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ズッコケ三人組シリーズ補遺(その七)
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ズッコケ三人組シリーズ補遺(その七)

2015-03-27 21:08

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     相変わらず、あんまり女災と関係ない記事を、久米某が大手で連載している間にも続けるよ!
     後、性質上、ミステリなどもネタは全部バラしていますので、そこはお含み置きください。

    『ズッコケ三人組のダイエット講座』
    ●メインヒロイン:黛加奈子

    「モーちゃんがダイエットに挑戦する話」。
     地味な題材だと批判する向きもありますが、他のキャラで言えば「ハチベエがガリ勉になろうとする話」、「ハカセが勉強嫌いになる話」みたいなもので、面白くならないはずがありません。シリーズ物、キャラクター物の強みでしょう。
     また、後期『ズッコケ』の欠点である「大人ばかり描写して子供が傍観者に」というモノと異なり、本作はモーちゃんの内面がじっくり描かれ、那須センセの児童文学者としての本領が久々に遺憾なく発揮されています。
     後期の欠点というとシミュレーション(蘊蓄)趣味、展開の遅さも指摘されるところです。本作もダイエットをリアルにシミュレート、またメインの話題であるダイエットクラブが登場するのが後半からという面はあるのですが、しかし前半部もモーちゃんがダイエットに挑戦、苦い挫折を経験して傷つく描写が地味ながら繊細に描かれており、後半の盛り上がりはそれがあればこそです。
     三章より登場するビューティー・ダイエットクラブは免許のない黛加奈子が主催する私的クラブであり、最初からアングラな存在として登場してきます。この黛はガリガリに痩せ、ちりちりパーマをかけた(スネ夫のママ的な)インテリ中年女性。考えるとこうした那須センセがお嫌いそうな女性がここまでラディカルに悪役として登場するのは初めてです。
     イメージトレーニングなどの暗示療法で食欲を減退させるというダイエット法によって、モーちゃんもズンズン痩せるのです――が!!
     そのクラブは摘発されてしまいます。それもそのはず、暗示療法を前面に出しつつ本当に効果があったのは副次的に出されていたダイエットクッキーの方。それには違法な薬品が使われており、服用すると食べ物をまずく感じ、食欲を減退させる効果があるです。
     恐らく現実世界の悪徳健康法はそこまで理詰めの(言い換えれば確信犯的な)手法を使わないだろうから、リアリティには欠けるモノの、いかにも那須センセらしいロジカルな設定ではあります。
     センセは自らの禁煙経験を元に本作を書いたそうで、そうなるとこのクッキーは、チャンピックス(服用することでタバコがまずくなる禁煙薬)に対する反感から生まれた設定かも知れません。
     さて、そのクラブが摘発されて以降もモーちゃんの体重は見る見る減ります。四章は「ラスボスを倒したのに平和が戻らない」そのホラー感に費やされ、痩せたモーちゃんのイラストは年少の読者にトラウマを与えるに充分のインパクトです――が、最後の数ページ、(今まで蚊帳の外であった)ハカセとハチベエが忘年会を催すことでモーちゃんの拒食症を癒すのがクライマックスとなります。
     みんなでごちそうを持ち寄り、美少女トリオも参加、ハカセはモーちゃんが太っていた時期の遠足のビデオを上映。丸々と太り、美味しそうに弁当を食べる自分の姿を見つめるうち、ごちそうに手を着けるモーちゃん。美少女たちも手ずからアイスを食べさせてやるサービスぶり。
     後期シリーズは美少女トリオの出番が多くなり、それは少女読者対策という空々しさを感じさせることも多かったのですが……本作のモーちゃんに優しくしてやる美少女トリオには全く嫌味がなく(むろん、それはハチベエではなくモーちゃん相手だったからこそとは言え)、楽しげな忘年会は陰鬱な本作の展開を一気に吹き飛ばすカタルシスに満ちています。

