チルノ×射命丸文で小説描いたやつ
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チルノ×射命丸文で小説描いたやつ

2014-05-31 00:23
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風の記憶


真の強者はいつだって孤独だ。何処に行こうとも、誰も自分と同じところには来てくれない。こちらが相手に合わせない限り、同じ時間を共有出来ないのだ。
私はもしかしたら、寂しさに気付かない為に新聞記者を始めたのかもしれない。少なくとも取材している時は、楽しくて他のことを忘れる。
「それでえ、文はどうして記者やろうと思ったのよお?」
はたての質問が繰り返される。今夜は彼女の家で飲み明かすつもりなのだが、既にはたては出来上がっていた。
「そうね...理由なんてないかな。1000年も生きてるといちいち考えて行動するのも面倒だから。」
もちろん嘘だ。しかし、半分は本当かもしれない。人間より遥かに長い時を過ごす妖怪は、その瞬間さえ楽しければいいのだ。私も例外なく、軽いノリで生きているつもりだ。
「ふーん。私はねえ、みんなが始めたから便乗しちゃった。だって一人ぼっちは嫌だもん。」
酔いが回って自分でも何を言ってるか解らないであろうはたての口から、思わぬ言葉が出てきてドキっとした。どうしたってこの子はズバッと本音を言えるのかしら。
まあでも、私がこうしてはたてと対等に付き合えるのも、性格が正反対だからなのかもしれない。
そう、私には友人がいる。決して一人ではないのだ。それなのに時々感じる、この違和感は何なのだろうか。私は一先ず、その疑問を頭の隅に押しやり酒を飲むことに集中するのだった。


...それからしばらくの月日が経って、春。

今日も博麗神社の巫女をおちょくり、ネタを探して幻想郷中を飛び回る。いつも通りの毎日だ。しかし今日の私は機嫌が悪かった。
先ほど、霊夢にこんなことを言われたのだ。
「あんた、よく飽きずに来るわね。ホントは構って欲しかったりして。」
私は程度の差はあれど、人間を見下している。しかし霊夢だけは特別な人間だと思い込んでいた。彼女は何処か浮世離れしており、誰にでも面倒くさそうに対応する姿が私には面白く感じていた。
そんな霊夢から、ごく普通の人間が言いそうなことを聞いて少しがっかりしたのだ。所詮は、博麗霊夢といえど人の子。その人間が、私に対して解ったような口を利くなど、滑稽で仕方ない。
しかし、本当はそれが原因でないことは分かっている。霊夢は意図せずとも物事の本質を見抜いてしまう。つまり、私は構って欲しいという僅かながらの下心を見抜かれたような気がして、何とも言えない気分になっているのだ。
私って構ってちゃんなのかしら。頭をもやもやさせながら飛んでいると、いつの間にか霧の湖の上を漂っていた。気持ちを落ち着けよう。そう思い、湖畔に降り立ち、妖精たちが戯れているのを眺めた。
ああ、やはり妖精は良い。難しいことなど考えず、ただ直感だけで行動する。さぞかし楽しかろう。私は彼らに憧れを抱いているのだろうか。
しばらく思いに耽っていると、頭上に冷気を感じ、上を見上げる。
「おい天狗!なにしてんの!」
藍色のワンピースに群青色の髪の毛、氷の羽を持った妖精が話しかけてきた。チルノだ。彼女もまた、私が特別扱いしている人物の一人だ。まあ結局どこまでいっても妖精なのだが。
「どうもチルノさん。ちょっと取材の間に一休みしてるんです。」
するとチルノは私の隣に座ってきた。やれやれ、好奇心の強い子だ。
「ねえねえ、何か面白いことある?なかったらあたいのこと書いてよ。今日はね、新しい弾幕覚えたんだ!」
正直な話、今は一人で静かに考えを整理したかった。だが相手は妖精。引き下がることを知らない。ましてチルノのことだ。だがどうにかして追い払いたい。
「残念ながら今日は特ダネを既に掴んでいるんですよ。申し訳ないですが、チルノさんへの取材はまた後日に。」
さあ、あとは向こうで遊んで来れば、と提案するだけだ。単純な妖精のことだから、鵜呑みにして何処かへ行ってしまうだろう。
「嘘だね。」
先ほどまではしゃいでいたチルノが急に真剣な表情になったので私は驚いた。
「え?」
「あたい、見てたもん。さっきの天狗、すごい退屈そうな顔してたよ。本当は何もないんでしょ!」
まさかチルノにまで自分の本音を読まれるとは...!今日は厄日だ。何だか自分を誤魔化そうとしている自分がバカバカしくなり、一周回って、開き直ってしまった。
「そうですね...実は特にネタがないんです。チルノさんには敵いませんねえ。」
おだてられたチルノが羽をバタつかせて喜び、立ち上がる。
「ほらやっぱり!嘘つくと胸のあたりが変な感じになるからやめた方がいいよ?」
まさか妖精からこんな言葉を聞くことになるとは思ってもみなかった。どうやら私の期待している以上に、チルノは面白い子らしい。今までは、ただ面白いから暇つぶしに絡んでいただけだったが、この妖精を観察していれば案外ネタになるのではないかとさえ思う。
「それじゃあ嘘を付いたお詫びに、チルノさんを一面記事に取り上げましょう!さあ、新しい弾幕を見せて下さい!」
この日から、私は頻繁に霧の湖に出向くことになるのであった。

