• Call of Cthulhuのルート解説(不確定情報含む)

    2018-12-07 19:00

    どうもこんにちは。
    先日無事にCall of Cthulhuの翻訳動画シリーズが完結しました。

    なんやかやと2周と3/4くらいはプレイしたのと、全文を翻訳したこともあって、このゲームのことが分かってきましたので、改めて動画内で説明できない話を含めて解説していきます。

    当然ながら、以下本編のネタバレが含まれますので、まだプレイしていない方や自分の力で解釈をしたい方はご覧いただかないようにお願いします。

    僕が投稿した翻訳動画シリーズはこちらからはじまります。


    1.運命の分岐について

    このゲームのエンディングは、通常2種類、追加で2か3種類あるようです。

    通常の2種類は(1)召喚の儀式を決行するか、(2)対抗儀式を行うかの2種類です。
    初回の生放送ではこのルートになり、どちらともをお見せしました。

    今回の翻訳動画シリーズでは、これとは異なる結末に到達しています。
    途中でもコメントで述べていた通り、動画プレイは正気度を保つルートの検証という側面がありました。そうして実際保ってみると、追加のエンディングが現れたという次第です。

    このことと、隠し実績に関わるいくつかの情報から、これとは正反対の結末が用意されていることが推測できました。すなわち、全力で正気を失うルートです。

    さらに不確定ですが、そのうえルルイエ語だけを利用して進めた場合、さらに追加のエンディングが見られるという噂も目にしました。

    今度生放送で2夜かけて、このガチ狂気ルートを試そうかと思います。


    2.結局どういう話なのか

    このゲームのストーリーはそう難解ではありませんが、細かいところを突っつくと無限に意味の分からないポイントが出てきて、頭を抱えたくなってしまいます。僕なりの解釈に基づいて、ストーリーを整理します。

    (1)1847年〈奇跡の獲物〉の発見

     1847年のことです。捕鯨が盛んだったダークウォーター島付近のクジラをことごとく殺すことで、ある神話生物が自らを発見してもらおうとします。この結果、スキュラ号の船員たちによって〈リヴァイアサン〉が発見されます。

    注釈1:この神話生物はおそらく実際には「クティラ」で、クトゥルフの娘であり母という特徴を持っています。クトゥルフの再生を担う神格です。とはいえ、ただのクトゥルフの星の落とし子である可能性も十分あります。

     〈リヴァイアサン〉の肉を食べたことで、フィッツロイ・フラー・チャールズの三人は真理に目覚めます。フィッツロイは教団を結成し、夢で語り掛けてくる神を崇める団体を結成しました。フラーは生物の神秘を解き明かし、部位の蘇生のみならず生命の再生をも実現しました。チャールズはしばらくの間、特に何もしませんでした。まぁおそらく出資者的な地位に収まっていたのでしょう。

    (2)チャールズ・ホーキンス

     チャールズはそれから70年くらいして(自分自身を自分の息子と偽って)サラ・ホーキンスと結婚しました。この時すでに、サラが神託の巫女であるということは知っていました。むしろ神託の巫女を招くために結婚したと言えます。これこそがチャールズの功績です。

     無事にサラは啓示をうけ、預言めいた絵画を複数描くことになりました。しかしそのうちの2枚が彼を激怒させることになります。一つ目はチャールズ・ホーキンスを描いたもので、その顔の半分が醜くただれたものです。二つ目は〈真理を求める者〉という見たこともない人物の絵でした。

     チャールズが神託の巫女と結婚したのには理由があります。それは彼こそが神を目覚めさせるその人になりたかったからなのです。チャールズはサラが神託を受け、彼が神を呼び覚ます光景を描いてくれるものと考えていました。むしろチャールズにとってのサラは、そうして自分の存在意義を示してくれるためだけの存在だったのです。
     このことを前提にすると、チャールズがこの2枚の絵に抱いた感情を推測することができます。夫である自分を醜悪な姿で描き、見ず知らずの男を神を呼び覚ます者と言ったのですから、狂人としてこれは激怒せずにはいられなかったことでしょう。

