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「アマチュアゲーム」だった『東方Project』
(生放送「超会議2特番 超ZUNビール~ひろゆきを添えて、今年のビールの仕込み状況の報告編~」の本番前控え室。ZUNさんの机に缶ビールとおつまみが運ばれる)
ZUN いいね。飲んじゃってもいいのかな?
―――ははは、もちろんです。今回ZUNさんにお話をお伺いするということで、自作ゲームのなかでも、特に例外的な発展の仕方をしてきた『東方Project』について、その足跡をたどりつつ、ZUNさんの自作ゲーム制作者としてのポリシーみたいなものを探っていければなと思っています。
ZUN はい。わかりました。
―――『東方Project』シリーズは大学時代に制作されたブロック崩しゲーム『東方靈異伝』(96年)からスタートし、2作目の『東方封魔録』(97年)からはシューティングゲームに。その後も何作か発表され『東方怪綺談』(98年)で、シリーズとしては一旦幕を引くことになった、ということが「東方Project史」ではまず語られるかと思います。
ZUN はい。大学卒業後、ゲーム会社に入って社会人生活をはじめてから一旦辞めて、何年か後にまた『東方』を作り始めました。
―――ゲーム会社入社後に『東方』をもう一度作り始めたのはなぜだったんですか?
ZUN 作りたいものが作れなかったことで不満が溜まっていたんです。会社の指示で不本意なゲームを作っていながら、「売れるかどうかは判らないけどこれは面白そうだ」というゲームの企画は通ることはない。しかも、作ったら作ったで不評は全部作った人の元へいく。これはどこかでガス抜きでもしないとな、というね。「面白いものを作ってみんなに面白いと言われたかった」、というのが率直なところでした。

※『東方紅魔郷 -the Embodiment of Scarlet Devil.-』。『東方Project』シリーズ通算6作目であり、Windows版の『東方』第1弾となる作品。コミックマーケット62(2002年8月開催)で発表・頒布された。ストーリーは主人公の博麗霊夢(はくれい・れいむ)と霧雨魔理沙(きりさめ・まりさ)が、「紅霧異変」と呼ばれる事件を解決するというもの。
自機・敵ともに持つ「スペルカード」というアイテムは『東方』シリーズを象徴するシステムのひとつ。敵がスペルカードを使用すると無数の弾が発せられる。画面中に弾が舞う様は『東方』シリーズが「弾幕シューティング」と呼ばれる所以となっている。
―――商業ゲーム制作での不満を同人で解消するためというか。では、同人活動をやろうと思った理由はどういったものだったんでしょうか? 再始動後一作目の『東方紅魔郷』(02年)当時だったら、ゲームを発表するなら、ネット上に発表するなどの方法もあったと思うのですが。
ZUN 同人という場しか知らなかった、というのが一番正しいかもしれません。学生時代にもコミックマーケットに参加していましたし、まあ再開するときもコミケで発表しようかなと。最初のころは「東方は同人ゲームだ」という感覚はなくて、「コミケで売っているアマチュアゲーム」という感じで捉えていました。あと、フリーゲームとかにせず、コミケで売りたかったのはパッケージに憧れがあったんだと思います。
―――ケースに入っている感じとか、ジャケットとか。
ZUN そう。ゲームそのものだけじゃなくて、パッケージまで作りこんだものを作りたい欲望があったんですよ。再開後なんかはその思いもさらに強くなって。自由に作れない商業ゲームへの不満があったから、なおさら形だけでも商業ゲームのようなものを作りたかったというか。
二次創作が『東方Project』を「同人ゲーム」にした
―――さきほど「最初のころはアマチュアゲームと思っていた」というお言葉がありましたが活動するうちに、『東方』の捉え方も変わっていったんでしょうか?
ZUN 二次創作の作品が出てくるようになってから、『東方』に対する捉え方は変わりました。「BGMのアレンジCDを作ってもいいですか?」とか「同人誌を作ったんでぜひ読んでください」みたいに言われ出すことで、「これが同人か」と思うようになりましたね。
―――最初に自分の作品が二次創作されているのを知って、どう思われていましたか?
