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ダービーシリーズは残すところ地方全国交流の2戦を残すのみとなったが、ここで今年の東京ダービーについて深く考えてみたい。鼻出血明けのヒカリオーソが3コーナー手前で先頭に立ち、そのまま後続を振り切った走りには、拍手を送りたいところ。一方で2000mになってからの東京ダービーで、最も遅い決着になったことに対し、異質なレースだったという声もある。ここでは後者の視点に立って、レースを振り返ることにした。
<既存の指標では見えなかった、スローペースの中身>
道中2番手を追走し、3コーナーで馬なりのまま先頭に立つと、そのまま押し切ったヒカリオーソ。しかしスローという割には上がり3ハロン38.0秒は、それほど速くないと思った人が多かったはず。実際、2016年以降の東京ダービーの上がり3ハロンは、全て38秒台で、特別な上がり勝負に見えないのは確かだった。
ところが前半1000mとか上がり3ハロンといった、既存の指標と違う数字を持ち出すと、みえない姿が見えてきた。そこで私は今回、それぞれの最初と最後の2ハロンを除いた、中間部分のタイムを算出してみた。その比較として、2016年以降の東京ダービーと、今年の大井記念のラップも並べさせていただいた。
(赤字が大井記念を除く最速、青字が最遅)
前半2F-中間6F-上り2F → 勝ちタイム
2016年 22.7-78.9-25.3 → 2:06:9(良)
2017年 23.8-78.4-24.7 → 2:06:9(重)
2018年 23.9-77.7-25.1 → 2:06:7(重)
2019年 24.1-80.9-24.4 → 2:09:4(良)
※大井記念 23.7-75.8-25.5 → 2:05:0(重)
ここで付け加えたいのは、前半2ハロンが最も早い2016年は、1コーナー最後方のバルダッサーレが、4角までに全馬を捲りきった大乱戦だったこと。上がり2ハロンが今年と同じ24秒台だった2017年は、直後にジャパンダートダービーを制したヒガシウィルウィンが、4角先頭から6馬身千切った1戦(≒他の馬は同様の上がりを出せていない)だった。
これを算出して見えてきたのは、最初と最後は極端な競馬にならないと差がつきにくいこと。そして中間部分の時計が、レース全体のタイムに影響を与えることである。その中間部分で、乱ペースで先行勢が早々に失速した2016年よりも、今年は2秒も遅い。ここまでペースが落ちてしまえば全体のタイムも遅くなる一方、最後まで脚を使える。この80.9秒に、誰もがペースを上げる行動を起こせなかったことで、極端に遅いタイムでの決着になったのである。
<事故寸前だった? 2コーナーでの急減速>
ではこの間に何があったかというと、行きつくのは2コーナーにおけるアクシデント寸前のシーンだ。実は逃げたイグナシオドーロは1コーナーから急減速をはじめたが、2コーナーにさしかかると後続で、何頭もの騎手が前の馬に追突するのを避けようと、ブレーキをかけるように手綱を引く姿が見られたのである。
折しも前日の大井競馬で5頭が絡む落馬事故が発生していたので、本当に事故にならなくて良かったと思う部分もあるが、ここで記録したハロンタイムは何と14.4秒。東京ダービーが2000mになって以降、14秒台のハロンタイムが記録されたのは、もちろん初めてである。
<ヒカリオーソの土俵に引きずり込まれたライバルたち>
普通これだけのスローになれば、強引に向正面まくりを打つ馬がいてもおかしくないが、ブレーキを踏んだためにどの馬も身動きが取れなくなってしまった。そしてだれも動くことができないまま、ヒカリオーソの土俵にライバルたちは引きずり込まれた。
それを証明する、象徴的なデータを出したい。今年1800mで行われた、ヒカリオーソが勝った雲取賞と、ミューチャリーが勝った羽田盃。そして古馬重賞のブリリアントCについて、前述した東京ダービーと同様の基準で分割したタイムである。
