ゆかりさんが物語を建てる:いつかの栞 ショウセツ版
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ゆかりさんが物語を建てる:いつかの栞 ショウセツ版

2019-04-10 14:58
  • 2
いつぞや投稿した茶番動画(https://www.nicovideo.jp/watch/sm34181068)の台本を小説風に書き直したものです。なんかこう、そんな感じで。めんd技術不足で表現しきれなかったこととか色々足してます。結果、長い。



 昇って間もない太陽のぼんやりした光が、背の高い見張りやぐらを照らす。絶えることなく吹き抜けて行く風がやぐらの柱を微かに軋ませて、やぐらよりも背の高い大樹が立ち並ぶ森をごうごうと揺らす。怪物の咆哮にも似た樹々の音を聞きながら、たった今やぐらの上に辿り着いた影が2つ。梯子を上って来たのは茶髪を後ろへ流した大柄な男。ダークレッドの上衣に鈍色の胸当て、背中には剣を帯びている。腰に巻いたベルトの銀色のバックルには、剣と盾を図案化した紋章が刻まれている。その傍ら、空から飛び降りて来たのは黒髪の青年。衣服の背には穴が開いていて、灰色の翼が生えている。大柄な男と同じベルトに似たような鈍色の防具をつけているが、こちらは胴当てである。
「お、タイミングいいな」男が笑えば、青年は「そっすね」と気の無い返事。男はやれやれと軽く肩をすくめると、やぐらの手すりに寄りかかって言った。
「そういや、お前が来てからもう1年だな」
「はー、1年っすか」
「こっちの生活にはもう慣れたか」
「いやまあ……慣れたっつーか、なんつーか……慣れたっちゃあ慣れましたけど……」
 翼の生えた青年は男の横で手すりにだらりともたれ掛かる。かと思えば勢いよく上体を起こして言った。
「やっとの思いで入団して、汗水垂らして死にかけてまで訓練を修了して、配属が決まったと思ったら聞くからにやべー場所で、そりゃもうワクワクしながら何日もかけて配属先まで辿り着いて、そしたらっすよ? まさか目の前がカボチャ畑だなんて思わないじゃないっすか!」
 青年はまくし立てながら眼下に広がるそれを鞭打つが如く指差す。やぐらの足元、少し離れた地面にはオレンジ色の大きなカボチャが朝日に照らされてゴロゴロすくすくと育っていた。近所に住む農家が所有する畑である。
「しっかも毎日毎日のんびり巡回と筋トレと掃除だけって、のどかなモンっすねー。あーあ、今日も平和だ飯がうまーい!」
 大きく伸びをしては仕舞いだとばかりにまた手すりにもたれ掛かる。「まーまー喚くな若者よ」と男は溜め息をついた。
「ちょっとぐらい文句言ったっていいじゃないっすかー減るもんじゃなし」
 不満げに小さくはためく灰色の翼。男はうなだれた背中に「ペウルス」と呼びかけた。名前を呼ばれた青年は気の無い返事をした。
「そういやお前、教官は誰だったんだ?」
「教官? 訓練の? レグナーさんっすけど」
「うはぁ、あの爺さんまだいんのか?」
「あと500年くらいは死なないんじゃないんすかね」
「ハハ、だろうなぁ……じゃあ、教官、言ってなかったか? 『《怠け者》とは我々にとって至上の褒め言葉だ』ってな」
 青年、ペウルスは身を起こし、手すりに頬杖をつく。物憂げな顔は、どこか遠くを見つめていた。
「色々心当たりのありそうな顔だな? 俺だって思うんだよ。こんなところ、砦なんて置かなくてもいいんじゃないかってさ」
 でしょうね、とペウルスは溜め息混じりに言った。
 春の心魔(しんま)の砦──彼らの任地であり、ある意味では最も平和な砦と呼ばれる場所。その理由は、今まさに彼らの背後で低く唸る巨樹の森にあった。
「世界は狭いようで広いんだ」男は言う。世界には様々な人がいる。人間だって、そもそも3種類存在する。
 凡庸な容姿に多様なものを生み出す能力を持った鉄の民、人間以外の獣の特徴を持ち身体能力に優れた牙の民、植物の特徴を持ち他の誰も模倣し得ない力を有する根の民──形も力も、考え方でさえも違う3つの民の総称が人間である。剰え、それらが広い世界のあちこちに散らばっていては、知っていることも知らないことも、十人十色である。
「……この森が世界最悪の危険地帯だと、俺たちのように理解している奴がいれば、そうじゃない奴もいるんだ」
 男はやぐらの柱に寄りかかって、森の方を一瞥した。そっすか、と返す青年を見て小さく溜め息をついては何気なく下を見て、声をあげた。地上の道を、誰かがこちらへ歩いてくる。
「お?」
「なんすか?」
「噂をすりゃあ『そうじゃない奴』のお出ましだ」
「いやまさかそんな丁度よく……」
「何寝ぼけたこと言ってんだ、行くぞ」
「……マジすか」
 唖然とするペウルスをよそに男はハシゴに足をかける。
「どうだ、世界は広いだろう? 暇しなくてよかったじゃねえか」
 ハッハッハ──降りて行く男の高笑いが響く。
 適当なこと言いやがって、と呆れた顔で舌打ちひとつ、ペウルスはやぐらから飛び出し宙を舞った。


