• ♡例大祭16 お品書き♡

    2019-04-17 18:00
    おはこんばんにちは、Arts&Sounds:Utopia代表のハウザーです(メンバー1人だけど)
    今年も博麗神社例大祭の季節がやって参りました。令和元年の例大祭って、なんか特別感ありますね笑

    さて、無事に新譜を頒布できる運びとなりましたので告知します。

    サークルスペース番号:K17b
    サークル名:Arts&Sounds:Utopia
    作品名:「REVENGE OF IDE」
    価格:500円
    委託:考え中

    収録曲
    1.故郷の星が映る海(from東方紺珠伝)
    2.ピュアヒューリーズ(from東方紺珠伝)
    3.夢殿大祀廟(from東方神霊廟)
    4.大神神話伝(from東方神霊廟)
    5.上海紅茶館(from東方紅魔郷)
    6.明治十七年の上海アリス(from東方紅魔郷)

    やっぱ無理さんによる純狐のジャケット絵が印象的ですが、サウンドも負けずと強烈です。
    去年の秋から色々と機材をグレードアップした影響で、今までの作品より音質が向上しています。
    要するに、自分が魂込めて演奏したものを、オリジナルの音質に近い形でお届けできるということです。
    ヘヴィネスを極めたモダンサウンドから、八十年代初頭の英国メタルサウンドまで、幅広いアレンジをお楽しみ下さい温泉

    ちなみに今回は会場限定の特典があります!

    サークル活動5周年を記念して、オリジナルギターピックをご用意しました。
    霊夢の面はワイテイさん、サークルロゴの面はハウザーによるデザインです。
    CDをお求め頂いた方全員にプレゼントします!

    また、旧譜についても全て在庫を復活させたので過去作を逃してしまった方は
    この機会に是非コンプリート目指してお求めください!

    それでは5月5日、東京ビッグサイトにてお待ちしております!!
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  • AntelopeのDiscrete4を音楽制作に取入れた話

    2019-02-25 22:40
    みなさん、おはこんばんにちは。
    ギターで東方アレンジを弾く常習犯のハウザーです。
    いつも聴いて下さる皆様、ありがとうございます温泉

    今回は久しぶりに機材のレビューです。
    ジャンルは「オーディオインタフェース」。
    パソコンに楽器を繋ぐ中継機器ですね。
    これの性能次第で音のクオリティが変わります。
    音楽制作において、音の「入口」と「出口」は
    何よりも優先して投資すべきものだと思います。
    そんな訳で、去年の秋くらいにデカい投資をしました。

    ちなみに今まで使っていたオーディオインタフェースはこちら。

    Focusrite Forteです。これもかなり良い機材でした。
    音の解像度は極めて高く、すっきりした音質で聴き疲れしない。
    え?これで充分?はい、そう思っていた時期がハウにもありました...。

    しかし5年くらい使っていると物足りない部分が嫌でも見えてくるのです。
    例えばこんな感じ↓

    ・綺麗な音だが、なんだか遠くで鳴っている音像
    ・録り方を工夫しないと、オケに混ぜた時に埋もれる
    ・音に広がりのないHPアンプなのでミックスの追込みに苦労する
    ・音の立体感が物足りない(特にアコギとか
    ・Win8,10とドライバーの相性が悪いのか、しょっちゅうフリーズする

    10万円以下のオーディオインタフェースに高すぎるクオリティを求めるのは
    間違っていますが、やはり使っていると気になってきます。

    そこで導入したのがAntelope Audio Discrete4。


    ブルガリアのオーディオ機器メーカーが発表した新しめな製品です。
    ついでに同社から発売されたEdge Soloというマイクも買いました。

    購入に踏み切った理由は以下の通り。

    ・ディスクリート回路のプリアンプが本当に良いのか気になった
    ・すげえオーディオクロックを搭載したら何か変わるの?
    ・FPGAってなに?
    ・モデリングマイクって胡散臭いなあ
    ・とりあえず便利そう
    ・会社の偉い人が「今年はボーナス良いぞ」って言ってた

    楽器屋で試聴しましたが、所詮はヘッドホンアンプの音質確認が出来るくらいでちっとも参考になりませんでした。
    もう本当ただの興味本位で体当たりした感じです。結果的には大正解でしたが...笑

    さて、ようやく本題です。
    Discrete4を使い始めて4ヶ月、音楽制作にどのような影響が出たかご紹介します。
    最初に言っておくと、「Antelopeはいいぞ」に尽きます笑


    ☆ディスクリート回路のプリアンプで音の情報量が増えたぜ

    ディスクリート回路とは、ざっくり言えばオーダーメイドの回路のことです。
    ICチップのような集積回路はレディメイドで仕様変更出来ませんが、ディスクリート回路は
    パーツを一つ一つ設計者が選んで組み立てます。
    めちゃくちゃ手間のかかる非効率的な生産方法ですが、裏を返せば音楽用として徹底的にこだわった回路設計も出来るということになりますね。

    Antelope社のディスクリート回路は製品名にDiscreteと付けてるだけあって、大変素晴らしいものです。
    プリアンプの性能は、今まで使ってきたオーディオインタフェースやMTRとは比べ物にならないレベルだと感じました。
    マイク録りしていて、特にすごいなと思った点↓

    ・目の前で声や楽器が鳴っているかのような臨場感溢れる音で録れる
    なぜなら①...全帯域を満遍なくクリアに拾っている
    なぜなら②...音の解像度がかなり高い
    なぜなら③...広がりと奥行きのバランスが取れた音像

    ・音の立ち上がりが早い

    2018年10月以降にしている曲は、東方/オリジナル問わずDiscrete4で録音しています。ぜひ過去の曲と聴き比べてみて欲しいです。時にボーカルなんか、雲泥の差が出ています笑
    個人的にはこのマイクプリだけでも買う価値があるなと思います。


    ☆オーディオ・クロック・ジェネレーター?知らんな

    もともとAntelope Audioはオーディオ・クロック・ジェネレーターに定評のある会社です。
    でも複数のデジタル機材を使う環境ではないのでクロック機能は自分の中ではオマケです。
    もしかして良質なクロックを搭載していると音質が良いのかな?とも思いましたが、今のところよくわかんないです。
    詳しい人教え下さい(他力本願


    ☆FPGAにより再現されるビンテージエフェクトで二回も男汁を出した

    FPGAっていうのは「即座に作り変え出来る集積回路」みたいなやつです(適当
    普通は、CPUのようなチップは製造後に中身を弄ることは出来ませんよね?
    もし仕様変更しようと思ったら再設計して作り直しです。
    一方でFPGAはその場でチップの中身を書き換えて違う回路構成に作り変え出来るんです。

    で、そのFPGAがどんな風に関係してくるのかと言うと...
    エフェクトの掛け録りを例に取ってみましょう。
    ボーカルを録音する時、あらかじめコンプレッサーを掛けてやるとします。

    ◯普通のオーディオインタフェース

    マイクで拾った音→DAW→コンピューター「コンプかけたらどうなるか演算するわ」→「終わったで。こんな音な。」→モニターに返ってくる音

    ◯Discrete4

    マイクで拾った音→FPGA「そのコンプの回路構成再現してあるで」→DAW→コンピューター「やることないやん!」→モニターに返ってくる音

    だいたいこんな感じ。分かりづらかったらすいません。
    要するにFPGAとは...エフェクトを再現する為に演算するのではなく、そのエフェクトを再現した回路に化けるチップなんです。
    これなら演算処理に時間を食わないので、ほぼゼロレイテンシーでエフェクトの掛け録りが出来ます。同時使用出来る数に限度はありますが、すごいメリットですね。

    ここまでは技術的な解説でしたが、実際にエフェクトのクオリティはどうでしょうか。
    以下、使ってみての感想です。

    ・ビンテージマイクプリアンプの再現度は素晴らしいの一言に尽きる
    →特にBAE1073やRedd47はかなり使えます。倍音の増幅のされ方が実に生々しい。ただでさえ質の高いディスクリート回路プリアンプが、更に化けます。

    ・憧れのビンテージコンプで手軽にアナログ風の音が作れる
    →実機なんか触ったことないけど、良い音だとすぐに解りました。コンプレッションの動作がシームレスです。あとアナログ感が強いです。例えばFairchild670を挙げると、他社製プラグイン版より柔らかい音質であると気付きます。
    素人なりの私見ですが、プラグイン版は上手くEQで補正して「それっぽい音」にしてるのに対して、FPGAで再現すると回路を通した結果として音質が変化している感じがします。アナログのコンプやEQも幾つか弄ってきた経験がある方は、この「音が回路を通ることで変わっていく」感覚を解って頂けると思います。
    要するに、実機と同じような動作をFPGAの回路が再現している状態なんですよね。故にアナログ感が強い。本物の音は知らないので再現度については何とも言えませんが、使える音であるのは確かです。

    ・ビンテージEQもアナログ感ばっちり
    →既にアナログ感の正体については語ったので省略。

    ・テープシミュは惜しいところ
    →アナログに凝っていた頃、VHSビデオテープに音源を焼いてからもう一度デジタルにコンバートする手法をっていました笑
    そんな面倒なことせずともAntelopeのテープシミュで手軽にアナログな音を...という訳にもいかないようです。
    なんというか、"それっぽさ"が露骨に出ます。まあ本物のオープンリールなんて使ったことないから何とも言えませんが...
    でも使えば確実にアナログライクな音になるので、いつか全トラックに掛けてミックスする実験をやってみたいですね。

    ・ギターアンプは...普通だな!
    →アンプシミュもあります。FPGAの特性上、ピッキングに対するレスポンスが実際のアンプに近いです。しかしアンプ自体の音質はAxeやHelix、Headrushには敵わないなと思います。比べるのも酷な話ですが...
    でもキャビネットの鳴り方は好みなものが多いのでアナログのエフェクターボードを挿して使うことがしばしば。

    まとめると、FPGAのエフェクトはアナログ機器の再現度が高いので手軽にウォームなサウンドを得られるということです。最近はThunderbolt接続限定で、DAWにプラグインとして使えるようになったので一気に幅が広がりましたね。ハウザーのPCはUSB端子しかないので残念ながら利用できません泣
    いいもん!ルーティングを工夫すれば後掛け出来るもんだ!


    ☆モデリングマイクの"モデリング"は余興だった?

    Discreteシリーズ等と組み合わせることでモデリングマイクになるEdge。Soloを購入して使っていますが、はっきり言ってこのマイク自体が素晴らしいクオリティなので別にモデリング機能を使うまでもなくね?と思います。
    肝心のモデリングですが、確かにノイマン系はそれっぽいです。FPGAを使っているのでEQでそれっぽく演出した音とは違いますが、そこまで再現度が高いとは感じませんでした。素人の耳だから仕方ないね♂
    元々が優等生なサウンドなので、あらゆるジャンルで使えるのは間違いないです。音のきめ細かさやレンジの広さ、音の密度感、どれをとっても優秀だと思います。


    ☆ヘッドホンアウトが無駄に多くて便利

    IN/OUTの選択肢が豊富なところもDiscrete4の魅力です。特に、ヘッドホンアウトが4つも搭載されているのは個人的にありがたい。ハウザーはミックス作業の最中にヘッドホン3つとイヤホン1つを付け替えながら音を調整しています。低音が強めの完全密閉型、フラットなサウンドのセミオープン、音の広がりを余す所なく聴き取れるオープン型、リスニング用途のドンシャリ系イヤホン。この4つの特性の違いを利用してバランスの良いミックスに整えます。
    しかし今までのオーディオインタフェースではヘッドホンアウトは1つだけ。いちいち挿し替えながら聴き比べるのは非常に面倒くさかったです。Discrete4 は都合よく4つもアウトが付いているので、この問題は解決しました。これはバンドメンバーと録音している時も役立ちそうですね。


    ☆価格は安くないが、明らかにコスパ高い

    FPGAの機能をフルチャンネルで使えるプレミアムパック+ Edge Soloのセットで20万円くらいと、気軽に手を出せる価格ではないです。でもこの性能だったら妥当だったどころか、ちょっと安いんじゃね?と思います。
    特にFPGAで再現されるビンテージエフェクトが全て無料というのはデカいです。プラグインで買ったら結構な値段になります...
    しかもたまにセールで値下げしてたりするので、ちょっと不安になるくらいです。


    ★☆★総評★☆★

    よくUniversal AudioのApolloと比較されているようですが、生楽器の録音がメインのハウザーにはDiscrete4の一択だなという結論です。
    なぜなら...

