Vol.274 結城浩/カクノ/仮想通貨「モナコイン」/「芽」を育てよう

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年6月27日 Vol.274

はじめに

おはようございます。結城浩です。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

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新刊の話。

いよいよ今週、 『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』 が刊行になります。

いよいよです! 自分で言うのも何ですが、 本を一冊書き上げるというのは、本当に時間と手間が掛かるものです。 ようやく、ようやく一冊できました。 どうか、この本を必要としている読者にこの本が届きますように!

この結城メルマガが配信される火曜日、 結城は編集部に出かけて、「お化け坊や」のキャラクタを描きます! 要は、いくつかの店舗で先行販売される《サイン本》にするのです。

《サイン本》は三桁の冊数がありますが、 各書店さんに配本になると、どうしても数が少なくなってしまいます。 もうしわけありません。

また、《サイン本》とは別に、チェーン書店さん経由で 《メッセージカード》が同梱された本も発売されます。

詳しい日程や《サイン本》取り扱い書店さん、 《メッセージカード》同梱のチェーン書店さん一覧については、 以下のページをご覧ください。

 ◆『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』サイン本&メッセージカード 取り扱い店舗一覧
 https://bit.ly/note9msg

 ◆『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』
 https://note9.hyuki.net

応援よろしくお願いします!

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「継続は力なり」の話。

今週は、結城が「継続は力なり」を実感する週になります。 どういうことかといいますと、今週は……

 『数学ガール』が刊行してからちょうど十年目で、

 Web連載「数学ガールの秘密ノート」が第200回を迎えて、

 「数学ガールの秘密ノート」シリーズの第9冊目、
 『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』が刊行される。

そのような節目となる週だからです。 これはひとえに、読者さんのおかげです。

そういえば、2012年4月に開始したこの結城メルマガも、 いつのまにか6年目に入っていました。 購読者さんも、少しずつ増えていき、ほんとうに感謝です。

 ◆結城メルマガ購読者数のグラフ

2017-06-26_mmcount.png

購読者数のグラフを作るたびに、 結城は、しばしこれを見つめてしまいます。 文字通り、じっと見つめます。

グラフを全体として眺めるなら、 購読者数がじわじわ増えていることがわかります。 でも、ある一部分だけを区切って眺めるとどうでしょう。 そうすると、 購読者数ががくっと減っているところが多々ありますね。 そのタイミングで「ああ、もうやめよう」 と思う可能性もあったわけです。 そして、もしそこで結城メルマガ執筆を止めていたならば、 グラフはそこで終了していたことになります。

ですから、購読者数のグラフをこれだけ長く描けたというのは、 それだけで大きな意味があることじゃないかと思うのです。

もちろん、 購読者数の増減を意識して改善することは必要です。 でも、それはそれとして、まずは継続する。 継続してみる。長く続ける。続ける。 何年も継続する、そのことを通して、 結城は自分の中に大事な土台を作っているように思います。

うまくいくときもある。うまくいかないときもある。 でも続けていけば、グラフは伸びる。 そして、新たに描かれるグラフの背後には、 結城の文章を読んでくれる読者さんがしっかり存在している。

結城がこのグラフを見つめてしまうのは、 そんなことを考えるからです。

継続は力なり。

これは結城の父親が繰り返し語っていた言葉でもあります。

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Draftの話。

以前から「数式をさっとメモするWebアプリDraft」を作り、 少しずつ改良を続けています。 Web連載のアイディアを練るときも、 ちょっとLaTeXの書式を確かめたいときも、 結城はDraftを便利に使っています。

今回「複数シート」対応を行ってみました。 その結果、7枚の「シート」があって、 それぞれ独立に数式が保存されるようになりました。 感覚としては、7ページ分のノートが手元にある気分です。

神経を使ったのはユーザインタフェースです。 もともとDraftは「Distraction Free」を売りにしています。 つまり、執筆している最中に「気が散らない」ということ。 でも新たな機能を入れちゃうと、 そこを使うための情報が表示されてしまいます。

まず、7枚の「シート」に番号を付けました。 そして、メニューバーには7個の番号が並んでいて、 好きな番号をクリックすればそのシートが表示されるようにしました。 まあ、そこまではいいでしょう。 でも、常に7個の数字がピカッと光っているのは気になりますね。

ということで、 数字を暗く表示するようにCSSを調整し、 目立たないようにしました。 ユーザ(自分)の気を散らさないように。

しばらく使っていると、 「あの文章は7枚のどこに書いたっけ?」 という現象が起きるようになりました。 順番にシートをめくっていかなきゃいけないのはナンセンス。 でも内容の一部がいつも表示されているというのも気にくわない。

ということで、 「シート」が空っぽかどうかを判断しやすくしました。 「シート」が空っぽなら、番号を暗く表示する。 「シート」に何か書いてあれば、番号を明るく表示する。 これなら許せる範囲でしょう。

Draftで「複数シート」を使っている動画を作ってみました。

 https://twitter.com/hyuki/status/874624399713775617/photo/1

数式をさっとメモできるDraftは、 なかなかいいですよ。

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不自由律短歌の話。

先日、Twitterを眺めていたら「不自由律短歌」というハッシュタグを見つけました。

不自由律……短歌?

