• 東方SS 貧乏神、贈り物を考える

    2018-06-03 22:162

    ※この作品は東方Projectの二次創作作品です。


     穏やかな風が吹く午後。山から流れ出てきている川の岸辺を、大きなリボンが目立つ青髪の少女がふらつく足取りで歩いていた。貧乏神、依神紫苑である。
     博麗神社に居候として身を寄せている紫苑は、いつまでもただで世話になりっぱなしなのは悪いと思い、何かお礼の贈り物をしようと思い立った。しかし金銭など持っていないのでせめて食べられるものをと、朝から川で釣りに挑戦していたが、結果がどうだったかは彼女の手にぶら下がった寂しい桶が物語っている。

    「はぁ……お腹空いた。もう昼過ぎだし、今から神社に戻っても何も残ってないよね。今日は昼ごはん抜きかー」

     少し前までは食事を一度や二度抜くことは苦にもならなかったが、霊夢のもとに身を寄せるようになってからは、僅かだが空腹感を辛いと感じるようになった。正常な食生活を手に入れたといえば嬉しいことだが、霊夢に何も返せていない現状、自身がどれだけ霊夢に甘えているかを示すようで、紫苑はため息をついた。
     ぽっかりと隙間が空いているような感覚をお腹に感じながら歩く紫苑の目に、岸に腰掛ける人影が止まった。最近できた数少ない友達であり、少し前の自分と同じように水に糸を垂らしているということはすぐにわかった。違うのは隣の桶に魚が数匹入っているということ。

    「天子ー!!」
    「うわっ!? っとと……紫苑じゃない。びっくりするでしょ」

     思わず飛びついた紫苑に突然体を揺らされ、驚く少女。比那名居天子は、水から糸を引き上げて持っていた竿を草地に置いた。そして紫苑が持っていた釣り竿に気づいた。

    「あら、あなたも釣り? 奇遇ね。釣果は……ご愁傷さま」
    「うわーん!」
    「そういうこともあるわよ。とりあえずお昼まだなら一緒に食べない?」
    「うぅ……いただきます」

     適当に落ちている枝を集めて火を焚き、天子が釣った魚を丸焼きにする。ご相伴に預かれることになった紫苑はほくほく顔で魚が焼けるのを待つ。そして簡単な食事を摂りながら、紫苑は天子に事情を話した。話を聞いた天子は感心しながらも苦々しい顔を浮かべた。

    「ふーん。お返しをしようってのは良いことだけど……でも魚かぁ……」
    「だめかな。美味しいものなら喜んでくれるかと思って」
    「確かに美味しいけど、贈り物で食べ物って言ったら、フルーツとか和菓子とかじゃない?」
    「そんなの買うお金持ってないし……」
    「それなのよね……せっかくだし私も贈り物探し、手伝うわ」
    「本当!?」

     紫苑は目を輝かせた。この天人様ならきっと良い案を出してくれると思ったのだ。

    「何がいいかな。やっぱり食べ物?」
    「あなたお金用意できないって言ったじゃない? 私が貸すのもありだけど、贈り物でそれは……ねぇ?」
    「できれば自分で用意できるものがいいなぁ」
    「じゃあ花束とか? 野花でも形を整えれば結構綺麗にできるわよ」
    「野花かぁ……」

     そうするとどこで花を探すのがいいだろうかと紫苑は考える。
     近くの平地では小さな花しかないだろうし、太陽の畑や鈴蘭畑は住人とのトラブルの予感しかしない。あとは山の方だろうか。
     そこで紫苑はハッとした。

    「そうだ! 山!」
    「土地を買うのはちょっと……」
    「違うわよ! 山で果物を採ればいいんじゃない! 里で売ってるものより採れたてのものを持っていけるし、山の妖怪とのトラブルも……多分ない!」
    「多分って、大丈夫かしら……ま、なんとかなるわね」

     そうして二人は焚き火やゴミを片付けてから、妖怪の山に向かった。




     山を隙間なく埋める緑色の木々。その中の一際大きな木が音を立てながら枝葉を大きく揺らす。揺れた枝は大きく熟した果実を宙へと手放す。枝の隙間から差し込む陽光に照らされ瑞々しく光る果実は、重力に従って木の真下に伸ばされた腕へと……紫苑の腕の中に静かに落ちた。

