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 みなさんこんにちは。
 コミケの準備は怠りないでしょうか。
 こっちはようやっとヒマになって『セラムン』の新作を見ていたのですが、どうも「崩れた少女漫画タッチ」を延々見ているとろくでなし子師匠をつい、思い出してしまいますな。
 さて、そんなこととは何の関係もなく、今回は『ダンガンロンパ』。
 以前、「もうこれきりネタにしません」的なことを書いた気もするのですが、あれはウソです
 今まで紹介した腐川冬子罪木蜜柑だけでもおわかりになるかと思うのですが、本作のシナリオライター、小高和剛氏はかなり女性に対してシニカルな視点を持った方だと思います。
 今回は本作の女子キャラクターについて軽く概観するすることで、彼の女性観を探ってみたいのです。
 そうした性質上、盛大にネタバレしますので、もしこれから本作をプレイ(或いは視聴)したいとお考えの方は読まれませんよう。
 それともう一つ。この『ダンガンロンパ』のキャラ設定はかなり特異です。
「あぁ、現実にいそう」と思わせるキャラから「ディフォルメされてはいるがリアルだ」と思わせるキャラ、徹底的にアンリアルなキャラまでが共存しているのです。
 何を言っているのかわからない方は、『スーパーロボット大戦』を思い出してください。70年代スーパーロボット物のキャラクターと『ガンダムSEED』のキャラが違和感も省みず会話をしているあの感覚。本作は意図的にそうしたフィクションレベルの異なるキャラを(本来なら統一しそうなところを敢えてバラバラに)設計し、共存させているように思われるのです。
 そこで本稿でもキャラの「リアル度」「フィクション度」「女子力値」を五段階で採点しました。
 リアル度が高いほど「現実に近いキャラ」であり、フィクション度が高いほど「フィクションに近いキャラ」です。女子力が高いほど女性ジェンダーを温存させたキャラです。以前書いたように、例えば「ジェノサイダー翔」はフィクショナルでありながら、そのフィクショナルな設定でリアリティを表現しており、そしてまた女子ジェンダーを温存したキャラなので
 リアル度:★★★★★
 フィクション度:★★★★★
 女子力値:★★★★★
 となります。
 ファンの方は夏コミの薄い本ゲットの参考にしていただければ幸いです(なるのか?)。
 後、ヒット数を稼ぐため、○○師匠を彷彿とさせるセンスのない週刊誌のリード文風タイトルをつけてみましたが、いかがでしょうか?

     *     *     *

超高校級のアイドル・舞園さやか

 リアル度:★★★★★
 フィクション度:★★☆☆☆
 女子力値:★★★★★
 何というかクセのない、平均点、最大公約数的、言ってみれば藤崎詩織的ヒロイン。
 主人公である苗木クンと中学時代同級生であったという設定からしても、イントロでは誰もが「あぁ、いわゆるメインヒロインか」と想像した人物。
 ところが彼女は本作において真っ先に退場してしまいます。
 というのも彼女は外の世界に出るために苗木クンに接近、色仕掛けで(エロ方面の手段は使いませんが、誰が見ても苗木クンに気があるだろうと思わずにはおれない振る舞いで気を持たせ)彼を罠にかけ、クロに仕立て上げようとするのです。
 何と言いますか、ある種「女子力」を十全に発揮した、という意味ではまさに「メインヒロイン」。
 女の本質は「女子力」を用いて男をコントロールするところにあります。
 それを使っていい旦那をゲットし、「母」へと「進化」するならば素晴らしいのですが、そしてまた仮にそうしたルートを拒絶したなら拒絶したで「女子力」の兵器利用をしないのならば素晴らしいのですが、彼女はそれをしてしまいました(アイドルとしても「枕営業をしたのでは……」と暗示させる発言があります)。
 そう、その意味で彼女はまさに「女子力」のネガを体現した存在でした。
 その肩書きはだから、むしろこう改められるべきでしょう。
 ――超高校級のハニートラップ

