ひとりスナック一人旅、はじめました6【The Red Strings Club】
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ひとりスナック一人旅、はじめました6【The Red Strings Club】

2018-11-13 17:39
    どうもこんにちは、ハカセです。
    先週は疲労で頭も回ってなくてあまり進んでいませんでしたが、The Red Strings Clubもいよいよ大詰めです。
    いったい物語はどこに向かうのか、最後まで見届けることとしましょう。

    ※このブロマガ記事は「The Red Strings Club」の二次創作です。



     雷が鳴った。

     スーパーコンチネント社の高層階からは、街中の企業の営みが見えるようだった。ヨハンナ・セプティスが“吐き気を催す”と表現した青や黄色の明かりは、そうやって互いに互いを手に入れたような気になっている。しかし現実はといえば、奴ら全員を合わせても、雷のひと光りには遠く及ばない小さな存在だ。

     視認性に対するジャミング機構を解除して、主人を失った高級オフィスチェアに腰を下ろす。そいつは俺のような野ネズミさえも、尊大な気分にさせた。

    「ファーガソンのオフィスに潜入したのか?」

     脳裏に音のような何かとして描き出された印象は、ダイレクト・トゥ・プロセッサの通信回線だった。それはドノヴァンの声を完全に再現していたが、実際には声ですらなかった。その“音”は周囲の空気を何一つ振動させてはいないのだから。

    「ああ、警報一本鳴らしちゃいないぜ」

     結んだ音象は俺の生体データとの関数で処理され、ドノヴァンの耳元で初めて音を結ぶ。喉だけをRed Strings Clubに置いてきたようなものだ。もっとも、今日はこの喉には別の使い道がある。
     グラスデバイスに生体データを得ている対象のリストを表示する。作戦通りにことを進めるとしよう……

    「ミラーニューロン・アルゴリズムを実行するために、私たちは明日、ネットワークの多くをより強力なサーバーに移行する予定なの。全てがセットアップされて準備が整うまでの間には、多くのセキュリティホールが生まれるわ。ブランダイスだったらそこにつけこめるかもしれない」

     そう言ったのは、ヨハンナ・セプティスだった。スーパーコンチネント社の最高執行責任者にも関わらず、ソーシャル・メンタル・ケアの実行を阻止しようとする俺たちに加わった女性だ。
     彼女は一時会社を離れていたが、まさしく今日から職場復帰し、内部から俺たちをサポートするという算段になっていた。

    「ヨハンナが言っていた電話を見つけたようだな。そいつについて説明が必要か?」

     ドノヴァンの音象に呼びかけられ、右手に持った大げさなデバイスに意識を戻す。話に聞く限り、2世代も前の旧式通信デバイスで、この扁平な有線端末にはスピーカーとマイクしか搭載されていないらしい。線で結ばれた本体にもボタンが12個ついているきりで、まともなディスプレイすら搭載していないロクでもない一品だ。
     そのシンプルな見た目にたがわず、ドノヴァンの説明もシンプルに終わった。9桁の番号を押して待てば、その番号に対応した端末が受話して音声会話ができるという代物らしい。たしかに、音声会話しかできないネットワークなら、ハッキングに対する強度は高いかもしれない。だが……

    「俺にインストールされている声質MODは、十分な生体データさえ取得できれば、どんな人間の声も再現することができるんだ。そしてこいつが難攻不落の砦を落とすカギとなる」

     本来は視覚的ジャミングと合わせて利用するはずのMODだったが、旧式のデバイスを前にすれば、そんなもの必要なさそうだ。ヨハンナに連絡を入れた後、俺はもう一度プッシュボタンに手をのばす。

    「はい、人事部のカレンです、どんなご用件でしょう?」
    「「もしもし、カレン?」」
    「こんばんは、ヨハンナ!」

     電話口の相手にとってのみ、俺はヨハンナ・セプティスに他ならなかった。口調さえ誤らなければ、この会社全体に分散した脆弱性を好きなだけ探ることができる。

    「「ええと、カレン。エイドリアン・ファーガスンに連絡する必要があるの。緊急の要件なんだけど、彼は今オフィスにいなくて……」」
    「ええ、エイドリアンは最近調子があまり良くなくて、海の近くにある別荘で休養しているの。ただ緊急連絡用の番号を聞いているわ。メモを取れる?」