...更に月日は流れ、夏。

「おらー!当たれー!」
私はチルノと弾幕ごっこの最中。理由は単純だ。チルノの弾幕はあたりの気温を下げてくれるので、暑さしのぎにもってこいなのだ。私は被弾しない程度に弾を避け、タイムアップで全てのスペルカードをやり過ごした。
そして弾幕ごっこが終わる頃には、霧の湖は一足早く秋を迎えたかのような涼しい風が吹いていた。あとは日陰で原稿の下書き作業をしよう。妖怪の山では暑くて集中出来ない。
「おい射命丸!何で本気で戦わないのよ!?」
一切弾幕を放たない私に腹が立ったらしく、チルノが怒鳴ってきた。
「いえ、弾を避けるのに精一杯だったので。」
私はからかうように笑ってペンを進める。当然チルノは納得しない。
「また嘘ついてる!どうして嘘つくの!?あたいは本気でやってるのに!」
ここ数ヶ月、チルノを観察していて驚嘆するのは、その真っ直ぐな心だ。何事にも疑いを持たず、全力でぶつかって行く彼女が私には眩しかった。
そんな裏表のないチルノだからこそ、私は安心して本音を言うことができるし、嘘もつけた。他の天狗に見られたら何と言われることか。
「すいません、実は辺りの気温を下げるためにチルノさんに冷気をまいてもらっていたんですよ。お陰様で涼しいです。」
するとチルノはますます怒ってしまった。
「なにそれ!だったら最初からそう頼めばいいじゃない!」
それは盲点だった。しかし、こうやっておちょくった方が楽しいので、あえてヘラヘラすることにした。
記事がまとまる頃には、チルノも落ち着いて、自分の家に帰る時間になった。
「それではチルノさん、今日は楽しかったですよ。」
「ねえ射命丸。」
「何ですか、チルノさん?」
「あたいがもっと強くなったら、本気で闘ってくれる?」
どうやらまださっきのことを引きずっていたらしい。チルノのことだから忘れたかと思っていたので意外だった。
「うーん...そうですねえ。じゃあ霊夢さんを倒したら、本気で戦ってあげましょう。」
とてもじゃないが無理な話だ。弾幕では絶対に敵うはずがない。かくいう私も勝てた試しがないのだ。チルノには難題すぎる。しかし記事のネタにはなりそうなので、チルノの挑戦を追いかけるつもりだ。
「解った!約束だよ?」
よし、これで面白いネタが手に入る。氷の妖精の、打倒!博麗霊夢だ。
私は更にこの妖精が面白くなって、着いて回るようになった。