***


 首輪。読んで字の如く首にかける輪。ある種の装飾であると同時に、手綱をかけ易くする為の道具であり、服従を表すものでもあった。

 朝日を浴びて道を歩く2人の少女がそこにいた。が、表情は一様に強張って暗く、日課の散歩の真っ只中というわけではないのは明らかだった。朝食もそこそこに宿を後にして、真っ直ぐ目指すのは街の片隅にひっそり佇む砦。すぐ後ろにそびえ立つ巨樹と背比べをしているかのような見張やぐらが目立つ、春の心魔の砦だった。
「ねえ、やっぱりただ行くんじゃ追い返されちゃうんじゃ……」
 か細く声を上げるのは、燃えるような赤毛を長く伸ばした少女。眉を八の字に下げ、髪と同じ赤褐色の瞳は今にも泣き出さんばかり。
「大丈夫だって! アタシはともかくSランクの冒険者がいるんだよ? 防衛団だって鬼じゃないんだから」
 赤毛の少女の1歩先で胸を張るのは、短い黒髪に利発的な青い目をした少女。大丈夫大丈夫と繰り返してこそいるが、表情は硬い。
 そして辿り着いた砦の入り口。黒髪の少女が勇んで扉を開ける。さほど広くない室内の正面には受付、左右に少し伸びた通路の先には扉。
「すいませーん」
「ちょ、ちょっとヘレナ」
 黒髪の少女が声を上げると、受付の奥の扉が開いて若い女が姿を現した。腰までふわりと伸びた淡い桃色の髪、同じ色の優しげな目。頭には見事なアーモンドの実がついている。飾りに見えて、実際頭から生えているので引っ張ってはいけない。
 オレンジ色のワンピースを、胸の下の位置でベルトで締めている。銀色のバックルには、やぐらにいた2人と同じ剣と盾の紋章。
「あら、こんにちは」
「こんにちは」
「あああごごごめんなさいお邪魔してます……」
 目を細めて女が笑いかければ、黒髪の少女は姿勢を正し、赤毛の少女は及び腰で後ずさり。更にその後ろ、入り口から少し離れたところに、バサバサと音を立てて翼をはためかせ黒髪の青年が降り立った。
「なんなんすか……今日誰か来るなんて聞いてないっすよ?」
 青年はやれやれといった面持ちで室内に入って来る。
「防衛団【白銀(しろがね)】ホーニス支部のアミグダと申します。今入ってきた彼はペウルス」
「……ペウルス・ラル・サンバルト」
 アミグダと名乗った女が手で示した先で、ペウルスは何が気まずいのか少女2人から視線を逸らした。
「お2人のお名前と所属を教えていただけますか?」アミグダは手元に帳簿を広げた。
「あ、はい! ギルド「鋼花火」の、Aランクのヘレナ・プレーリーです!」
「お、同じく、カレン・フォルマです……」
 対照的に名乗った2人。赤毛の少女、カレンは、その頃裏口と思しき扉から入ってきた大柄な男に気づいては更に萎縮したように身構えた。
「鋼花火のヘレナさんとカレンさんですね。本日はどういったご用件で?」
「単刀直入に言います」
 アミグダの問いかけに黒髪の少女、ヘレナは居住まいを正し、軽く息を吸って言い放った。
「『ドクハクの森』を任意探索したいんです!」
 ドクハクの森──即ち、世界最悪の危険地帯であり、ここに砦が設けられている唯一にして最大の理由。そこへ身を投じたい、とこの若い冒険者は言ったのであった。
「おい、嬢ちゃんや」
 ペウルスとアミグダが完全に呆気に取られる一方で、ヘレナのすぐ横から低くドスの効いた声が響く。ヘレナが跳ね上がりながら声のした方を見ると、大柄な男が眉根を寄せてこちらを睨んでいた。
「……白銀ホーニス支部、春心魔(はるしんま)の門番、カイル・グンターだ。名前は?」
 胸板を覆う防具の前で腕を組み、カイルと名乗った男は少女の答えを待つ。
「へ、ヘレナ・プレーリー。鋼花火のAランク」
「鋼花火……イルマイトのギルドだったか……遠路遥々ご苦労さんと言いたいところだが、さっさと帰ってくれ」
 にべもない返答にカレンはああやっぱりとばかりに小さくうめき、しかしヘレナは懐から1枚のカードを引っ張り出し、食ってかかる。
「なんでですか。ここにちゃんとギルドカードもあるし、Aランク以上は危険度に関わらずどこでも任意探索出来る筈ですよね?」
「知らんのか……ここは例外だ。依頼状が無ければ通せない」
「じ、じゃあ、ここの依頼状はどこで見れますか?」
「……そこまでして、一体何が目的なんだ」
 ヘレナは微かに息を詰まらせると少し俯き、苦々しく言う。
「デスブルームって花が必要なんです」
「デスブルーム? 何故だ。あんな毒の塊のようなモノを、一体何の為に?」
「それ、は……」
「言えんような理由ならこちらも話を聞く義理は無いな。さっさと帰るんだ」
 するとヘレナはキッと顔を上げた。
「カレンが、カレンに《首輪の呪い》がかけられたんです!」
 言った直後、ヘレナは「あっ」と小さく息を漏らす。口を滑らせた。
