ある朝(連載SF小説 ~第6回~)
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ある朝(連載SF小説 ~第6回~)

2014-04-18 22:16
    アリョーシャは、いつものようによく整備された遊歩道を通って勤務先のシステム会社を目指していた。朝のウォーキングはとても心地良かった。傍らを歩くR星人たちは、みな冷静さを装っている。何にしろ放射能汚染で住みにくくなった地球から移住する時点で、それなりの覚悟とモチベーションが必要だった。誰もが故郷を離れた哀愁と新しい世界に賭ける若者の心を秘めていた。

    R星の環境は人間の生存のために最適化されていたが、それはあくまで人間が頭で考えた最適さだった。本当にそうであるかは未知の部分が多かった・・・。

    オフィスに入ると森林浴をしている気分が味わえる香りと効果音が流れている。小鳥のさえずり、小川のせせらぎ、たなびく風、打ち寄せる波など日によってその効果音は様々に変化した。その日はオルゴールの生演奏が流れていた。144弁のきらめく音響は素晴らしいものだった。人間にとって地球のCDに録音されない20KHz以上の高周波は、癒し効果があることが研究成果としてR星では応用されていた。

    「おはようアリョーシャ君!」ナタリーが明るい声で挨拶してきた。
    「おはようございます、ナタリーさん!」

    明るい太陽光風の光が建物に差し込み、世界は穏やかな雰囲気に満たされていた。

    「本当に落ち着きますね。このオフィスは」アリョーシャは言った。
    「そうね。ミドリ星もロハス的な心地良さが追求されていたけど、R星は何かもっと深く癒される感じがするわ」ナタリーはその切れ長の目を細め、本当に心地よさそうに言った。

    「この間、ナタリーさんの元上司のシーマさんから電話がかかってきたんですよ。ナタリーさんは今も連絡等しているのですか?」
    「いいえ、もうそんなことはないわ。どうしてシーマさんがアリョーシャ君に電話してくるのかしらね?」
    「ぼくも、分りません。てっきりナタリーさんがシーマさんに異動の件を伝えたのだと思っていました」
    「そうだったの・・・。いいわ、いつかまたシーマさんと話す機会もあるだろうから、こっそり聞いてみるわ。その時まで覚えていたらの話しだけど・・・」
    「ははは。そうですね」アリョーシャは何だかいろいろ詮索していた自分が可笑しくなって笑った。

    「ねえ、アリョーシャ君、コーヒーでも飲む?」
    「はい。ありがとうございます」

    しばらくすると、ナタリーが熱いコーヒーを淹れてくれた。

    穏やかなオフィス空間で、仕事が始まる前のこのわずかな時間は、とても貴重だなとアリョーシャは思った。よし今日もがんばろう!なんだか心につかえていたものが取れたような気がした。

    その時ナタリーはそっと何かを考え込むようなしぐさをして、窓の外に目を向けていた。その様子に気づいた人間は、誰もいなかった・・・。






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