超高校級のスイマー・朝日奈葵

 リアル度:★★★☆☆
 フィクション度:★★☆☆☆
 女子力値:★★☆☆☆
 とある(多分、女性の)ブロガーが彼女を「キャラ中でも最もオンナを強く感じさせる」と書いていて「え?」と思いました。
 というのも、彼女は爆乳という身体的特徴を除けば、女性性が希薄だと思えるからです。
 小麦肌の体育会系少女。言ってみればセーラージュピター的キャラ。
 その種のキャラのお約束で子供のように無邪気で(事実、企画段階では妹系キャラという線も検討されたようです)エロネタが苦手。
 つまり、上にセーラージュピターと書いた通り、彼女はオタクの望むジェンダーレスな性格をしているように思えるのです。
 が、とは言え、彼女は時々、女の子らしさを垣間見せることもまた、事実です。
 苗木クンと霧切さんの密会を恋愛であると早とちりして励ましたり腐したり、また千尋を評して「ああいうタイプに限って男に媚びるのかも」などと言ってみたり。後者は特にキャラにあわない発言でギョッとしたのですが、しかしこうしてみると彼女は、「恋バナ」にリアル女子中学生的な関心を持った存在と言えます。これも小高氏独特のニヒリズムで、「テンプレな萌えキャラ」の上に、「いや、でもリアルなオンナってのはね」という毒を、敢えて多少、振りかけてみたようにも思えなくありません。いや、単純に「そういうことを言いそうな普通の女の子キャラ」が他にいないので取り敢えず言わせただけかも知れませんが。
 ちなみに、とは言え、先のブロガーさんの言い分はifのバッドエンドで苗木クン、十神、葉隠といったキャラたちと共に紅一点で生き残り、三人の男たちの子供を産んでいる、というシーンのインパクトが強かったからのようでした。
 その肩書きを書き換えるとしたらこうでしょうか。
 ――超高校級の女子中学生

超高校級の格闘家・大神さくら

 リアル度:☆☆☆☆☆
 フィクション度:★★★★★
 女子力値:☆☆☆☆☆
 ご存じない方はググってデザインをご覧下さい。悪い言い方をすれば「ネタキャラ」ですよね。デザイナーさんがどうもこういうのが好きなようで、このシリーズではいわゆる萌え的なキャラの中に山田クン、輝々と変則的なキャラを入れてくる傾向にあり、さくらちゃんもまたその一人と言えるでしょう。
 その最後まで気高く雄々しい行動からファンは「天使」「ぐう聖」と崇め、また親友の朝日奈が「さくらちゃんだって普通の女の子」と言ってはいますが、彼女に冠されるべき言葉は「漢」以外になく、最後の最後まで女性らしさの片鱗を覗かせることはありませんでした。これはこれで「あ、フィクションっスから」といった割り切りを感じさせるキャラ造形です。
 ――超高校級の漢と書いて「おとこ」

高校高級のギャンブラー・セレスティア・ルーデンベルク

 リアル度:★★★★★
 フィクション度:★★★★★
 女子力値:★★★★★
 日本、宇都宮出身、本名は安弘多恵子。
 にもかかわらず「セレスティア……(以下略)」を本名だと言い張る、全てがウソに包まれた女子高生ギャンブラー。
 彼女は山田クンを子分のように顎で使い、自らの殺人を手伝わせ、最終的には殺してしまいます。
 その時に山田クンをそそのかすために使ったのは、「石丸クンに乱暴された、彼を放置しては危険だ、彼を殺して二人でここから脱出しよう」と巧みに義憤と欲望につけ込むという手段であり、その女子力の高さは舞園さんを更に黒く、更にディフォルメしたようなキャラということができます。
 どこかのブログではかつての平和な学園生活の中、ぼっちだったセレスを山田クンが仲間の輪に誘ったのではという泣かせる(ちょっと山田クンに対してあばたもえくぼではと思われる)考察がありましたが、その真偽はともかく、見ていてセレスも山田クンのことは嫌いではなかったのでは、と思います。イケメンをかしずかせる生活を望みながら、ある意味、分相応な山田クンという子分しか得られなかったセレス。そしてまた、その子分を殺してしまう結末も、山田クンに依存に依存を重ねた結果という感じがしないでもありません。
 それは言ってみれば生後数ヶ月の我が息子に「男性ジェンダー」を背負わせ、殺してしまう母親のように(この話題については「女宮崎勤の歌う「感動的」な幼児殺害ソング」を参照)。
 常識で考えれば極悪人ですが、どうにも憎めないのは、この「セレスティア……(以下略)」といった自称が象徴するように、彼女があまりにもフィクショナルなキャラクターだから。ゴスロリファッションはもちろん、恐らく肌の色や目の色もファンデやカラコンによるフェイクなのでしょう。
 そもそもオンナというのは「ウソを愛しすぎている」存在です。
 舞園さんが「脱いでもすごい」、つまり「オンナの本性をある意味でさらけ出したキャラ」ならば、彼女は「虚飾をまといにまとうことで逆説的にオンナの本性を発揮したキャラ」です。
 肩書きをつけるならば、こうでしょうか。
 ――超高校級のデコまん