    「ちゃんと取れたー?」

     木の上から、枝に乗って木を大きく揺らしていた天子が紫苑に声をかける。

    「取れたよー!」
    「よしよし。もうちょっと落とそうか。次そっちの枝ね」

     天子は身軽に近くの太い枝に跳び移り、ガサガサと大きく枝を揺らす。続いて落ちてきた2つの実を、紫苑は慌ててキャッチする。
     紫苑が桶に取った実を入れている間に、上で枝がまた大きく揺れ、紫苑の近くに軽やかに天子が着地した。手にはちゃっかり自分用の実を確保して既に口をつけている。

    「んー。やっぱり新鮮なフルーツはいいわね」
    「天界には桃がたくさんあるんじゃないの?」
    「上の桃はそれなりに美味しいんだけどねー。栄養価ばっかりで余計な味は削ぎ落としてあるから薄味なのよ。あと数が多すぎて飽きた」
    「羨ましい理由だね」
    「地上のフルーツはいいわー。種類が豊富だし季節によって旬が変わるし」

     紫苑もさっき手に入れた実を一つかじった。断面から流れ出てくる果汁の甘みが口に広がり、思わず彼女の頬も緩む。
     二人は先程から、食べられそうな果物を採ってはこうして味見を繰り返している。霊夢に贈る果物をどれにするか考えるため、という名目なのだが、結局採ったものは全部持っていくので、ただ二人が食べたいだけである。

    「次、あっちのほうを探してみましょう」

     天子がそう言って紫苑の手を引いて行くこともあれば、

    「いい匂いがする! あっちあっち!」

    と、紫苑が天子の背中を押して進んでいく。二人で果物を食べながら、あっちの果物が甘いだとか、こっちの果物が爽やかだとか話をする。たまに果物と一緒に虫や蛇が落ちてきて騒いだりしていると、近くの妖怪たちが集まってきたりして、果物のおすそ分けをしたりした。
     そうして山を歩き回り、二人の持つ桶がいっぱいになるまで果物を集めていると、気づけば日はだいぶ傾いていた。

    「たくさん集めたわねぇ。お腹もいっぱいになっちゃったし」
    「夕ご飯食べられるかな……霊夢に悪いなぁ」
    「この果物持っていくんだし平気でしょ。採れたてっていうには時間経っちゃったけど。さ、帰りましょう」
    「うん」

     二人はそれぞれの桶を持って山を降りた。来たときと同じように川沿いを歩きながら、紫苑は気になったことを尋ねる。

    「そういえば、たくさん採ったけど天子はこれどうするの? 神社はなんだかんだ来客が多いから食べきれるだろうけど、そんなに食べれる?」

     桶にいっぱいに入った果物。長期保存のための氷室などが無ければ、食べきれなかったものは悪くなってしまう。

    「んー? 私も今は居候状態だし、針妙丸と一緒に食べるわよ。あの天邪鬼もひょっこり現れるかもしれないし。果実酒とか作るのもありよね」
    「あ、そっか。このまま食べなくても使いみちはあるんだ」

     そうして二人で果物の美味しい使い方を話しながら歩く。たくさんの果物を食べた後でも、こういうことを話しているとお腹が空いてくるような気もする。

    「あっ!?」

     いつの間にか足元がおろそかになっていた紫苑は、川沿いの木から伸びていた太い根に躓いた。傾く体。落ちていく視界。体に伝わる衝撃と、転がっていく果物。

    「ちょっと、紫苑。大丈夫?」
    「あー! 果物が!」
    「あらら……」

     落とした桶は運悪く口を川の方に向けて倒れており、こぼれた果物は斜面を転がって川の中へ。浮き上がってきた果物は水の流れに逆らわずに揺れながら遠ざかっていく。

    「あー……」
    「相変わらず不運ねぇ。まあいいじゃない。全部落ちたわけじゃないんだし」

     天子は倒れた桶を起こし、まだ中に残っている果物を見て、「残りは3割ぐらいか」とつぶやいた。

    「霊夢のために採ったのに……」
    「こういうこともあるわよ。それに、贈り物に大事なのは気持ちでしょ」
    「うん……」

     紫苑は返事をして立ち上がり。天子から軽くなった桶を受け取って歩き出した。しかし、彼女の様子は明らかに落ち込んでいる。天子はその様子を見てため息を吐き、紫苑の元に駆け寄ってその腕から桶をひったくった。

    「えっ!?」
    「はい、交換」

     戸惑う紫苑の腕に、自分が持っていた桶を押し付け、そのまま再び歩き出す。紫苑はよく分からずに慌てて追いかけ、どういうことか尋ねた。

    「どうもなにもそのままよ。私は紫苑の話に便乗しただけだし、あなたが優先でしょ」
    「で、でも悪いよ。これ天子が集めた分じゃない」
    「二人で集めたんだからどっちでも変わらないわよ」
    「じゃ、じゃあせめて、二人の分合わせて半分ずつに……」
    「そんなに持ち帰っても、私と針妙丸じゃ食べきれないわ。針妙丸は食事量少ないし。これぐらいがちょうどいいのよ」
    「じゃ、じゃあ……取っておくから!」