 ──首輪。読んで字の如く首にかける輪。ある種の装飾であると同時に、手綱をかけ易くする為の道具であり、服従を表すものでもあった。呪いであろうとなかろうと、年若い少女に『首輪が掛けられている』ということ自体、砦の空気を凍らせるには十分だった。
 カイルが鋭くペウルスを呼ぶと、ペウルスは短く返事をしてカレンのすぐ側へ進む。
「ごめん、少し上向いてくれる?」
 ペウルスはカレンの首元に注視しながら人差し指で軽く天井を指す。
「こ、こうですか?」
 カレンはあたふたと視線を泳がせながら、きゅっと目を瞑って上を向く。
 ペウルスは目を細め、集中する。多種族よりも魔力に過敏な牙の民は、訓練を重ねることで本来視認出来ないはずの魔力の類を知覚することが出来た。ペウルスも訓練を重ねた牙の民の1人。全神経を視覚へ、些細な空気の色の違いでさえも読み取るべく。
 ──果たして、カレンの首元に悍ましい色の閃光が迸るのを見た。今にも自由を奪ってやると手をこまねくが如く這い回り、いくつもいくつも絡み合っている。ペウルスは苦い顔をしてカレンから離れた。
「……確かに《首輪の呪い》だとは、思うんすけど、普通のよりもっと複雑になってるっすよコレ。多分簡単には解けないっす」
 アミグダは息を飲む。
「……まさか、それで、解呪の対価として『デスブルームを取ってこい』って?」
「クソかよ」ペウルスは小声で毒づいた。
「アタシのせいなの! Aランクに飛び級して、調子に乗って変なことするから……だからアタシがなんとかしなきゃいけないんです! お願いします!」
 声を荒げ頭を下げるヘレナに、カイルは、駄目だ、とひと言。
「そんな……そうじゃなきゃカレンが助けられないんです。あと3日しかないんです!」
「だとしてもこの森は危険すぎる」
「30分だけならいられるって聞きました! その間だけでもいいから!」
「駄目だと言っているだろうが!」
「どうして!」
「お前のような奴が入っていい場所じゃねえんだ!」
「じゃあもうおじさんが取って来てくればいいじゃない!」
「ふざけたこと言ってんじゃねえ!」
 少しずつ声が大きくなっていく2人。が、それ以上に大声を上げたのがアミグダだった。
「静かになさい!!」
 ピシャリと言い放った彼女の足元からオレンジ色の光が広がって砦を包み込み、「うげっ」とペウルスが顔を青くした次の瞬間、地面から突き上げるような強烈な揺れが襲う。
「きゃあああっ!」
 バランスを崩す少女2人をペウルスとカイルが支える。周りでガタガタと物が倒れて落ちて、アミグダは羽ペンとインク瓶を支えて1人平然と立っていた。
 ややあって揺れが収まり、慣れた様子でテキパキと片付けを始めるアミグダ。それに倣うように慌てて受付の周りの散らばったものを拾い始めるペウルスとヘレナとカレン。カイルが眉間を抑えながら受付の中へ入っていくと、アミグダから書籍の山をドンと手渡された。
「まったく、若い人相手にまーた熱くなっちゃって。まずはお互いの言い分を整理しましょう」
 アミグダはさっさと回れ右して別の本棚の整理を始めたが、カイルは少し苛立っているような、バツが悪いような複雑な顔でその場から動かない。
「いや、お前もお前ですぐああやって──」
「カ イ ル さ ん?」
 辺りにオレンジ色の光がチラつく。怒気を孕んだ声に遮られて、カイルは大きく咳払いをする。
「そ、そうだな……」
 手早く片付けを済ませたアミグダは、控室から椅子を持ってきてはヘレナとカレンを手招きする。
「ほら、2人とも座って座って」
 そわそわふわふわと落ち着かない様子で着席する2人。その周りに更に3人分の椅子を集めて、砦の扉をしっかり閉じて、5人は輪になった。
 全員の顔を見渡しながらアミグダは静かに言う。
「まず、細かい経緯は聞かないでおくけど、ヘレナさんはカレンさんを恐らく人質に取られている状態。そして呪いを解く対価として『デスブルームを取ってこい』と言われて、なんとかしてここへやって来た。『ドクハクの森』の危険度は……勿論知っていたのよね?」
「……はい」
 ヘレナが小さく頷くと、カイルは溜め息をついた。
「危険だけどとりあえず行ってみようってか。そんなことではリスポーンと後悔が重なるだけだぞ」
「それはあなたの私情でしょう」と今度はアミグダが溜め息。「そんなことを頭ごなしに言っただけではこの子たちは理解も納得もしませんよ。って、前にもこんなこと言いましたね、私」
 冷たい流し目に、カイルは言葉を詰まらせた。
「そうね……カイルさん、2人に誓約書を公開します。問題ありませんね?」
「……勝手にしろ」
 腕を組んで椅子の背もたれに身を預けるカイル。アミグダは悪戯っぽく微笑んだ。
「ふふっ。ありがとうございます」
 そうしてアミグダが持ってきた書類には、こんなことが書いてあった。