...また月日は流れ、秋。

「ねえ射命丸。どうやったら強いスペルカードって作れるかなあ。」
すでにチルノは二回ほど霊夢にのされている。にも関わらず私との約束を忘れず、日々修行という名の遊びに励んでいる。正直言って驚きだ。
妖精という種族にも関わらず、この力と知能。まさに「規格外」という言葉が相応しい。私はすっかりとこの妖精の不思議なまでの力に夢中になり、毎日のように様子を見ていた。
「チルノのさんの弾幕は密度こそ高いものの軌道が単純ですからね~。しかしスペルカードルールは強さだけでなく、美しさも競うもの。見た目が派手な弾幕があっも良いかもしれないですよ?」
このようにして、日々チルノにスペルカードの指導をするのが日課の一つに加わっている。天狗がこのようなことをしているのは異例だ。自分でも、少し行き過ぎているような気がしている。
だが、チルノは着実に成長しており、弾幕の質が日に日に上がって行くのを見るのが楽しかった。以前、寺子屋の歴史家が人にものを教える喜びを語っていたが、その時は理解できなかった。それが今なら解る気がする。
人間や妖怪のように時間に囚われることなく、ただひたむきに頑張るチルノの姿は実に眩しい。私はこの妖精が何処まで強くなるのか興味津々で、自分が教えられることは全て教えようとした。
そして、いざその教えをチルノが自分のものにした時、私は達成感と喜びを覚えるのであった。
「じゃあキレイな弾幕ってどうすれば作れるの?」
チルノは熱心に質問してくる。
「感覚の問題ですが、自分にとって一番身近なものや、これが自分だ!というものをイメージして、それを再現してみるんです。チルノさんなら氷ですよね。氷のどこが綺麗か、連想していけばいいんですよ。」
「なるほど...氷...あたいにとって身近なもの...そうね!頑張る!」
氷の妖精は、熱いハートを胸に灯し、笑った。

そういえば昨日の宴会で、霊夢に
「最近やけに機嫌が良さそうじゃない」
と言われた。どうやら周囲から見ても、今の私は楽しそうに見えるらしい。新聞作りとはまた別の喜びを見出した私は、例の寂しさやら何やらといったことを忘れ果てていた。
そう、今の私は妖精と同じ、悩みなど何一つなく毎日過ごしている。天狗社会のしがらみも、ここ最近は気にならないし、何とも幸せだった。
当然、そのことは誰にも話していない。友人のはたてにもだ。だからこそより楽しさが増す。
だが、こんなにも楽しい日々の中でも、あの胸の違和感というのは頭の片隅に残っている。1000年も生きているのに、解らないことがあるなんて少し癪に障るが、やはり気にしないように、私は酒で喉を潤すのであった。

...冬。雪が舞う。

「霊夢さん!?これは一体!?」
いつものように博麗神社に来ると、境内に霊夢が倒れていた。全身傷だらけだ。ひとまず部屋に担ぎこむ。
「...文。私、チルノに負けたみたい。どう?いいネタになるでしょ?」
目を覚ました霊夢は、恥ずかしそうに呟いた。私は一瞬、膝の力が抜けかけた。信じられない。あのチルノが霊夢を...?
しかし現に、目の前にボロボロの霊夢がいる。現実だ...。
「あの弾幕は...危険よ。さっきは遊びのつもりでやって不覚を取ったけど、今度は真面目に退治しに行くわ。」
霊夢が立ち上がろうとする。私は全力でそれを止めた。
「無茶です!今の状態では不利ですよ!」
「だからって、あいつが無差別に暴れまわったら何が起きるか解ったもんじゃないわ。私が行かないと。」
「なら私が行きます。」
霊夢は私の真剣な眼差しにぎょっとした。そして何かを察したようにため息をつき、座り込んだ。
「勝手にしなさい」
言われるまでもなく、私はすぐに境内に出て飛び立とうとした。だがそれを遮る声がした。
「あなたね、チルノに妖気を与えているのは。」
ぽつぽつと降る雪の中で、レティ・ホワイトロックが立ち尽くしていた。彼女もまた、ボロボロになっている。
「レティさん!?その様子は...」
「ええ、チルノに勝負を挑まれて負けたわ。ぐうの音も出ないほどに。話を聞けば貴女から色々教わったそうじゃない。」
私はギクリとした。まさか、そんなことは...
「確かに弾幕のコツは教えましたが、"妖気"って何ですか?」
「解らない?チルノは貴女とずっと一緒にいたからその妖気を吸収して、強大な力を手に入れたわ。このままじゃ妖怪になるかもね。」
悪い予感が当たってしまった。何かがおかしいとは思っていた。日に日に強くなる弾幕。そして呑み込みの速さや記憶力。全部、私の妖力が原因だったのか...
「そ、そんな...」
私は力なく呻いた。
「永遠の時を生きる妖精が、妖怪になるということは、寿命を与えること。貴女はチルノの存在そのものを変えてしまったのよ。」
レティが冷たく言い放つ。そうだ。私は自分のエゴで取り返しのつかない過ちを犯してしまったかもしれない。
「あの...チルノさんは、もう...?」
「まだギリギリ妖精よ。その様子だと、自分の罪を分かっているようね。償いたくば、チルノを殺しなさい。」
「え?」
「大丈夫よ。妖精は死んでも復活する。そして復活すれば、溜め込んだ力もリセットされるわ。それで全て元通り。」
最初、彼女が何を言っているのか理解できなかったが、その意味が解った瞬間、私はレティの胸ぐらを掴んでいた。
「ふざけないで!私に...殺せですって!?」
「別にいいのよ?何もせず、チルノが妖怪になるのを見ていても。でも本当にチルノのことを想うなら...答えは明白よ。」
私は何も言わず霧の湖に向かって最速のスピードで飛び去った。