     とっさに紫苑の口から出た言葉に、天子は首をかしげる。

    「天子用に、取っておくから、数日中に遊びに来てよね! 天子が来なかったら悪くなっちゃうから、絶対だよ!」

     天子はそれを聞いて数秒黙った後、思わず声を出して笑った。

    「あはははは! なにそれ、霊夢への贈り物でしょう? なんで別の人用にとっておくのよ」
    「いいでしょ別に! 私達が採ってきたものだもん!」

     天子が笑うのでなんだか恥ずかしくなった紫苑は、顔を赤くしながら子供のような反論をした。天子はひとしきり笑った後、嬉しそうに

    「わかった。またすぐに遊びに行くわ。ちゃんと涼しいところに置いておきなさいよね」
    「うん! 待ってるからね!」

     そうして約束を交わして、二人は別々に帰路についた。





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    どうも、博麗饅頭です。
    なんだかんだで結局またプレミアムになったので(一般だったの2,3ヶ月か)、渋に上げたSSをこちらに投稿します。
    また同時投稿で続けていくと思いますはい。



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  • 東方SS 天人監視

    2017-12-30 17:152

    ※この作品は東方Projectの二次創作です。設定改変、キャラ崩壊などの可能性を含んでいることをご了承ください


    今日、藍からある報告を受けた。比那名居天子――幻想郷の天気を引っ掻き回し、結界の要である神社を崩し、乗っ取りを企てたあの天人が、頻繁に地上に降りてくるようになっているという。
     主な活動区域は人里と湖、そしてその周辺。異変解決の際に少々厳しく懲らしめてやったから、早々に何かを企てているとは思わないけれど、念には念を入れて少し監視をすることにした。でも面倒だし、毎日じゃなくてもいいわよね。地上に降りてきているって報告を受けた時だけにしましょう。




     さて、監視初日。里に買い出しに行った藍から、天人を見かけたという報告を受けてやってきた。場所は里から少し離れた川辺。岩の上で足を揺らしながら釣り糸を水に垂らしているよう。万が一にも気づかれないようスキマの中から監視している。
     せっかく来てみたけど、釣りをしているだけじゃあ、企みも何もないわね。川のせせらぎが聞こえる中で、天人はただのんびりと水面の浮きを眺めている。どれぐらい釣れたのかしらと、彼女の横に置いてある籠を覗いてみる。

     桃がぎっしり詰まっていた。

     私はそっと視線を外し、再び監視を続けることにした。
     今日は調子が悪いのかしら。と少し同情していると、水面の浮きが音と飛沫を立てて沈んだ。天人は力強く竿を引き、見事な手際で小魚を水面から引き上げた。

    「よし、12匹め! 今日は調子がいいわね!」

     天人はそう言って笑顔を浮かべ、小魚を針から外しながら岩から降り、「お疲れ様。驚かせてごめんね」と言いながら水の中に帰した。彼女は釣れた獲物より、どれだけ釣れたかを楽しんでいるのね。
     魚を川に帰した天人は、岩の上に戻って小袋から餌を取り出し針に付ける。小さく鼻唄を奏でながら作業をする彼女に、毒気を抜かれたような気がして、まあ釣りぐらいならいいかと、私は帰ることにした。ついでにこっそり桃を貰っていきましょう。




     それから数日後、天人が里の中にいたという報告を聞いて、人間たちに何かする気かと再び監視に赴いた。
     天人がいたのは里の中の食事処。そういえば件の異変の最中、天界の料理は飽きたとかなんとかぼやいていたらしいけど、地上の料理に興味を持ったのかしら。
     焼き魚や肉料理に舌鼓を打っている天人からは絶妙に見えない席につき、「いつもの」と料理を注文しつつ天人を監視する。しかし、幽々子ほどではないにしろよく食べるわねえ。空になった皿を回収に来た店員さんに更に追加で料理を頼んでる。
     私がいつものように注文した杏仁豆腐をゆっくり食べている間にも、天人は唐揚げやサラダを食べ、更にデザートとしてお団子やお餅を頬張っていた。美味しそうに食べているものだから私までお団子を注文して食べてしまったわ。
     ところで、天界に住んでいる彼女が地上の通貨を持っているのかどうか、気になっていたのだけど、問題なく会計をして出ていったので安心したわ。彼女が外に出たのを見計らって私も素早くお会計。外に出て天人の姿を探す。
     ……驚いた。少し離れたところのお団子屋にいたわ。外の椅子に座って団子を注文していたので流石に近寄れないとスキマの中から監視。お団子を食べながら里の様子を眺めているみたい。
     でもほんと、美味しそうに食べるのね。団子を一つ頬張るごとに頬が緩んでるし、顔が整っているだけにやたら可愛らしいし……通りすがりの人が何人か目を奪われてるわ。……あ、あそこのカップル、天人に見とれた男が女性に叩かれてる。
     今日の天人は食べ歩きだけで終わりそうね。あの美味しそうに食べる姿を見てたら私まで小腹がすいてきたわ。さっき杏仁豆腐食べたのに……藍になにか作ってもらおうっと。




