日午後の時点でも、ない。デタラメを言ってもらっては困る。もしも政府与党の要人が、私が指摘したような「国連の無力化」や「中国への伝染効果」あるいは日米同盟を飛び超えて「アジア太平洋地域の集団防衛体制の構築」を語っていたりしたら、大変だ。政府は実質的に無力だと分かっていても、国連による事態の沈静化を選択肢から捨て去るわけにはいかない。安保理が機能しなくても、旧ソ連によるアフガニスタン侵攻(1979年)の際にしたように国連総会で非難決議を目指すのは可能である。政府与党の要人が「ロシアの行為が中国に伝染するかもしれない」などと言えば、中国は猛反発するだろう。新たな日中の火種になるのは確実だから、そんなことを言うわけがない。アジア太平洋地域の集団防衛体制も同じだ。クリミア侵攻を受けて、要人がそんな話をすれば大ニュースである。米国との調整抜きに言うわけもない。 
  • 長谷川幸洋コラム第41回 ウクライナ危機が突きつける「集団的自衛権の行使容認」の核心

    2014-03-20 08:00  
    330pt

    クリミア自治区シンフェロボリのウクライナ軍基地を警備するロシア軍兵士 photo gettyimages
    先週に続いて、今週もウクライナ危機について書く。先週のコラム「ロシアのクリミア侵攻は『ヒトラーのズデーテン侵攻』の繰り返し!? 国連が機能しない"規律なき世界"はどこへ向かうのか」で指摘したポイントは次の通りだ。つまり(1)今回の危機で国連は機能しない(2)中国が尖閣諸島に両手を伸ばす誘惑にかられる可能性がある(3)日本は当面、集団的自衛権の下で日米同盟の強化が必要だが、将来的にはアジア太平洋地域の集団安保体制を視野に入れるべきだーーの3点である。「戦争反対」の読者からの思わぬ反響
    同じ論点は「クリミア侵攻の意味」と題して、東京新聞のコラムでも指摘した。ちなみに、この新聞コラムは「私説」という欄であり、社説ではない。本文中でも「社説の論調とは違って」とわざわざ断ったのだが、読者からは「東京新聞の社説とは真逆で許されない」といった意見をいくつもいただいた。そこでこの欄を借りて、ひと言言っておきたい。社説というのは論説委員が互いの意見を戦わせた結果、でき上がっている。当たり前だが、論説委員の意見が最初からすべて同じであるわけがない。議論の末、社説の論調がまとまったとしても、それに異論をもつ、たとえば私のようなジャーナリストが別の意見や主張を発表しても何の問題もない。だから、私は自分の意見をこのコラムでもテレビでもラジオでも雑誌でも明らかにしているし、東京新聞だって「社説」ではなくて「私説」なのだから、それは当然だ。もしも社説の論調に反対する記者が自由に意見を発表できないとしたら、それは全体主義である。どうも戦争反対とか左翼がかった人たちの中には「言論の自由」を根本から勘違いしている人たちが多いのではないか。そういう勘違いが、かえって全体主義を招いてきた事情をまったく理解していないようだ。ほかにも、私の意見にツイッターで「一方的な見方だ」とか「無知」とか言う人もいる。何を言おうと勝手だが、中身の議論をせずに「レッテル張り」だけで批判したつもりになっているのは、言論と思考の貧しさの証明である。私はこのたぐいを相手にしない。最初からいきなり脱線した。つまらない話はやめて、本題に戻る。「地域分裂世界」が到来する
    国連が機能せず「規律なき世界」に突入する、という先週のコラムを書いてから一冊の本を思い出した。国際的な政治コンサルタントとして著名なイアン・ブレマーが著した『Gゼロ後の世界』(日本経済新聞社、2012年)だ。この本で、ブレマーは今後の世界を4つのシナリオで説明してみせた。まず米中による「G2」、それから実際に機能する「G20」。この2つは米中協力が前提になっている。逆に米中が対立した中で新たな冷戦に入る「冷戦2.0」という状態、最後がグローバルなリーダーシップが存在しない「地域分裂世界」である。この4つの中で、ブレマー自身は地域分裂世界シナリオが「もっとも実現の見込みが高い」と指摘している。つまり米国も中国も圧倒的な力で世界をリードするプレーヤーたりえず、せいぜい地域のリーダーとして自分の勢力圏内で、ある程度の求心力を発揮するにとどまる、という世界である。今回のウクライナ危機で、ロシアは国際法を真正面から無視してもクリミアを実効支配しようとした。それに対して国連が機能せず、米欧も有効な打開策を示せないでいるのを見ると、まさに世界はブレマーが指摘したような「地域分裂」に陥ってきたのではないか、と実感する。ちなみに、本の原題は「Every Nation for Itself ~ Winners and Losers in a G-Zero World」である。つまり「どの国もそれぞれ自国のために行動する」という趣旨だ。それは当たり前なのだが、圧倒的なリーダー不在の下で、各国がそういう行動をする結果、地域分裂世界に陥るというのである。では、分裂した地域世界は秩序なき混沌に陥るのだろうか。あるいは世界全体の秩序が失われるのだとすれば、日本は今後、どうふるまっていけばいいのだろうか。これが先週から引き続く、今週のテーマだ。