そのハッシュタグに続いて、

 729796

のような謎の数列が書かれています。 どうも、その数列に従って「短歌」を作る試みのようです。 つまり、

 7 2 9 7 9 6

という音数で短歌を作るのです。

なるほどね! 通常の短歌なら57577になるところを、 別の数列を使うという試みだと理解しました。

こういうのを見ると、とりあえずやってみたくなるのが人情。 ということで、729796で作ってみました。

 夜きみと会い
 朝
 きみと別れる日々
 地球の自転
 背負い投げしていま
 森を抜ける
 (結城浩)

いかがでしょう。

 ◆Twitterで「不自由律短歌」を検索
 http://bit.ly/2sHheYI

こういう試みを見ると「文字数の制約」というのは、 いわゆる制約にはならず、 むしろ創造性を発揮する源になるように感じます。 不思議なことですね。

形が決まっている方が、自由になれる。

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「それな」の話。

先日、こんなツイートを見かけました。

 ◆【緩募】「それな」「わかる」に該当する論理記号
 https://twitter.com/fujisyu/status/875596188426289154

おもしろい発想! と思いました。

「それな」というのは、 正確にニュアンスを表現するのは難しいですが、 「そのとおり! そうだよね!」に近い表現です (乱用するとうるさがられます)。

「それな」を表す記号って何でしょう。

数学で使う記号にはいろいろあります。

 ◆数学で使う記号いろいろ

2017-06-26_kigou.png

「したがって」や「なぜならば」は手書きでは使いますが、 あまり本の中では使いませんね。まあ、それはさておき…… 結城は先ほどのツイートを見て、

 「それな」に該当する記号を考案せよ

という問題を見出しました。そして考えたのがこれです。 残念ながら「論理記号」とはいいがたいですけれど。

 ◆「それな」を表している数式?

2017-06-26_sorena.png

(x-μ)/σというのは形として、人が指をさして「それな」 というようすを表しています。そしてそれと同時に、 この数式自体に数学的な意味があります。

xを自分の試験の点数とし、 μを平均点とし、σを標準偏差を表すとします。 すると、(x-μ)/σの値は、

 自分の点数が平均点からどれだけ「すごい」位置にあるか

を教えてくれる場合があります。 この値に10を掛けて50を足すと、 いわゆる「偏差値」になりますね。

それな。

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TeX2imgとimgcatの話。

結城は書籍の図版をTeX2imgというツールで作っています。 LaTeXやTikZで書いたソースをTeX2imgで変換すると、 epsやpdfやpngなどの好きなフォーマットにしてくれるのです。 「数学ガール」シリーズの執筆でも欠かせないツールになっています。

 ◆TeX2img - TeX Wikiのページ
 https://texwiki.texjp.org/?TeX2img

ところでTeX2imgとは別にimgcatというツールがあります。 これは、MacのターミナルソフトiTerm2の画面内で画像を表示するためのもの。

 ◆iTerm2 - Images
 https://www.iterm2.com/documentation-images.html

結城はこの両方を知っていたのですが、 あるときふと、

 TeX2imgとimgcatを同時に使えば便利じゃね?

と気づきました。 つまり、

 (1)LaTeXでソースを書く
 (2)TeX2imgで画像に変換する
 (3)imgcatで画像を表示する

という流れで作業するということです。 具体的には、

 tex2img input.tex output.png 
 imgcat output.png 

という二つのコマンドを実行することになります。

いままでは、TeX2imgで変換した画像を、 Macのプレビュー.appを使って表示していました。 そのため、プレビューのウインドウがたくさん開き、 画面がうるさくなっていました。

関心があるのは、最後に作った画像だけです。 それをチェックしたいだけなのに、 ひとつ前、ふたつ前の画像がちらちらしているのは無駄です。

imgcatを使ってターミナル上に画像を流し、 そこで確認すればとてもすっきりします。

なぜこんな簡単なことに気づかなかったんだろう!

簡単な実行のようすを動画にしてみました。

 https://twitter.com/hyuki/status/874790731767980032/photo/1

たくさんの画像をLaTeXで作り、 しょっちゅう確認する作業をしている人にはとても便利です。 書籍の図版を作っているときの結城のことですが……

 * * *

勉強の話。

数学の本を読んで勉強していました。 それほど長くない証明だったので、 これは自分にも読めるかな……と思って進んでいきました。

一ページの証明を、具体例を作って一歩一歩読んでいきます。 確かめつつ読んでいくので時間がかかります。

苦労しつつも最後まで来て、 最後の最後に「ここで明らかに定理が成り立つ」と書かれていてショック。 その最後のステップが理解できなかったから。

「なぜ? なぜ成り立つの?」

夜道を歩いてきて、ようやく玄関前まで来たのに、 ポケットに鍵がないみたいな気分……わーん!

そんな話をしていたら、ある数学者さんから、 「それは、その証明を書いた人が悪いですよ」 と慰めていただいた。

ありがとうございます……でも、 この証明を書いたのはガウスなんです……

 * * *

それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。

どうぞ、ごゆっくりお読みください!

目次

  • はじめに
  • 仮想通貨「モナコイン」のポータルサイト
  • カクノで書くの?
  • 芽を育てよう
  • おわりに