     更に数日後、里を散歩していたら偶然天人の姿を見かけた。何だか普段よりも足取りが軽いように見える。今度こそ何か良からぬことをするのかと思って後をついていくと、通りの雑貨屋に入っていった。こんなところでなにをするのかしらとこっそり覗いてみると、天人は棚に並んだぬいぐるみを眺めていた。
     そういえばこのお店、森に住んでいる人形遣いが小遣い稼ぎにぬいぐるみを売りに来てるところだったわね。それを聞いたのかしら。
     天人は棚のぬいぐるみを一つずつ手に取り、もふもふと触り心地を確かめていた。犬型のものを手に取りもふもふして、猫型のを取ってなでなで。狐型のを取って尻尾を触り、アザラシ型の大きなぬいぐるみを取って抱きかかえる。
     あぁ、すごく頬が緩んでいる。笑みを抑えきれずにあちらこちらと触っているのをみると、なんだかこちらまでムズムズしてくるような気さえする。端的に言って、子供みたいでかわいいわ、彼女。
     次に手に取ったのは……うなぎ? いえ、違うわね。でも同じ細長い魚。結構おおきなものだけど、なにかしら。
     天人はそのぬいぐるみの長い胴体を頭から尾ひれの先まで撫でた後、流石に大きすぎると思ったのか、棚に戻す天人。窓越しでもわかるぐらい落胆している。
     ぬいぐるみをいくつか選んでかごに入れ、店内を回って他にもかわいらしい小物や玩具を選ぶ天人。やたらたくさん買うわねえと思いながら見ていると、突然肩を叩かれた。私は天人を見るのに集中していて周りを気にしていなかったことに気付き、警戒しながら振り返った。

    「こんにちは。総領娘様になにかご用事ですか?」
    「あなた……あの天人が騒ぎを起こしていた時に近くにいた龍宮の使いね」
    「永江衣玖と申します。その際は総領娘様がお騒がせしてしまって、申し訳ありません」

     後ろにいた龍宮の使い──永江衣玖は、落ち着いた所作でゆっくりと頭を下げてきた。

    「それはいいわ。私が直接お灸を据えてやったから」
    「はあ。でしたらなぜ、こそこそを総領娘様を見てらしたのですか?」
    「まあ、監視みたいなものね。彼女がまた何かやらかしたりしないか。前までほとんど地上に降りてこなかった天人が、最近やたら見かけるようになったものだから」

     永江衣玖はため息をつき、「やはり地上に降りていらしたのですか……」と呆れた声を出した。

    「あの人は元は地上人ゆえ、天界での不自由ない平和な生活を退屈と評し、よく抜け出して天界の隅から地上を眺めていました。それでも自ら地上に降りることはなく、地上を羨む程度で済んでいたのですが……。あるとき、今まで溜まっていた不満が爆発したのか、緋想の剣を持ち出して地上に降り、例の騒ぎを起こしました。その際に現在の地上を間近で見たためでしょうか。あの一件以来、今まで以上に地上を気にするようになり、居住から姿を消すことも多くなりました。しかしまさか何度も地上に降りていたとは」

     彼女は私から視線を外し、お店の中へ……店内で棚を眺めている天人へと向けた。

    「ぬいぐるみ……かわいい小物に、おもちゃですか。天界にはほとんどないものです。あの人には、こういう息抜きが必要だったのかもしれないですね」
    「ふん。王族が庶民の暮らしに憧れるようなものね。本人に悪気はないのだろうけど、庶民からすると、贅沢な話よ」
    「隣の芝は青い、というようなものですよ。人はいつでも、手に入らないものを求めるのです。」