前半2F-中間5F-上り2F → 勝ちタイム
雲取賞 24.5-66.4-24.9 → 1:55:8(重)
羽田盃 23.9-64.6-25.0 → 1:53:5(良)
ブリリアントC 24.6-64.3-25.0 → 1:53:9(良)
これをみておわかりの通り、今年の東京ダービーと雲取賞は、非常に似た流れになっていた。この流れで雲取賞を勝っていたヒカリオーソにとって、おあつらえ向きの展開になり、体調不安を克服したというのが正しい評価だと思う。とかく“レースは生き物”と言われるが、スローペースによってそれを強く感じさせた東京ダービーは、恐らく初めてのことだろう。
<4着以下の各馬を振り返る>
最後になるが、4着以下の各馬の戦い振りを触れておきたい。なお3着までの馬については、レース終了後に予想記事にコメントしているので、そちらをお読みいただければ幸いです。
↓東京ダービーの予想記事
https://ch.nicovideo.jp/hirota-nobuki-horse/blomaga/ar1770957
4着に入ったクリードパルフェは、先行勢の直後で流れに乗れたのには少し驚いたが、あの位置にいたからこその好走。直線での競り合いで抜け出せなかったのは地力の差だが、比較的正攻法の競馬で2着争いに喰い込んだ走りは、収穫が大きかったと思う。
5着に終わったアエノエンペラーは、3~4コーナーで上昇する姿は勢いがあったものの、そこからもうひと伸びする脚はなかった。終始馬群の大外を振り回される展開になったのも痛く、この馬も超スローの展開に泣いた1頭である。
6着だったカジノフォンテンは、前述した2コーナーで、最もブレーキをかけていた馬。あれでリズムを崩した結果、追い比べで早々と後退。結局のところ未完の大器は、この舞台までに完成しなかったということだろう。
最後にシンガリに敗れたイグナシオドーロに触れると、超スローに落としたのは、それが勝つための作戦だったということ。ただし本来は速いラップを踏んだ方がいい馬なので、状態が戻っていなかったことを証明した作戦。いつか輝きを取り戻す時が来てほしいと思っている。
(詳細なレース結果は地方競馬全国協会のオフィシャルサイト等で確認してください)
<既存の指標では見えなかった、スローペースの中身>
道中2番手を追走し、3コーナーで馬なりのまま先頭に立つと、そのまま押し切ったヒカリオーソ。しかしスローという割には上がり3ハロン38.0秒は、それほど速くないと思った人が多かったはず。実際、2016年以降の東京ダービーの上がり3ハロンは、全て38秒台で、特別な上がり勝負に見えないのは確かだった。
ところが前半1000mとか上がり3ハロンといった、既存の指標と違う数字を持ち出すと、みえない姿が見えてきた。そこで私は今回、それぞれの最初と最後の2ハロンを除いた、中間部分のタイムを算出してみた。その比較として、2016年以降の東京ダービーと、今年の大井記念のラップも並べさせていただいた。
(赤字が大井記念を除く最速、青字が最遅)
前半2F-中間6F-上り2F → 勝ちタイム
2016年 22.7-78.9-25.3 → 2:06:9(良)
2017年 23.8-78.4-24.7 → 2:06:9(重)
2018年 23.9-77.7-25.1 → 2:06:7(重)
2019年 24.1-80.9-24.4 → 2:09:4(良)
※大井記念 23.7-75.8-25.5 → 2:05:0(重)
ここで付け加えたいのは、前半2ハロンが最も早い2016年は、1コーナー最後方のバルダッサーレが、4角までに全馬を捲りきった大乱戦だったこと。上がり2ハロンが今年と同じ24秒台だった2017年は、直後にジャパンダートダービーを制したヒガシウィルウィンが、4角先頭から6馬身千切った1戦(≒他の馬は同様の上がりを出せていない)だった。