    1.ディスクリート回路による高音質なマイクプリで録音できる
    2.FPGAで再現したアナログエフェクトを掛け録りに使える
    3.↑しかも聴覚上でのレイテンシーは無い
    4.専用マイク"Edge"シリーズのクオリティが高い

    最初は恐る恐る導入しましたが、特に不具合もなく快適に使っています。おかげさまでミックス時に音の扱いやすさが激変しました。「この音どうやってアナログライクにしよかなあ?」と試行錯誤する必要が無くなったので、とても効率的に作業が進みます。
    録り音にこだわる人が使えば間違いなく幸せになれるだろうな〜と思います。というわけで、自分にぴったしのオーディオインタフェースでしたとさ。めでたしめでたし温泉


    Discrete4の音を知りたい!という方は是非ハウザーの動画をご覧ください。

    あと公式デモも結構参考になるので、YouTubeを覗いてみるのもおすすめです。
    この記事が少しでも、検討されている方の参考になれば幸いです。

    あと、一応言っておきますがステマではないです。
    Antelope Audioさんからお菓子(意味深)を貰ったりしてないので、ご安心ください。
    むしろ欲しいくらいです(人間の屑


    ここまで読んで頂きありがとうございました!
  • 【オリジナル小説】幻影の艦隊 

    2019-02-17 22:581

    ファントム・フリート


    時は27世紀。人類は宇宙社会に進出を果たし、ジニビア人による地球占領といった辛い試練を乗り越えて銀河連邦の中で確固たる地位を築いていた。これは火星の居住コロニー出身の青年、リコ・ファイバーの物語である。


    序章"リコ・ファイバー"


    火星では独自の星座がいくつも作られた。いま目の前で輝く青い巨星はクマバチ座の一番星である。だがそんなバックグラウンドなどお構いなしに、探査シャトルの計器は無機質にデータを観測し続ける。ぼくは狭い操縦室に押し込められ、一日中それを眺めているだけ。退屈、という言葉では足りないくらい手持ち無沙汰だ。
    「...准尉...せよ......ファイバー准尉、応答せよ。俺の声が聞こえるか?」
    ぼーっとしていたら通信が入ってきて我に返る。慌てて回線を開く。
    「ああ、すいません。こちらファイバーです。」
    「おっ、やっと応答したなリコちゃ〜ん。」
    「星に見惚れてて...」
    「どうせ暇すぎて意識不明になってたんだろ?新人あるあるだなあ。」
    「じゃあカムラ中尉も?」
    「その話は飲みながらしようぜ?取り寄せてたボトルがやっと届いたんだ。」
    「え、ぼくも飲んでいいんですか?」
    「ったりめえよ。その為に連絡してるんだから。んじゃ、戻ってきたらな〜」
    カムラ中尉は上機嫌な声色で通信を切った。今日も飲みに付き合わせるのか...。探査船"ワーウィック"に配属されてから半年、彼にはお世話になっている。面倒見のいい先輩で楽しい人だが、銀河連邦の軍人があれいいのかは疑問だ。
    「まあ...他人のこと言えたもんじゃないけど...。」
    日頃の鬱憤が思わず声に出てしまった。操縦桿を握り、意味もなくシャトルを回転させてみる。本来だったら戦闘機のパイロットとして、こういうアクロバットな飛行をするはずだったのに...。
    「スキャン進捗状況を報告します。現在、60%終了。」
    コンピューターの無表情な声がぼくのイライラを刺激した。
    「はいはいわかったよ。全く、最高だね。来る日も来る日も青色超巨星の調査...ぼくはパイロットなんだぞ。」
    「おっしゃる意味がわかりませんでした。」
    簡易AIに愚痴っても仕方ないのはわかっているが、この燻りを誰かにぶつけたかった。士官学校では実技1位を取ったんだ。血を吐く努力をしてパイロットになったというのに、今は科学調査船に勤務している。カムラ中尉は、そのうち異動願いを出せるから少しの辛抱だ、と言っているがぼくとしては一刻も早く戦闘機乗りになりたい。別に死に急いでいるわけではない。ぼくには軍に入った目的があるのだ。
    「スキャン進捗状況を報告します。現在、70%終了。」
    ぼくは音声を無視して隣の座席に置いてあるタブレット端末を手に取る。そしてあるフォルダを開いて、自分とよく似た黒髪で青い目をした女性の写真を取り出した。

    氏名 ナナ・ファイバー
    年齢 22歳
    性別 女性
    種族 地球人
    階級 臨時少尉
    所属 空母モザンビーク/航空師団/第3飛行中隊
    搭乗機 MF05-L40"ガルダ"

    入隊して、唯一掴んだ母の情報だ。あとは20年前の戦争で半年間だけ従軍していたこと、火星出身である事くらいしか知らない。彼女はぼくを産んですぐ亡くなり、父親は不明。親戚もおらず孤児院で育った。今までの人生は、自分の親をもっと知りたいという想いに突き動かされてきた。ようやく真実に辿り着くための道筋が見えたかと思ったのに、現実は残酷なものだ。科学調査船では最低限の人事情報にしかアクセス出来ないし、軍艦に乗っても少佐に昇進するまでは全ての情報を閲覧する権限がない。
    「こんなことしてる場合なのかな...。」
    星の観測、先輩との晩酌、そんな日々を繰り返すうちに自分の情熱が冷めてしまうのではと不安になる。本当にそうなる前に、空母か戦艦に異動出来れば良いのだが...。
    「リコ・ファイバー准尉にメッセージが届きました。内容を読み上げますか?」
    「いや、自分で読む。こっちに転送して。」
    コンピューターに代読してもらうのはなんだか読んだ気がしないのでいつもこうしている。タブレットに送られてきたメッセージに目を通すと、時間の経つ速さに落ち込んだ。

    【告知】ケイト・ニシダ大佐以下モザンビーク号乗員1周忌の件

    20年前の戦争で活躍した伝説のパイロット。ニシダ大佐が事故死してから既に一年が経ったという事実は、過ぎ去った時が一瞬にも満たないことをぼくに示していた。このままじゃ、あっという間に30歳を迎えてしまう...。気を取り直して告知の内容を確認した。本文の冒頭には、トレードマークの眼鏡と共に写る大佐の画像が添付してある。

    宇宙艦隊士官 各位

    昨年、ジャンプゲートの事故により殉職した空母モザンビークの乗員たちの1周忌を各艦、各基地で執り行う。
    礼装を着用の上、所定の集会所で待機すること。定刻になり次第、フーバー元帥及びショワン議員の演説を行う。

    日時:2687年2月24日18:00~(地球時間)

    なお、艦長職・司令官職の士官は必ず出欠を取ること。総務部宛に、2月26日までに出欠名簿提出。


    発行者:連邦軍宇宙艦隊 広報宣伝部 チャン・インヨー大佐


    もちろんぼくは進んで参加するが、この文面からして参加しない怠け者もいるんだろうなあ。というか、遠方を航行している艦艇だったら幾らでもズル休み出来るじゃないか。
    「間もなくスキャンが完了します。」
    止まらない不満を諌めるようにコンピューターが報告する。ここでうずくまっていても仕方ないし、早く切り上げてワーウィック号に戻るとするか。今後のことについて考えるのは後だ。それに、1周忌の行事では艦長と話せる貴重な機会だ。異動したい希望を、どうやってアピールするか考えてみようじゃないか。
    「警告、ジャンプゲートが開きます。」
    考えに耽っていたので、警告音に気付いたのは少し間を置いてからだった。ん?ジャンプゲート?
    「ど、どういうこと?」
    「青色超巨星の北極側上空に、小規模な亜空間の歪みを検知。間もなくゲートが開きます。」
    不可解な報告に、ぼくは顔をしかめた。ジャンプ航法はありふれた恒星間航行の技術だが、それには専用のエミッターを設置する必要がある。何もないところに、しかもよりによって超高温の恒星の上に開くなんて...。
    「よし、調べてみよう。」
    「ゲート、開きました。」
    こんな現象は初めてなので、なんだかワクワクしてきた。未知の発見があるかもしれないし、何よりも日常にイレギュラーな物事が発生した喜びを感じていた。ペダルを踏み込んで、レーダーが指し示す箇所へとシャトルを進ませる。
    「警告、恒星の放出エネルギーに対してシールドが耐えうる限界時間は5分です。」
    「それだけあれば充分さ。」
    この星のコロナが非常に強烈なものであることは分かっている。温度だけでも2000万度は下らないだろう。補助動力を全てシールドに回して、エンジンを燃料型から重力偏向型に切り替えた。これで高温による爆発はないはずだ。
    「警告、危険域に突入。5分以内に離脱してください。」
    「よーし、どんなもんかな?」
    星の上空を縫うようにして飛ぶ。遮光フィルターのおかげで本来の明るさでは見えないが、それでも灼熱の星だと解るには充分な迫力だ。そして前方に小さな、エメラルドグリーンに輝く光の膜が見えてきた。
    「あれがジャンプゲート...?」
    今まで見てきたゲートは、全て青か黄に発光していた。しかし目の前に浮かぶのは見たこともない色のものだった。ますます好奇心を掻き立てられる。
    「簡易スキャン開始っと。サブセンサーはタキオン粒子だけを測定して...」
    まるで学者のようだ。先ほどまでパイロットを自負していただけに、我ながら激しい手のひら返しだと思う。だが人類初の発見かもしれないと思うと調査せずにはいられない。
    「警告、あと3分以内に離脱してください。」
    簡易スキャンならあと1分で終わる。このデータをワーウィックに持って帰って報告して...。
    「警告、トラクタービームに捕捉されました。」
    「大丈夫だって、あと30秒で...え?」
    唐突な報告に戸惑った次の瞬間、機体が小刻みに揺れ始めた。
    「ちょっ!?な、何が起きてるの!?」
    「警告、トラクタービームに捕捉されました。」
    「トラクタービーム?どこから?」
    ぼくの問いはすぐに解決した。ジャンプゲートに向けてシャトルが前進している!
    「どうなってんのこれ!?げえっ、アンカーが...!」
    こんな小型シャトルの空間アンカーでは申し訳程度のストッパーにしかならなかった。どんどん引っ張られていく。一体どうなってしまうんだ!?
    「あ、あのゲートの行き先は!?」
    「不明です。」
    「ですよねー...。メーデー!メーデー!こちらリコ・ファイバー!ワーウィック、聞こえますか!?ジャンプゲートにシャトルが引っ張られて...!」
    咄嗟に通信ボタンに手をかけたが、この状況をどうやって伝えるかで言葉に詰まってしまった。そうこうしているうちに、ゲートは目と鼻の先に迫っていた。
    「おいおいおいおい!これ、通っても大丈夫なんだよな!?」
    「不明です。」
    「こんの役立た...」
    怒鳴ろうとしたが、辺りが旧に暗くなり口を閉じた。聴こえるのはバクバクに跳ね上がる自分の心臓の鼓動だけ。
    「...亜空間に入ったのか。トラクタービームは?」
    「依然、牽引されています。」
    このシャトルに亜空間用の羅針盤は搭載されていない。もし、ビームが途切れてしまったら宇宙の中で最も孤独な場所で迷子になる。つまりそれは死を意味する。
    「ああもう...冗談だろ...。」
    手のひらに顔を埋めて己の不運を嘆いた。そもそも好奇心でゲートに近づかなければこんなことには...。
    「亜空間で遭難した小型艇が助かった例はこの400年間で2件あります。希望はあります。」
    どうしたってこのAIは余計なところでフォローを入れてくるんだ!
    「うるさい!いつから勝手に喋るようになったっつーの!」
    「失礼しました。あ、でもほら、そろそろ出口に着きますよ?」
    「はい?」
    急に喋り出したコンピューターの声にイライラしつつ、レーダーを確認した。
    「ほんとだ...出口だ!!」
    ディスプレイにはしっかりとジャンプゲートの出口である三角のマークが黄色く光っている。
    「だから言ったでしょう?希望はあるって。」
    その陽気な声色に、ようやくぼくは何かがおかしいと気付いた。いつから艦隊のAIはこんなに人間臭くなったんだ?
    「待って...君、なんかいつもと違うぞ?ファームウェアのアップデートでもあったのか?」
    「うーん、鈍いなあ。もっと賢いヤツだと思ってたんだが。」
    落ち着きのある女性の声が、すっかり調子のいい男の声に変わってしまった。いよいよもって怪しい。先程まで亜空間での孤独死に恐怖していたのが嘘のように、ぼくはこのムカつくAIに気を取られている。
    「まあまあ、そんなムッとしなさんな。ほら、ゲートを出るぞ。」
    そう言う間もなくシャトルは青い光の中に飛び込むと、直ぐに通常空間へ抜けた。
    「ここは...どこ...?」
    辺りは見渡す限りの小惑星群で、その背景には赤紫色のガス星雲が漂っている。
    「なかなか綺麗な眺めだろ?」
    「いや、誰だよお前...。」
    「俺様が誰かなんてどうでもいいだろ。それより見てみろよ。今からあそこに連れてってやる。」
    謎のウザAIは前面ガラスにグリッドを投影して、ある箇所を囲った。それは、ひときわ大きな小惑星だった...いや、違う。何かが、何か巨大な物体が影から姿を見せ始めた!
    「あれは!?」
    「おうおう、手本のような驚き方だなあ。」
    彼(?)の煽りなど霞んで聴こえるほど、ぼくは目前に現れた四角柱に心を奪われていた。しばらくすると、物体から点滅する光に気づいた。航行灯だ。
    「まさか...あのサイズで宇宙船なの!?」
    「そのまさかだよ。シャトルベイまで誘導してやるから、操縦は代わらせてもらうぜ。」
    「で、でかすぎる...!」
    近づいてくる船体は、まるでひとつの都市のようだ。ワーウィック号が全長330mくらいだから、それの十倍以上はあるだろう。しかし、こんな大規模な船...どこの所属だ?ジニビア人ならもっと機動性を重視して小型の戦艦を作るだろうし、コパル人は流線形のデザインにこだわるはずだ。
    「オーケー、23番シャトルベイに着艦許可が降りたぞ。もうすぐ着くから支度しとけ〜。」
    そんなに発着する場所があるのか...。想像を絶する規模の大きさに唖然としていたら、いつのまにか艦内に侵入していた。着艦の衝撃で機体が揺れる。
    「ほら、降りな。お前さんに会いたがってる人がいるんだよ。」
    「えっ、ぼくに...?」
    恐る恐る立ち上がると、たどたどしい足取りでドアへ向かった。もう混乱だらけだ。奇妙なジャンプゲートに引き込まれたかと思ったら、AIが勝手に喋り出すし、巨大宇宙船が現れて中に招待された。1日に起きるイベントとしてはあまりに過剰だ。
    「...っ、ふう。」
    深呼吸をして気持ちを落ち着けようとしたが、無駄だった。仕方なしに、震える指でドアの開閉ボタンを押す。こういう場合、もっと躊躇ったりするものなのだろうか。ピンチになると何だかんだで身体が動いてしまう自分の性に呆れつつ、外へ踏み出した。
    「...すっげえ。」
    視界に飛び込む航空基地のような設備の充実具合と広さに思わず声が出る。こんな規模の発着ベイはホッカイドーの基地以外で見たことがない。
    「...」
    言葉を失ったまま数十秒が過ぎ、ぼくはあることに気づいた。誰も迎えがいない!すごいアウェイな感じがして気まずい...。向こうのピットにエンジニアの人が見えるので、声をかけてみようか。足を踏み出そうとした瞬間、頭上から鋭い女性の声が聞こえた。
    「リコ・ファイバー准尉か?」
    見上げると、ゴツい戦闘スーツを全身に纏った人がリフトで降りてくるではないか!ぼくはすかさず返事をした。
    「はい!科学調査船、GFSワーウィック所属、リコ・ファイバーであります!」
    言い終えると同時に、その人はリフトから飛び降りてぼくの目の前に着地した。あ、思ったより小さいんだ...。頭一つ差があるということは160cmくらいかな?やはり女性のようだ。余計なことを考えていると、先程のAIの声が彼女のヘルメットから聞こえた。
    「こいつで間違いないんだよな?」
    「ええ。ご苦労様、マタラス。」
    「半年も分身経由で手引きしてきたからな。大変だったぜ。」
    「あの...」
    二人(?)の会話が意味不明すぎて、ぼくはたじろぐばかりだった。
    「失礼、ファイバー准尉。私はモモ・アイザワ。艦長が間も無くお見えに」
    「すまんすまん!遅れてしまった!!」
    アイザワと名乗る女性が言い終える前に、頭上から威勢の良いダンディな声が響いた。視線を声の方に向けると、ガタイの良い身体に深緑色の連邦軍制服を着た中年男性が見える。何処かで見たことのある顔だな。短髪を無造作に立て、男前な顔立ちが渋カッコいいおじさん、といったところか。そして何よりも目に留まったのは、23世紀に廃れた眼鏡をかけているところだった。ん?眼鏡?
    「あっ...!」
    今のぼくは、まさに幽霊でも見たような顔と表現するのが相応しいに違いない。リフトから降りてきたその士官は、1年前に死んだ男なのだから。
    「あなたは...!そんな、バカな...!」
    「いい反応だ准尉!私はニシダ・ケイト、ここの艦長だ。」
    「ど、どうして...ここは...?」
    先刻から立て続けに起こる異常事態に、ついに頭がパンクしてしまった。言葉以前に、考えやイメージさえも湧いてこない。空っぽになってしまった。呆然とニシダ大佐を眺めていると、彼が歩み寄って来る!
    「君、幽霊になってみないか?」
    伝説のパイロットは、屈托のない笑顔でぼくを見つめていた。