     そうして話をしているうちに、天人は買い物を済ませて、袋を持って店から出てくる。見つからないように店と民家の間に身を潜ませると、永江衣玖まで一緒に入ってきた。

    「あら、あなたは別に隠れなくてもよいのでは?」
    「せっかくの息抜きも、見知った人が隣にいては楽しめないでしょう? 私は彼女を縛っている側なので、尚更です」
    「その割に、やけにあの子に親身なのね」
    「あの人が小さなころから、お仕えする者の一人として見ていましたから。あの人は使用人を一人一人覚えてはいないでしょうが」
    「不憫ねぇ」
    「それが龍宮の使いというものです。さて、総領娘様は私が見ておきますし、地上に何かしようとするなら責任をもってお止めします。あなたは他にも仕事があるでしょう? 妖怪の賢者様」

     永江衣玖はそう言って微笑み、天人が歩いていった方へ進み、人の流れに溶け込むように紛れていった。
     私はため息をついて、雑貨屋の店内に視線を向ける。天人が最初に目を止めていた、長い胴体の魚のぬいぐるみ。永江衣玖は気付いたかどうか知らないが、あの天人は店内を回っている間に何度もそれに目を向けていた。なんの魚か、最初は分からなかったが、龍宮の使いを見て思い出した。たしか、同じ名前で呼ばれる魚がいたはず。
     彼女は、自分が覚えられているはずがないと言っていたが、案外、そうではないのかもしれない。そんなことを考えながら、もっと近くで見てみようと店の暖簾をくぐった。




     更に何度か、天人が地上に降りてきているのを見かけた。釣りをしていたり里の中を散歩していたり、他の妖怪と仲良さそうに話していたり。天人を監視している間、なにやら世間では空飛ぶ船だの神霊だの下剋上だのと騒いでいたが、霊夢たちがなんとかするでしょうと私はノータッチ。私が出ないとどうにもならないようじゃ、幻想郷はとっくに滅んでいる。それよりもあの天人……比那名居天子を監視する方が大切に決まっているわ。
     まあ逃げた天邪鬼に賞金を懸けたり里の貸本屋の娘にちょっかいをかけたりとはしたが、あくまで私は裏方でいいのよ。

     さて、今日も天子が降りてきたと聞いて飛び出す私。なにやら藍が遠い目をしているような気がしたけれど、きっと気のせいでしょう。
     今日あの子が来たのは人里の貸本屋。最近とある騒動があって、人外相手の商売も始めたお店である。天子も本を借りるのが目的のようで、今はなにやら料理のレシピ本を眺めている。自分で作るつもりなのかしら。
     店の入り口からこっそりと天子の様子を伺う私。私に気付いた店主の小鈴ちゃんがなにやらビクビクしている。そういえば例の件で彼女を唆した側なのだから、警戒されているのだろう。後で色々と誤解を解いておこうと思いながら引き続き天子を監視する。今彼女が見ているのは……スイーツ系レシピが載った外来本みたいね。ケーキでも作るのかしら。
     天子は今見ている本を借りることにしたのか、本を閉じて他にも数冊棚から抜き出して小鈴ちゃんに声をかける。本の貸し出し手続きの後、一言二言だけ言葉を交わし、本を受け取った。
     私は店の陰に隠れて天子が出てくるのを待つ。すぐに店から人が出る気配がして、店から離れる足音が。数拍置いてから顔を出し、天子が向かった方向を確認したのだが……

    「あら、小鈴ちゃん?」

     店から離れていく小鈴ちゃんの後姿が見えた。天子と同じタイミングで出てきたのだろうか。

    「本の配達かしら。というかあの子は?」

     天子の姿を探して通りに視線を走らせるが、姿が見えない。どこに行ったのかしらと思ったその時、貸本屋の中から腕が伸びてきて、入り口から引っ張り込まれた。

    「こんにちは、八雲紫」

     明らかに、何か不機嫌な様子の比那名居天子が私を掴んでにらみつけていた。

    「あら、あなたはいつぞやの天人じゃない。奇遇ねこんなところで」

     咄嗟にそう言うが、たまたま会ったと相手が思っているなら小鈴ちゃんを囮にしてまで屋内に引きずり込んだりはしないでしょうね。多分ばれてるわねこれ。

    「とぼけるんじゃないわよ。いつもいつも後ろをこそこそついて来てるくせに」
    「あら、気付いてたの」
    「舐めないでよね。釣りしてた時に桃の数が減ってた時点で気付いたわよ」

