「東京大賞典」戦評-オメガパフュームを連覇に導いた、チャンピオンズCの伏線
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

「東京大賞典」戦評-オメガパフュームを連覇に導いた、チャンピオンズCの伏線

2020-01-11 17:00
    最後の直線は早目に先頭に立って抜け出そうとしたオメガパフュームに、外から地方競馬ファンの夢と期待を乗せてモジアナフレイバーが迫り、内からは復活を目指すノンコノユメも喰い下がり、中央・地方のトップホースが激しく頂点の座を競り合った。最後はオメガパフュームが競り合いを抜け出し、大井コースにおける無類の強さを改めて見せつける結果になったが、そこに至るまでに我々も、そして戦っていた騎手までも想定していなかったレースが展開されていた。その想定外を生んだのは、チャンピオンズCで生まれた、1人の男の無念があったと思っている。

    <具現化しかけたゴールドドリームの作戦と、そこにあった落とし穴>

    戦前の展開予想では、逃げるのはケイティブレイブロンドンタウン。しかし競り合うことはなく、流れは落ち着くと考えられていた。具体的な数字を出すと、超高速馬場が解消された2012年以降の7回中、5回が前半1000m61.2~62.1秒という平均速目のラップ。残る2回が64.8~64.9秒かかったスローペースで、今回は後者に近い流れになると、私を含む多くの人が予想していたのではないだろうか。

    そしてその展開になることを最も望んでいたのは、1番人気に支持されたゴールドドリームだったはず。直前のチャンピオンズCでは、スローの単騎逃げに持ち込んだインティをマークし、これさえ交わせば勝てるという競馬をやり切った。あの時はクリソベリルに出し抜けを喰らったが、それが不在のここなら同じ競馬で今度こそ勝てると踏んで、レースに臨んだはずである。

    そしてレースは、1番枠から好スタートを切ったアポロテネシーが逃げる展開。良い目標が出来たケイティブレイブは2番手で折り合い、当然のようにマークしたゴールドドリームは、これでペースが落ちれば事前に組み立てた流れ通りになって、勝てると思っていたはず。だがここに、最大の落とし穴があった。それはアポロテネシーの鞍上が、チャンピオンズCでゴールドドリームの術中に嵌ったインティの鞍上にいた武豊騎手だったことだ。

    <“自身が勝てずともライバルを勝たせない”武豊騎手の反撃>

    チャンピオンズCではスローに落として負けた武豊騎手にしてみれば、違う逃げにしなければ、再び軍門に下ってしまう。そこで例年の東京大賞典と同様、淀みないペースで引っ張り、前半1000mは昨年より0.4秒遅いだけの61.6秒。スローを想定して追いかけるだろうケイティブレイブとゴールドドリームを、このペースを作ることで苦しめることが、武豊騎手が用意した作戦だった。なぜなら両頭とも、昨年は中団~後方でレースを進めており、当時逃げたスーパーステションを追いかけなかったからだ。

    結果的にアポロテネシー自身は4角で一杯になって9着に終わったが、これを追いかけた先行勢は全滅。とりわけチャンピオンズCで屈したゴールドドリームを沈めたことで、その無念を少しは晴らせただろう。これは“自身が勝てなくてもライバルは勝たせない” 昭和の競馬によく見られた戦い方。平成以降の競馬は自身の能力を発揮する事にフォーカスが集中し、鞍上同士が激しく火花を散らすような駆け引きやせめぎあいは消えつつあるが、その時代を知る騎手によって現代の騎手を混乱に陥れた反撃は、存在感満点だった。

    それによって4着に敗れたゴールドドリームは、何度も触れたようにライバルのミスや展開の穴を突くことでしか統一GⅠを勝てない馬。力勝負では2着までしか届かないし、展開の読みがすっぽ抜ければ簡単に崩れるクリストフ・ルメール騎手をはじめとする外国人騎手の手腕もあって、現実に崩れたレースはほとんどなかったが、それが丸2年にわたって私が本命を打たなかった理由。その弱点が国内最終戦とされた舞台で、露骨に現れた結果だと思っている。