     チャールズはサラをフラーの病院に通わせます。このときチャールズは〈真理を求める者〉の存在を隠し、自分こそが神を呼び覚ます存在であると偽りたかったという背景があります。フラーは興味深い狂い方をした人物で、神を呼び覚ますことよりも生命の神秘、特に神託の巫女が持つ能力に強い興味を抱いていました。それゆえ、サラーを匿うことに賛成したわけです。

    しかし、コールデン女史がのちに解き明かすことになる一つの接触が、この計画を狂わせてしまいます。

    (3)フィッツロイへの神託からホーキンス事件へ

     すなわち、フィッツロイがフラーのもとに来て、「チャールズは何かを隠している」と主張した会談です。実際、この段階のチャールズは〈真理を求める者〉が必要であることを隠していました。フィッツロイはこの3人の中では最も純粋な信奉者です。自分の存在意義に執着してもいないし、生命の神秘に取り憑かれてもおらず、何よりも神の再臨を望んでいたのです。

     あの火災の夜に話を進める前に、チャールズの妄執が行き着いた心境の変化を明言しておきましょう。すなわち、サラが描いた神の導き手になれない自分の運命を変えようとしたのです。そのためには、サラを運命の歯車から逃れさせ、〈真理を求める者〉と出会わないようにする必要がありました。

     この考えは彼にとって理想的なもので、彼はおそらく上機嫌にそれを提案し、同時に〈奇跡の獲物〉を妻に差し出したのでしょう。それは彼にとって誰かを従わせる最良の手段だったのですから。しかしサラはこの直前にフィッツロイに会っていました。彼女はフィッツロイに告げたのです。〈真実を求める者〉が必要だと。そのうえで、サラはチャールズの提案を拒絶しました。これにより喧嘩が勃発し、もみ合いの末火災が発生してしまいます。

     息子サイモンは死亡しましたが、サラとチャールズはかろうじて生き残りました。いえ、厳密にいえば、サラはほぼ死亡していました。通常では生き残れない状態で、フラー医師のもとに死体として運ばれ、フラーの手によって再生されたのです。そしてフラーは自らの研究のために彼女の生存を隠すことにします。

     さて、一方のチャールズですが、彼は地下に逃げ込んで一命をとりとめましたが、その体は恐るべき変異を遂げていました。火傷した部分がことごとくタコのように変質し、第三の目が開くなど、見るも恐ろしい姿になっていたのです。それは運命だったのか、かつてサラが描いた醜悪な怪物と化した自分の姿そのものでした。彼は地下を伝ってたどり着いた36番倉庫でそのことに気づき、嘆きながらもそこで生活することとしました。

    (4)エドワード・ピアース

     ほぼ同時期に、何者かの手で一枚の絵が発送されました。おそらく送ったのはフィッツロイでしょう。送り先はスティーブン・ウェブスター。サラの父親です。娘の不可解な死を聞いたウェブスターは、相手にしてくれない無数の探偵事務所を経て、この絵を抱えて一人の探偵に行きつきました。職務怠慢の末、今すぐにでも仕事をしなければライセンス失効を宣告された、酒浸りの私立探偵エドワード・ピアースです。

     ここからがゲーム本編ということになります。

     ピアースは島へ調査へ訪れます。ピアースはブラッドリー巡査とともにホーキンス邸の地下に潜りこみ、チャールズ・ホーキンスに遭遇しました。このとき、チャールズは絶望したことでしょう。ほかならぬ〈真理を求める者〉の顔をした人物がそこにいたのですから。
     しかしチャールズはピアースを殺し損ねます。洞窟の崩落という自然現象(むろん、それは運命が導いたことなのだけれど)によって妨害されてしまったのです。それでも崩落によって重傷を負ったピアースは、やはりフラー医師のもとに運ばれました。これも運んだのはフィッツロイ派の人物と思われます(むろん、チャールズは協力的なフリをしていたと思われるため、派閥といっても対立的ではないのだが)。

     さて、ここでピアースはオカルト的処置をうけます。〈リヴァイアサン〉の油を注入され、失った脚を再生させられました。かねてから感受性の強かったピアースはこれにより夢見と幻視の狂気に囚われることになります。