     個数把握してたのね。迂闊だったわ。

    「私が異変起こしたときすごい怒ってたから、そのせいで監視されてるんだと思って一応は我慢してたんだけどね、あまりにも長いししつこいしでいい加減イライラしてたのよ。しかも今日のは何? 関係ない小鈴ちゃんを怖がらせてまでこっちばっかり睨んじゃって。それが賢者様のすることかしら?」
    「小鈴ちゃんには悪いことしたわ。今度謝っておくから許してくれない?」
    「ふん! まあわかってるならいいわ。あんたが私に執着するのは仕方ないし私もわかってるけどさ、やり方はちゃんと考えなさいよ」

     正直驚いた。桃の数でバレたのもそうだけど、この娘は自分が監視されていることよりも、小鈴ちゃんに迷惑をかけたことに怒っている。異変のときの動きから、自己中心で我儘な娘だという印象が強かったけど、それだけでもないみたいね。

    「ごめんなさい」
    「分かったらいいわ。あと、仕方ないとは言ったけどいい加減監視やめてくれない? 鬱陶しいんだけど」
    「考えておくわ」

     流石にそろそろ大丈夫かとも思っていたのだけれど、天子が来たって聞いたらつい動いちゃうのよね。この娘見てて楽しいんだもの。

    「ところで小鈴ちゃんは? さっき出ていってそれっきりのようだけど」
    「あんたに説教するから少しぶらついててって言ったわ。ついでに貸した本の回収に行くって言ってたから、私は帰ってくるまで待つわ。あんたはもういいわよ」

     言うだけ言ったらお役御免ってことね。寂しいじゃない。まあいい機会だし、コソコソするのはやめようかしら。

    「あ、そうだ」

     帰ろうとした私に、天子はふと声をかけてきた。

    「あのぬいぐるみ、あんたでしょ。ありがと」
    「……なんのことかわからないわね」
    「とぼけなくて良いわよ。帰ったら私の部屋にいきなり置いてあってびっくりしたんだから。先回りなんてアンタぐらいしか出来ないでしょ。店の外からチラチラ覗いてたし」
    「あの時のもバレてたのねー。じゃあ途中できた、あの龍宮の使いじゃない?」
    「衣玖が来たのは私がぬいぐるみ売り場を離れた後。やっぱりアンタ私のこと舐めてるでしょ」
    「ふふふ」
    「……まあ、お陰で衣玖にプレゼントできたから助かったわよ。なんでか泣かれちゃったけど」
    「あら、そこは鈍いのね。やっぱりかわいいわ、あなた」
    「気味悪いこと言わないでよ! ……はあ、ともかくこれ、お礼よ」

     天子はそう言って包を私に投げてきた。なにかしらと受け取って、視線で中を見ていいか聞く。恥ずかしそうに頷いた天子を見て包を開けると。

    「狐?」

     そこには小さな丸い目でこちらを見返してくる、狐のぬいぐるみがあった。

    「あんた、あの狐の式をかわいがってるみたいだから」
    「ふふ。ありがとう。やっぱりかわいいわねー、狐」
    「私からはそれだけよ。さっさと帰りなさい」

     天子はそう言って、しっしっと手を振って私を追い出す。私は少しだけ満足げな気分で、藍の待つ家へ帰って行った。





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    どうも、博麗饅頭です。
    憑依華天子ちゃん参戦! ゆかりんも来た! これはゆかてん書くか!
    と思い立って数日。年末の忙しい中なんとか仕上げました。(代わりに長さが犠牲に……もっと書きたい欲もあったが仕方ない)

    憑依華前に仕上げたかった……結局一日遅れ(´・ω・`)
    委託には間に合ったのでセーフとさせて欲しい


    憑依華プレイが楽しみです



  • 東方SS 妬ましデート

    2017-10-04 14:052

    ※この作品は東方Projectの二次創作です。


     暗く深い穴の底。湿気にまみれた岩場に、上から大きな岩が落ちてきた。岩は逆さの円錐形、目測で幅2メートルほど。落下の衝撃で地面が揺れ、あたりに積もっていた砂が舞い上がる。岩の真上には大きな縦穴が開いていて、その幅は十数メートル。落ちてきた岩は周りの岩とは明らかに材質が異なり、穴の外から降ってきたのだろうと推測できる。しかしわずかに見える空は縫い針の穴ほどに小さく、この岩がどれほどの距離を落下してきたか、それでも岩には目立った傷がないことから、どれだけ頑丈な岩なのかが分かる。
     落下の衝撃で舞い上がった砂が晴れると、岩の上から帽子を被った少女が顔を覗かせた。少女はあたりを見渡し、こちらに気づいて手を振りながら声を掛けてきた。