これを算出して見えてきたのは、最初と最後は極端な競馬にならないと差がつきにくいこと。そして中間部分の時計が、レース全体のタイムに影響を与えることである。その中間部分で、乱ペースで先行勢が早々に失速した2016年よりも、今年は2秒も遅い。ここまでペースが落ちてしまえば全体のタイムも遅くなる一方、最後まで脚を使える。この80.9秒に、誰もがペースを上げる行動を起こせなかったことで、極端に遅いタイムでの決着になったのである。
<事故寸前だった? 2コーナーでの急減速>
ではこの間に何があったかというと、行きつくのは2コーナーにおけるアクシデント寸前のシーンだ。実は逃げたイグナシオドーロは1コーナーから急減速をはじめたが、2コーナーにさしかかると後続で、何頭もの騎手が前の馬に追突するのを避けようと、ブレーキをかけるように手綱を引く姿が見られたのである。
折しも前日の大井競馬で5頭が絡む落馬事故が発生していたので、本当に事故にならなくて良かったと思う部分もあるが、ここで記録したハロンタイムは何と14.4秒。東京ダービーが2000mになって以降、14秒台のハロンタイムが記録されたのは、もちろん初めてである。
<ヒカリオーソの土俵に引きずり込まれたライバルたち>
普通これだけのスローになれば、強引に向正面まくりを打つ馬がいてもおかしくないが、ブレーキを踏んだためにどの馬も身動きが取れなくなってしまった。そしてだれも動くことができないまま、ヒカリオーソの土俵にライバルたちは引きずり込まれた。
それを証明する、象徴的なデータを出したい。今年1800mで行われた、ヒカリオーソが勝った雲取賞と、ミューチャリーが勝った羽田盃。そして古馬重賞のブリリアントCについて、前述した東京ダービーと同様の基準で分割したタイムである。
前半2F-中間5F-上り2F → 勝ちタイム
雲取賞 24.5-66.4-24.9 → 1:55:8(重)
羽田盃 23.9-64.6-25.0 → 1:53:5(良)
ブリリアントC 24.6-64.3-25.0 → 1:53:9(良)
これをみておわかりの通り、今年の東京ダービーと雲取賞は、非常に似た流れになっていた。この流れで雲取賞を勝っていたヒカリオーソにとって、おあつらえ向きの展開になり、体調不安を克服したというのが正しい評価だと思う。とかく“レースは生き物”と言われるが、スローペースによってそれを強く感じさせた東京ダービーは、恐らく初めてのことだろう。
<4着以下の各馬を振り返る>
最後になるが、4着以下の各馬の戦い振りを触れておきたい。なお3着までの馬については、レース終了後に予想記事にコメントしているので、そちらをお読みいただければ幸いです。
↓東京ダービーの予想記事
https://ch.nicovideo.jp/hirota-nobuki-horse/blomaga/ar1770957
4着に入ったクリードパルフェは、先行勢の直後で流れに乗れたのには少し驚いたが、あの位置にいたからこその好走。直線での競り合いで抜け出せなかったのは地力の差だが、比較的正攻法の競馬で2着争いに喰い込んだ走りは、収穫が大きかったと思う。
5着に終わったアエノエンペラーは、3~4コーナーで上昇する姿は勢いがあったものの、そこからもうひと伸びする脚はなかった。終始馬群の大外を振り回される展開になったのも痛く、この馬も超スローの展開に泣いた1頭である。
6着だったカジノフォンテンは、前述した2コーナーで、最もブレーキをかけていた馬。あれでリズムを崩した結果、追い比べで早々と後退。結局のところ未完の大器は、この舞台までに完成しなかったということだろう。
最後にシンガリに敗れたイグナシオドーロに触れると、超スローに落としたのは、それが勝つための作戦だったということ。ただし本来は速いラップを踏んだ方がいい馬なので、状態が戻っていなかったことを証明した作戦。いつか輝きを取り戻す時が来てほしいと思っている。
(詳細なレース結果は地方競馬全国協会のオフィシャルサイト等で確認してください)
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