    そして8着に終わったケイティブレイブも、以前ならこのペースを自ら創り出して押し切る力があったが、控える競馬が板についたことに加え、手術明け2戦目もあって厳しい競馬に耐えられなかった。前走浦和記念が鮮やかだっただけに、私も含め期待し過ぎたところはあったが、2年前だったら押し切れた可能性は十分あった。それだけにこの敗戦が、本来の先行力を取り戻すきっかけにできたら良いのだが

    <大井の統一GⅠ3連勝のオメガパフュームに、これから必要なこと>

    このレース展開を前に、壊滅した先行勢を見る位置でレースを進めたのが、勝ったオメガパフュームだった。いつもは後方からレースを進める馬が、先行グループを形成した5頭の直後となる中団を確保。すると3コーナーからしびれるような手応えで前との差を詰めると、何と直線に向いたところで先行勢を捲りきってしまったのである。

    ところが早目に先頭に立ったが故に、いつもと勝手が違ったか、ここから引き離すことが出来ない。そうこうするうちに内からノンコノユメが追い上げて、残り200m付近では並びかけるところまで来た。しかしここでもう一度エンジンに再点火して突き離すと、ノンコノユメを1馬身振り切ってゴール。連覇を果たすとともに、大井の統一GⅠ3連勝を決めることが出来た。

    ただしこの勝利が、オメガパフュームの評価を上げるものだったとはいえない。それはこの秋に左回りでビッグタイトルを手にできなかったことで、帝王賞を制した時に“大井専門馬に成り下がるのは早い”と指摘したことが、現実に近づいたためである。JBCが大井で開催される2020年は、得意の舞台で3度統一GⅠがあるものの、やはり欲しいのは左回りコースでの統一GⅠタイトル。それを手にできない限りは、評価が上がることはないだろう。

    <ノンコノユメとモジアナフレイバーが、勝島王冠から入れ替わった理由>

    このレースを盛り上がったもう1つの理由は、2-3着に地方所属の実力馬が入ったこともある。特に2着に入ったノンコノユメは、オメガパフュームとほぼ同じ位置取りから、直線でゴールドドリームの内を伸びて先頭に並びかけた時は、そのまま突き抜ける雰囲気もあった。ただ惜しかったのは、オメガパフュームに併せに行ったことで、相手の闘志を蘇らせたこと。もし内ラチ沿いに馬を持って行ったなら、わからなかったかもしれない。

    そして地方競馬ファンの期待を集めたモジアナフレイバーは、オメガパフュームをマークする位置取り。予想では早目に抜け出す競馬をすればと評したが、これも想定の中にはあった。そしてオメガパフュームを追いかけるように上昇すると、最後の直線でも伸びていたが、最後は振り切られて結局3着。しかし見応え十分の戦い振りは、今後に期待を抱かせることはできたと考えている。

    ただし勝島王冠ではノンコノユメを完封していただけに、ここで逆転を許したことは物足りない。その理由を突き詰めれば、人も馬も統一GⅠにおける経験値の差があったことに行きついてしまう。特に人に関しては、既に統一GⅠジョッキーになっているノンコノユメの真島大輔騎手に対し、モジアナフレイバーの繁田健一騎手同馬以外に統一GⅠで有力馬に乗った経験がほとんどない。よく“引き出しの多さ”という言葉も使われるが、その差を感じる象徴的なシーンも現実にあった。

    それは4コーナーで、さながら横綱相撲を取るかのように、大外から捻じ伏せようとするコース取りをモジアナフレイバーがしたこと。それだけの力があると信じていたというより、道中の位置取りから他の選択肢がなかったことと、馬群を捌こうとして不利を受ける可能性を嫌ったためではないか。これが明暗を分けたと言い切るつもりはないし、世間の期待度がノンコノユメと逆だったら結果も違っていた可能性もあるけれど、これを納得して受け入れられない理由にもなっているのである。

    (詳細なレース結果は地方競馬全国協会のオフィシャルサイト等で確認してください)

    このあと別記事にて、2020年のダート競馬界の展望と、2019NARグランプリに関するコラムを掲載します。


    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。