ZUN 「へー、こんな文化あるんだ」と思いました。そもそも同人文化をそこまで知らなかったんですよ。久しぶりにコミケに参加した当時はTYPE-MOON さんも知らなかったぐらいなので、同人ゲームにも二次創作があるんだというのは、当事者になってやっと認知したというぐらいで。
―――最初から二次創作は容認されていたんですか?
ZUN 「作りたいです」って言ってきてくれる人に、断る理由もないですからね。同人誌もCDもなんでもどうぞどうぞって言っていました。言い方はヘンですけど『東方』は最初からちゃんと売れるゲームだったので、二次創作から火がついたという感じでもないですよ。
―――どっちが先かじゃなくて、ソフトの売上も二次創作の数も同時期に増えていった。
ZUN そんな感じですよね。ずっとほそぼそとやっていた流れがあって二次創作で爆発という感じではなくて、最初からある程度売上はありつつ、ゲームも売れた流れで二次創作も出ました、二次創作が増えた流れでさらにゲームも売れました。感覚で言うと、『東方紅魔郷』が発売されてから一年後、だから2003年ぐらいから増え始めたと思います。いつのまにか『東方』を取り巻く規模がドーンと大きくなったという感じでした。
―――二次創作が出てきた、というのはZUNさんのゲーム作りには影響を及ぼしましたか?
ZUN 及ぼしていると思います。再スタートするとき、『東方』は3年で3作作ったら区切りをつけようと思っていたんですよ。そうは言っても、仕事をやっているわけですからね。だから、『東方紅魔郷』、『東方妖々夢』(03年)、『東方永夜抄』(04年)を三部作にしていたんですね。「これで区切りだよ」って。でも、3年目になると思いもよらないぐらいに人が増えていて。オンリーイベントの「博麗神社例大祭」が始まったのも04年でした。

※「博麗神社例大祭」は、『東方Project』の二次創作作品を頒布する即売会(1作品専門の即売会はオンリーイベントと呼ばれる)。
2013年5月26日には、東京ビックサイトにて第10回の「例大祭」が行われる。
―――「三部作」の後にもシリーズ作品を制作したのは、二次創作の盛り上がりに感化された部分もあった?
ZUN あったんだと思います。ゲーム内容の面でも、次第に二次創作は意識するようになっていきましたからね。意識といっても「二次創作でこういうことがあったから、これをネタに使うか」みたいなことではなく、「これをやると、二次創作でこういう反応があるだろうな」みたいなことを思いつつ作るようにもなりました。でも、やっぱり「例大祭」のときにドーンと増えたなあということを実感しました。最初の「例大祭」の時にはすでに108 サークルも参加していて、すごいなあって。
『東方』と「動画を見る文化」の関係。
そして「東方は○○」へ?
―――三部作が終わったあとも『東方花映塚』(05年)や『東方文花帖』(05年)と立て続けにリリースされて、『東方』シリーズは継続されていくことになりますが、三部作以降に二次創作と出会って「アマチュアゲーム」→「同人ゲーム」となったような、ターニングポイントはありましたか?
ZUN 07年ぐらいからニコニコ動画やYouTubeで「動画を観る」という文化が定着し始めたことがターニングポイントになったと思います。『東方』の楽しみ方がまた変わったみたいで。特にニコニコ動画との相性がよかったから、そこでまた爆発的に人が増えたように思います。
―――ニコニコ動画との相性の良さ、とはどこにあったのでしょうか?