――――――――――――――――――――

【「ドクハクの森」進入に関する確認と誓約】

・依頼を受諾しこの森へ進入する者(以降、汝とする)は知識協会が定める未開拓地域危険度に於ける最悪ランク「Ω(全容解明不可能)」の地域に進入するにあたり、以下の事項を確認し、了承する義務を有する。

・「ドクハクの森(以下、この森とする)」は極めて特殊に変異した自然魔力(ナチュラ)の影響により、人間、ドワーフ、ミスティメイルを始めとする知的生命体に、以下の症状の一部および全てが発生する事例が確認されている。

 →回舌症(衝動的かつ長時間にわたって支離滅裂な言葉、或いは自分の心情を吐露し続けること。多くの場合理性的な制御が難しい)

 →極度の意識の混濁、錯乱、及びそれによって引き起こされる方向感覚の喪失

 →この森へ入る以前、及びこの森に滞在している間の記憶の一部または全部の、混濁または欠落

 変異自然魔力により魂が著しく損傷していると推測されており、以上の諸症状は、死後リスポーンしても完治しない可能性があることを、汝は留意しなければならない。

・この森には、危険度S(単独討伐不可能、準備無しに遭遇してはならない)のモンスター「デス・ガーデナー」の生息が確認されていることを、汝は留意しなければならない。

・汝がこの森に入る前には、春の心魔の砦へのリスポーン登録が必須である。

・汝がこの森に入る前には、防衛団員による「鼓動の契約の締結」が必須である。

・汝がこの森に入る際には、防衛団員1名以上の同行が必須である。

・汝はこの森に、30分を超えて滞在してはならない。


・下の欄への汝自身の署名を以て、以上の項目全てを確認し、了承したことの意思表示とする。

 なお、署名後、森へ進入せず砦から出ることは依頼の不正破棄及び逃亡と見なす。


 誓約書発行者:

