【皆さんにお願い】
この作品の著作権は百田尚樹にあります。したがって、このテキストを作者に無断でネット上にアップしたり、メールで拡散したりする行為は、著作権法違反にあたります。くれぐれもそのような行為はお慎み下さるようお願いいたします。
※(著作権を故意に侵害した者は、一〇年以下の懲役または一〇〇〇万円以下の罰金に処せられます)

【お知らせ】
本掲載内容は、2015年10月02日から2015年11月06年の間に配信された「カエルの楽園」第一章(第1回~第6回)を一つの記事にまとめて再録したものです。
第1話から継続してお読み頂けている皆様は、既読の内容となりますので、予めご了承ください。




『カエルの楽園』第一章

      1

 ソクラテスが生まれ育った国を追われ、長い旅に出たのははるか昔のことでした。
 自分でもそれがいつの頃だったか思い出せないくらい遠い昔です。
 春のある日、凶悪なダルマガエルの群れが国にやってきたときから、平和だったアマガエルの国は地獄に変わりました。
 毎日のように仲間たちがダルマガエルに食べられました。
 多くの仲間たちが池を離れ、草むらに逃げ込みました。でも、アマガエルは近くに水がなければ生きてはいけません。それに池には食べ物になる小さな虫がいます。
 ソクラテスたちは毎日、水と食べ物を求めて池に行きましたが、そのたびに多くの仲間たちが命を失いました。
 それに草むらも安全な場所とは言えませんでした。なぜなら、そこには恐ろしいシマヘビがいたからです。シマヘビは闇にまぎれてそっと近づき、あっというまにアマガエルを飲み込みます。気付いた時はすでに体の半分がシマヘビの口の中で、そこから逃れることはまず不可能です。
こうして毎夜、草むらでも多くの仲間がシマヘビに食べられました。
このままではいずれ自分たちは死に絶える――そう考えたソクラテスは国を捨てることを提案しました。