    第1章"帰ってきた男"

    火星では独自の星座がいくつも作られた。いま目の前で輝く青い巨星はタイガー座の一番星である。だがそんなバックグラウンドなどお構いなしに、探査シャトルの計器は無機質にデータを観測し続ける。ぼくは狭い操縦室に押し込められ、一日中それを眺めているだけ。退屈、という言葉では足りないくらい手持ち無沙汰だ。
    「はあ...。暇だ...。」
    最近はこれが口癖になってきて困っている。ぼくはパイロットを目指して、そしてその先にある両親の情報を追い求めて入隊したというのに、科学調査船に配属された。日ごとに観測任務を繰り返すうちに、本来の目的を見失ってしまうのではないだろうか。不安に駆られて考え込んでいると、通信が入った。おっとりした男性の声が流れる。
    「艦長よりワーウィックの全乗員にお知らせします。今日の18時からはニシダ大佐の一周忌があるんで、必ずバーラウンジに集合して下さいね。一応、リマインドさせて頂きました。」
    うちのアタリ艦長は、民間の企業出身ということもあって良くも悪くもビジネスマンな節がある。こういった連絡が細かいところがまさにそれだ。といっても、この半年でじっくり話した機会がないので一概にこうとは言えない。今日の一周忌で交流が持てればいいのだが...。
    「なに話そっかなあ。」
    スキャンが終わり船に戻るまでの間、ぼくはそればかり考えるのだった。


    「であるからして、我々は今こそ襟を正し、亡きニシダ大佐に恥じぬ艦隊再編を...」
    きっかり18:00から一周忌は始まり、すぐさまフーバー元帥の演説が始まった。ハゲ頭に膨れ上がった身体と、元帥としての貫禄は十分だ。しかし話の内容はお粗末なもので、連邦政府の軍縮政策に同調する為の言い訳にしか聞こえなかった。
    「そもそも、艦隊の権威は"ゼラの決戦"などという虚業を世間に晒して以来、地に堕ちたと言って良い。だからこそ政府との念密な連携、強調が民衆からの支持を回復する...」
    ぼくの隣では、カムラ中尉がブロンドの長髪を前に垂らして立ち寝を誤魔化している。まあ、眠くなるよね...。
    「それでは改めて、モザンビークのクルー達に哀悼の意を表して...。」
    ようやく元帥の話が終わった。あんな人がトップで、軍は本当に機能するのだろうか。疑問に顔をしかめていると今度は白の短髪、人間より高い位置に生えた長い耳がコウモリのような女性が画面に登場した。コパル人のショワン議員だ。
    「ご紹介に預かりました、ショワン・トクフタスです。連邦評議会を代表して、ケイト・ニシダ大佐やモザンビーク乗員のご冥福をお祈りいたしております。」
    その落ち着いた声は、不思議な重みがあった。ぼくを含めた他の皆も思わず画面に視線を戻す。
    「思えばニシダ大佐とは20年前のエンシェント戦争の際、敵側であるコパル人の私を専属のエンジニアとして匿ってくれたのが始まりでした。私たちは建造されたばかりの空母モザンビークで来る日も来る日も戦いに明け暮れて、種族の壁を越えた信頼を築いたのです。」
    議員の演説を聞きながら、ぼくはあることを思い出した。実母のナナ・ファイバーも同時期のモザンビークにパイロットとして搭乗していたはずだ。ならば、ニシダ大佐かショワン議員なら母のことを知っているかもしれない。最も、大佐は故人なので選択肢としてはショワン議員しかいないのだが。
    「今のコパルがあるのは彼のおかげと言っても過言ではない。感謝の念に絶えません。そんな彼が事故で亡くなったと聞いた時は断腸の思いでした。」
    彼女が厳粛な追悼演説をしているにもかかわらず、ぼくの頭は如何にして連邦議会の、しかも次期首相候補と目される人物と接触出来るかという話題で一杯になっていた。試しに手紙でも送ってみようか。そんなことを考えていると、いつの間にか話が終わっていた。
    「しかし我々コパルの文化では、死とは新たな旅路の始まりを意味します。ニシダ大佐の、モザンビーク乗員たちの新たな旅立ちを祝したいと思います。」
    満面の笑みでお辞儀をするショワン議員に、ぼくら地球人は違和感を覚える。これが異文化というやつか。ワーウィック号には清掃員のノマ人くらいしか異星人がいないのもあってか、価値観の違いに疎いきらいがある。まして、同じ人類でも地球と火星では別の種族といってよい。ほぼ地球出身のクルーしかいないこの船は、非常に閉塞的だと言える。
    「はい、それじゃあ演説が終わったのでシフト入ってる人は戻ってくださーい。非番の人はご自由に。あっ、それから急なんですけど今朝着任した方の歓迎をしようと思うんで良かったら残って下さい。」
    誰もが艦長の言う"新任の士官"という言葉に反応した。一気にあたりがざわつく。うたた寝状態のカムラ中尉もスイッチを切り替えたように目を丸く見開いている。
    「おいおい新入りだとぉ?ずいぶんと突拍子のない話じゃんか。」
    そう言う彼は自然な所作でぼくをバーカウンターまでひっぱると、おもむろにグラスへ細い腕を伸ばした。
    「まあ誰だっていいんだけどな~。美人の姉ちゃんなら別だけどよ。」
    中尉は早速、 グラスに満ちたビールを口へ運ぶ。無精ひげに泡がついてだらしがない。29歳とは思えないくたびれようだ。お世話になってるし、すごく良い先輩だとは思うが、こうはなりたくないな...。
    「では新任の操舵士を紹介したいと思います。ニカージャ・サワル少佐です。」
    艦長が手を叩いて皆の注意を引く。するとドア蹴破るような勢いで大柄な鳥人が飛び込んできた。ヴェナトラ人だ。
    「ニカーヤ・サヴァルだ!間違えないでくれアタリ君!」
    「ああ、大変失礼しました...。み、皆さんにご挨拶を...。」
    ニカーヤと呼ばれたその男は、2mは下らない巨体と鷹のように鋭い顔つきで艦長を見下ろして威圧する。おっかない鳥さんだ...。他のクルー達も唖然として彼を見つめている。
    「ん、改めて私はニカーヤ・サヴァルだ。家庭の事情により2年ほど休職していたが復帰した。航空機なら何でも操縦するから、飛ぶ時は呼んでくれ。よろしく!」
    ぶっきらぼうに言い放つと、少佐は壇上から降りて近くのテーブルにあったボトルを手につかんだ。艦長は慌てて乾杯の音頭をとる。
    「そ、そしたら乾杯しまょう。ニカーヤ少佐に。」
    「ニカーヤ少佐に...」
    とてもじゃないが歓迎会の雰囲気ではない。ヴェナトラ人と言えば戦士の種族だ。見るからに体育会系な彼を、科学者集団のワーウィック号が受け入れるはずがない。なぜ司令部はこの船に再配属を決めたのか。
    「やっべぇなアイツ...ぜってぇ関わりたくねぇタイプだ。」
    カムラ中尉は真顔でビールを啜る。ぼくも一口飲んでコメントする。
    「ですね...。だけど、なんでヴェナトラ人が調査船に?普通は戦艦や空母ですよね?」
    「お前さんと同じだよ。いま連邦は軍縮の真っ最中。ここ3年で巡洋艦なんか20隻も解体されちまった。どこにも行く宛がないのさ。」
    「なるほどですね...。やっぱ異動は厳しいかな...。」
    「そーゆーのは艦長に相談だなあ。ほら、今なら話しかけて良さそうだぜ?」
    彼の言う通り、艦長は誰とも会話していない。なんだかんだで気が効く先輩に感謝しつつ、足を踏み出した。人混みをかき分けて、艦長へ近づいて行く。そして目が合った瞬間、誰かがぼくの右肩を掴んで動きを止めた。
    「痛い っ!」
    何事かと思って振り向くと、翼と一体化した長い腕が目に入った。えっ?
    「に、ニカーヤ少佐...?」
    「おおう、ちゃんと覚えたか。お前、リコ・ファイバーだな?」
    どうしてぼくの名前を!?一体どうなってしまうんだ。まるで怖い先輩に絡まれるいじめられっ子のように縮こまって彼の目を見る。
    「は、はい...何かご用ですか?」
    恐る恐る質問すると、彼は嘴をカチカチさせて笑い始めた。皆の視線が集まる。
    「なんだそりゃ。ナナの息子とは思えないカタブツだなあ!」
    大声を出す彼に、周囲の注目は最高潮に達した。ぼくはというと、母の名前が唐突に出てきたので一瞬分からなかったが、意味を理解すると光の速さで少佐に飛びついた。
    「母さんを知ってるんですか!?どんな、どんな人だったんですか!?」
    こんなところで母の知り合いに会えるとは!喜びと混乱と興奮と疑問で半ばパニック状態のぼくを、カムラ中尉が引き剥がした。
    「落ち着けリコ!少佐に何を言われたって、喧嘩はやめとけ!」
    「違います!この人、母さんの知り合いで...!」
    「まあまあ、焦るなって。ナナのことなら幾らでも教えてやるからよ。今日は休ませてくれ。んじゃな。」
    そう言って彼はバーラウンジから出て行ってしまった。これから楽しくなりそうだ...!