 防衛団「白銀」団長 ライアン・フェルミオーソ

 調査団「赫鎚」団長 カーニス・ガグ・ファールヴァー

 冒険団「黄輪」団長 ヴェルノー・セレンゴーテ


 誓約者────


――――――――――――――――――――――

 肩を寄せ合って文章を目で追う2人は、手元を強張らせ、ヘレナに至っては声を震わせていた。

「記憶の混濁または欠落って……ほ、本当に……」
「というか、この紋章って」
 カレンが指差したのは物々しい言葉の羅列を締めくくる3つの紋章。その内のひとつは剣と盾を図案化したものであり、カイル達が身につけるベルトのバックルに刻まれているものと同じように見えたが、誓約書に描かれているものは剣と盾が複雑な幾何学模様で囲まれていた。
「それは各団の団長だけが扱える証明紋だ。まごうこと無き本物だぞ」
 カイルの簡潔な説明にヘレナとカレンは完全に黙り込む。そんな2人を見てカイルは続けた。
「『死に覚え』っつー言葉があるな。俺が一番嫌いな言葉だ」
 この世界の人間は、心臓を貫かれ、頭部を潰され、病に全身を蝕まれるなどして身体が生命活動を完全に停止すると、魂の力と呼ばれるものによって身体を再生し、復活することが出来た。
「だが、その誓約書は、過去数十年にわたる『死に覚え』の賜物なんだ」」
 復活することを前提に危険地帯に身を投じ、死と復活を繰り返しながらその地域の情報を得る、即ち『死に覚え』――情報を得るほど当然死ぬ機会も増える。それだけ、死の記憶も蓄積する。
「記録に残っているだけで100人以上の防衛団や調査団の奴ら、それから冒険者が文字通りに魂削りながら作ったものだ。それでもまだそれは完全じゃあない。『ドクハクの森』ってのはそれだけ過酷な場所なんだ。覚悟はあっても、知識が中途半端じゃあ何も出来ずに返り討ちに会うだけだ」
「で、でも」ヘレナは小さく言った。「カレンがこのまま……このままじゃ、その、アイツらに、連れてかれちゃうんです。デスブルームを手に入れられないっていうなら、どうすればいいんですか……?」
 意気消沈したヘレナの声。反して、カイルの口元は少し緩んだ。
「……最初っからそう言やあ良かったんだよ」
 ヘレナはぽかんとしてカイルを見た。
「『どうすればいいの』って、最初から素直に私たちに言うべきだったのよ」
 アミグダは微笑む。
「でも、そんなことしたら、アイツらが……」
 ヘレナはそこまで言って口をつむぐ。防衛団に言ってもすぐバレる――カレンが小声でそう継いだ。2人の少女の背に乗せられていたもの、その重さが明らかになると同時に、それは少しずつ3人の方へ流れ始めていた。
「そういや、アイツらってどんな奴なんだ? その呪いをかけて来た連中ってさ」
 ペウルスの問いに2人は少したじろぐ。
 そしてカイルは言った。
「気にすんな。何のための”防衛”団だ」
 顔を見合わせる2人。ややあってヘレナが口を開いた。
「……旅団『月の剣』」
 カレンの肩が、微かに震えた。
「『月の剣』……?」
 首を傾げるカイル。ペウルスが神妙な面持ちで言った。
「聞いたこと、あります。大型モンスターの討伐をして回っている旅団らしいっす。何年か前からちょいちょい実績があるみたいで、俺の地元だとそれなりに有名っすよ」そして吐き捨てるように付け足す。「こんなクズだとは知らなかったっすけど」
 カイルは腕を組んで考え込む。ペウルスが呼んでも返事が無い。が、程なくして柏手ひとつ。
「……よし、こうしよう。2人を支部へ移送する。ペウルス、護衛につけ」
「うぇっはい!?」
 突然の指令。ペウルスは素っ頓狂な声を上げながら転げ落ちんばかりに椅子から立ち上がった。
 一方でアミグダは顎に手を当てて言う。
「確かにここよりは安全ですけど、時間がかかります。転移ポストを使用するにも申請が……」
「いや、いったん徒歩で『廻魔』に向かって、そこから使わせてもらえばいい。俺が一筆書くから、それを向こうの門番に渡してくれ。3人の移動中に俺が向こうに連絡を付けておく。いいな」
「りょ、了解っす!」
 ペウルスは椅子に座り直すが、顔は緊張で引き締まり、翼がせわしなく動いてさわさわと音を立てる。
「それとアミ、『月の剣』について、軽くでいいから調べてくれ」
「了解です。とりあえず、4支部に当たってみます」
「頼んだ。さて、まずは……」
 カイルは1拍置いてヘレナとカレンを見た。
「事情を詳しく聞かせてほしい。協力してもらえるか?」
 ヘレナとカレンは互いを見合わせて、それから真っ直ぐカイルを見据えた。



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いやはやこういうのほんと大好物です、いつもありがとうございます。
17ヶ月前
×
>ジェノベエゼさん
うえええコメント来てたーー!!?!?
反応ありがとうございます!!!
16ヶ月前
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