     このシステムは外部からの攻撃に強いと誰もが信じている。しかしそれこそが、このシステムの弱点に他ならない。最後まで俺の侵入に気づかれなければ、今後もこの会社にはこのシステムを保ってほしいものだ。必要になることがあるかもしれない。

     さて、エイドリアン・ファーガスンだ。アカラによって慈愛のインプラントを埋め込まれた最高執行責任者。正確なところはわからないが、彼は今、スーパーコンチネント社の方針に深く心を痛めている。少なくとも、この重要な日にこのオフィスに侵入を許してしまう程度には。

    (さて、コンピューターのロックナンバーを奴から聞き出すか……)

     番号を入力すると、古臭いくぐもった電子音が聞こえた。





    おそらく、本日のプレイで結末を迎えると思われます。
    みなさんお見逃しのないよう。本日22時から放送です。
    お楽しみに。


    【おまけ】最終回を前に登場人物の名前チェック!

    主人公:ドノヴァン
     The Red Strings Clubのバーテン。落ち着いてはいるが皮肉っぽい口調がクール。情報屋としてスーパーコンチネント社の情報を探り、ソーシャル・メンタル・ケアという洗脳プログラムの発動を阻止するべくバーから指示を送っている。

    相棒:ブランダイス
     ドノヴァンの相棒。赤いネクタイとパンツがトレードマーク。凄腕のハッカーで自由のためならあらゆるものを敵に回す、ガチの自由人。現在スーパーコンチネント社の本社ビルに潜入している。

    事件の中心:アカラ184
     スーパーコンチネント社が開発した最新型のアンドロイド。情緒的な判断が可能な初めてのアンドロイドで、テロリスト集団プロキシマの潜入工作時に自らの意志で同社を脱出。バーThe Red Strings Clubで客たちの観察を通じて人間を学んでいる。

    協力者:ヨハンナ・セプティス
     スーパーコンチネント社の最高執行責任者。アカラによって反抗心を引き起こすインプラントを移植されたことで一時会社を離脱したが、その折ブランダイスに説得され、ソーシャル・メンタル・ケアを阻止する作戦に協力することとした。

    憂う女性:ダイアナ・メイエス
     序盤で登場した女性。ソーシャル・メンタルケアの技術的なリーダーを務めている。バーの常連でもあり、ドノヴァンに気がある説がある。

    顧問弁護士:ナイマ・コッセ
     序盤で登場した女性。スーパーコンチネント社の顧問弁護士を務める。

    狂乱のマーケター:ラリッサ・ロビラード
     酒とパーティをこよなく愛する女性。このところ多忙だったのはアカラ・アンドロイドのマーケティング責任者として仕事をしていたからだ。ドノヴァンにエドガー・コールドストリーム博士を紹介してくれた。

    天才技術者:エドガー・コールドストリーム
     ロックでパンクなファッションを好み、バーの椅子にだって立て膝ついちゃう天才児。アカラ・アンドロイドだけではなくソーシャル・メンタル・ケア、その拡張システムであるミラーニューロン・アルゴリズムまでも設計した人類史上最高の技術者。

    休養中の重役:エイドリアン・ファーガソン
     アカラによって慈愛のインプラントを移植され、現在休養中の会社役員。休養中なのをいいことに、現在ブランダイスがそのオフィスに潜入している。

    謎の少女経営者:ラディカ
     未登場。現在15歳にしてスーパーコンチネント社の実質的なトップに立っている少女。内容は不明だが特別な教育が施されているとのことで、法的に経営者になれる年齢に達したら、直ちに社長就任が予定されている。冷酷で技術的にも優れており、その目をいかに欺くかが作戦の成功のカギとなる。


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