    『ズッコケ驚異の大震災』
    ●メインヒロイン:なし

     三人組が被災するお話。出版年は1998年、言うまでもなく阪神大震災を踏まえたもので、作中でもそれへの言及がなされます。
     本シリーズは広島をモデルにした稲穂県ミドリ市を舞台にしているのですが、震源地となったのがこのミドリ市。作中で政府がこの地震を「稲穂県南部地震」と命名する下りがあるのですが、地震規模は阪神大震災と同クラスとされており、どちらかと言えば「中国大震災」とでも称されそうな気がします。
     地震の予兆を描写、三人組それぞれの日常を執拗に描き、タメにタメた上で発生する大地震。
     今回、印象的だったのは普段の気弱さを放り出し、(まあ、町へ出て困っている人々を目の当たりにする機会があったからでしょうが)身を挺して老人を助けるという男気を見せるモーちゃん。
     ハチベエも震災に遭ったその日から「明日から八百屋を始めよう。儲かるぞ」と言い、実際あまり日を置かずして営業を再開します。普段は「ちゃらんぽらんなガキ」として描かれるハチベエが、八百屋の跡取りとしての商才や商魂、バイタリティを見せつけます。また、普段は苦手にしている宅和先生が無事と知り、抱きついてしまう描写も泣かせどころ。まあ、最後にトイレ掃除を買って出る辺りはちょっといい子過ぎる気もするのですが(一方、ニュースキャスターやボランティアのお姉さんには、父が死んだと嘘をつく悪い子ぶりも発揮します)。
     ひるがえって、ハカセは影が薄い。いざとなるとインテリなど頼りにならないと取るべきか、それとも「いざ俺が被災したら慌てふためくばかりだろうな」と考えた那須センセが(自らを投影したキャラである)ハカセの活躍を抑制させたのでしょうか。

    『ズッコケ怪盗Xの再挑戦』
    ●メインヒロイン:なし

     基本、『ズッコケ』シリーズは毎回設定がリセットされるのですが(それ故前作の地震も他の作品ではなかったことになっています)怪盗X編だけは唯一の例外で、連作になっています。
     が、本作は前作以上に微妙。前回は怪盗Xのバックボーンが暗示され、それは怪盗物としてはマイナスだとは思うモノの、それなりに那須センセらしさが出ていました。
     が、今回の怪盗Xは普通に敵を演じているだけ。また、最後にハチベエが活躍するのはいいのですが、三人組がXを発見したのは何のことはない、偶然です。モーちゃんがいきなり何ら必然性なくデパートの屋上で望遠鏡を覗いたことがそのきっかけ。作者も気が引けたのか、ハチベエに「何だ、あいつ幼稚園児かよ」とつっこませているのですが、それが却ってこちらを「あれ? モーちゃんはXに操られているのか?」とミスリードさせ、マイナス要因になっています。
     そもそもデパートの社長が三人組を「怪盗Xの犯罪を阻止した小学生」として一目置き、警備を依頼するというのも……そこまでやるならいっそのこと本当の番外編(『クレしん』で時々入る「SHIN-MEN」編みたいに)にして、三人組に事務所を構えさせ、事件を推理、逮捕までさせるとかした方がよかったのではないでしょうか。

