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舘野仁美さん著・平林享子さん構成の『エンピツ戦記 誰も知らなかったスタジオジブリ』という本を読んだ。
舘野さんは、長らくスタジオジブリのアニメーターとして、主に動画チェックを務められていた方だ。そして平林さんは、ジブリ雑誌『熱風』の編集者さんである。この本は、『熱風』に連載されていたものをまとめたものだ。
ぼくはジブリが好きである。作品も好きだが、同時にジブリにまつわるドキュメンタリーが大好きだ。映画のメイキングがあれば必ず見るようにしているし、関連書籍もできうる限り読むようにしている。特に、ジブリが映画を作る度にNHKで放送されていたドキュメンタリーシリーズは、何度も見返すほどのファンだ。
なぜそんなにジブリのドキュメンタリーが好きかと言えば、それはぼくが「芸術の神は『作り方』に宿る」と考えているからだろう。仕事というのは作り方のことに他ならない。だから作り方を突き詰めてゆけば、自ずから作品の質も向上していく。
そしてジブリのドキュメンタリーは、その作り方がよく分かるのだ。そのため、ぼくの仕事にとっても非常に参考になるのである。特に、宮崎駿さんの作り方はとても興味深い。
宮崎さんの作り方の中でも取り分け興味深いのが、「作り方を壊すという作り方」だ。
宮崎さんは、これまでの経験の中で映画の作り方というものを幾通りも習得してきた。だから、それらを使えば映画のストーリーやキャラクターは簡単に作れる。
しかしながら、宮崎さんはやっぱりこれまでの経験の中から、そういう習得した作り方で作られたものはあまり面白くないということも知っている。だから、だいじなのはこれまで習得した(慣れ親しんだ)作り方をあえて壊し、新たな作り方を発見することなのだ。
要は「新しい作り方の発見」という行為こそが、宮崎さんの作り方だ。作り方の新しい発見が為されれば、それはそのまま作品の面白さに直結する。それも、頭で考えたものではなく、何か偶発的に生まれた、あるいは仕方なく採用した作り方の方が、そうした面白さを生み出せる可能性が高い。
そのため、例えば宮崎さんは、映画のシナリオや絵コンテを完成させないまま制作に突入する。最初の方を作り直さないようにするためだ。そうすることによって、後半になると前半を活かさざるをえないようなアクロバッティクな展開が生まれ、それが面白さにつながるのである。
将棋の羽生さんは、対極のとき、終盤の一手をなるべく序盤に指した手を活かすような指し方する。そうすると、いい展開になると分かっているからだ。
イラストレーターの山本容子さんも、やっぱり下描きをしない。初めに紙の真ん中に顔を描いて、その後に胴体を描くのだが、そのとき紙幅が足りなかったら、紙の大きさに合わせて体を小さくしてしまうのだそうだ。その方が面白い絵を描けるからである。
そんなふうに、宮崎駿さんは作り方にこだわって作っているから、そのドキュメンタリーは面白くなるのである。そして、その宮崎さんの仕事場で働いていた舘野さんのこの本も、だからとても興味深く読んだのだった。
ぼくは、この本をあっという間に読んだ。舘野さんは、これまで何度も宮崎さんのドキュメンタリーを見てきたから、画面に映ったのは何度となく見てきた。舘野さんは、動画チェックという仕事柄、たいてい宮崎さんの近くの席に座っている。そのため、宮崎さんが映るときに、画面の端に何度となく映るのである。
ぼくは、前からジブリで働いている人たちに興味があった。というのも、ジブリのドキュメンタリーでは宮崎さんの話はよく聞けるのだが、それ以外のスタッフの話というのはなかなか出てこない。特に、宮崎さんの近くの席に座っている、制作の主要なスタッフの話は、画面に映っているにもかかわらず滅多に出てこない。だから、彼らが何を考えながら作っているのか、宮崎さんの仕事のやり方をどう思っているのか、ずっと気になっていたのだ。
舘野さんの本を読んで感じたのは、宮崎さんへの尊敬であった。特にぼくは、その勤勉さへの尊敬を感じた。もちろん、宮崎さんの作る作品や、その才能・技術に対する尊敬もあるが、勤勉さへの尊敬はそれ以上に大きいのではないかと思った。
なぜなら、それがあるからこそ、つらい制作も乗り切れたのではないかと感じたからだ。ジブリの制作現場は、やっぱりとてもつらいらしい。特に、すぐれた作品の生みの苦労には計り知れないものがある。舘野さんの本からも、オブラートに包んではいたものの、そういうつらさが垣間見えた。
ではなぜそれを乗り切れたかといえば、宮崎さんの才能や技術への尊敬以上に、勤勉さへの尊敬が大きかったからだと思う。逆にいえば、ジブリに入っても辞めてしまう人は少なからずいるらしいが、そういう人たちは、宮崎さんの才能や技術に対する尊敬は同じでも、勤勉さへの尊敬はあまりなかったのではないか。だから、それをつらさが上回ってしまい、辞めるという選択になったのではないか――そんなふうに感じた。
いずれにしろ、宮崎さんの周りのスタッフがどんな思いでアニメを制作していたか、この本からはその一端が垣間見える。それは、ぼくにとって非常に貴重な情報であった。
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ハックルベリーに会いに行く
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