「トキメキア・セカンド」第八章 鋼鉄の魔神(1)
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「トキメキア・セカンド」第八章 鋼鉄の魔神(1)

2015-07-19 18:37
    魔物は黒焦げになって海の底に落ちていき、海水に包まれて見えなくなった。

    …死んだのか…

    黒いノイズは確認できなくなった。

    「ふふふ・・・どうだ!この力よ!」

    右の手から、光子を開放した。
    たったそれだけで…この威力だ!
    そのパワーもスピードも、圧倒的な強さを手に入れた!
    魔物も恐れるに足りん!

    だが、思わぬ副作用がある…

    光の粒子の噴射口は「毛穴」だった。
    鉄と細胞を融合。
    皮膚だった毛穴から光子を噴出し、推力を得ていた。
    毛穴は体中にあり、どの方向に対しても対応が可能。

    「思いついた時には優れたシステムだと思ったのだが…」

    高エネルギーをコントロールできず、噴射した側の皮膚の金属が焼けただれている。
    それは痛みとなって自分自身に返ってきていた。
    液化光子を抑え包み込むのに「光の子」としての力の殆どを使っている。
    そのせいなのか…
    生体と違って、金属体の治癒や修復は出来なかった。
    体当たりの時にへこんだ肩や、焼けただれた背中や右の手のひら…
    断続的に続く痛みは、かつて経験した事がない痛みだった。

    何かを得ようとした時には…何かを捨てねばならんのか…

    飛行している時も、光子を開放しながら推進力を得ている。
    光に包まれながら風を裂き、移動する。
    富士山麓を目指して飛行してる間も、耐え難い痛みに襲われる。
    諸刃の剣のようだ。
    早く金属体と分離して、この痛みを止めなければ…

    富士の裾野にある神殿。
    その広大な敷地の中に研究室を持っていた。
    自分だけしか入れない趣味の部屋。

    神殿の空域に入り、信者が植えた桜並木の上を降下して行く。
    金属融合体からわずかに出される光の粒子と、満開の桜の花びらが風に舞う。
    庭にあるヘリポートに降り立ち、建物へと向かう。
    痛む体をかばいながら研究室へと入っていった。
    片隅に3つのカプセルがあり、その真中に横たわる。

    強大なエネルギーは不安定で危険だった。
    光の子としての力が無いと閉じ込めて置くことすらできない。
    当然ながら、いつも持って歩くことなど不可能だ。
    どこかに保存し、安定させておく必要がある。
    その為に自分の細胞で、地下に巨大な貯蔵タンクを作った。
    いわば自分の分身である。
    地下に横たわるその巨大な細胞の固まりにも、小さい手足や頭がある。
    ただ、光りのエネルギーを閉じ込める為だけに作った…自分のクローン。
    その醜悪な姿に嫌悪感を受けたが、目的の為だと割りきった。

    カプセルの扉が閉まって、まずは…危険なエネルギーをクローンに移す。
    慎重にやらなければ…

    体の中にあるコブシほどの液化光子。
    それを光の子の力で包み込む。
    カプセルの背後にあるハッチが開くと、地下に居るクローンの首が伸びてくる。
    そのおぞましい顔が背中に触れる。
    あんぐりと開いた口の中に、液化光子を押し込む…
    その顔が…自分に似てるのが嫌だ…いや…考えるな…

    無事に移し終わった。
    背後のハッチを閉じて一息つく。

    次に生体細胞の自分と金属体を分離する。
    10分ほど意識が無くなる。

    気がついたら痛みが消えていた。
    金属体は無事に分離され、向こうのカプセルに収まっていた。
    耐え難い痛みから開放された。
    生体の方に戻ると、治癒と修復が自然に行われていた様だ。
    金属融合体の改善点を頭の隅で検討しながら、あの魔物の事を考える。

    なぜ…魔物はおやじの顔を持っている…
    俺の心を乱すためか?

    おやじは受体を拒んだ。
    「私は自然のままで良い」そう言った。
    病に倒れてからも治療を拒んだ。
    「お母さんの所に行くよ」そう言った。
    分かり合えた気がしていたのに…結局は突き放された気分だった。
    いいさ。
    孤独は嫌いじゃない。

    あの魔物が何者であろうと、俺を脅かす存在である事は確かだ。
    今朝の戦いで死んだのならいいが…
    あの女どもと同じだ。
    危険な存在だ。

    信者は増え続け、俺は予想以上の力を手にしている。
    信者に埋め込んだ「受体」から送られてくるパワーは強大だった。
    こんな融合体のようなオモチャを作れるのも、そのお陰と言っていいだろう。
    万が一、彼奴等に信者を取り込まれ…持ってていかれたら…
    彼等の持つ力に魅せられ、すがる者が現れたら…

    梅田の顔が浮かんだ。

    まだ…梅田は役に立つ。

    政治の力で世界の異教徒を根絶させる。
    世界の意思は統一され、混じりけのない信仰心で満たされる。
    その時に…俺は本当の神になれる…
    その目的を遂行する事について、梅田は有能な男だ…

    金属体は、もっと軽くて硬い金属を新しく作ろう…

    俺の手駒として働く内は、そのままにしておこう…

    あの痛みはもう沢山だ…壊れない…傷の付かない体を手に入れないと…

    あの魔物どもは明確に「悪魔」として認定しよう…

    もっと小型化を…エネルギーのコントロールも考えなければ…

    徹底的に孤立させ、信者と交わらないように…

    融合先の金属体に、エネルギーを貯蔵する為のクローン細胞をあらかじめ移植しておくか?
    いわば地下の分身の小型の者…そうすれば光の子としての力を別に使えるかもしれない…

    そろそろヘリが迎えに来る時間だ。
    今日は、あの魔物との対面の予定だった。
    まぁその予定は無くなってしまったが…梅田の言い訳も聞いておかないとな。

    俺は上質な絹で織られた、光の子用の白装束に着替える。
    庭のほうでヘリの爆音が聞こえてきた。









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