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東方SS 天人と人魚
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東方SS 天人と人魚

2015-06-14 00:00

    ※この作品は東方Projectの二次創作です。独自設定、キャラ崩壊などにご注意ください。




     霧の湖。穏やかな風に吹かれた水面が小さな波を立て、チャプンチャプンとリズムよく音を響かせている。青色の氷精が仲良しの妖精と一緒に飛び回っているのを眺めながら、比那名居天子は岸辺で釣りを楽しんでいた。天人は娯楽が好きである。歌に踊り、宴。釣りもその一つであり、不良天人、成り上がり天人などと言われる天子も例にもれず釣りが好きである。地上に遊びに来るようになってからも、川や湖で時々釣りをしている。
     今日も今日とて天子は要石に腰掛け、天界から持ってきた桃をかじりながら釣り糸を垂らしている。
     たまに興味本位で様子を見に来る妖精たちと雑談をしながらのんびりと過ごしていると、水面から自分を覗いている視線があるのに天子は気づいた。

    「誰? 魚が逃げちゃうから、できれば少し離れて欲しいんだけど」
    「気づかれてましたか。大丈夫ですよ。同族から逃げるような魚はこの辺りにはいませんから」

     天子がかけた声に視線の主は答え、水面から顔を出した。パッと見た感じは和服を着た女性が泳いでいただけに見えるが、耳元に見えるヒレのようなものや、彼女が水面から出した尾びれによって、人魚のたぐいだと分かる。

    「はじめまして。わかさぎ姫よ。よろしくね、天人さん」
    「私の事知ってるの?」
    「最近良く釣りをしている、桃を持った青髪の天人。水辺ではそこそこ有名よ」
    「あらそう。私は比那名居天子。その噂通り、天人よ」

     天子がそう答えると、わかさぎ姫はスイスイと天子の近くに泳いでくる。そしてポツリと一言。

    「噂には聞いてたけど、ほんとにきれいなのね」
    「ふふん。そうでしょ?」

     天子は褒められたことに気を良くして胸を張る。

    「ええ、羨ましいわ。どこで手に入れたの?」
    「日々の手入れの賜物かしらね。」
    「磨くの大変でしょうね」
    「ええ。ちょっとでもサボるとすぐダメになっちゃうからね」

     そう。美しさを保つって大変なの。この人魚、わかってるじゃない。と、天子は喜んで話を続けようとしたが、そこでわかさぎ姫が次の一言を言い放った。

    「綺麗だわ。その石。私に譲ってくれない?」
    「石!?」

     思わずわかさぎ姫の視線を追う天子。視線の先には、天子が椅子代わりにしていた要石がある。

    「ゴツゴツした表面を保ちながらも、スラリとした流線型フォルム。こんな綺麗な石見たことないわ!」
    「え? あの……私は?」
    「あなた? ……影狼ちゃんのほうが可愛いわ!」

     ビシッと言い放つわかさぎ姫。影狼? 誰かしら? と困惑する天子を気にせずに更に続ける。

    「けど、ほんとにすごいわこの石。天子さん、私に譲ってくれない?」
    「いや……これは要石って言って、私の一族にしか扱えない貴重なものだから無理よ」
    「貴重な石!?」
    「都合のいいとこしか聞いてないわね」

     キラキラと目を輝かせるわかさぎ姫を見てため息をつく天子。

    「いいわ。じゃあ触っていいから、試しに持ち上げてみなさい」
    「触っていいの!」

     わかさぎ姫は喜んで要石に飛びつき、嬉しそうに「えへへ」と言いながら表面に頬ずりをする。うわぁ……と思いながら天子が見ていると、わかさぎ姫はぴくっと動きを止めて天子を見る。

    「す、すごく重いんだけど」
    「そう。私の一族以外じゃ運ぶのはもちろん、持ち上げることすらできないわ。諦めるのね」

     天子はわかさぎ姫の横に行って「ほら」と言って要石を片手で持ち上げ、指先でクルクルと回す。重さなどなくなったかのように高速で回転する要石を見て、わかさぎ姫は悔しそうにしていたがその直後。

    「! なら、あなたごとお持ち帰りする!」
    「はぁ!?」

     思わず後ずさる天子を横目に、わかさぎ姫は森の方へと大声で呼びかけた。

    「影狼ちゃん! 影狼ちゃん来て!」
    「読んだ? 姫」
    「それで来るの!?」

     天子の前に現れたのは狼の特徴を持つ少女。おそらく狼の妖怪だろう。わかさぎ姫の呼び方からすると、彼女が影狼のようだ。

    「影狼ちゃん! あの人捕まえて!」
    「姫が私を頼りに……。よくわかんないけど分かった!」
    「分からないならやめてくれないかしら」

     わかさぎ姫に頼りにされて嬉しそうにする影狼。そのまま天子に飛びつき、捕まえようとする。天子はため息を付き、腕を一振り。

    「ぎゃうん!」
    「影狼ちゃーん!」

     地面から突き上げた土柱が影狼にぶつかり、彼女はそのまま木々の向こうへと飛んでいった。

    「あ、あなた。影狼ちゃんになんてことを……」
    「いや、あなたが巻き込んだからでしょ。ちゃんと加減したから安心しなさい」

     せいぜい気絶している程度。傷跡が残るようなこともないはずだ。天子はそう言うが、わかさぎ姫は構わず天子に突っ込んでいく。

    「影狼ちゃんのかたきー!」
    「話聞きなさい」

     頭上から要石を落とし、水面にわかさぎ姫を叩き落とす。同じく加減しているため、後遺症のようなものはないはずだ。天子はふんっと鼻をならし、彼女に聞こえるように言い放った。

    「高きに登るには低きによりす。物事には順序ってものがあるの。順番すっ飛ばして良い物を手に入れようとしても成功しないわよ」

     それで成功しちゃったのが私だけど、と独りごちて天子はその場を離れた。





           終

    ----------------------------------------


    補足:高きに登るには卑きよりす
    高い所に登って行くには、まず低い所から登って行かなければならない。事を行う場合には、まず手近なことから始め、順序だてて着実に行うべきだということ。


     ものすごいドタバタコメディっぽくなりました。





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