    「やっほーパルスィ! 遊びに来てやったわよ!」
    「こんにちは、天子。今日も元気ね、妬ましいぐらいに」

     岩から飛び降りて、スカートを抑えながら着地した少女……比那名居天子は、後ろの岩(要石というらしい)を消して駆け寄ってきた。

    「いつも思うのだけど、もっと静かに降りてこれないの? なんで毎回毎回墜落してんのよ」
    「墜落じゃないわよ。着陸よ着陸。要石は無事でしょ?」
    「毎回あんなに地下を揺らされちゃ、いつ洞窟が崩れるか気が気じゃないのよ」

     とは言ったものの、巫女や魔法使い、鬼などといった実力者たちの弾幕ごっこの最中でも、この洞窟は崩れるどころか壁面にヒビすら入っていない。心配するだけ無駄だろう。私も天子も分かっているため、これはもはや挨拶のようないつものやりとりだ。
     天子が地底に遊びに来るようになって数ヶ月、彼女が能力で洞窟の壁を弄ったりした数は指の数を一息で飛び超えるほどあるが、未だどこにも問題は起きていない。

    「それよりも砂煙どうにかならないの? 私が降りてくるといつもじゃない。ちょっとは掃除しないとお客に失礼じゃない?」
    「わざわざ遊びに降りてくるのはあんたぐらいよ。地上からすら誰も来ないのにその遥か上空から降ってくる物好きな天人さん」
    「妬ましい?」
    「すごく妬ましい」
    「やったー♪」

     天子は人に羨ましがられたり、嫉妬されたりするのが好きだ。彼女いわく、「天人は誰もが羨む存在。私を上に見るのが当然。好きなだけ敬いなさい羨みなさい嫉妬しなさい」とのこと。当然のことなら一々反応する必要はないと思うのだが、彼女は毎回喜ぶ。今も上機嫌に笑顔を浮かべている。たんに承認欲求が高いのだろう。上に見られたいと言っている割に、気さくに接してくるのでこちらも話しやすく、気づけば仲良くなっていた。

    「それで、今日は何の用?」
    「あ、そうそう。パルスィは鈴奈庵って知ってる?」

     私が遊びに来た目的を聞くと、天子はそう言ってスカートのポケットを探りはじめた。

    「すずなあん? ……あー、上に行くやつらが前話してた気がする。里の貸本屋だっけ?」
    「そうそう。最近そこの店主が霊夢たちと仲良くなってねー。なんか色々あって、妖魔本の取扱を始めたみたいなんだー」
    「何があったら人間の貸本屋が妖魔本扱うのよ……」
    「さあ? そんでもってそこで借りてきたのが……これよ!」

     そんな話をしながら天子はクルクルに丸めた本を取り出して見せてきた。借りたものになんて扱いを……と思いながら表紙を見ると、どうやら地底の妖怪が人間の雑誌を真似て書いた地底都市のガイド雑誌らしい。天子が指差しているところを見ると。

    「……『地底都市スイーツ特集』?」
    「そう! あの広い街のどこにどんなスイーツが売ってるか特集してるのよ! 行きましょう!」

     普段橋の周りにいることが多い私は、地底の店といえば知り合いたちと呑みに行く居酒屋か日用品関連のところぐらいしか行くことはない。知り合い達が買ってきた甘いものを貰うことはたまにあるが、自分から食べに行くことはほとんどない。しかし、興味が無いというと嘘になる。

    「……いいわね。たまには足を伸ばしてみようかしら」
    「よし決定! 行きましょ、すぐ行きましょう!」
    「ちょ、痛い痛い引っ張らないで」

     答えた途端に天子が私の腕を取り引っ張っていこうとするので、慌てて足を動かしてついていった。





     石造りの壁と瓦で造られた建物が立ち並ぶ地底都市。地底湖から流れ出た水でできた川を中心に作られたこの都市は、川沿いに並んだ灯篭や周囲の建物から漏れる明かり、妖怪たちが岩壁に養殖させたヒカリゴケなどで明るさを保っている。都市から離れると途端に暗闇が広がるわけだが、少なくとも都市の中は地下の漆黒とは無縁だ。
     そんな地下都市の中でも、区域によって明るさの程度は異なる。住宅地はほどほどの明るさで休息の邪魔にならないようになっているし、川沿いは明るいがところどころに掛かっている橋の上は薄暗い。妖怪はやはり明るいより暗い方を好むのか、橋の上でたむろしている者は多い。商店が並ぶ商業区などは当然明るいが、その中でも飲食店が立ち並ぶ繁華街は、ひと際明るく、賑やかだ。
     そんな喧噪があふれる繁華街に足を運んだ私と天子。天子が借りてきた本を見ながら、あっちこっちのスイーツの店を回る。