    翌日。ぼくは非番だったが、ニカーヤ少佐がシャトルの点検をすると聞いたので慌てて格納庫に向かった。あの会話の後、カムラ中尉にしこたま飲まされたせいでちょっと気持ち悪いが気にしてる場合ではない。長年の願いを叶える時が来たのだ。第1格納庫に駆け込むと同時に声をかける。
    「すいませーん、ニカーヤ少佐は...」
    「その声はファイバーか?」
    「はい!どちらに?」
    シャトルが5台入る程度の、お世辞にも広いとは言えない格納庫だが少佐の姿は見えない。しかも声が反響するので何処から喋りかけているのか、お互い解らないときた。
    「ちょっと待ってろ、今出る。」
    その返事と同時に、彼は手前のシャトルの下から這い出て来た。ぼくは背筋を伸ばして歩み寄った。
    「ぼくにも手伝わせてください!」
    「...分かりやすいヤツだな。」
    ニカーヤ少佐は微笑むと、文字通り羽を伸ばして背伸びした。さあ、どうくる?
    「いいぞ。実は、ある条件を満たすシャトルを探してるんだ。人手が多ければ助かる。」
    「ある条件...?」
    「亜空間経由の暗号通信を行なった機体だ。受信機のスキャンは全部白だったからな。今からコンピューターの記録を洗っていくところさ。」
    点検、ではなさそうだ。しかし目的がわからないぼくは首を傾げてしまった。
    「えーと、何の為にやるんですか…?」
    ぼくらは手前のシャトルの中に移動しながら会話を続ける。
    「決まってるだろ。ケイトの所在を掴む為だ。」
    「ケイト?誰です?」
    「知らんはずないだろう。ケイト・ニシダだよ。モザンビークの艦長。」
    「え?」
    「ん?」
    昨夜といい、この人は突拍子のない事を言い過ぎだ。あまりに自然な口調で故人の名前を出すものだから、またもや理解が追いつくのに時間がかかってしまった。
    「いやいや冗談ですよね!?ニシダ大佐は亡くなったんですよ!?昨日の一周忌、参加しなかったんですか!?」
    取り乱すぼくをよそに、少佐は操作パネルを開けてフライトレコーダーを固定するハッチをいじり始める。
    「俺は至って真面目だぞ。あのキザ野郎が事故で逝くわけないだろう。」
    そして黒い箱を取り出すと、僕に投げつけた。とっさに身構えて受け止めたが、思いのほか軽くて拍子抜けする。身体の力が抜けると同時に気も抜けてなんだかバカらしくなってきた。
    「あの...やっぱりやめておきます。少佐の言ってること、めちゃくちゃで...っ!?」
    頭にニシダ大佐の遺影を思い浮かべた瞬間、強烈な静電気を食らったような痛みが脳天を貫いた。驚きと混乱で口が止まってしまう。
    「...そういう単純なところ、ナナにそっくりなんだな。」
    まだ少し痛みの余韻に囚われていたが、母の名前を出されて我にかえる。
    「母さんに、ですか...。どんな人だったんですか?ていうか、知り合いなんですか?」
    「その箱のどっかにバーコードがあるだろ?それをタブレットで読み取ってログを」
    「答えてくださいよ!ぼくはずっと親のことが知りたくて堪らなかったんですよ!?」
    「...」
    ニカーヤの鋭い眼光は、暗に"言われた通りにしろ"と脅しているように見えた。仕方なくぼくは端末をかざしてログを読み込む。
    「モザンビークでは俺がエースだった。ケイトとナナが来るまではな。特にお前の母ちゃんは凄腕だ。民間上がりのパイロットのくせに、あっという間に撃墜スコアは俺を追い越したよ。」
    フライトログが画面に広がっていくのと同時に、少佐の話が始まる。ぼくは身を乗り出して耳を傾けた。
    「俺たちが所属していた第3飛行中隊は無敵と言われてた。ケイトが中隊長、撃墜王のナナ、しんがりの達人が俺。ヴェナトラ風に言えば、3つの刃を持つ剣だな。」
    「で、でも...最強のパイロットはニシダ大佐だったんじゃ?母さんのデータベースには特に活躍した記載はなかったんですけど...。」
    「それは多分、火星政府の圧力があったんじゃないか?あっ、読み終わった?貸してくれ。」
    彼はタブレットを受け取って膨大な量のログに目を通す。ぼくは謎だらけで、立て続けに質問する。
    「火星って、どういうことですか?」
    「80年前、地球がジニビアに占領されてどうなったかは知ってるよな?」
    「奪還した時には焼け野原になっていて、軍事基地として復興する代わりに連邦から莫大な資金援助をしてもらったんですよね。」
    「うむ。よく勉強してるじゃないか。あとは火星出身なら解るだろう?」
    「ああ...なんとなく。軍国化に反対した人達が火星に移住して、平和主義者のコミュニティを創り上げた。だから火星出身の軍人が有名になるのを嫌うんですね?」
    「上出来だ。んなわけでナナのスコアは改竄されて、俺とケイトに振られたんだ。」
    「...抗議とかしなかったんですか?」
    「連邦の情報操作をいちパイロット風情が、どうこう出来ると思うか?よし、これは違うな。次のシャトルだ。」
    ぼくらは狭い機内を這うようにして後にすると、隣のピットに移動した。今まで知り得なかった母のことをようやく聞けて感激しつつ、次々と湧いてくる疑問に意識を奪われていた。
    「ぶっ!?」
    気づいたらシャトルの天井に頭をぶつけていた。痛い!
    「ってぇ...!」
    「相当、煮詰まってるんだな。そういう時こそ手を動かすに限る。ほれ、次のレコーダーだ。」
    ニカーヤ少佐は柔らかい声で、焦燥するぼくをなだめた。確かに、彼のいうことも一理ある。冷静にならねば。黙ってボックスを受け取ると、ログの解析を始める。
    「んじゃ、俺は隣の機体を調べるからな。ここは任せたぞ?」
    そう言うと彼は狭い通路を横切った。だがぼくにはどうしても、訊きたくてしょうがないことがもう一つあった。引き止めて、今すぐにでも答えてもらいたい。
    「...ぼくの父親は誰なんですか?」
    つい堪えきれず、声に出てしまう。少佐は足を止めて硬直した。背中を見上げると、何となく困っているように見えた。
    「まあ...なんだ...その...俺にも良く分からん。」
    首を横に振って言い淀む彼は、明らかに何か隠してるのが見て取れた。すぐさま質問する。
    「どういうことですか?終戦までモザンビークで一緒だったんですよね?誰とくっついてたか、噂くらいは知っててもおかしくないでしょう!?」
    「いやマジで謎なんだよ!ゼラの決戦から帰ってきた時に妊娠が発覚したんだ。みんな驚きさ!」
    ぼくらはカッとなって怒鳴り声をあげていた。しかし、ゼラの決戦と聞いてぼくは我に返った。連邦が勝利するきっかけとなったその戦いは、後にプロパガンダの為のでっち上げだと公表されたからだ。
    「ゼラって...なにいい加減なこと言ってるんですか。」
    呆れて声に力が入らない。この人はぼくをからかってるだけで、ナナ・ファイバーの情報も全部デタラメなのか?しかし、ニカーヤはぼくの疑念を物ともせず、力強い目で真実を訴えた。暫く沈黙した後、口を開く。
    「あの戦いはな...訳あってフェイクにされたんだ。参戦したのがモザンビークとベルファストの2隻だけだったのもあって隠蔽工作はスムーズだったよ。」
    「どう信じろと...?」
    「ゼラは惑星の名前だ。古代種族"ヴォイド"のホームワールドだった。奴さん達をこの銀河から追い出すには、そこを叩くしかないと言ってミス・カイエダが...」
    「カイエダって、あのカイエダ中将ですか?」
    「当時はモザンビーク艦長だ。政治的な見地からも作戦を動かせる凄い女性だった。批判覚悟で戦いを隠蔽したのも、何か理由があるんだろう。」
    次々と明かされる新事実に困惑しながらも、ぼくの好奇心はぶれなかった。
    「それで、母さんとなんの関係があるんですか?」
    「あいつは戦いの最中に被弾して、ゼラに墜落した。ケイトも救援のために降り立った。そこで何があったのか、2人は話してくれなかったが...戻って来た時には、お前さんが腹の中にいたんだ。」
    「えっと...それって、つまり」
    「違うぞ。ケイトはお前の親父じゃない。それどころか、検査で連邦にいる男どもの誰とも遺伝子が繋がっていないと分かった。」
    「...」
    奇想天外な話の連続は、返ってぼくの頭を冷やしてくれた。話を一つずつ整理していくと、シンプルな答えが出てきた。
    「結局、誰か父親かわからないんですね。」
    ため息混じりに肩を落とす。すると待ってましたとばかりに少佐が翼を広げて声を張り上げた。
    「いや、知ってるやつがいるだろう!惑星ゼラで、ナナの身に起きたことを知ってるやつがよ!」
    「...に、ニシダ大佐。」
    またしても電流のような痛みが頭を走ったが、無視して考えをまとめる。
    「本当に、生きてるんですね?」
    「ああ。確信がある。ヤツは長年、新たな脅威に備えなきゃいかんと言ってきた。そして俺がお袋の看病で休職してる間に、何らかの計画を実行したんだ。」
    「少佐は、合流したいんですね...。」
    「ダチの俺をハブりやがったツケを払わせに行くのさ。そしてお前さんはお袋のことを、ナナの真実を教えてもらうんだ。解ったらレコーダーのチェックだ!」
    「り、了解...!でも、ログを見て何か解るんですか?そもそもどうしてワーウィックに?」
    何だか勢いで上手く煙に巻かれそうだったので、無理やり質問を挟む。結局、この作業がいかにしてニシダ大佐に辿り着くのかイメージが湧かない。
    「ケイトのことだ、人員確保の為に艦隊の関係者をリクルートしてるはず。この船にもめぼしい人材がいるだろ?」
    彼はぼくを指差しながら続ける。
    「まあお前さんに限らず、一流の科学者が選り取り見取りの船だからな。誰かしら引き抜かれてもおかしくない。シャトルを調べるのは、ヤツがこっそり誰かにコンタクトした痕跡がないか調べるためだ。」
    何だかめちゃくちゃな理屈だが、きっと親友だからこそ解るものがあるのだろう。ぼくは疑うのをやめた。自分の出生に想像以上の謎があること、そして秘密を探るためにはニシダ大佐を探す必要があることを理解したからだ。
    「わかりました...。ぼく、やります!」
    こうなったらとことん付き合うしかない。絶対に、ニシダ大佐を見つけ出してやる!


    朝から夕方まで食事もとらずに作業をし続けた結果、何も見つからなかった。一体ぼくらの努力は何だったのか...。流石に疲れたので、今日は打ち切りになった。ニカーヤ少佐は自室に戻りヤケ酒だと言っていたが、ぼくは倒れそうなくらい腹ペコなのでバーラウンジに足を運ぶ。
    「おっ、リコちゃ〜ん。お疲れい。」
    そのしゃがれ声はカムラ中尉だった。カウンターに座り、手招きしている。今日も飲んでるのか...。まずは食べ物を調達したいところだったが、呼ばれては仕方ない。弱々しい足取りで彼のところまで向かう。
    「お疲れ様です...。」
    普段ならただの社交辞令だが、今ばかりは本当に疲れている。目がしょぼしょぼする感じだ。そんなぼくを見かねてか、中尉はカウンター に置いてある未使用のグラスを手に取るとおもむろに酒を注ぎ始めた。
    「そうだよなあ...ショックだよなあ。」
    何を言っているんだこの人?彼は悲嘆にくれた様子でグラスを差し出す。ちんぷんかんぷんなぼくは受け取りざまに何のことか尋ねる。
    「えっと、何かあったんですか?」
    「ん?何ってお前、回覧見てないのか!?」
    いつものんびりな口調の中尉が珍しく慌てた声で詰め寄ってきた。驚きで変な声が出る。
    「へ?」
    「マジかよ...。アトランティアが爆発したってニュースだぞ!?」
    「アトランティアって...あの重巡ですか?」
    まるでファーストコンタクトした異星人でも見るような目で見られて、ちょっと気まずい。彼はポケットからミニタブレットを取り出していじり始めた。その間にぼくは近くを通ったドラム缶ロボにサンドイッチを注文する。
    「ほらほら、これだよ。昼ごろには出てたけど...ホントに知らないのか?」
    差し出された端末を手に取って、艦隊の回覧板に目を通した。

    【艦隊機密】アトランティア号消息不明の件

    各位

    昨日の3月2日(艦隊標準時刻)にケルシャ星域にてG.F.S.アトランティアとの交信が断絶。
    司令部が調査を進めた結果、エンジントラブルで爆発したと判明。
    引き続き原因を特定中で、分かり次第マスコミ向けの会見を行う。
    それまでこの件は機密扱いとし、外部への漏洩を防ぐよう徹底すること。

    なお、現場調査と生存者の確認は近傍を航行中の艦長へ依頼を出す予定。
    該当する艦艇のクルーは出動に備えること。


    宇宙艦隊司令部 戦略課 第1作戦室 エボ・フォス大佐


    最初はただの事故の報せだと思って読んでいたが、この戦艦の名前には聞き覚えがあることに気付いた。アトランティア?誰か知り合いがいたような。
    「あっ...!」
    次の瞬間、ぼくの頭にはとある女性の顔が鮮明に浮かび上がっていた。薄い褐色の肌、白髪のポニーテールに彫りの深い顔立ち、そして亜麻色の澄んだ瞳...。
    「アヤナ先輩...。」
    艦隊アカデミーではいつも実技トップを争っていた一個上の先輩、アヤナ・ウルリッヒ。彼女は文武両道の才女で、第1希望のアトランティアに配属されたのだ。
    「お前さんも知り合いがいたのか?」
    カムラ中尉が残念そうに尋ねる。しかしぼくは、腹の底が沈んでいくような感覚を認めたくなかった。
    「じ、事故ってことは生存者だって居ますよね...?だって、だってアヤナ先輩が...」
    二度と会えないことを意味する、あの文字を思い浮かべるには現実味がなかった。彼女と最後に話したことは、昨日のように覚えている。
    「だって、いつか一緒に飛ぼうって約束したじゃないですか...。」
    弱々しい呟きしか出てこない。中尉はグラスを差し出してぼくの肩を叩いた。
    「今は調査結果が出るまで待つかしねぇ。俺も同期が2人乗っててよ...。アトランティアに。」
    ぼくは無言で杯を手に取り、静かに持ち上げた。そしてエールを啜りながらアヤナ先輩との場面をひとつひとつ思い出す。最初に会った時は航空科の実習室で、フライトシミュレーターの順番待ちをしてる時だった。彼女の次がぼくの番で、記録を塗り替えてやったら白熱の首位奪還戦に発展したんだよなあ。それからは実技の時間になると、学年は違えど良きライバルとして切磋琢磨した。結局ハイスコアは自分が取ったが、彼女が卒業した後だったので消化不良のままだ。
    「一位はぼくだって教えるまでは嫌ですよ...。」
    自分が何を言ってるのか気付くのに少し時間がかかったが、どうやら今の自分が無意識で発言していたことは理解出来た。思ったよりショックなんだな...。
    「まあ、あんまり思い詰めるなよ?」
    もう一度ぼくの肩を叩くと、カムラ中尉は立ち上がってカウンターを後にした。ぼくはしばらくの間、サンドイッチを見つめながらアヤナ先輩のことを想った。パイロットとして素晴らしい人だったが、頭も良かった。少し上から目線の態度が玉に瑕だが、混血児ならではのエキゾチックな美しさの前ではあまりに気にならない。ぼくは、彼女のことが好きだったのだ。