超高校級の文学少女・腐川冬子
超高校級の殺人鬼・ジェノサイダー翔

 リアル度:★★★★★
 フィクション度:★★★★★
 女子力値:★★★★★
 兵頭のお気に入りキャラということで、以前に既に扱っているのですが、少しだけ補足。
 以前、ぼくはジェノサイダー翔のキャラ設定が腐川のキャラクターが完成度を上げている、と書きました。更に言えばジェノサイダーのキャラは腐川の「理想」であるとも。腐川がノートにしたためている「ドリーム小説」の主人公がジェノサイダーであると考えると、非常に合点がいくのです。
 抑圧的な腐川に対し、ジェノサイダーは開放的。とは言え、話が進むにつれ、両者の印象は似たり寄ったりのものになってきます。というのもジェノサイダーはバンバン下ネタのギャグを飛ばしてきますが、実のところ腐川も話が進行するにつれ、バンバン下ネタを飛ばしてくるようになるから。
 ただし、そのやり方はジェノサイダーのものとは違い、相手の発言を勘繰って「いやらしいわね! ○○というつもり?」と難詰するというもの。例えば苗木クンが「話をしよう」と声をかけると「そう言って私に乱暴する気でしょう? エロ同人誌みたいに!」と言うなど。
 それに対して一度苗木クンが耐え兼ねたように、「腐川さんはいつもそんな風にボクを責めるけど話を向けてくる(実際に下ネタを口に出す)のはいつも腐川さんの方だよね」と指摘し、彼女が絶句してしまう様が圧巻でした。
 腐川さんの言動がフェミニストの、そして男性を性犯罪冤罪に追い込む女性のディフォルメであることは、もはや指摘するまでもないことでしょう。
 ――超高校級のセクハラ冤罪

超高校級のギャル・江ノ島盾子
超高校級の軍人・戦場むくろ

 リアル度:☆☆☆☆☆
 フィクション度:★★★★★
 女子力値:☆☆☆☆☆
 ギャルだが気がよく、実は貞操を大事にする――凡百のフィクションにありがちなキャラ。
 しかしこれは仮面であって、正体は戦場むくろでした。
 むくろは江ノ島に化けていただけで、直接の活躍をするわけではないので、コメントに困ります。ただ女子高生にして傭兵部隊に入るとか、本作のキャラの中でも一番フィクション要素の強い人であるとは言えましょう。
 肩書きは、上のギャル状態を含め、「漫画に出て来るようなキャラ」とのことで。
 ――超高校級の漫画のキャラ

超高校級の絶望・江ノ島盾子
 リアル度:☆☆☆☆☆
 フィクション度:★★★★★
 女子力値:☆☆☆☆☆
 ラスボスとして現れた、真の江ノ島。
 この人についても書くことはあまりないのですが、あの多重人格的キャラは本作の女子キャラのほとんどが何らかの意味で多重人格であったことを考えると、その集大成とは言えるでしょうか。
 ――超高校級の漫画のキャラ

超高校級の???・霧切響子

 リアル度:☆☆☆☆☆
 フィクション度:★★★★★
 女子力値:☆☆☆☆☆
 キャラとしては大好きなのですが、あまり書くことはありません。
 冷静沈着な探偵、苗木クンに対してもクールに接するが、たまにデレるところがたまらない――ある意味では萌えキャラのお手本とも言えますが、彼女も「リアルな女性」からのフィードバックはほとんどないキャラと言えるのではないでしょうか。
 ――超高校級の漫画のキャラ

★おまけ★

 さて、続編である『スーパーダンガンロンパ2』ですが、これについては今一、採り上げようという意欲が湧きません。よくも悪くも比較的「キャラ」「ゲームの登場人物」として完成しているキャラが多いと考えるべきか、女性のネガティビティをリアルにかいたキャラがいないと考えるべきか。
 罪木蜜柑についてはかつての記事を読み直していただきたいところですが、ここでは小泉真昼というキャラだけちょっと、ピックアップしてみましょう。