ZUN 一番は入り口が広くなったことだと思います。同人ゲームはゲームを買うこと自体が難しいので、ある程度入り口が狭い世界だったんですよね。でも、動画の登場によって、遊ばなくてもとりあえず入り口には入っていけるんですよ。動画を観る文化は『東方』に限らず、ゲームの遊び方楽しみ方自体を変えたんだと思います。で、『東方』はその楽しみ方に合っていた。
―――楽しみ方自体を変えた、というのは合点がいきます。
ZUN ゲーム実況動画とか「人が遊んでいるのを観る楽しさ」も生み出しましたよね。攻略動画とか解説動画もこの人のプレイが見たいというように、プレイする人も選ばれる対象にもなって。あと、ゲーム制作においても、動画で観てもらうことも考えながらちゃんと作られているゲームが増えたりもしました。
あと、あのころ『東方』自体はシリーズとしてはもう1周していたんですよ。ゲームって5年経つと遊ぶ層も変わってくし、初期から買いに来てくれたような大学生も4年経って大学を卒業するとやらなくなっていたんです。ちょうどそんな時期に新しい楽しみ方ができたんで、タイミングが良かったんですよね。

※3月25日現在、ニコニコ動画内で「東方」とタグ付けされた動画は30万本以上にのぼる。ZUNさんはニコニコ動画登場後の二次創作の変化として「音楽だと、ボーカル(歌)が乗るアレンジが格段に増えました」と語っている。
―――では、かつて二次創作を意識してゲームを作るようになったように、動画を観る文化の定着を感じられてからは、『東方』も動画の存在も意識するようになりましたか?
ZUN ちょっと狙ったりもしていますよ。「動画を観ているだけの人までビックリさせるようなことがしたい」っていうぐらいではあるんですが。そもそも、シューティングは動画とすごく相性がいいんですよね。RPGとかはどうしてもネタバレによる影響が大きいですし、たとえば動画が投稿されることを想定してゲームを作ったとして、1つの動画が30分ぐらいの場合、動画として面白くするためには30分に一度は盛り上げるところを入れないといけないと思うんですけど、そうやって盛り上がりをそこら中に作ると、ゲーム自体が平坦なものになってしまいますから。
その分シューティングは1つのステージの時間も短いですし、難易度を少し高くすると「こんなの難しすぎだろ、作ったやつなに考えているんだ!」みたいになるので、ツッコミやすいんですよね。ウケやすいというか。まあ、シューティング動画はなによりエンコードが命なんですけどね(笑)。
―――ははは。現在の『東方』は、アマチュアゲームや同人ゲームともまた違うものになっているかと思いますが、ZUNさんご自身の実感はいかがですか?
ZUN ここ1、2年で『東方』自体の在り方が変わってきてると思います。昔は『東方』も当然わからないし、同人ゲームについても「なんですかそれ」という人が多かった。でも今は「同人ゲームはわからないけど、『東方』は知っている」という人が増えた。ゲーム業界の人と話していても、『東方』って伝わってしまうし、なんか別枠のものとして言われるようになりました。
―――アマチュアゲームでも同人ゲームでもない、別枠のなにかですね。
ZUN だから今、「同人ゲームのなかから1つ作品を言ってください」と言われても、東方の二次創作ゲームは除いて本家の『東方』は出てこないと思うんですよ。良くも悪くも別のものになっている。同人文化とは若干違うところにいると自覚しています。かといって「文化」というと偉そうな感じだし、そもそもゲーム自体が文化たりえているのかみたいな話からなんですけど……まあ「文化みたいなもの」ですよね。ああ、でもどこかで言われているみたいに「東方は宗教」なのかな。
―――ははは。
ZUN ゲーム内容からすると間違っているとも言えないんだけど、違うかな(笑)。
「コアには自分のゲームがある」
―――ここまではZUNさんご自身とともに『東方Project』が、いちアマチュアゲームから同人ゲームに、そして「文化みたいなもの」に変容していった足跡をお伺いしていきました。ここでひとつ、なぜZUNさんには、自分のゲームにどういう変化が訪れても許容できる「余裕」があるのか、それはどういったポリシーから来ているのか、という疑問があるのですが。ご自身ではどう思われているのでしょうか?
ZUN 自分が『東方』を作っているから……いろんな『東方』があるけど、コアには自分のゲームがあるという見方をしていることなんでしょうかね。そもそも実作業がしたくて、自分でプログラムを組んで自分でパッケージングを組んで自分で遊びたくて、その楽しみを味わいたくて『東方』を作りましたから、そこで楽しめていれば、あとは二次創作や動画がどう広がっても問題ないかなというか。
―――なるほど。ではたとえば『東方』が商業化をされないのは、自分の手から離れるという感覚になりそうだからということなのでしょうか?
