つるまこさん のコメント

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つるまこ
世の中お客様第一ってのが蔓延りすぎなんですよ。そりゃ接客業なのですから当たり前ですけれど、人対人ということを忘れて上から来る輩にまでそういう対応する必要なし。これがまた同業の接客業の人間に多いのが何ともねぇ…

No.2
5ヶ月前
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神月(こうづき)さんは口が悪い。 終業後の事務所内。仕事を終えた神月と丹馬が椅子に座って寛いでい…ない。神月は半ば海老反りのように背もたれに寄りかかり、椅子をギシギシと軋ませていた。 「いやぁ、アレ、なんだったんですかね?」 「あ?あんなのただの頭おかしいヤツだわ。自分がまともだと勘違いしてる頭のイカレた野郎だよ。なんだぁ、あれ。」 「あそこまでキレるもんなんですかね?隣のレジで俺、笑いそうになりましたよ。」 「見た?あの目。もうなんか飛び出しそうだったじゃん。あんな顔するのが何よりキチガイだわ。バカバカしい。」 「でも本当に出すんですかね、本部クレーム。やりそうな感じでしたけど……。」 「あー出せ出せ。それで気が晴れるならいいよ。」 「え?それで神月さんいいんですか?」 「ん?本部クレーム貰って何か問題ある?」 「いや、クビになったりとかそういう……」 「あーないない。二十代の頃は俺、年イチ位で本部クレーム食らってたけど全然問題ない。」 神月は時計を一瞥すると立ち上がり、やおら着替え始める。 「え?そういうもんなんですか?それじゃ本部クレームの意味……」 「いや、悪質なもんならそりゃそれで対処するだろうよ。でも俺の場合大概が客の方が問題なんだから。俺、悪いことしてねーし。そこら辺は本部だって理解してるんだよ。モンスタークレーマーってやつの存在くらいさ。さっきのだってそうだろ?」 「いやまぁ、そうなんですけれど……」 以下回想。事は一時間程前の朝ピーク帯に。 神月と丹馬はいつも通りレジに張り付きっぱなしの状態で、列になった客を手早く捌いていた。朝入荷された商品は神月がテキパキと品出しを終わらせ、二人体制でレジ接客をするのが慣例になっている。 世間の新型コロナ対策 によって、店員・客共にマスクを着用、レジ前には分厚いビニールの暖簾が吊るされていて、何とも圧迫感のある状態。神月はこれが気に入らなかったが、世間がそうさせていて本部からのお達しであれば受け入れるしかなかった。 品出しを終えてレジに就き、何人かを捌いたところでその客は現れた。 「 アイスコーヒー、レギュラーで。 」 いるんだ、これが。そのサイズの表記はウチのものじゃない。それを当たり前のように言ってくるのが。しかも声が小さくて聞き取りづらい。 「お客様、当店のコーヒーのサイズはS・M・L・デラックスとなっています。どちらでしょうか?」 「 あ?……Mで。 」 うーん、聞き取りづらい。ただでさえマスクをしていて通らないところに、声が小さい上にビニールが邪魔をしてどうしようもない。 「 …………で。 」 何かを言ったようにも見えたがまるで聞こえない。聞こえないものは仕方がないのだ。向こうの出方を待つしかないのだが、相手は一向にその後会計の素振りを見せない。このままでは埒が開かずに神月からお伺いを立てた。 「あの、お客様?お会計はどのようにされますか?」 するとその客は分かりやすくしてやろうと言わんばかりの溜息をついて、 「あのさぁ、Suicaで、って言ったよなぁ?」 と悪びれもせずに、しかも咎めるように言い放ってきた。 これには神月もカチンと何かのスイッチが入ったもので 「あのお客様、もう少し聞こえるように大きな声でお願いいたします。」 すると客の顔色がみるみる赤くなり目は大きく見開いている。 「あのさぁ!それが客に店員が言うことか?そういうのは胸にしまっておくものじゃないの?」 これは明らかにおかしい輩の挙動だ。神月は腹が立つのと同時に、また仕様もないヤツがきたと、ちょっと面白くなってきていた。 「いえ、お客様。あまりに声が小さかったので聞き取れませんでしたし、それをただ指摘させて頂いただけなのですが。」 「それが余計だっていうんだよ!そういうことするのが正しいと思ってんのか?」 「えぇ、いつもそのような声の大きさですと毎回聞き直さなければいけませんし、他のお店でもそのような応対ではそちらのお店にも迷惑をかけることでしょうから、ここでご指摘させて頂きました。」 客はいよいよ鼻息荒く、目玉は今にも飛び出しそうなまでにひん剥いている。神月は笑いを堪える為に太ももの脇を指でつねっていた。 「何だ、その言い草は!それが客に対して店員がとる態度かよ!」 「あー、ちゃんと大きな声出るじゃないですか。朝ご飯食べてきてないのかと思いましたよ。アイスコーヒーMサイズをSuicaでですね。はい、そちらでお会計お願いします。」 顔は怒気にまみれながらも客は定期入れをレジの読み取り機器にかざす。会計の音が鳴ると 「ではコーヒーのカップはあちらでご用意しますのでー。」 と、神月は意に介さないかのように、コーヒーの受け渡し口へと誘導し、カップを用意した。 客は苛立たしさを隠すようなこともせず、何としても謝らせようとまた突っかかってくる。 「お前さ、何素知らぬ顔でそのままにしようとしてんの?馬鹿にしてんの?」 「馬鹿になんてそんな。私はあくまでお客様のことを思って接客させて頂いておりますよ?私の言葉遣いがそんなによろしくなかったでしょうか?」 「そうじゃねぇよ。