     ピアースはブラッドリー巡査の恋人コールデン博士によって救出され、情報を頼りにアルジャーノン・ドレイクというオカルトマニアのもとに向かいます。

    (5)ドレイクとサラの二面性

     ここでアルジャーノン・ドレイクとサラの関係を確認しておきましょう。アルジャーノン・ドレイクはオカルトに通じた人物で、サラの幻覚についてもかなり正確な神話的理解を持っていました。ドレイクはサラにとってよき相談役であり、良き友人に違いありませんでした。

     というのも、サラはその中に完全な二面性を有していたからです。正気が勝っているときのサラは、ドレイクとともに問題の解決を目指していました。一方で狂気が勝っているときのサラはそれとはまったく逆に教団に味方していました。正気のサラの友がドレイクであり、狂気のサラの友がフィッツロイだったのです。

     ドレイクが事件への協力を提案する一方で、ピアースは魔導書の力でコールデンの身の危険を幻視します。しかしこれは明らかに危険な神話の導きにすぎませんでした。コールデンの救出に向かったはずのピアースは、なぜかサラ・ホーキンスのところにたどり着きます。事実が捻じ曲げられ、運命に矯正されたのです。

     サラと合流したピアースですが、正気状態のサラは自分が狂気のうちに犯した過ちを正さないことにはこの島を去ることはできないと主張します。すなわち〈さまようもの〉を封印したいと主張し、ドレイクもこれに協力します。しかしその封印は彼女の正気を完全に奪い去り、ついに狂気に支配される存在へと変貌させてしまいました。

    (6)到来したその日

     一方警察に逮捕されたピアースは、そこで〈リヴァイアサン〉と名付けられた存在と出会います。この接触によっていよいよ狂気が浸潤したとの判断から、〈リヴァイアサン〉はクトゥルフ復活の儀式の開始を宣言しました。人々は操られて正気を保ったものを食い殺し、教団員だけが島に残されるに至ったのです。

     ピアースはついに捕鯨基地で〈リヴァイアサン〉との対面を果たします。あとはその霊体を魔術的に差し出す儀式さえ行われれば、クトゥルフが再誕することになるのです。

    ここからは、ルート分岐によって変わりますので、解説は省くことにします。



    そのほかの解説については、しばらく最終回動画にコメントが集まるのを待ってからにしようかと思います。
    なお、これらの解釈はあくまで僕の個人的な解釈であり、ゲーム制作側の正確な意図をくみ取っているとは限りません。あしからずご了承ください。
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  • ひとりスナック一人旅、はじめました7【The Red Strings Club】

    2018-11-20 17:47
    いらっしゃいませ。The Red Strings Clubへようこそ。
    先週の放送で無事に1周目をクリアしました。ソーシャル・メンタル・ケアをめぐるスーパーコンチネント社との戦いはひとまず幕を閉じたことになります。

    今回はネタバレにもなるクライマックスの記述を避けながら、その直前の部分、主にラディカについての話を小説化して残しておこうと思います。
    また、記事の末尾にお知らせを掲載しておきました。そちらも是非ご覧ください。

    ※この記事は「The Red Strings Club」の二次創作小説です



     受話器からは乱れもしない電子シグナルがかすかに漏れ聞こえていた。サーバーに直接データをアップロード可能な端末である「オフィスSRAID」の起動キーがわからないまま、もう3回はこの無情な音を聞いていた。

    「新たな課題だ。ラディカの生体プロフィールを偽造する必要が出てきた。スーパーコンチネント社のデータストリームにプログラムをアップするには、CEOの署名が必要らしいんだ」

     起動しないコンピューターから気を紛らすために、俺はドノヴァンに話しかけた。腐った町の底にあるレッド・ストリングス・クラブから、ドノヴァンならこの問題を解決するかもしれない。あいつはそういう男だ。

    「そのようだな。まったく用心深い小娘だ。お前がその情報をつかんだ直後にアカラと話をしたんだが……」

     アカラ。このところドノヴァンはまったくアカラに入れ込んでしまっている。俺が店から出ている間、ずっとあの融通のきかないロボ子と話しているのだから無理もない。しかし人間の感情を愛しているはずのドノヴァンが、アンドロイドにそこまで入れ込むのは不自然でもあった。