霧の湖は、他の場所よりずっと寒く、湖全体が凍りついていた。これもチルノの仕業なのか...。
「あっ!文ー!あたい、霊夢に勝ったよ!」
チルノは、悲しいくらいいつも通りに無邪気な笑顔を見せた。私は名付けようのない感情に襲われ、歯を食いしばってそれに抵抗した。
「おめでとうございます。チルノさん。」
チルノのは嬉しそうに羽をバタつかせて、今まで忘れることのなかった約束を果たしてもらうべく、宣言した。
「それじゃあ約束通り、あたいと真剣勝負よ!!本気でかかってこい!」
「ええ...約束でしたね。では、本気でいかせてもらいますよ...!」

チルノの弾幕は美しいかつ難易度の高いものに仕上がっていた。そしてそれらが私の教えたことをしっかり反映しており、本気で戦うと言ったものの、やりきれなくなってショットを外してばかりいた。
「それが本気!?あたい...ここまでがんばったのにひどいよ...!」
チルノが突然弾を撃つのをやめて叫んだ。その言葉に、私ははっとした。彼女にとってはこの日のために全力を尽くしてきたのだ。そして私は彼女の誠実さを蔑ろにしようとしている。
チルノのことを想うなら...本気で応えねば...そして........
私は歯をより一層強く食いしばり、妖力を弾幕に変えてスペルカード宣言をした。この威力なら...人間を粉々に粉砕できる。
「やった!本気で来てくれるのね!あたいも、とっておきのスペルカード使っちゃうよ!」
そう言ってチルノは氷を展開し、美しい鳥のような形を作ってスペルカード名を叫んだ。
「スペルカード!『氷の天狗ごっこ』!」
私は目頭が熱くなるのを感じた。...この子は、本当に私を慕ってくれていたのだ。私は、そんな子殺そうとしている。いっそ殺さずに、妖怪として生かしても良いのではないかとも思った。
しかし、命の在り方を変えることがいかに罪が深いか。恐らく、殺生よりも罪深きことだ。私は小さく「さようなら」と言い、チルノに弾幕を放った。
チルノも嬉々として弾幕を放つ。せめて、あの子の弾幕は全て受け止めてあげよう。私は少しも動かず、弾に当たった。そして降りしきる雪と共に落ちていった。

世界が暗くなっていく...悲鳴が聴こえる...
私は、罪人だ。


…再び季節は巡り、春。


あれからというもの、霧の湖は愚か外に出ず、自分の部屋にこもりがちで物思いに耽ることが多くなった。もちろん、あの事件の件だ。1000年を生きた鴉天狗が、一匹の妖精に弾幕勝負で負けたというニュースは、妖怪の山中に、いや、幻想郷中に届いた。

これでは表に出す顔が無い。笑いものだ。だが、なによりも、自分が浅はかにも一匹の妖精にちょっかいを出し、結果的に互いに傷付いてしまったのが情けなくて、自分に呆れ果ててしまっていたのだ。私は何と愚かな天狗なのか。

チルノはあの日から二日後には復活し、元気に遊びまわっていると聞いた。彼女が妖精で良かったとしみじみ思う。それでも私の罪悪感は晴れることはない。もう合わせる顔もないだろう。

「文!いるでしょ?入るわよー」

はたてが戸も叩かずに入って来る。彼女は誰よりも私を心配してくれている。新聞で競う相手がいないのが落ち着かないのだ。私はここ二か月、ほぼ新聞を発行していない。何だか気分が乗らないからだが、何よりもネタがないからだ。

いや、それも違う。私はずっと、頭の隅に押しやっていた例の違和感に気を取られて、ずっとそのことばかり考えていた。別に、寂しくはないのだ。誰かに構って欲しい訳でもない。それを確かめる為に、家に籠っていたのだ。そして案の定、私は一人でも別に平気だった。

