ひとりスナック一人旅、はじめました1【The Red Strings Club】
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ひとりスナック一人旅、はじめました1【The Red Strings Club】

2018-09-25 18:53
    どうもこんにちは。
    インド王の時間は終わり、今週からはバーテンダーになったハカセです。

    今週からのブロマガは、ゲームの経過をお話し形式で再整理して紹介したいと思います。

    ※このブロマガ記事は「The Red Strings Club」の二次創作です。



    感覚を収穫せし者よ、汝の力をこの手に与えよ。
    赤い糸を編み、この手を導き、埋もれた感情と同期するために。
    The Red Strings Club

     アルコールほど優秀なハッカーはいない。

     鼻腔をあの香りが満たすと、眼孔の奥の方で確かな上気が始まる。海馬のあたりに400万年前に仕組んでおいた論理爆弾(ロジックボム)があって、アルコールは血の中に紛れ込んでヒドロキシ基をキーにしてそいつを炸裂させる。脳神経はほんのわずかな時間で頽廃とロマンチシズムの奔流を生み出すことに新皮質の総力を集中し、人はそこがもっとも赦された場所ではないかと誤解する……。

     グラスを磨く俺にそんな話を吹き込んだのは、ブランダイスだった。

     今はピアノを弾きながら、プロキシマの女に騙されて死にかけた話を憎らしげに零している。フリーランスのハッカーといえば花形かもしれないが、その実態はこの街を駆け巡るアルコールの一つに過ぎなかった。いずれ脱水素酵素に出会ってしまえば、儚く分解されてしまうのがオチだ。

    「……とにかく、今日は酷い一日だった。なにか作ってくれ」



     ブランダイスの金にならない話の最後に添えられたオーダーに、俺はオールドファッションドグラスを取り出した。400万年前に仕組まれた論理爆弾に敬意を払ったわけでもなく、今のブランダイスにはあえて陳腐なカクテルを差し出すのが俺の仕事だと思ったからだった。

    (感覚を収穫せし者よ、汝の力をこの手に与えよ。赤い糸を編み、この手を導き、埋もれた感情と同期するために……)

     ブランダイスには前時代的占いみたいだと笑われたが、俺には“これ”が必要に違いなかった。しがないバーテン風情がこの街で生きていくためには、ただ求められた酒を求められた通りに作ってはならない。

     俺は客の“ソウルノード”に酒を届ける。珠玉の一杯で客の魂をハックし、その日の気分を最高に盛り上げてやるのだ。

     手に取ったウォッカボトルから、グラスに半分ほど注いだ。その光景だけで、俺は穀物の豊かで複雑な香りを思い出した。しかし俺がそれを楽しむわけではない。次にはメロンリキュールを取り出して、わずかに注ぎ足す。




     アンティフリース。基本的な確認もしないで氷のようなプロキシマの女に挑んだことへのちょっとした皮肉を込めて。今のブランダイスには、後悔を味わう時間が必要に違いなかった。

     差し出したアンティフリースの意味を理解したかはわからないが、ブランダイスはそいつを味わって噛み締めていた。じきに最高のハッカーたちがブランダイスの脳に味わいを与えてくれるはずだ。

     自分の仕事に満足しながらタバコに火をつけたとき、店の扉を開いたのは、身体中を機械器官(インプラント)まみれにした酔っ払いの女だった。いや、しかし……

    「なんだ? 今日の営業はもう終わりだぜ、お嬢さん」

     ブランダイスが俺の代わりにそう言うのにも耳を貸さず、小娘は階段をやっと二歩だけ下って崩れ落ちた。腰のところから脚がめくれ上がって、背中から一周して頭の左右に落ちて止まった。関節がいかれちまっているのかと思ったが、それでようやく俺は理解した。

    「こいつは単なる酔っ払いじゃない、アンドロイドだ」

    俺が言うと、ブランダイスもそれを理解した。体を起こして身元を尋ねると、ようやく三つの数字だけが音声デバイスを振動させた。

    「1......8......4......」

    「ドノヴァン、なんのことだかわかるか?」

     その言葉に俺はすぐピンときたが、ブランダイスはまだこのことを知らないようだった。

    「スーパーコンチネント社のアンドロイド『アカラ』だな」

     俺は本来社外秘だったその情報を口にした。なぜバーテンの俺が知っているのかなど、アルコールに聞いてくれとしか言いようがない。ブランダイスはこの情報を黙っていた俺に責めるような視線を向けたが、俺は構わず話を続けた。

    「噂によると、こいつは人間の生におけるあらゆる要素を分析し、倫理的な判断を下すことのできる初めてのアンドロイドだそうだ」

     デバイスに覆われたブランダイスの目であっても、その表情が大きく変わったことだけはわかった。ハッカーというのはそういう生き物だ。情報とネタの匂い、とりわけ秘密ってやつにはすぐに反応してしまう。

    「こりゃ中に入ってみるしかねぇか」



     散発的な言葉ばかりで一向に事態を説明しないアンドロイドを前に、ブランダイスの忍耐は1分ももたずに限界を迎えた。あるいは、少なくとも数千フレームの忍耐に賞賛の声をあげるべきなのだろうか。
     耳元からぶら下げていたコネクタを手に取って、ブランダイスはニヤリと笑った。

    「手に入れた情報については、後払いで構わないぜ」

     コネクタの接続音とともにブランダイスの軽口が止まり、バーにはタバコとかすかなメロンの香り、アンティフリースの香りが残された。




    先週は放送が途中で止まったため、このあたりから再度プレイします。
    「ひとりスナック一人旅【The Red Strings Club】」
    第二回は本日10時から、ニコニコ生放送にて放送予定です。
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