    「ラディカの声そのものを再現することは難しくても、プログラムに署名するくらいの最低限のデータなら複製できるのではないかということだ」

    「そいつはいい! じゃあ、今すぐデータをくれ」

    「そのためには、お前の方でいくらか仕事をしてもらう必要がある……」

    …………

     ドノヴァンはアカラから耳写しされたような口ぶりで、俺の仕事を説明した。つまりは、社内でラディカに関わる情報を集め、それをドノヴァンもといアカラに転送して偽装するという算段のようだ。しかし、どうにも秘密の多い新CEOの情報がそうも簡単に集まるとは思えなかった。

     ヨハンナ・セプティスの生体データをロードして、人事部の番号を押す。人事部のカレンもまた疑わしい存在だ。社内の何から何までも把握しながら、同時に何一つ特徴を持たないようにデータがクリーニングされている。あるいはカレンなどという人物は……

    「はい、人事部のカレンです。どんなご用件でしょう?」

    「「ええと、カレン、ラディカの存在を貶めるようなデータに心当たりは?」」

    「貶めるってどういう意味かしら?」

     受話器の向こうに動揺が走るかと思ったが、まったく変わらぬトーンで言葉が続いた。彼女はアンドロイドなのだろうか。

    「「彼女はすぐに私たちの正式なCEOになるわ。だから私たちの競合相手につけ込まれないように、弱みとなるようなものはすべて排除しておきたいの。新しいCEOが15歳の少女だと発表すれば、彼らはやっきになって攻撃してくるでしょうからね」」

    「なるほど……」

     カレンは思案を巡らせているようだった。靴紐が変に絡んでいるのに気づいて、軽く左手で払う。勝負の日は決まってこの靴にしていたが、よりにもよってこんな豪雨に当たるとは思わなかった。帰ったら手入れしてやらなければ。

    「でもラディカは非の打ちどころのない人生を送っているわ。犯罪歴もないし、オンラインに足跡も残していない。ただ……」

     ただ?

    「このことは話すべきではないとされているけれど……つまり……前CEOのジャック・E・ゲイナーの死についてよ」

    「彼女の関与を証明する証拠は存在するの?」

    「すべてデータベースの54310Rに保管されてるわ」

     なぜそれをお前が知っている? ただの人事部が知るにはあまりに重大な情報だ。各種の業務責任者を差し置いて、社内でも完全に秘匿されていたはずの殺害の証拠のありかを、人事部の女性一人が知っているのはあまりに異常だ。思わず眉を顰めてしまったが、いまならその動作も気取られずに済む。

    「「どうもありがとう!」」 

     軽い挨拶を交わして通話を落とす。また一つ稲光がきらめいて、街の明かりをかき消した。

     コネクションケーブルをコンピューターに接続し、指定されたデータベースにアクセスする。情報収拾スクリプトを走らせながら、グラスデバイスに次々と映し出される情報を脳に移植したプロセッサが処理していく。
     これまで聞いた話では、前のCEOであるジャック・E・ゲイナーはすでに死亡していて、それを仕掛けたのがラディカではないかと言われていた。ラディカが実権を掌握してからスーパーコンチネント社は活動を強硬化させ、なにか大きな目標達成のために邁進している。あまりの専心ぶりは従業員たちを不安にさせているほどだ。

     だが、表示された真実はそれとは随分違っていた。

    「こいつは驚いたな……」

    「もったいぶってないで、さっさと言えよ」

     音象通信でのみ繋がったドノヴァンが俺を急かした。もっとも、そのリアクションが聴きたくて資料の言葉を一切口に出さなかったのだが。

    「やつは死んでないぞ!」



    ……いやぁ、もちろん僕だって、クライマックスの部分が書きたいところです。
    しかし、このゲームは大変面白かったので、是非ご自身でもプレイしていただきたく思います。

    と、言いつつもお知らせです。


    The Red Strings Club字幕動画化決定
    現在投稿中の「Call of Cthulhuをプレイします」シリーズの投稿が終わったら、「The Red Strings Club」の字幕プレイ動画を投稿します。
    全てのセリフを読めるように字幕として再入力しつつ、こちらで周回的にプレイして、もっとも物語の全容が理解できる道筋を探し出して、それを収録してお届けする予定です。

    すでに攻略チャートの作成を開始して、2周目のプレイを終えております。
    忙しい中ですが、動画の投稿をお楽しみに!


