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映画が2時間では味わい尽くせない時代になった(1,746字)
2016-08-12 06:00110pt最近気づいたのは、「コンテンツの需要のされ方」が以前とは異なってきた――ということだ。味わわれ方が違ってきた。
どう違ってきたかというと、初見では味わい尽くせなくなった。そこに無数の小ネタが込められるようになったのだ。
『シン・ゴジラ』という作品でそれを説明するのだが、まず初めに柳田理科雄という人が登場する。
柳田氏は科学者で、同時にコンテンツのファン(オタク)であった。彼は科学者の立場から、さまざまなコンテンツにツッコミを入れ、それを本に出したりした。
柳田理科雄の空想科学読本〈1〉(空想科学文庫) - Amazon
そのツッコミの一つに、「巨大な怪獣は自重に耐えられない」というものがあった。分子構造的に、あれほどの重さのものが立ち上がれば、骨や筋肉は自重に耐えきれずぺしゃんこに潰れてしまうというのだ。それは、科学的あるいは物理的に証明できることだという。
人々は、もともと巨大怪獣が -
あしたの編集者:その9「美的センスを鍛える方法」(1,897字)
2016-08-11 06:00110pt編集者になるためには、何かを好きになったり、その逆に何かを嫌いになったりといった、「好き嫌い」の感情を育む必要がある。ただし、何かを好きになるとしても、あるいはその逆に嫌いになるとしても、良いものを嫌いになったり、悪いものを嫌いになったりしたのでは、なかなか人々の共感を得られない。そのため、編集者には「良いものと悪いものを見極める美的センス」が必要となる。そして、その美的センスでもって、良いものを好きになり、悪いものを嫌いになる必要があるのだ。では、良いものと悪いものを見極めるためにはどうしたらいいか?すぐれた美的センスを身につけ、また育むためにはどうすればいいか?一番は、自分の中にしっかりとした物差しを持つことである。基準を持つことだ。メートルが長さの基準として用いられたとき、人々は「メートル原器」というものを作って、それを長さの基準にした。これは、原子の移動距離を計測するより科学的な方 -
[Q&A]家事の分担についてどのように思いますか?(1,279字)
2016-08-10 06:00110pt[質問]
ハックルさんも好きな漫画ランキングに入っている「HUNTER×HUNTER」が僕も好きです。話の複雑な構成や心理描写残酷な描写。キャラ立ちしているキャラクターでもあっさり殺すあたりが好きです。続きが気になります。ラストまで見たいです。ただ、この漫画は休載が前例にないぐらい長いです同時期にスタートした「ONE PIECE」のコミック数と比較したら分かりますしかし人気は凄いです。売れ行きも。面白いです。漫画を書くのは思っている以上にしんどいのだろうし特に週刊連載は。ストーリーを練るのも時間がかかるのでしょう。作者の内情は知りません。腰痛がヒドイという噂も。それを踏まえてハックルさんは「HUNTER×HUNTER」の作者の休載など、ある意味特別待遇について
どう考えますか? ある意味仕事放棄ととられても仕方ないのでしょうか?
[回答]
休載について、特に何も思ったことがありません。書け -
世界的なプロダクトを生み出す日本の美的感覚:その31(1,984字)
2016-08-09 06:00110ptマンガ版『巨人の星』が、マンガ業界における記号と写実の融合を果たしたエポックメイキング的な作品になったことは以前にも述べた。そして『巨人の星』という作品は、さらにアニメ版においてもエポックメイキング的な役割を果たすのだ。
マンガにおいては、『巨人の星』よりむしろその後に作られた『あしたのジョー』の方が、変革においては大きな役割を果たした。しかしアニメにおいては、後にアニメ化された『あしたのジョー』よりも、先にアニメ化されたこの『巨人の星』の方が、変革において大きな役割を果たす。
一九六〇年代は、「テレビ」が普及するのに従って、人々の――取り分け子供たちの娯楽はどんどんとテレビに移っていった。なにしろ、それまで映画館に行ってお金を払って見るものだった「映像」が、毎日家でタダで見られるようになったのだ。この変化は大きかった。
子供たちにとって、テレビが普及する以前は娯楽というものが家にはなかっ -
『シン・ゴジラ』における庵野秀明監督の映画の勝ち方(2,119字)
2016-08-08 06:00110pt長年映画を研究し続けてきた中で、ぼくが現時点で分かっている「映画の勝ち方」の最良というのは、一言でいうと「カリスマを持つ」ということになる。
「監督にカリスマがどれだけあるか?」
それが、映画の勝敗を分けるのだ。
映画というのは、単に面白いだけではなく、フィルムを通して「そこですごいことが為されている」ということが伝わってくると、名作になる。逆にいうと、その制作プロジェクト自体がすごいことじゃないと、なかなか名作にはならない。
そういう映画の代表的なのが、黒澤明の『七人の侍』だろう。
『七人の侍』は、テレビが勃興して映画が斜陽化し始めた時代に、「テレビには到底できないだろう映画のすごさを見せつけてやろう」というコンセプトで東宝が作った映画だ。だから、最初から「すごい」ことが目指されていたわけでが、そこで監督の黒澤明は、スポンサーの東宝でさえそこまで考えていなかったほどの映画を作ってしまった -