ではこの名付けようもない違和感は何なのか・・・。

「ねえ。そろそろ取材、始めれば?」

はたてがいつものように催促してくる。これで何度目か。そろそろ私も折れていい頃なのかもしれない。

「まあね。でもさ・・・何だか気が乗らないのよね。」

これもいつものやり取りだ。はたての方を見ると、彼女は深呼吸している。一体どうしたのだろうか。

「やっぱり・・・あの妖精のことなの?」

この質問は初めてだ。恐らく彼女は気まずい思いをしているのだろう。それでも臆せず質問してきた。私の為を想ってだ。彼女には感謝してもしきれない。

「いいえ、そうじゃないの。何だか、気持ちがモヤモヤしてやる気が出ないのよね。」

するとはたては更に深く呼吸をおいて、怒鳴った。

「そうじゃないの、じゃないわよ!自分に嘘ついて!!友達として恥ずかしいわ!!そんなにモヤモヤしてるならチルノに逢って来ればいいじゃない!!」

「ちょっと?はたて?」

「あんたはチルノから逃げてるんじゃない、自分から逃げてるだけよ!」

そう叫んではたては飛び出していった。

「なによ・・・結局、誰も私のことなんて理解してくれないのね。」

私は毒づいて、再び横になろうとしたが、なんだかんだではたての言葉が胸に刺さった。彼女がどういう経緯であんな事を言うに至ったかは解らないが、自分から逃げてるだけだ、という言葉にぐうの音も出なかった。

確かに、そろそろチルノのところへ行ってもいいのかもしれない。どうせ、妖精のことだ。私の名前も、私が彼女に対してしたことも、全て忘れているに決まっている。あとは彼女に謝って、それですっきりしよう。気持ちが晴れるなら、それでいいじゃないか。

私は霧の湖へ飛び立った。


残雪の幻想郷はひんやりした風がちょうど気持ちよく、久しぶりに飛んだので気分がよくなった。何となく感じていた気まずさも、すっかり無くなっていた。

しかし、霧の湖に着くと、少し緊張した。一体どのようにチルノに声を掛けるべきか。そうして迷っていると、遠くから声がした。声の方を向くと、氷の羽を持つ妖精が全速力で飛んでくるのが見えた。私は急に、胸が締め付けられる感じがして、逃げ出したくなった。

だめだ。しっかりチルノに対して謝らねば。たとえ、相手が状況を理解していなくても。

「おーい!文ー!」

私はハッとした。私の名前を・・・憶えている!?

「ど、どうも、チルノさん。お元気ですか?」

私は恐る恐る挨拶した。一方でチルノは満面の笑みを浮かべて、こう言った。

「久しぶりに見たわね!この間は本気で弾幕ごっこしてくれてありがとう!楽しかったわ!」

気付いたら、私はチルノを抱きしめていた。どうして・・・!どうしてこんなにも、純粋なのか!そして私は・・・!どうしてこんなにも穢れているのか!

チルノは私のことを覚えていた。そして、私が彼女に殺人弾幕を当てたことも。それなのに、ありがとうと言う。どうして・・・あなたは・・・そんなに優しいの?

私は言葉が出て来ず、代わりに涙を流して小刻みに震えていた。チルノの体温は非常に低い。ずっと触っていると低温火傷を起こしかねない。

「どうしたの?あたいに触ってると、冷たくて火傷するよ?」

私は精一杯の声を振り絞って答えた。

「いいえ、あなたはとても温かいです。ありがとう。」


ああ、そうか。やっと例の違和感の正体が解った。私は寂しくも、構って欲しいわけでもない。ただ、誰かを愛し、愛されたかったのだ。その単純な思いは、私の曲がった性格によって隠されていた。

しかし今、こうしてチルノの真直ぐな相手を想う心によって、自分の本当の気持ちを見つけることが出来た。だから「ありがとう」という言葉が自然に出てくる。

私は、愛すべき者を見つけた。




1000年の時を生きる鴉天狗は、誰も愛せないという孤独の中にいた。

だが、射命丸文はついに愛というものを知ったのであった。

その後彼女はいつも通り新聞記者の活動に戻るわけだが、あのチルノという妖精とはうまくやっているそうだ。

そして、ただの根性曲りな性格と友人から評されていた彼女の心は、確かな純情さを育んでいくのだった。


めでたしめでたし


ギャグにしようと思ったら。。。どうしてこうなった。割とくさい話ですよね。良かったら感想とかどうぞ。些細なことでも、言ってもらえると嬉しかったりします。誤字脱字とかあったらごめんなさい。


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うあ…これは素晴らしすぎる…最高です
62ヶ月前
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