    本日の放送予定
    さてもう一つのお知らせは本日の放送予定です。
    先週の放送でいくつか話題も出たので、また新たなゲームをプレイします。
    消息を絶った船で起きた悲劇を解き明かすミステリーアドベンチャー、
    「Return of the Obra Dinn」をプレイしていきます。

    予定が変更になりました。スナック一人旅3人のスケジュールが合うということで、
    久しぶりに3人での雑談放送をお届けします!


    放送は本日10時からです。お楽しみに!
  • ひとりスナック一人旅、はじめました6【The Red Strings Club】

    2018-11-13 17:39
    どうもこんにちは、ハカセです。
    先週は疲労で頭も回ってなくてあまり進んでいませんでしたが、The Red Strings Clubもいよいよ大詰めです。
    いったい物語はどこに向かうのか、最後まで見届けることとしましょう。

    ※このブロマガ記事は「The Red Strings Club」の二次創作です。



     雷が鳴った。

     スーパーコンチネント社の高層階からは、街中の企業の営みが見えるようだった。ヨハンナ・セプティスが“吐き気を催す”と表現した青や黄色の明かりは、そうやって互いに互いを手に入れたような気になっている。しかし現実はといえば、奴ら全員を合わせても、雷のひと光りには遠く及ばない小さな存在だ。

     視認性に対するジャミング機構を解除して、主人を失った高級オフィスチェアに腰を下ろす。そいつは俺のような野ネズミさえも、尊大な気分にさせた。

    「ファーガソンのオフィスに潜入したのか?」

     脳裏に音のような何かとして描き出された印象は、ダイレクト・トゥ・プロセッサの通信回線だった。それはドノヴァンの声を完全に再現していたが、実際には声ですらなかった。その“音”は周囲の空気を何一つ振動させてはいないのだから。

    「ああ、警報一本鳴らしちゃいないぜ」

     結んだ音象は俺の生体データとの関数で処理され、ドノヴァンの耳元で初めて音を結ぶ。喉だけをRed Strings Clubに置いてきたようなものだ。もっとも、今日はこの喉には別の使い道がある。
     グラスデバイスに生体データを得ている対象のリストを表示する。作戦通りにことを進めるとしよう……

    「ミラーニューロン・アルゴリズムを実行するために、私たちは明日、ネットワークの多くをより強力なサーバーに移行する予定なの。全てがセットアップされて準備が整うまでの間には、多くのセキュリティホールが生まれるわ。ブランダイスだったらそこにつけこめるかもしれない」

     そう言ったのは、ヨハンナ・セプティスだった。スーパーコンチネント社の最高執行責任者にも関わらず、ソーシャル・メンタル・ケアの実行を阻止しようとする俺たちに加わった女性だ。
     彼女は一時会社を離れていたが、まさしく今日から職場復帰し、内部から俺たちをサポートするという算段になっていた。

    「ヨハンナが言っていた電話を見つけたようだな。そいつについて説明が必要か?」

     ドノヴァンの音象に呼びかけられ、右手に持った大げさなデバイスに意識を戻す。話に聞く限り、2世代も前の旧式通信デバイスで、この扁平な有線端末にはスピーカーとマイクしか搭載されていないらしい。線で結ばれた本体にもボタンが12個ついているきりで、まともなディスプレイすら搭載していないロクでもない一品だ。
     そのシンプルな見た目にたがわず、ドノヴァンの説明もシンプルに終わった。9桁の番号を押して待てば、その番号に対応した端末が受話して音声会話ができるという代物らしい。たしかに、音声会話しかできないネットワークなら、ハッキングに対する強度は高いかもしれない。だが……

    「俺にインストールされている声質MODは、十分な生体データさえ取得できれば、どんな人間の声も再現することができるんだ。そしてこいつが難攻不落の砦を落とすカギとなる」

     本来は視覚的ジャミングと合わせて利用するはずのMODだったが、旧式のデバイスを前にすれば、そんなもの必要なさそうだ。ヨハンナに連絡を入れた後、俺はもう一度プッシュボタンに手をのばす。

