その通りを我が物顔で進む一団があった。
桑名弥次兵衛以下、その手勢である。
弥次兵衛の大きな声は夜の静けさによく響く。
住人たちが固く戸を閉ざすのもむべなるかな、人は嵐を前にして過ぎ去るのを待つ他ない。
しかし、その太い足がピタリと止まる。
「……獣がきておるのう」
野生的な嗅覚か、それとも歴戦により培われた勘か。
弥次兵衛は背後から迫るプレッシャーを感じ取るや否や、肩に担ぎ上げていた二人の足軽を部下に預けた。
そしてゆっくりと息を吐きながら黒塗の愛槍に手を伸ばす。
「先に行けい。あれはお前らの手に余るう」
部下たちは互いの顔を見合わせる。背後に伸びる自分たちが今しがた歩いてきたその道は、深い闇に閉ざされている。松明を掲げ目を凝らしても人影すら見当たらず、耳を澄ましても足音一つすらしない。
その時、一迅の風が吹いた。