    「今はある程度地上との交流とか交易とかあるらしいけど……その前はどうやって手に入れてたの? このフルーツとかクリームとか」

     お店で買った桃のプリンを食べながら並んで歩いていると、天子がそんなことを聞いてきた。

    「もちろん地底内で自給自足よ。街の隅の方に工業区があって、ヒカリゴケを使って植物や木を育ててる農場があるのよ。どこからか牛や豚を引っ張ってきて育ててる牧場まであるし」
    「へー。そこらで売ってる日用品なんかも工業区で?」

     食べ終わった器を道端のゴミ箱に投げ入れて、手に下げた袋から桃のモンブランを取り出しながら更に聞いてくる。

    「そうね。製品を作る工場もあるし、工業区じゃなくても、日用品を作ってるやつはそこらにいるわよ。一つの街として完結してるから、経済も回ってるし大抵のやつはなにか仕事してるし。まあ大抵は趣味の延長だけど。荒事が好きなやつは大抵自警団の類に入ってるし」
    「パルスィは何かやってるの?」
    「橋守って暇だからねー。川で魚釣って飲食店に売ってるの」
    「なるほど」

     桃のスムージーをストローで吸いながら納得した顔をする天子。さっきから桃ばっかりね。いつものことだけど。
     天子は空になったスムージーの器をゴミ箱に捨て、近くの屋台に駆け寄って桃のアイスを二つ買ってきた。片方を受け取って一緒に食べ始める。

    「パルスィパルスィ! このアイス桃果汁だけじゃなくて、果肉まで入ってるわよ! やったぁ」
    「良かったわねー。さっきからたくさん食べてるけど、お腹痛くならない?」
    「平気平気。天人の頑丈さなめないでよ」
    「お腹まで頑丈なのね……頑丈さに慢心して変なもの食べてなきゃいいけど」
    「流石に食べられるものしか食べないわよ」

     そんな風に談笑しながら街中を歩く。普段居酒屋以外ほとんど歩かないため、ここの景色は私にとっても新鮮だ。
     アイスを食べ終えた天子は、どこで買ってきたのか、桃をまぶしたモッツァレラチーズなるものを取り出していた。そんなのこのあたりで売ってたかしら……。





     気づけば繁華街を抜け、街の中心を流れる川沿いの道にたどり着いていた。近くに並んでいるベンチに腰掛け、川を眺めながら色々買った食べ物に手を伸ばす。ちなみに私が買ったもの以外はほとんど桃系だ。最近あった面白い話などを互いにして笑い合いながら、ただのんびりと時を過ごす。
     お互いに話の種が尽き、買ってきたものもほとんど食べ終えた頃、天子が両手を上げてグッと体を伸ばしてから脱力して微笑む。

    「いやー楽しかったー。パルスィを誘って良かったわ」
    「今更だけど、なんで私なのよ。衣玖さんとか霊夢とか魔理沙とか誘えば良かったんじゃない?」
    「衣玖は真面目だから、人里はともかく流石に地底には付いてこないと思う。霊夢も魔理沙も、そこまで遠出はしないだろうし。なによりパルスィを誘いたかったからね」
    「だからなんで私なのよ……」

     話を聞いた感じ、天子は衣玖さんを信頼しているようだし、霊夢や魔理沙とも仲がいいのだろう。自分にそれほど気に入られる要素があっただろうか。

    「だってパルスィかわいいんだもん。嫉妬ばっかりしてるくせに人一倍優しかったり気遣い出来たり、周りのことよく見てるから色々知ってて話してて飽きないし」
    「そ、そう……?」

     やたら褒められたけど、自分ではそんなこと思ってもいなかった。でもこの前、勇儀にも似たようなこと言われたような気もする。そうなのだろうか。
     天子はベンチに広がっているゴミをまとめて袋に入れ、近くのゴミ箱に入れて戻ってくる。

    「やっぱり一回じゃ全部は買いきれないわね。また誘いに来るわ」
    「結構買ってた気がするけど、足りなかったのね」
    「食べ切れる量しか買わないわよ、もったいないし。何度か来れば、それだけパルスィと遊べるしね」
    「いつも思うけど、正直ねー。素直に慣れるって妬ましいわ」
    「うん? 勇儀に告白できないってこと?」
    「なんでそんな話になるのよ!」


     私も天子と遊べて楽しかったってことよ。と、勢いでも言葉に出来ないのがもどかしい。ほんとうに妬ましい。


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    10月4日は天子の日!
    ということで天子×パルスィのSSです。
    仲良くスイーツ巡り。俺も天子とスイーツめぐりしたい……