台獣物語29(2,110字)
2016-08-06 06:00110pt第八章「俺たちの旅」
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隠岐の島の朝というのは、米子とはまた違った雰囲気がある。
まず、日差しが強い。海抜は米子とそれほど変わらないのだろうけど、隠岐の島には背の高い建物がほとんどないので、その分影が少ない。この道場も、屋内とはいえ、窓から差し込む光で明るさに溢れている。
次に、やっぱり湿気が多い。特に、この施設の周囲にはうっそうとした森が広がっているから、木々の吐き出す呼気のようなものが感じられて、独特のみずみずしい空気が一帯を満たしている。
しかしながら、それに矛盾するようだけど、空気は爽やかだった。米子の、都会特有のムッとした暑さはほとんどなく、冷房をつけていなくても不快さはほとんどない。
きっと、穏やかな風が絶えず吹いているからだろう。特に、この施設は急峻な丘の頂上付近に建っているから、さまざまな風が四方八方からぶつかり合って、空気を淀ませるということがほとんどないの -
『シン・ゴジラ』について(2,008字)
2016-08-05 06:00110pt今回は、『シン・ゴジラ』についての率直な感想をつらつらと書いていきます。ぼくは、まず島本和彦さんのツイートを見て、この作品を見に行こうと思った。[2敗でも]島本和彦氏、敗北宣言[1敗だ] #シンゴジラ [特報追加] - Togetter変な話だが、ぼくは人の喜びに感応する癖がある。バルセロナオリンピックのとき、優勝した岩崎恭子選手のコーチの喜ぶ姿を見て、「あ、この人の立場だったらこの金メダルは本当に嬉しいだろうな」と思った。『もしドラ』を、ドラッカーの翻訳者であられる上田惇生先生に読んでいいただいたときも、上田背性の立場だったら『もしドラ』を読むのは嬉しいだろうなと、勝手ながら思った。そしてこの島本さんのこのツイートを読んだときも、「あ、島本さんの立場なら、『シン・ゴジラ』はきっと嬉しいだろうな」と思ったのだ。島本和彦さんの『アオイホノオ』というマンガは傑作である。その中で、島本さんは大学 -
あしたの編集者:その8「読者の潜在ニーズを掘り起こす方法」(1,918字)
2016-08-04 06:00110pt前回は、「居酒屋の潜在ニーズを分析し、そこから具体的に本を企画する」と書いたが、その前にもう少し潜在ニーズについて掘り下げてみたい。
「本を売る」というビジネスにおいては、今後「読者の潜在意識に訴えかけていくこと」の必要性が高まっていくだろう。読者の潜在ニーズを掘り起こしていかなければ、沈みゆく出版業界で生き残るのは困難だ。
そこで、「潜在ニーズを掘り起こす」ということについて具体的に見ていきたいのだが、それを実現した近年の好例として、アップルのiPhoneが挙げられよう。
iPhoneが掘り起こした潜在ニーズとは、「ボタンのついていない携帯電話(スマホ)」である。それまで、ボタンのついていない携帯電話は存在しなかった。だから、人々はそれを欲する(ニーズする)ことができなかった。女子高生に「どんな携帯電話が欲しいですか?」と聞いても、けっして「ボタンのついていないもの」とは答えられなかった -
[Q&A]名前をバカにされたらどうするか?(2,426字)
2016-08-03 06:00110pt[質問]
「個人的にネガティブな所をえぐらないと前に進まないと思うのでやはりそういう質問をします。」ハックルさんは生い立ちや環境が悪くても考えが深化できるから人生は平等だとおっしゃってました。その点は一理あると思います。ただ表面上だけですが「160キロの二刀流」や「あのテニスプレイヤー」を見る一方で「秋葉原事件」「相模原」の彼を見てたりするとこれは極端な対比ですが、その他色んな人を見てもですが阿藤快の如く「何だかな~」って思うことがあります。私の持論。憶測ですが愛されて育った人はその点満たされて納得してるから人を「気持ちよく」愛しやすくなる「サポートできる。」愛されて育ってない人はその逆。これが先祖代々自分。そして未来永劫と同じ家系で同じように輪廻、スパイラルするんじゃないか?と私も「あれほど憎んだ親のように何だかんだなって自分もなってしまうんじゃないと?」それが普通かもですが疑問というか -
世界的なプロダクトを生み出す日本の美的感覚:その30
2016-08-02 06:00110pt『鉄腕アトム』は、いろいろな意味で「鬼っ子」だった。
例えば、表現的には必ずしも評価されたわけではなかったが、しかしその人気はすさまじかった。これによって、テレビ局やキャラクター商品を発売した玩具メーカーは莫大な利益を上げたといわれている。
また、手塚がこれを安い値段で受注したため、後のアニメーター待遇が悪くなったと批判する人がいる一方、『鉄腕アトム』のヒットによってアニメの人気が定着し、その後、制作本数が増えたり、制作費が上がったりといった恩恵もあった。『鉄腕アトム』が、アニメ人気を普及させた功労者であるのは間違いないのだ。
そういうふうに、『鉄腕アニメ』は当時も今も、毀誉褒貶喧しい問題作だ。
この作品には、こんな逸話がある。『鉄腕アトム』を立ち上げるとき、東映動画から移籍してきたアニメーターのりんたろうが、あまりの制約の多さ(表現できることの少なさ)に、「これはアニメーションではない」
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