    「はい、人事部のカレンです、どんなご用件でしょう?」
    「「もしもし、カレン?」」
    「こんばんは、ヨハンナ!」

     電話口の相手にとってのみ、俺はヨハンナ・セプティスに他ならなかった。口調さえ誤らなければ、この会社全体に分散した脆弱性を好きなだけ探ることができる。

    「「ええと、カレン。エイドリアン・ファーガスンに連絡する必要があるの。緊急の要件なんだけど、彼は今オフィスにいなくて……」」
    「ええ、エイドリアンは最近調子があまり良くなくて、海の近くにある別荘で休養しているの。ただ緊急連絡用の番号を聞いているわ。メモを取れる?」

     このシステムは外部からの攻撃に強いと誰もが信じている。しかしそれこそが、このシステムの弱点に他ならない。最後まで俺の侵入に気づかれなければ、今後もこの会社にはこのシステムを保ってほしいものだ。必要になることがあるかもしれない。

     さて、エイドリアン・ファーガスンだ。アカラによって慈愛のインプラントを埋め込まれた最高執行責任者。正確なところはわからないが、彼は今、スーパーコンチネント社の方針に深く心を痛めている。少なくとも、この重要な日にこのオフィスに侵入を許してしまう程度には。

    (さて、コンピューターのロックナンバーを奴から聞き出すか……)

     番号を入力すると、古臭いくぐもった電子音が聞こえた。





    おそらく、本日のプレイで結末を迎えると思われます。
    みなさんお見逃しのないよう。本日22時から放送です。
    お楽しみに。


    【おまけ】最終回を前に登場人物の名前チェック!

    主人公:ドノヴァン
     The Red Strings Clubのバーテン。落ち着いてはいるが皮肉っぽい口調がクール。情報屋としてスーパーコンチネント社の情報を探り、ソーシャル・メンタル・ケアという洗脳プログラムの発動を阻止するべくバーから指示を送っている。

    相棒:ブランダイス
     ドノヴァンの相棒。赤いネクタイとパンツがトレードマーク。凄腕のハッカーで自由のためならあらゆるものを敵に回す、ガチの自由人。現在スーパーコンチネント社の本社ビルに潜入している。

    事件の中心:アカラ184
     スーパーコンチネント社が開発した最新型のアンドロイド。情緒的な判断が可能な初めてのアンドロイドで、テロリスト集団プロキシマの潜入工作時に自らの意志で同社を脱出。バーThe Red Strings Clubで客たちの観察を通じて人間を学んでいる。

    協力者:ヨハンナ・セプティス
     スーパーコンチネント社の最高執行責任者。アカラによって反抗心を引き起こすインプラントを移植されたことで一時会社を離脱したが、その折ブランダイスに説得され、ソーシャル・メンタル・ケアを阻止する作戦に協力することとした。

    憂う女性:ダイアナ・メイエス
     序盤で登場した女性。ソーシャル・メンタルケアの技術的なリーダーを務めている。バーの常連でもあり、ドノヴァンに気がある説がある。

    顧問弁護士:ナイマ・コッセ
     序盤で登場した女性。スーパーコンチネント社の顧問弁護士を務める。

    狂乱のマーケター:ラリッサ・ロビラード
     酒とパーティをこよなく愛する女性。このところ多忙だったのはアカラ・アンドロイドのマーケティング責任者として仕事をしていたからだ。ドノヴァンにエドガー・コールドストリーム博士を紹介してくれた。

    天才技術者:エドガー・コールドストリーム
     ロックでパンクなファッションを好み、バーの椅子にだって立て膝ついちゃう天才児。アカラ・アンドロイドだけではなくソーシャル・メンタル・ケア、その拡張システムであるミラーニューロン・アルゴリズムまでも設計した人類史上最高の技術者。

    休養中の重役:エイドリアン・ファーガソン
     アカラによって慈愛のインプラントを移植され、現在休養中の会社役員。休養中なのをいいことに、現在ブランダイスがそのオフィスに潜入している。

    謎の少女経営者:ラディカ
     未登場。現在15歳にしてスーパーコンチネント社の実質的なトップに立っている少女。内容は不明だが特別な教育が施されているとのことで、法的に経営者になれる年齢に達したら、直ちに社長就任が予定されている。冷酷で技術的にも優れており、その目をいかに欺くかが作戦の成功のカギとなる。