    『ズッコケ海底大陸の秘密』
    ●メインヒロイン:藤本恵

    『探検隊』にも登場したハチベエの叔父のところへ遊びに行くと、行方不明者が出ており、その娘、恵と共に捜索に出るが……というのが導入部。
     地元のカッパ伝説が絡んできたりもするのですが、本題に入るのは三章から。繰り返される「後期シリーズは展開が遅い」との批判がこれにも当てはまります。
     カッパの正体は海底人であり、一同は彼らの海底都市に連れて行かれます。彼らは比較的近年に地上人から枝分かれした存在で、原発事故で地上を汚染、氷河期を終わらせてしまい、五千年の間海底洞窟で暮らしていたが(……?)、それでも地上には復帰できなかったのか、生体改造で自らを海底人に改造(……??)、エラ呼吸をする怪物のような姿になってしまったのだった(……???)。
     一同は海底人に、「見守る人」としての適性を審査されます。「見守る人」とは地上人が環境破壊や原発などによって地球を汚染せぬよう見守るエージェント。『山賊修行中』ではつちぐも一族があくまで子孫繁栄のために三人組を誘拐したのに対し、海底人は(自分たちの姿を目撃されてしまった、との理由もあるとは言え)「見守る人」にするため、との目的意識から誘拐しているわけです。
     つまりこの海底人たちは『宇宙大旅行』に出て来た美少女宇宙人に近い、「ニューエイジ的超越者」、神様的な異人として描かれているのです。
     しかもニライ文明との呼称が暗示する通り、著者はこの海底人に琉球人の影を見ているようです。キーマンとなる知念老人も大戦時の米軍に撃沈された沖縄の学童疎開船から海底人に助けられ、「見守る人」になったと説明されます(対馬丸の事件がモデルになっているようです)。これは沖縄出身の脚本家、上原正三がアニメや特撮で繰り返し「地球に帰化する宇宙人」の話を書いていたことと好対照で、それへの「返歌」という感じが、しないでもないのだけれども……何より奇異なのがハカセが「ぼくも地上の生活や家族を捨て、見守る人になろう」と決意する下りです。おい、それはちょっと……どうなんだ?
     最終的には、一同が「見守る人」として不適切だと判断するや、海底人は記憶を消去して、地上に戻してしまったのだった……れれっ!?
     記憶消去ネタも場合によってはアリだけれども、今回は何とも肩すかし。ハカセの高潔な決意は何だったのでしょう。
    「見守る人」の一人として登場する安城マリアは『時間漂流記』の若林先生、『宇宙大旅行』の美少女宇宙人と同様の超越型ヒロインであるにも関わらず、出番も少なく魅力を発揮できたとは言い難い。更に事件のきっかけとなった恵の父もキャラとして機能しているとは言い難いし、これなら当初からマリアを謎の美少女として登場させ、カッパ騒動→第二章冒頭で海底人の都市へ……とでもした方が話を書き込めたでしょう。

    『ズッコケ三人組のバック・トゥ・ザ・フューチャー』
    ●メインヒロイン:駒沢民

     ハカセが「自分史」の製作を思い立ったことをきっかけに、過去を探る三人組。それぞれのあだ名の由来、それぞれがつきあい始めるきっかけなど、根本的なことでも意外や記憶は曖昧だと気づき出す導入部から、掴みはOK、という感じです。
     レビューブログでは「あまりに後ろ向き」、「子供の興味を惹かない」と辛口の点がついているのですが、一つに「誰も知らなかった三人組の秘密大公開!」とでもいった趣があること、もう一つにむしろ子供こそ数年前でも大昔に感じることを考えると、充分興味を惹く題材なのでは、と感じます(子供には過去と現在の区別がついていないとするブログもあったが、本当か?)。
     ただし、タイトル詐欺の非道さは(あとがきでは言い訳があるのですが)言い訳の効かないレベルで、『バック・トゥ・ザ・過去』、或いは『ズッコケ初恋秘話』とでもした方がという気はします。
     ストーリーはハチベエが小学生の頃に遊んだことのある幻の美少女について調べるうち、それがハカセの母親を轢き逃げした犯人の娘なのでは……と展開していき、ムードは冒頭の甘い初恋のものから一転、きな臭いものに。そうしたシビアなテーマから、ハチベエが柄にもなく意気消沈する様は見ていて辛くもありますが、それはモーちゃんが食欲を失う『ダイエット講座』同様、キャラの深みと見るべきでしょうし、またそれと同じに子供の繊細な心理を描写した作品に仕上がっています。
     成長した初恋の少女、民との再会がクライマックスですが、ここでハチベエのあだ名の由来が(それまでの劇中での定説を覆し)判明するという展開も憎い。また、彼女と出会ってからは立ち直り、デートに誘おうと皮算用をするハチベエで話が終わるのも好印象です。
     ただ、本シリーズに楽屋落ちが多いことは以前にも書きましたが、本作の冒頭にもハチベエが「ファミコン」をやっている描写の後、「世の児童文学作家たちも、おおいにゲームを研究して、その魅力を小説のなかに取りいれなくてはならない。」との一文が入ります。これは自虐か、自負の現れか……1999年に「ファミコン」って言ってる時点でちょっと……。
     最後に。高橋センセの絵は可愛すぎるとの評もあるのですが、今回の民、そして一年生時代のハチベエの可愛さは図抜けていて、やはりそれだけで点が高くなってしまいます。
     それと解説の松谷みよ子センセ……何書こうと勝手だけど、子供相手に「水にありがとう」を吹き込むのはよしてください(ご冥福をお祈りします)。

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