    昨晩のバーでアトランティアの件を聞いてからというもの、まるで眠れなかった。正確には一人の女性についてずっと考えていて眠れなかった訳だが...。そんなわけで今日は眠くてしょうがない。月に一度のブリッジ勤務の日で助かった。
    「俺から引き継ぐことは特にないけど、暇だったら共有フォルダの整理よろしくね。」
    そう言って操舵席を離れる上官。実のところ、次のジャンプゲートまでワープしている間は手動で操艦しないのでやる事がない。しかもブリッジは広くて伸び伸びとしており、今日みたいに疲れている日にはぴったりの仕事だ。
    「了解です。ではリコ・ファイバー、配置につきます。」
    さあ、気だるい一日の始まりだ。腰を下ろしてタッチパネルに指を乗せる。指紋が認証されるとメインスクリーンが表示された。さっそく共有フォルダを開いて作業に取り掛かろうとすると、アタリ艦長の入室を報せるドア音が聞こえた。
    「艦長がブリッジへ!」
    保安部員が号令をかけた。艦長はこの掛け声が苦手なようで、いつも腑に落ちない表情で入ってくる。案の定、彼はやれやれといった顔でドアから出てきた。
    「おはようございます。」
    艦長の挨拶に各々が応える。昼も夜も関係ない艦艇の上で"おはようございます"とは、いかにも民間上がりの人といった感じだ。艦隊士官はどんな挨拶も"お疲れ様"の変化系を使う。
    「えー、皆さんに相談なんですが。」
    いつもなら何も言わず黙々と仕事に入る彼が、突然声をあげたのでブリッジの全員が注目した。
    「昨日の回覧にあった通りアトランティア号がエンジン事故で爆発したじゃないですか。ケルシャ星域に近いルートを通る我々にも現場検証の依頼が来てますが...もし調査をしたら、第6宇宙基地に到着するのが4日遅れるんですよ。」
    その気まずい声色からして、自分自身は乗り気でないことをアピールしているようなものだった。それも仕方ない。ワーウィックは基地に入港したら二週間の休暇に入るのだ。中には家族が待っている人もいるわけで、一日の遅れでも惜しいことだろう。艦長は続ける。
    「これ、命令じゃなくて依頼なんで断れるんですよね。クルーの決議を取れば。みなさん、どうですか?」
    頼むから断る方向に傾いてくれという気持ちがひしひしと伝わってくる。ぼくとしては今すぐにでも駆けつけて生存者の捜索をしたいので、彼の消極的な態度には苛立ちを覚えた。しかし周りの士官は揃って首を横に振っていた。迎合するしかないか...。諦めかけたその時、怒鳴り声と共に誰かが入ってくるのが聞こえた。
    「おいアタリ君!アトランティアの調査依頼が来てるじゃないか!!」
    振り向くと、ニカーヤ少佐が威勢よく艦長に歩み寄っているのが見えた。何て強引な人なんだ。
    「え、ええ来てますよ...。でも立ち寄っていたら第6宇宙基地に着くのが」
    「ちょっと遅れるくらいが何だ!?あの戦艦には知ってる顔もいるだろう、心配じゃないのか!?」
    「それはそうですがね少佐、クルーの中には休暇が減ると困る人もいるんですよ。自分だけの意見で話を進めないで頂きたいのですが...。」
    珍しく艦長が熱くなっているものだから、ブリッジの誰もが手を止めて二人のやり取りを見守っていた。
    「個人の都合ではなく艦隊全体の都合を考えたまえ!君はそれでも軍人か!?」
    「艦長は私です!クルーと協議して多数決で決めます!いい加減にしないと保安部員に連行してもらいますよ?」
    高圧的な態度に出る少佐に対して、艦長が反撃を繰り出す。クルーの何人かは小さくガッツポーズして艦長の毅然とした態度を称えた。ぼくはというと少佐が調査に拘る理由はニシダ大佐に関係あるとにらみ、考えに顔をしかめていた。
    「調査に出るべきだ!そう思うだろう、ファイバー准尉!?」
    「...えっ、ぼくですか?」
    いきなり名前を呼ばれたので飛び上がってしまった。なんてことだ...ぼくを巻き込むなんて!
    「いや...あの...。」
    返答に困り果てたぼくを見て、管制ステーションに座っていたカムラ中尉が救いの手を差し伸べてくれた。
    「やめてくださいよ少佐殿。准尉が困っているじゃないですか。そんなに調査に行きたいなら、あなた一人で行けばいい。」
    「なんだとぉ!?」
    ニカーヤ少佐は、鷹のような鋭い目つきで中尉を睨みつけた。彼は臆せず続ける。
    「第2格納庫に"スクールバス"があるんで。観測機材は一式積んであるし、現場検証だけならそれで充分でしょう?使っていいですよ。」
    その提案を、少佐は嘴に指を当てて吟味し始めた。しかし流石はカムラ中尉だ。見事にこの場を諌めてくれた。気遣いの達人といったところか。そして少し間を置いて、ニカーヤ少佐が嘴を開いた。
    「いいだろう。私とファイバー准尉で行ってくる。終わり次第、第6宇宙基地で合流しよう。」
    「ちょっ、なんでリコちゃんを連れてくんすか!?」
    少佐お得意の突拍子のない発言内容に、カムラ中尉は素に戻っていた。ぼくも思わず奇声に近い返事をしてしまう。
    「はひっ!?」
    「お前も興味あるだろう?アタリ君、この子を借りてもよろしいかな?」
    ぼくを指差して尋ねる少佐の目は、明らかに何か企んでいるように見えた。きっとニシダ大佐にまつわることだ。もちろん、そういう事情なら喜んでついていくのだが...。
    「ま、まあ...本人が良ければ...。」
    艦長は既に力尽きており、全てぼくに投げてきた。こんな気まずい言い争いを引き起こした少佐に同行するなど、顰蹙者もいいところだ。一人で行ってもらって、結果を二人で分析するとか言えば丸く収まるかな...。だいたい、アトランティアとニシダ大佐に何の関係が?巨大なレールガンが印象的なアトランティアと、眼鏡がトレードマークの大佐が頭に浮かぶ。その瞬間、またしても電撃のような痛みが頭を貫いた。
    「いっ!?」
    反射的に顔を下げてしまったのが運の尽き、皆はぼくが頷いたものだと受け取った。
    「本人は乗り気のようだ。というわけで借りていくぞ。」
    ニカーヤ少佐が手招きする。まったく、どうしてこう間が悪いんだ!周りの士官たちは驚きの眼差しをぼくらに向けている。
    「リコちゃん本気か!?嫌ならちゃんと断るんだぞ...?」
    カムラ中尉がまたしても助け舟を出してくれる。しかしナナ・ファイバーに繋がる唯一の手がかりかもしれないと思うと、やはり一緒に行った方が良い気がしてきた。どうしようかな...。
    「あの...ぼく...」
    ブリッジにいる全員の視線が集まる中、ぼくは意を決して答えた。
    「行ってきます。カムラ中尉、操舵をお願いします。」
    するとニカーヤ少佐はただ微笑んで、出口へ向かった。急いでぼくも追いかける。
    「お、おいリコちゃん!なんでだよ!?」
    ぼくを引き止めようとカムラ中尉が立ち上がる。だが今のぼくを止めるものは何もなかった。
    「ちょっと事情があるんです。また第6宇宙基地で飲みましょう。」
    そう言い残してぼくはブリッジを去るのであった。


    "スクールバス"というのはちょっとした愛称といったところだ。正式には多目的大型輸送機、STC-558と呼ばれるそのシャトルは半世紀以上運用されてきた実績がある。悪く言えば予算の関係でアップデートされる事がない残念な機体だが、アトランティアが難破した星域を目指すには充分な性能だった。ぼくと少佐は支度するなり直ぐに乗り込み、ワーウィックから飛び出した。探査シャトルより幾分か広い操縦室内は、古い空調システムが轟々と吐き出す暖気でひどく乾燥していた。
    「ひどい居住性だが、これでこそスクールバスだなあ。懐かしいよ。」
    ニカーヤ少佐はディスプレイを撫でてノスタルジーに浸っている。一方ぼくは持ってきたウォーターパックを早速飲み干してしまった。
    「すごい乾きますね。パイロットスーツも暑いし...。水、足りますかね?」
    「なあに、水ならワープドライブの冷却剤から幾らでも作れるさ。」
    「えっ、そんな裏技が...。」
    「まあそん時になったら教えてやる。で、船をワープさせた事は?」
    「研修で何度か...。」
    実際にワープすることになるとは夢にも思っていなかった。現在の宇宙物理学では光の731倍の速さで飛ぶのが限界で、恒星間の移動手段としてはジャンプゲートと比べて現実的ではない。ワープの利点は、エミッターに頼らず単独で超光速を出せる一点に尽きる。従って、搭載しているのは惑星間や近隣の恒星系への移動を目的とした艦船だけなのだ。
    「じゃあお前やってみろ。」
    「り、了解です...。」
    数える程しか経験していない操作を覚えているだろうか。恐る恐るタッチパネルに触れると、まず反応の鈍さに面食らった。ファンクション一覧を出そうとするだけで1秒もかかるとは...。
    「解らんなら俺がやるけどな、何事も経験だからな〜。」
    呑気な彼の声は頭から締め出して、ワープの手順を思い出すことに集中する。えーと、まずは通常エンジンを切るんだよな。お次は長距離センサーで航路算出、その間にワープドライブを温めて...。
    「あれっ…」
    スキップ粒子の加速率ってどれくらいのパーセンテージが目安なんだっけ。60%?70%?最後にやったのが一年前だから曖昧な記憶しかないぞ。
    「75%だ。」
    右耳から正解が入ってきた。ニカーヤ少佐の方に顔を向けると、彼は眉をひそめている。気まずいな...。
    「す、すいません。久しぶりなもんで...。」
    「別に解らんならいいんだ。だがな、相談せず一人で抱えるのはNGだ。」
    「はい...。」
    聞かぬは一生の恥、か。胸のモヤモヤを何とか無視してメーターを確認する。航路算出は終わった。あとはスキップ粒子の加速率だ。
    「そもそもワープの原理は説明出来るのか?」
    少佐は先ほどまでと打って変わり、厳しい教官へとキャラクターが変わっていた。
    「えっ。あの...ワープシリンダー内のスキップ粒子を加速させて、前方の空間を圧縮して飛ぶ...ですよね?」
    「スキップ粒子の性質をすっ飛ばしたな?」
    「難しくて...」
    「簡単だ。一定の速度まで加速すると重力子を負の値に変換し、その結果発生する斥力で周囲の通常空間を歪曲させる粒子と答えればいい。」
    この三日間、彼をただの脳筋軍人だと思っていた自分はなんて愚かなんだろう。でも考えてみれば、パイロットには非常に高い能力と教養が求められるので当然と言えば当然だ。ぼくは粒子加速率に目をやりつつ、少佐の解説に惜しみない賞賛を送る。
    「すっごい分かり易いです...!勉強させて頂きます。」
    「そりゃワープなんぞリスクの割に遅いから今日日流行らんがな。ケイトは古代種族の技術に頼りっぱなしのままではいかんと言っていた。新しい移動手段として、ワープ技術の進歩は大いにあり得るぞ?ちゃんと勉強しとけ。」
    「了解です...。あっ、加速率76%!いいですか?」
    「いつでもいいぞ?空間歪曲の指向性は最大でぶっ飛ばせ。」
    彼の指示通り、空間の歪曲率が最大になるようシリンダーの向きを変えた。これで最高スピード、光速の731倍だ。
    「では、ワープ開始!」
    ゆっくりとレバーを前に倒して、シリンダーのクラッチを解放した。その途端、視界の隅に輝く小さな星が横に伸び始める。機体は一度だけ、上下に揺れて動き始めた。
    「ふう...」
    実質的に初めのワープを成功させ、安堵のため息が出た。ニカーヤ少佐はからかうように笑う。
    「ハッ、これしきのことで喜んでるようでは一流パイロットへの道は遠いな。」
    「は、はあ。」
    こちらとしては、やっとの思いで飛ばしたというのに随分と厳しいコメントだな...。しかし不満を言っても仕方がない。顔に出ないよう必死に表情筋と瞼に意識を集中する。
    「そのムスっとした表情、母ちゃんそっくりだな。」
    やはり見抜かれていたか。ぼくはヤケになって切り返す。
    「そうやって何度も母さんを引き合いに出さないで下さい!ぼくは何も知らないんですよ!?」
    「すまんな。でもお前さんと居ると昔に戻った気がして...嬉しいというか寂しいというか。」
    「・・・」
    「寄る年波なんとやら、だな。とにかく、もうナナの話はしない。」
    「なんか...すいません。」
    反応に困っているぼくの態度を見て、彼は高らかに笑い飛ばした。
    「カハハハッ!」
    どんな言葉を口にしていいのか、ますます分からない。仕方がないので、ワーウィックを去る時からずっと気になっていたことを尋ねて話題を転換することにした。
    「それで、アトランティア号の事故はニシダ大佐とどんな関係が?」
    ぼくが質問するや否や、少佐は嘴を鳴らすのを止めてこちらを向いた。一気に目の色が変わったのが見て取れる。
    「普通、軍艦がエンジンの事故ごときで沈むと思うか?」
    「いえ...機関部専用のAIもあるし、安全管理はバッチリですよね。」
    「しかもアトランティアはヴォナクス級だ。船体分離システムで、万一に事故った場合でも対処できるはずだ。」
    「じゃあ、事故は意図的に!?」
    「それを確かめに行くんだ。運が良ければ手がかりを掴めるかもしれん。」
    少佐は右手で自分の腕に生えた羽毛をつまみながらブツブツと調査理由を語る。
    「あれほどの規模の戦艦ならコンピューターの一部が生きてるかもしれん。逆に何も残ってないのは不自然だしなあ。」
    「で、でもですよ?戦艦一隻を潰して、ニシダ大佐は何をするつもりなんですか?よく分からないんですが...」
    「俺も分からん。」
    ええ...。もしかして直感だけで飛び出してきたのかこの人。
    「そうですか...。」
    「なんだその目は?」
    「な、何でもないです。」
    「まあ心配するな、ヴェナトラの戦士は勘が鋭いんだ。俺を信じてみろ!」
    何だか言いくるめられている気がするが、付いてきた以上は腹を決めるしかない。ぼくは諦めの溜め息を飲み込んで、ワープ空間特有の歪曲した世界を見つめ続けた。

