東條英機は、日米開戦を回避する気満々で内閣の運営に当たったが、当たり前と言えば当たり前だが、就任早々陸軍の壁紙立ちはだかる。昨日までは頼もしい仲間だった陸軍の執行部が、口々に兵士の、軍の、そして国の窮乏を訴えかける。

その手口は「暖簾に腕押し」である。東條が何を言おうとのらりくらりと交わし、ただただ自分たちの主張をくり返すばかりである。これでははなから話し合いにならない。いや、話し合いにしないという作戦だった。なにしろキャスティングボードは陸軍が握っている。法案が気に食わなければ陸相を辞めさせ、政府を解散して、また新たな交渉のテーブルを作るだけである。

ただし今度はその辞める役の陸相が、内閣の代表者である首相も兼ねている。だから手出ししづらいようにも思えたが、陸軍上層部はいざとなれば東條の陸相のポジションは剥奪することができた。だから結局はじめから陸軍の勝ちなのである。

それでも陸軍