何だよ、そのスカした態度はよ!コーヒー渡して終わりにしようと思ってんじゃねぇだろうな!」 「いえ、それ以上何か?」 やめてくれ。これ以上は笑いが抑えきれない。神月の肩がわなわなと震えてきてしまっている。それを見たからか一層客はヒートアップする。 「お前さぁ!そういう態度で許されると思ってんのかよ!クレーム出すぞ!」 「えぇ、どうぞ。あぁ、お前お前言われるのも心外でしたので、クレーム出すついでに覚えて頂けますか?私、神月、と申します。」 おもむろに制服の胸に下げていた名札を、これ見よがしに見せつける。 「神月さんね、分かった。で、あんた何だよ。店長か?」 「いえ、一介のアルバイトですが?」 「 だろうね! 」 なんだ、だろうね、って。流石に神月もこれには頭にくるものを感じた。 いやお前は何様だと。俺は別にてめぇが食うに困らない程度の金を貰って、のんびり暮らしたいからここで働いているだけだ。朝の通勤ラッシュに揉まれて、列に並んでまでアイスコーヒーひとつ買うだけのヤツが何言ってんだと。 もう何年もそうされていないが名札に明記されていないだけで、リーダーの資格は取ってあるし、しかも登録販売員の資格もある。ウチの平社員よりかは手取りはいいんですがそれが何か?あんたがどこでどれだけ貰っているお偉いさんだか知らないけれど、少なくとも俺はあんたと同じような生き方はしたかねーよ。 という言葉をグッと飲み込んで笑顔を作ってみせた。 「本部へクレームを出されるのでしたら、どうぞお気軽に。名前は覚えられました?はい、それでは後のお客様もいらっしゃいますので。ありがとうございました~。」 そう言って神月はまだ何か言おうとする客から踵を返してレジに戻った。背中に何か言われたような気もするがそれどころではない。客の列はこの時間に大分伸びてしまっていた。 そこから後の何人かの客の声は、 心なしか大きく聞き取りやすくなっていた 、ような気もしなくもない。神月は無理矢理に作った笑顔をそのままに、終業までの時間を接客に追われ続けた。 回想終わり。時間は終業後の事務所へと戻る。 「大体、俺何かさっきのことで悪いことしたか?言葉遣い悪かったか?聞こえないから大きな声でお願いしますと頼んだだけだよな?」 「いや、その後の対応に問題があったんじゃ……」 「ばっかお前、俺は『人として』当たり前のことを指摘しただけじゃん。何が悪いの?客と店員の立場だから?そんなに客が偉いの。いいんだよ?こっちは売らなくたって。ちゃんと 普通に買い物してくれるお客さんさえ相手していればいいんだから。 客と店員である前に人と人だろうがよ。買いましょう、売りましょうなんだよ。ただでさえ他人なんだから礼儀ありきだろうがよ。」 「それを表立って実行してしまうところが何とも言えない。」 「世の中客側に媚びへつらうのが当たり前みたいな風潮作ってんのがおかしいんだよ。あぁいう手前はウチに来なくていいんだわ、他のお客さんに迷惑だ。ファミリアでもレイブンでも行ってくれ。それとも次来た時、お前さんレジ変わってやろうか?」 「……遠慮させてください。」 「だろ?これで来なくなったほうが店としては利益なんだよ、あぁいう客は。コーヒー一杯くらい俺が毎日仕事終わりに飲めばいいだけだろう?」 「そこまでする必要もないですけどね。」 着替えが終わった神月は何気なく上着のポケットから煙草を取り出し、火を点けようとしていた。 「神月さん、ここ事務所!」 「あ、やべーやべー。危うく火ぃ点けるところだった。何だよ、俺も苛ついてたってことか?嫌んなるなーもー。」 「神月さんもイライラしてたってことですか。何か少し安心した。」 「安心してんじゃねーよ。次あんなのお前が食らったって俺何もフォローしねぇぞ?それやって酷い目見たことあるんだから。」 「え?他にもあるんですか?」 「腐るほどあるわ。まぁ、それはいずれ話すとしても。いいか、あんなのが本部にクレーム寄越したところでこっちは痛くも痒くもねーんだわ。そんなのにビビッてヘコヘコ頭下げようもんなら相手がつけ上がる。俺らは誠意をもって堂々と対応する。そもそもちゃんと聞こえる声でオーダーすればこんなことにならなかったんじゃねーか。」 「ま、そこですよね。」 「 店員ってのはお客様の鏡なんだよ 。普通に会計にくればこっちだって普通に接客する。常連が来れば多少砕けた感じになるのも、それで居心地が良くなってくれればいいと思ってる。あからさまに態度の悪いヤツなんてのは殴らないだけ有難いと思え、としてればいいんだよ。」 「殴っちゃ問題ですからねぇ。うーん、まだその境地には辿り着けないかなぁ。」 「そのためにはこっちも落ち度がない接客を出来るようにしとかなきゃなんねぇんだよ。俺がいつもの接客でダメなところあるか?」 「いや、ないです。」 「伊達にリーダー資格取ってんじゃねーんだよ。時給アップのために。」 「後のがいらない……」 「さてと、喫煙所で一服してから飯食いにいくか。気分悪いから岩丸で海鮮丼だな。あそこ喫煙所あったし。お前も行くか?」 「鰻が食べたいです!」 「ケツに鰻突っ込みますよ?あーたまにはいいか。ここんとこスロットで稼げてるしな。多少は遠慮しなさいよこの野郎。」 そう言って二人は事務所を後にした。 後日、本部から件のクレームが上がってきたという報告が店舗に下りてきた。 店長と神月との間で面談のようなものがあったが、特にお咎めはナシとのこと。こんなことで懲罰があるようでは神月はとっくに辞めているということだ。 前回: 「何があってもおまえらは変わらない」
日々心に映りゆく由無し事をそこはかとなく書き連ねたもの。