    光の速さは例えば一秒に地球を七周半する程度だと初めて聞いた時、なんて速いのだと感心したものだ。やがて学校へ行くようになり、超光速を実現するジャンプ技術のことを学んでいった。そして秒速約30万キロメートルが宇宙空間ではいかに遅いものか知り、がっかりしたのを覚えている。
    「そろそろワープ解除の準備をしておけ。」
    ニカーヤ少佐は、ぼくが思い出に耽っているところに押し入ってきた。慌てて計器盤のディスプレイを呼び出す。
    「あと4分、長かったですね。」
    「そうか?ワープなんてこんなもんだろ?」
    あまりの遅さに落胆した光よりも数百倍の速さで飛んでいるというのに、ジャンプ航法しか知らないぼくには長い時間に思えた。たった4光年の距離を、一日半もかけて移動するなんて...。ジャンプなら地球から連邦の首都"ミゼリア"までの133光年を一日で飛んでしまうのに。
    「少佐は慣れてるんですね。昔は使う機会が多かったんですか?」
    「まあな。エンシェント戦争の時はよく使ったよ。自分達の戦闘が終わったら隣の星系へ援護しに行ったり、ジャンプ先で敵に囲まれたらワープでトンズラしたり、何かと重宝したぞ。」
    「ああ、なるほど。そんな使い方が...。」
    「んなことより、空間歪曲率の急降下に気をつけろ。シリンダーを閉める時にはゆっくり、だ。」
    「は、はい...。」
    彼の言う通り、徐々に出力を絞らないと急激な空間変化に機体が引き裂かれてしまう。ワープが普及しない理由のひとつだ。ぼくはディスプレイに表示されたフェーダーに指を置いて、慎重に引っ張った。
    「さーて、何が待ってるかな。」
    「つ、通常航行に戻ります!」
    そう言う間も無く、目の前に巨大な鉄の塊が現れた。少佐が咄嗟に操縦桿を右に切る。急な旋回に身体が揺れる。
    「うわっ!?」
    「危なかったな...。今のは船尾の装甲板か?」
    さすが戦場にいた人だ。至って冷静に状況を確認している。ぼくは驚きのあまり、ただ見ていることしか出来なかった。
    「おいファイバー、あれ見てみろ!」
    少佐の指差す方を見ると、暗闇の中を三つに裂かれた宇宙戦艦が漂っている。恒星の光が辛うじて届いているので目視出来るが、薄暗くて気味が悪い。おもむろに拡大望遠レンズをフォーカスすると、手前の残骸に"SCC-36599"の番号が見えた。間違いなくアトランティア号だ。
    「これは...エンジンの爆発じゃなさそうだな。」
    「ですね...。」
    船体は見事なまでに綺麗に引き裂かれている。内部から爆発したとは思えない。
    「よし、早速スキャンしてみよう。断面部を念入りにな。」
    「了解です。マルチスキャン開始っと。」
    「いや、試しに電磁気スキャンだけに絞ってくれ。」
    「え?あ、はい。」
    マルチスキャンでやった方が時間はかかるが、分析結果は確実になる。どうして少佐は的を絞るんだろう?
    「きっと荷電粒子砲か何かの仕業に違いない。残留イオンがプラズマ化している箇所があればビンゴだ。」
    「そ、そんな...。攻撃されたってことですか?」
    このご時世、連邦に対して戦争行為を働く勢力がいるのだろうか?宇宙海賊はごく稀に襲ってくるが、アトランティア程の規模の戦艦とやり合うだけの戦力はないはずだ。
    「手前のやつの裂け目、あれはジニビア艦の反物質砲っぽいな。」
    「じ、ジニビアですか!?」
    「だが妙なんだ。その奥の断裂の仕方は見た事がない。強いて言うならリプリア人の採掘船が使ってるレーザーか?とにかく、色んな兵器が使われた形跡があるんだよなあ。」
    「おお...。」
    見ただけで判るのか。なんだか経験の差を感じさせるなあ。ぼくはすっかり感心して相槌をうつことに徹していた。
    「ほら、やっぱりこの量は明らかに荷電粒子砲だ。次、右舷側の船体をスキャン。赤外線でミサイルの残数を確認してくれ。」
    「了解です。」
    一方的に攻撃されていたのか、交戦状態だったのか調べるといいことだろう。ぼくがスキャナーを調整している間、右隣では少佐がディスプレイを睨んでいた。
    「おい、このスクールバスには武装がないのか?」
    「え?」
    「通常なら対空砲が二門あるだろ?」
    「ああ、これ調査用なんで...タレットがあった所は追加の牽引ビームに改造されてます。」
    「なにい!?もし攻撃した奴らが残っていたらどうするんだ!?」
    「あっ...!」
    そんなこど考えてもみなかったが、言われてみればそうだ。アトランティアを餌に、更なる艦隊の戦艦を釣る作戦だったとしたら?一気に肝が冷えた。
    「まあいい、ワープがあるしな。それで、ミサイルは?」
    「は、はい。右舷側のミサイルランチャーには152発あります。」
    「うむ...。確かヴォナクス級のスペックでは...。」
    彼はディスプレイを指で叩き、ぼくの目の前で佐官クラスの士官でしか知り得ない情報をどんどん開き始めた。いつもならパスコードを覚えようと覗き込むところだが、この緊迫した状況では無理だ。
    「メインのランチャーには180発、か。ということは反撃してるようだな。よし、あとはスナップショットを撮って早いとこズラかるぞ。もう少し近づいて満遍なくな?」
    「あの...それだけですか?生存者の確認は?」
    すぐに撤退すると聞いて、ふとアヤナ先輩の顔が浮かんでしまった。これだけの惨状を目の当たりにしても、誰かに生きていて欲しかった。
    「動力が完全に停止している。この状態で生き残るのは不可能だ。」
    「で、でも...!」
    「脱出ポッドが放出された形跡もない。つまりそういうことだ。」
    「つまりって、どういうことですか!?」
    「だから...脱出する時間もなかったということだ。敵は俺の予想より規模が大きい可能性が高い。すぐに艦隊に報告しないといかん。」
    「...」
    諦めるしかないのか。腹の下が重くなるのを感じる。こんな気持ちのまま帰ることになるなんて...。
    「辛いのは分かるが早く終わらせよう、な?」
    「はい...。」
    少佐に諭されるようにしてぼくは操縦桿にゆっくりと手をかけた、とその時だった。
    「接近警報、接近警報。所属不明の艦船が」
    コンピューターの警告音が鳴り終わる前に、アトランティアの上に赤い三角錐型の宇宙船が出現した。ぼくらが驚く暇もなく、次々と他の艦船も飛び出して来る。
    「まずったな...。嗅ぎつけて来やがった!」
    「ど、どうしますか!?」
    「機体を反転させて直ちにワープだ!まったく、こんな船でジニビアと出くわすなんて勘弁しろよ!」
    「やっぱりあれってジニビア人なんですか?」
    ぼくは操縦桿を思い切り傾けながら尋ねる。恐怖を抑えるには疑問で上書きするのが一番だ。
    「他にもリプリアにノマ、クシュルの駆逐艦もいたぞ。一体どうなってやがる…。」
    ニカーヤが口にした勢力は、とてもじゃないが合同艦隊を組めるほどの友好関係はない。ぼくも彼も混乱の中、この場から逃げることを忘れてしまいそうだった。
    「よ、よし!コース算出オールクリア、ワープ開始だ!」
    お互い我に返って、改めて危険な状況であることを思い出した。ぼくは慌ててディスプレイ上のレバーを引っ張った。そして周りの景色が歪み始めて...元に戻った!
    「な、なんで!?」
    「トラクタービームか!俺たちを捕まえる気だ!」
    冷や汗が噴き出て、心拍数が上がる。本格的にピンチだ!
    「何か、何か抜け出す方法があるはずです!」
    牽引ビーム系に捕まった時の対処法、アカデミーの応用物理学でちょっと習ったはずだ。思い出せ、思い出せリコ・ファイバー!自分に念じたが何も思い出せない!
    「こっちの牽引ビームを起動しろ!引力の向きを逆にして相殺してみる!」
    なるほど、その手があったか!今までにない速さでディスプレイを叩き、ビームアレイをオンラインにする。
    「えーと...照射源は手前のジニビア艦、あれに向けてっと。牽引ビーム、照射開始!」
    「周波数確認、44806!これでどうだ!」
    少佐がビームの調整を終えた瞬間、機体が激しく揺れ始めた。引力と斥力とがせめぎ合っているのだ。それに、無駄だと分かっていてもエンジンを全開せずにはいられなかった。頼むから逃がしてくれ...!
    「ちくしょう!流石に小型艇と戦艦じゃ出力がダンチだ!」
    彼の言う通りで、機体は徐々に引っ張られている!もうダメなのか...。ジニビア人に捕虜にされたら奴隷同然の扱いを受け、トルフェアイト鉱山で強制労働だと聞いたことがある。死んだも同然じゃないか!こんなところでぼくは終わってしまうのか!?
    「う、う、うわああああぁぁぁ!!いやだあああぁぁぁ!!」
    「落ち着け!戦場ではパニクったヤツから死んでいくんだ!」
    ニカーヤの怒鳴り声で少しだけ冷静さを取り戻したぼくは、震える手先で操縦桿を握りしめた。しかし逃げられるはずもなく、着実にジニビア艦へと近づいていく。
    「救難信号のビーコンを射出しとけ!それから...ええい!ケイトが居てくれたらなあ!」
    少佐の言い草からして、ニシダ大佐ならこの状況を切り抜けられるらしい。でもどうやって?あの眼鏡をかけたダンディな顔が浮かべる。やはり頭痛が襲ってきた。どうやら偶然ではないようだ。なぜ大佐の顔で頭が痛む?絶体絶命の危機に瀕しているというのに、ふとした疑問に意識を奪われていた。そして、頭の中に朧げな単語が現れた。思い出そうと必死になって唇を動かす。
    「マ...マ...」
    「ああん?母ちゃんの事は後にしろ!!」
    ブチ切れる少佐を無視して頭を振り絞る。次の文字が見えてきた!
    「マ...タ...」
    「ど、どうしたっていうんだ?」
    「マタ...ラス!マタラス!!」
    ついに思い出した!この名前だ!頭が割れるように痛み始める。次の瞬間には脳みその奥底から激痛が走るとともに、映像や音声が溢れ出してきた。ぼくの中に封印されていた記憶だ。
    「うっ!?」
    あまりの痛みに唸り声をあげつつ、ぼくは順調に失くした記憶を取り戻していった。一週間前、青色超巨星の調査中にぼくは謎のジャンプゲートを発見した。それに引き込まれて超空間を抜けた先に待っていたのは、事故死したと思われていたニシダ大佐の率いる巨大戦艦だった。そしてマタラスとは、ぼくをそこまで導いた腹の立つ高性能AI。せっかく大佐が引き抜きしてくれたのに、頭の固いぼくは艦隊の規則を理由に乗艦を断ってしまったのだ!結果、記憶を操作されてワーウィックに戻された...。全て、全てを思い出した!
    「大丈夫か!?」
    少佐はぼくの肩に手を置いて心配してくれている。しかしぼくは至って冷静に、通信ボタン押した。
    「おいマタラス、聞いているんだろ?そろそろ助けてくれないか?」
    「ファイバー、お前…」
    「ぼく自身だったんです。ニシダ大佐に繋がるカギは。」
    「...説明してくれるか?」
    「この間会ったんです。」
    「は?」
    少佐がきょとんとするのはよく分かるが、それ以外に言いようがない。詳しく話そうと口を開いた、とその時である。
    「接近警報、接近警報、所属不明の艦船が」
    またもやコンピューターが言い終えるのを待たずして目の前に宇宙船が現れた。しかし今度は巨大な四角柱だ!暗いグレー色の船体は、まるで暗闇に潜む幽霊のようだった。
    「なんじゃありゃ!?」
    目視だけでも、いかに大きいのか分かる程度にその戦艦は極大サイズだった。少佐はあんぐり嘴を開けている。ぼくはというと、全てが繋がって感激していた。しかも助けに来るのが早いときた。これもマタラスの想定内なのだろうか。
    「ニシダ大佐が来てくれたんですよ!助かりましたね!」
    「あれに、ケイトが...?」
    少佐が指差す間も無く、正面の戦艦からそのサイズに引けを取らない大きさの閃光が放たれた。
    「す、すごい!」
    「うお!?マジか!実体弾か!?」
    ベテランパイロットの少佐でさえ、その迫力を目にして興奮している。爆薬の放つ閃光が収まる頃にはスクールバスの機体が揺れて、自由に動けるようになった。後部モニターを確認するとジニビア艦は粉砕されていた。その光景に恐れをなしてか、他の艦船は撤退を始めた!
    「すげえ火力だな...。」
    「はい...。とりあえず、あれに着艦します。こちらワーウィック所属リコ・ファイバー。ニカーヤ・サヴァル少佐も同乗しています。着艦許可を。」
    「こちらファントム第三管制室。11番シャトルベイへの着艦を許可します。自動誘導システムに従って下さい。」
    まるでこうなることを解っていたかのような対応だ。
    「了解です。あの...マタラスと話せますか?」
    「いや、さっきから俺様と話してるんだが?」
    落ち着きのある女性の声はたちまち調子の良い男の声に変化した。やっぱり性格が悪いな...。
    「何か俺だけ蚊帳の外じゃないか?頼むからワケを話してくれよー。」
    ニカーヤ少佐はすっかり拗ねてしまっている。ぼくは慌ててこれまでの経緯を事細かに説明し始めた。そして話終わる頃にはシャトルベイが目と鼻の先まで迫っていた。誘導灯を追うのに必死になるぼくをよそに、少佐は納得したような独り言をぶつぶつと呟く。
    「なるほどなあ。ナナの息子に目を付けるのは当然か。だが一度記憶を消して様子を見るっていうのはエーゼルの考えに違いない。ああ、絶対そうだ。」
    「少佐?そろそろ着艦しますよ?」
    艦内に侵入すると、見覚えのある航空基地のような空間が広がる。二回目になるが、やはり圧倒される光景だ。ニカーヤ少佐も嘴を止めて、その規模の大きさに愕然としていた。
    「これがケイトの計画だったのか...。豪快すぎだろ。」
    「ぼくも詳しくは聞いてないですけど、秘密裏に建造していたらしいですよ。」
    「全部話してやるから、早いとこ着艦してくれ〜。」
    マタラスがおちょくるように催促してくる。ぼくも早くスクールバスを降りたいので、自動誘導を切って手動に切り替えた。一気に大型シャトル用の発着パッドに突っ込んで着陸する。
    「よし、ご苦労さん。」
    「マタラス。」
    「ん?なんだ?」
    「...ありがとう。君が見てなかったら、ぼくたち死んでたかも。」
    イラッとする気持ちを抑えて、最低限の礼儀を示した。
    「いいってことよ。おかえり、リコ・ファイバー君。」
    その言葉に不思議と安心感を覚えたぼくは、自然と頬を緩めていた。だが隣の少佐はしかめっ面で腕を組んでいる。
    「で、俺はどうなるんだ?」
    「あんたのことは艦長から聞いてるぜ。とりあえず、二人とも降りてくれ。俺様がブリッジまで案内してやる。」
    そしてぼくらはマタラスに言われるがままスクールバスから降りて、ハンガーの中を歩いた。これ、徒歩で移動してたら時間がかかるんじゃ?
    「うーむ...整備ドックが三階分あるのか。向こうにあるのは工廠だな?そりゃこの規模なら生産設備もあるわなあ。」
    「そんなことよりマタラスはどこに行ったんですかね?これじゃ迷子ですよ...。」
    ぼくがため息を吐くのと同時にどこからともなく迷彩色のバギーが走って来て、ぼくらの前で停車した。
    「おまたせ。車しかなかったけどいいかな?」
    マタラスの声はそのバギーから聞こえる。どうやら彼は機械と同化出来るようだ。
    「何でもいいから乗せてくれ。早くケイトの顔を拝みたいんだ。」
    「おうおう、そんじゃら飛ばして行きますぜ旦那。」
    「艦隊も随分と面白いAIを作るもんだ。」
    少佐は意気揚々とバギーに乗り込むと、羽を広げて嘴を鳴らした。ぼくは前の運転席に座ると、いつもの癖でハンドルを握る。しかし車体は勝手に動き出した。マタラスが操作しているからだ。
    「ブリッジ直通のリフトまで3分ちょいだ。しっかり掴まってな!」
    「うわっ!?」
    ものすごいスピードで走り出すので思わず声が出てしまう。
    「ちょっと早すぎない!?誰かが飛び出してきたらどうするの!?」
    「大丈夫だ!人を避けたルートを走ってるからな!」