超高校級の写真部・小泉真昼

 リアル度:★★★★★
 フィクション度:☆☆☆☆☆
 女子力値:★★★☆☆
 初期に退場することも手伝い、非常に印象の薄いキャラ。
 そばかすだらけで、意図して不美人には描かれている上、キャラ設計にも突出したことのない、「地味」という意味でリアルなキャラ。
 うろ覚えですが恐らく、このキャラは常に「男子/女子」という言い回しを用い、他のキャラにはそれがなかったように記憶しています。
 ただし、「女子には優しく男子には手厳しい、勝気な委員長的性格」という部分はリアルであるが故にキャラが立っていたと言えます。「ちょっと男子ぃ!」というタイプですね。「女の子なんだからいたわらなきゃ」「そういうことは男子の役目でしょ」。
 危険な役目を「あなたは男子なんだから」と苗木クンに押しつけるシーンは霧切さんにもありましたが、彼女はキャラがリアルなだけにちょっと辟易とさせられます。『2』はかなり漫画的なキャラが多いのですが、恐らく彼女だけは「リアルな女子のイヤな部分」をかなり確信犯で押し出したのでしょう。
 ――超高校級の女尊男卑

★さらなるおまけ★
 9月19日の加筆です。
 考えると罪木蜜柑ちゃんについては、以前もエントリを一つ費やして書いたのですが、少しだけ補足しておこうと思い、書き足してみました。

超高校級の保健委員・罪木蜜柑

 リアル度:★★★☆☆
 フィクション度:★★★☆☆
 女子力値:★★★★★
 以前も書いた通り、彼女はいじめられっ子でしたが、最終的には殺人を犯してしまいます。
 普段の彼女は気弱でおどおどとした少女であり、そして裁判中も最後の最後、逃げ場がなくなり、居直るその直前まではおどおどとし続けます。
 さて、上に見てもわかるように彼女の女子力は★五つ。
 しかし普段の彼女がいじめられて「すみません、許してください、何でもしますから」と言いつつ服を脱ぎ出そうとする姿をフェミニストが見たら激昂するかも知れません。
「何が女子力だ! いや、これ即ち女子力こそ女性の『奴隷力』というパラメータに他ならないことの証明だ。まさに女性は世界の黒人なのだ!!」
 そのリクツもまあ、わからないではありません。蜜柑ちゃんのように「女子力が悪しき発露をする」場面というのも、ないわけではない。しかし気弱で受動的で可愛らしくて……といった彼女の属性は、必ずしも悪しき発露をするわけではなく、そのような属性故に可愛がられる、という場面も多いに考え得る……というか、まあ普通に考えればそっちの場面の方が多いと考えられるわけです。
 そして――ゲームのメインイベントである「学級裁判」においても、彼女の「女子力」は十全に発揮されるのです。
 主人公に疑われた蜜柑ちゃんは、その論理に対して反論するでもなく、「私のことが嫌いだったんですね」と泣き出します。「嫌われたくない」という心理は彼女の行動基準になっていて、そのために普段の彼女は相手の言うことを何でも聞いてしまうのですが、いったん自分が責められる側に回ると、論理を超越して、「相手が私のことを嫌いだから私を責めるのだ」と「責任」を回避するための方便にしてしまいます。
「可哀想な蜜柑ちゃん」が全く同じメンタリティを発露させることで「ふてぶてしい蜜柑ちゃん」へと豹変してしまう。非常に巧妙なシナリオだと思います。
 以前、森○○子ともめた時、彼女の取り巻きの女性が「ねえ、彼女が好きだからそうして絡んでくるの? ねえ、そうなの?」と極めて粘着質に尋ねてきて、非常なストレスを覚えたことがありました。
 が、この女性は悪気はなく、もちろん蜜柑ちゃんも「疑惑をかわしてやろう」などという計算はなく、両者ともただ「天然」でそうしたことを言ってきたのだと思います。
 そして(ちょっとうろ覚えですが、確か)蜜柑ちゃんが「そこまで嫌われていたなんて」と泣き出したとたん、今まで蜜柑ちゃんを疑っていた一同は一転、主人公に疑惑の目を向けてきます
 確か、既に証拠がかなり上がりチェックメイト寸前のところにまで追いつめていたはずなのですが、蜜柑ちゃんが泣き出したとたん、周囲も同情的になり、むしろ彼女を追い込んでいた主人公の形勢が悪くなるのです。
 恐らくこの種のミステリものでキャラが過度に情緒的に推理を否定し出すという展開はかなり例外的なのではないでしょうか。
 この展開は恐らく、シナリオライターの小高氏がかなり確信犯的に、女子力の厄介さを描こうという意図を持っていたからこそではないでしょうか。
 そう、彼女は徹頭徹尾、「女」であり続け、その悲喜こもごもを体現して見せた存在だったのです。
 
――超高校級の女子力