    あっという間にリフトの前までたどり着いた。縦横10mはありそうなシャッターが開き始める。
    「ここからは歩きだ。悪いね。」
    ぼくとニカーヤ少佐はバギーから飛び降りてリフトの到着を待つ。
    「まったく、こんなに濃い30分間は生まれて初めてだぜ。ファイバー、お前は大丈夫か?」
    「ええ、まあ...。前に来た時もこんな感じだったので。」
    「そうか。いやしかし驚きだなあ。ケイトはこんな馬鹿でかいプロジェクト、どう隠し通したんだ?俺を除け者にしてまでよ...。」
    再び少佐が独り言を呟き始めた。意外とセンチメンタルな鳥人なのかもしれない。だがニシダ大佐と再会できると分かった今、彼は少し嬉しそうでもあった。一方でぼくは、戻れたことを素直に喜べなかった。この前ニシダ大佐が提示した乗艦の条件は、艦隊士官はおろか連邦国籍さえも捨てろというものだった。つまり、大佐の下で働くには"社会的に死ぬ"必要があるのだ。
    (母さんのことを知る為だったら仕方ないよね...。でもなあ、カムラ中尉とか悲しむだろうしなあ。)
    ぼくの懸念はワーウィック号を去ること、つまり公的には死亡扱いで退艦することについても及んでいた。なんだかんだでお世話になっている人達だ。こんな別れ方は失礼な気もする。ばつの悪さに、身体の芯から硬くなっていく気がした。しかし突然に大音量で艦内放送が流れて、ぼくは硬直から解放されるのだった。
    「こちら艦長だ!!さっき追っ払った"アーク"の連中が第6宇宙基地へ向かってるワーウィック号に標的を変えた!救援に向かうぞ!」
    ワーウィック号と聞いてぼくは飛び上がる。
    「えっ!?」
    「偽装プロトコル実行開始!本艦はこれより最大ワープに入る!パイロットは出撃に備えろ!!ワープアウトと同時に全隊発進、15分以内に配置につけ!」
    「おお、ケイトの野郎やってるな?んでマタラスよ。」
    「なんだい?」
    「今のはどういうことだ?」
    「要するに、あんたらやアトランティアを襲った連中がワーウィック号を攻撃されるってことさ。今から助太刀しに行くわけよ。」
    「ん?15分以内って言ってたが、そんなに速く着くのか?」
    「ああ、敵さんもうちらも従来のワープよりずっと速く飛べるんでね。」
    マタラスの補足を聞くなり、ぼくは居ても立っても居られなくなった。自分の所属している船が襲撃されている...。まして、敵勢力の中にはジニビア艦といった戦闘に長けた戦艦も混じっているのだ。撃沈されてしまうかもしれない!!
    「ね、ねえ!ワーウィックは大丈夫なんだよね!?」
    「さあな。あの船って科学調査船だろ?強力なセンサーにかかったら、こっちの偽装がバレちまうかもしれねえ。助けに行くにしたって、近づくことは出来ないと思うな。」
    「つまり...つまりこっそり動ける戦闘機が要になるってこと?」
    「戦闘機なら密着でもしない限り...って、お前なにするつもりだ?」
    この高性能AIからすれば、ぼくの考えていることなど全てお見通しなのだろう。最後の口調は暗に"バカな真似するな"と言っているようなものだった。それでもぼくは出撃したくてマタラスを丸め込む方法を考える。
    「ワーウィックのことを一番知っているのはぼくだ。役に立てることがあるはず...。」
    「お前さんが出撃したとして貢献率は1.8%だ。やめとけ。そもそも艦長に挨拶もせずにだな」
    「おいマタラス。俺も出るぞ。」
    何も言い返せず困り果てたぼくに、少佐が味方についてくれた。
    「はあ!?冗談キツいぜ旦那!!」
    「ジョークじゃない。ここのパイロットの中に規則で禁じられているワープアウトと同時の発進を経験、指揮した者は?」
    「いやいやそういう問題じゃ」
    「いるのか?」
    「...183人中、1人だけだ。」
    「それは誰だ?」
    「あんただよ、ニカーヤ少佐どの。」
    「じゃあ決まりだ。近場のカタパルトまで頼む。ファイバー、行くぞ。」
    「は、はい!」
    不覚にも少佐がとてもカッコよく見えてしまった。いや、カッコいい!人間より何百倍も賢いAIを見事に黙らせてしまうとは!ぼくらは再びバギーに乗り込み、マタラスに運転を委ねた。
    「先に言っておくが、俺様は責任取らないからな?」
    「構わん。ケイトも解ってて俺を野放しにしてるはずだ。」
    「大した信頼関係なこった。ほら、第4カタパルトに着くぞ。」
    風を切りながら搬入用と思わしき暗い通路を突っ切ると、照明が眩しい空間に出た。辺りはパイロットやエンジニアがあくせくと走り回って出撃準備をしており、誰もぼくらなど見向きもしない。
    「よしファイバー、俺たちも搭乗機を探すぞ。」
    少佐は言い終える前にバギーを飛び出して近くのエンジニアに駆け寄って行った。ぼくもすかさず彼の後を追う。
    「おい君!新任のニカーヤとファイバーだ。我々に使える機体はあるか?」
    ベージュ色の作業服に身を包んだそのエンジニアはコパル人男性で、尖った耳を前に傾けて困惑を表明していた。
    「えっと、どなたです?」
    「どうなんだ!?余っている機体はあるのかと聞いているんだ伍長!」
    「す、すいません...。そこのガルダとラプターなら...。でも」
    「カタパルトへ移動させろ!ファイバー、お前はガルダに乗れ。」
    コパル人男性は諦観の眼差しでぼくらを睨むと、身を翻して発射台に向かった。そしてぼくは手前に見える藍色の戦闘機に目をやる。翼を広げた鳥のようなフォルムをしたその機体は、エンシェント戦争後期にロールアウトしたが、実戦に参加した記録は数える程という幻の機体だ。生産コストや整備性の問題で少数しか配備されておらず、ぼく自身実物を見るのは初めてである。
    「飛ばせるかな...。」
    ニカーヤ少佐が乗るラプターの方が、旧式とはいえまだ馴染みがある。ぼくはすっかり不安に立ち竦んでいた。
    「おいファイバー!早く乗れ!パイロットスーツは今のままでいい、メットは機内に備え付けてあるぞ!」
    少佐の怒鳴り声で我に返ったぼくは、跳ね上がるようにしてタラップを登った。そのままコックピットに潜り込むと、計器類が立ち上がる音がした。
    「うわっ、なんだこれ!?」
    操縦席に着いてまず目に入ったのは、今までに乗ってきたどの航空機とも違うコンソールだった。流線形のレールの上に、楕円形のタッチパネルがいくつも乗っている...本当に連邦製なのか疑わしいレベルだ。ぼくはどうすればいいか分からず、隣のピットで発進準備をする少佐に助けを求めようとした。ところがコンピューターの音声がそれを邪魔した。
    「パイロットのDNA認証開始。」
    「え?」
    まさか起動に生体認証が必要なのか!?それじゃあ結局乗れないじゃないか!ぼくは慌てて立ち上がる。
    「登録パイロットを確認中...」
    「少佐!このガルダなんですけど!」
    「DNAスキャン完了。照合完了、おかえりなさいファイバー少尉。」
    コンピューターの発する言葉を即座に理解するには、ぼくの頭は鈍すぎた。なぜ登録パイロットにぼくの名前があるのか、なぜ准尉ではなく少尉なのか、数秒の考察の後にとんでもない憶測にたどり着いた。いや、やはりマタラスのいたずらか?とにかく訊いてみよう。
    「質問なんだけど、最後に搭乗したのはいつだっけ?」
    「地球暦2665年、2月21日です。」
    その答えを耳にして、憶測は確信に変わりつつあった。念の為、マタラスのいたずらではないのか確かめる。
    「これってマタラスが悪ふざけしてるとかじゃないよね?」
    「仰る意味が分かりません。」
    どうやらこれで認めざるを得ないようだ。この機体は、エンシェント戦争の時に母さんが乗っていたんだ!!驚愕のあまり身体の一切の動きが止まってしまった。しかし何故DNA認証が通ったんだ?息子とはいえ、DNAは別モノのはずだ...。
    「ガルダのパイロット!早くヘルメットを着用しろ!あと3分でワープから抜けるぞ!」
    頭が真っ白になっているぼくに、管制官の怒鳴り声が色を付けた。我に返って辺りを見渡すと、いつの間にカタパルトに移動しているではないか!ちょっと待ってくれ、こっちは母さんの機体に乗り込んでしまって混乱しているんだぞ!?
    「ヘルメットをどうぞ、少尉。」
    ありがた迷惑なコンピューターの気遣いで、コンソールパネルの下のグローブボックスが開く。中にはガルダの機体と同系色の藍色を基調としたヘルメットが入っている。こんな心理状態で出撃しろというのか...。途方に暮れていると、マタラスの声が聞こえた。
    「リコ!今は考えている暇はないぞ?出たいと言ったのはお前さんなんだ、今は自分の言葉に責任を持て!謎解きは帰ってきてからにしろ!」
    「で、でも...!」
    「長距離スキャンによると、既にワーウィックは襲撃されている。お前が助けなくて誰がやるんだ?」
    「!!」
    彼の誘導のおかげで、疑問のアリ地獄から抜け出せた。そうだ、今は目の前のことに集中しないと!
    「ごめんマタラス。ぼく、出るよ!」
    「その調子だ!」
    一度深呼吸をして、ヘルメットを取り出す。そして頭に被った瞬間、奇妙な感覚が背筋から頭にかけて走った。むず痒い、それでいて心地よい刺激のような...。数秒のうちに違和感は消えて、バイザーに文字が表示された。
    "バイオコンピューター同期完了"
    意味が解らなかったが、何故か機体を動かす方法が解るようになっている!さっきまで何も知らないはずだったのに!
    「飛行プリセット確認、空間戦闘アルファ。姿勢制御システムはフレキシブルモードにセット。」
    まるで勝手に身体が動いているかのようだった。見慣れぬコンソールだが、どのパラメーターを弄ればいいか、どの順番でスイッチを入れるか手に取るように解ってしまう。
    「よし、エンジンのマスタースイッチを入れて...核融合炉に異常なしっと。」
    モニターで炉の温度が安定してきたことを確認すると、次は操縦桿と足元のペダルを動かして各部の動作チェックをする。よし、オールグリーンだ。
    「こちらはニカーヤ・サヴァル少佐だ。コールサインはキマイラだ。臨時でこの作戦の指揮を執る。パイロット諸君の戸惑いは解るが、ワープアウトと同時の発進で事故死したくなければ落ち着いて私の指示に従って欲しい。」
    ヘルメットのスピーカーから少佐の声が聞こえてきた。そろそろ出撃の時間だ。急いで準備を終わらせないと!
    「あとはINSをリセットして、安全装置をオールクリア!行けるぞ!」
    ぼくの掛け声に呼応するかのようにエンジンの唸る音がした。戦闘機が一機通れるだけの狭いチューブの先に目をやると、一気にアドレナリンが吹き出る。まさかこんな形で実戦になるとは!
    「諸君、まずはデータリンクを切れ。万一のシステム障害に備えるためだ。少しでも計器が狂えば安全は保証できん。」
    ニカーヤ少佐が指示を出す。ぼくは直ぐに正面のコンソールに触ってシステムをアイソレートに切り替えた。
    「次に推進ペダルの最大値に、今から言う数字をアサインして欲しい。224。フタフタヨンだ。繰り返す。224。フタフタヨンだ。私が合図を出すから射出と同時に全開で踏み込め!」
    「警告、ワープアウトまであと30秒。」
    そのアナウンスを聞くや否や、僕の中で興奮と緊張がせめぎ合いを始めた。操縦桿を握る手に力を入れようとするが、うまく力が入らない!早く!早く出してくれ!
    「空間変動の波に乗れなかった者は漏れなくペシャンコだ。最後に慣性制御装置を切っておくように。余裕のある者はプリセット化しておくといい。では、秒読み開始!」
    カウントが始まり、いよいよ心臓の鼓動が煩くなってきた。自己暗示をかけないと...。
    "大丈夫だ!ほくはアカデミーでトップだったんだぞ!?キッチリやれるはずだ、リコ・ファイバー!"
    「5、4、3、2、1、全員ぶちかませ!」
    少佐の掛け声と共に、射出ボタンを押してペダルを踏み込む。この感覚!急加速の慣性力で身体が潰れそうだ!制御装置がないのでもろにGを受けている!く、苦しい...!目を閉じそうになるが、出口が目前に迫っているので無理やりこじ開ける。そしてライトに照らされたチューブを抜けて、真っ暗な空間に飛び出した!機体が小刻みに揺れ、すぐに安定する。
    「全員、慣性制御とデータリンクをオンラインに!脱落者がいないのは流石だ。」
    良かった、出撃は成功したんだ!でも本番はこれからだ...。ぼくは手元のコンソールで全ての機能を戻すと、計器を確認した。レーダーには友軍機を示す緑の点が無数に映っている。少なくとも50機以上はいるな...。
    「編隊は組まない!各自、ワーウィックへ先行している敵艦のエンジンを叩け!フルスルロットルだ!」
    指示が出ると、友軍機のアイコンが一斉に向きを変えて動き出した。ぼくも彼らに追従する形で機体を反転させる。
    「おおっ!?早い!」
    ガルダが最強の高機動を誇ることは資料で読んだが、ここまでとは!あまりにもスムーズでスピーディに動く。他の機に遅れるかと焦っていたが、これなら問題なさそうだ。
    「こちらはキマイラだ。戦闘に入る前に確認しておきたいのだが、我々飛行部隊の偽装はどうなっている?一番詳しい者は誰だ?」
    すっかり隊長が板についてきた少佐の呼び掛けに、鋭い声をした女性が応えた。
    「私です、スピットファイヤであります。」
    「ではスピットファイヤ、説明を。」
    「了解、キマイラ。我々の戦闘機のIFFトランスポンダーはFPGAチップで随時、違う信号に書き換えることが出来ます。データリンクで一斉に、定期的に識別信号を変えて正体を隠します。」
    「素晴らしい。だが援護対象は科学調査船だ。偽装は完璧にしたい。ファイバー、何かあるか?」
    突然ぼくの名前が出てくるものだからシートの上で飛び上がってしまった。シートベルトが肩に食い込む。
    「えっ!?えっと...わ、ワーウィックにはタイプⅣの光学カメラが積んであって...」
    どうしよう、考えがまとまらない!少佐もめちゃくちゃだ!初陣の、しかも正式なパイロットではないぼくに意見を求めるなんて!
    「はっきり答えろ!」
    「...」
    理不尽極まりないが、この場ではぼくだけがあの船の能力を知っている人間だ。必要な情報を、みんなに伝えないと...。
    「センサー類はIFFの書き換えで誤魔化せると思います。ただ、観測用の光学カメラに捕捉されるとアウトです。最低でも10kmは距離を置いて下さい。」
    「そのカメラの位置は分かるか?」
    「は、はい!第1船体下部のドーム状になってる部分です!」
    「よし、キマイラからマタラス!該当箇所に艦砲射撃を要請する!」
    「あいよっ!」
    「えっ!?ワーウィックを撃つんですか!?」
    「当たり前だ!カメラの一つがどうした!」
    さらっと恐ろしいことをやってのける鳥人だ...。マタラスも即答しているし、指揮系統はどうなっているんだろう?そんなことを考えていると、レーダーに連邦軍のアイコンと敵艦のアイコンが映り始めた。もう余計なことに頭を使っている場合ではない、集中しなきゃ!
    「こちらファントム火器管制室、レールガン発射準備完了!起動コースをデータリンクで送信した、射線軸に入っている機は直ちに回避!」
    甲高い男性の声がスピーカーから響く。モニターを確認すると、ぼくが飛んでいる場所も赤い線が被っていた。
    「やばっ!」
    口と同時に身体が動く。機体は驚くほどの速さで旋回してコースから外れた。やはり機動力が尋常じゃない。一体どうしたらこんな...?何となくコックピットの窓から右翼側を見てみると、翼が細かく動いている!まるで鳥みたいに!
    「これってムーバブル構造なのか!?」
    どうりで機動力が高いわけだ。スラスターと併用すればよりフレキシブルで最適な立体機動を実現できるのだから。
    「レールガン射出!」
    射撃の合図を聞く頃にはワーウィックや、その周りにいる戦艦数隻が目視できる距離まで迫っていた。どうやら無事みたいだ。
    「よかった...シールドが頑張ってくれてるんだ。」
    と次の瞬間、ワーウィックの船体下部で爆発が起きた。さすがはレールガンだ...目にも留まらぬ速さでカメラのドームを撃ち抜いた!何だか悪い気がしたが、これで思う存分飛び回れる。さあ、行くぞ!
    「こちらキマイラ、各機散開!手前の三隻を集中して叩け!出来れば敵戦闘機が出てくる前にカタをつけたい!」
    ニカーヤ少佐が命令を出すと、周りに見えた味方機が蜘蛛の子を散らすように広がっていった。ぼくはレーダーを確認して、コールサイン"キマイラ"を探した。この場合、ニカーヤ少佐にくっついていた方が得策だからだ。そして機体を傾けると、少佐のラプターを追った。
    「どうしたファイバー?ブルったか?」
    ぼくの行動を察して少佐が尋ねる。
    「別にそういうわけでは...ただ、指揮官機から離れないというのがセオリーですから。」
    「おお〜初陣って感じでいいなあ!だが心配するな、相手はノロマな戦艦と採掘船だ。止まらない限り被弾することはないさ!」
    どうやら少佐は戦場に出るとハイになるタイプなんだな...。ぼくはというと、自分でも不気味に思うほど冷静だった。発進前まであれだけ緊張していたのが嘘みたいだ。既にコックピットガラスは前面にいる赤い三角錐型のジニビア艦を捉えている。
    「攻撃開始!」
    それを聞くと同時に操縦桿の引き金を弾く。鈍い打撃音がコックピットの中に響く。ああ、実弾を撃っているんだ...。
    「ファイバー!まっすぐ飛ぶな!堕とされるぞ!?」
    ニカーヤ少佐の怒鳴り声で慌てて機体をロールさせる。気がつくと、紅く光るレーザー弾幕が雨のように降り注いでいた。しかしあの速さなら大げさに避けなくても行けるはずだ。
    「ガルダの機動力なら...!」
    慣性制御装置がGを打ち消してくれることを信じて、ぼくはアカデミー時代に考えた立体起動飛行を実行する。足元のペダルを踏み込んで、操縦桿を素早く左右に振る。機体は、ぼくの意思に呼応するかのようなシームレスな動作で三角形を描きながら前進する。あまりの急旋回にさすがの制御装置でもGを抑えきれない。だが狙い通り、ガルダはレーザーの雨の中を縫うように飛び去った!
    「おいおい、曲芸を披露する時じゃないぞ!?」
    そう言う少佐も、一切な無駄な動きを見せずにぼくの隣を飛んでいた。それこそ曲芸並みのレベルだ。
    「でも対空タレットの射角を抜けましたよ!」
    「ああ!ジニビア艦のエンジンの位置は解るな?俺たちでそこのシールドを破るぞ!」
    「了解!」
    少佐の機体が先行して、凝集反物質キャノンを連射する。ぼくも続いて照準を一箇所に集中して撃ち始める。
    「ギリギリまで撃ち込め!これでダメならもう2機連れてリベンジだ!」
    「はい!」
    砲身がオーバーヒート寸前になったところでぼくらは機体を反転させた。その間、約4秒。これでいけるか!?
    「キマイラから後続機、シールドに穴を開けた!ミサイルをぶち込め!」
    「スターサファイア、了解!」
    凛々しい女性の声がした。左舷側を見ると別のガルダが遠くに見えた。閃光が放たれ、ミサイルが飛んでいく。ぼくは被弾を確認したくて機体の向きを変えた。上を見上げると、ぼくと少佐が攻撃していた箇所から爆発が広がっていた。成功だ!
    「よくやったスターサファイア!これで敵艦は行動不能だ。次はリプリア採掘船のレーザードリルを破壊するぞ!」
    少佐は休む間も無く、ワーウィックの真上でレーザー照射を繰り返す白い楕円形の宇宙船に進路を向けた。ぼくも彼に続くようにして旋回する。目下ではジニビア艦の至る所から火災が上がっていた。エンジンから至る所へ引火したのだろう。中は地獄に違いない。これが戦場か...。しかしそれ以上は何も感じなかった。なぜ冷静でいられるのかは謎だが、今はありがたい。
    「そこのガルダのパイロット!名前は?」
    先程の女性の声が聞こえた。辺りを見渡すと、右翼側に彼女のガルダが飛んでいる。確か、スターサファイアだっけ?ぼくにはまだコールサインが無いので名前で応える。
    「はい!ファイバーです!」
    「ファイバー...じゃあ、やっぱり君は○▼※△☆▲※」
    「え?」
    「・・・い・・・ナ・・・」
    「な、なんだこれ?」
    「おい、ナナ?大丈夫か?」
    誰か別の声が割り込んできた。そして次の瞬間、コックピットにいるはずのぼくはいつの間にか見知らぬハンガーベイに立っていた。どうなっているんだ!?追い打ちをかけるように、ニシダ大佐とニカーヤ少佐がぼくの顔を覗き込む。しかし二人とも少し痩せていて若く見える。これは一体・・・?
    「え?」
    訳が分からないぼくは硬直して立ち尽くすだけだった。やがて大佐の顔も、少佐の差し出す羽も、ハンガーの景色も全てぼやけていった。もしかして夢を見ているのだろうか?なんて奇怪な夢なん...
    ・・・・・・・・
    ・・・・・・
    ・・・・
    ・・


    2章へ続く



    ここまで読んで頂きありがとうございます!
    かなり本気で書いている小説なので、忌憚のないご意見やご感想をいただければ幸いです。
    どうぞよろしくお願いいたします。