ZUN というより、商業化しなかったのは僕が会社で働いていたからですね。ゲーム業界にもいましたし、商業化を考える余裕がなかったんです。もちろん商業化するなら自分も関わりたいけど、仕事をしながらというのは厳しい。だから断っていた、という感じでした。今はフリーだし、商業でも作ることができる環境なんだろうけど、今更そういう話も来ないしね。
だから今は忙しいからとか、嫌だからやらないじゃなくて、やる意味がないなって。商業ゲームだけならまだしも、アニメ化とかしちゃうと僕の手で作るのはまず無理ですからね。そこの自由が利かなくなるという事は、作品が自分の手から離れていくという事なんだろうなと思います。
―――言ってみれば当然かもしれないですが、自作ゲームは作品のコントロールを全部自分できる、というのも強みであると。
ZUN 人に任せるというのは面白くないですよ。なにより、自分の作品をほかの人にお任せして、自分の作品っぽくなくなっちゃうのがあんまり好きじゃないんです。だからこそ二次創作はいいんですよね。二次創作だから。
―――今のお話を聞いていると、ここ1、2年でZUNさんが『東方』としてゲーム作りのほかにもいろいろな試みをされているのも、少しわかるような気がします。
ZUN ははは。それはね、自分がまた次々と『東方』のようなゲームを作ってこれだけの発展をさせていけるかというと、おそらく無いんだと思うんですよ。現実問題としてね。自分にとってもほかの人から観ても、『東方Project』はZUNのライフワークみたいなものになっていると思うんです。
だからこそ『東方』がなにか別枠みたいなところになったとき、作るものはゲームでなくてもいいと気付いたんですよね。今回の「ZUNビール」も『東方』でビールを作っているわけですからね。「ZUNビール」はゲームでもなんでもないし、正直言うと『東方』ですらないよ(笑)。でもいいじゃんって。

※「ZUNビール」は、無類のビール・お酒好きとして知られるZUNさんがプロデュースするビールのこと。「ニコニコ超会議2」では試飲会として「超不夜城レッド」(250ml/500円)が振舞われる予定。
―――『東方』をコントロールできている限り、自分のやることもなんでもいいと。
ZUN そうなんだろうね。たまにビールの工場とか居酒屋とかも作れたらいいなあなんてことを思ったりするんだけど、そこで実際に「居酒屋・東方Project」をオープンしてもいいんだと思うんですね。『東方』を作り始めてからずっと極端な選択ばっかりしてきたなとは自分でも思うんだけど、結果的に自分が好きなことをやれているし、ライフワークになるのも楽しいからいいかなって。そう思うようになったんですね。
「第2の東方を目指す!」をオススメしない理由
―――同人の世界で『東方』のような二次創作をはじめとした活発な広がりを起こさせるコツみたいなものっていうのは心得ていたりするのでしょうか?
ZUN たまに聞かれるんだけど、考えがまとまってないんだよね。ただ、よく「東方が流行っている理由は二次創作に寛容だから」という分析がありますけど、寛容さだけに求めるのは間違いだと思います。寛容なものは世の中にいっぱいありますから。強いていえば、二次創作をしている人にこちらからあまり口を出さないことが大切かなって思います。
―――「自分の手から離れなければ~」とも繋がりますね。
ZUN それを言い換えると「寛容である」ということになるかもしれないけど、同時に「不干渉でもある」ということなんですよね。二次創作に対してここはこうしろとは言わないし、例えば僕がTwitterとかで「これはすごい」と持ち上げて紹介することもできるかぎりしないほうがいいのかなって。
あと、あとは作る側が用意しすぎないことが重要かな。今はわざと寛容にして、公式がたくさん素材を提供したりするものもありますけど、「はい、これでなんか作ってください」っていうのはほとんどの人は喜ばないと思うんですよね。基本的に二次創作の人は「公式にはできないものを!」と思って作っている人が多いだろうから、用意しすぎないほうがいいと思います。グッズとかやりましょうよと言われるんですけど、公式でたくさん作ると二次創作で作りにくくなるでしょうから……漫画は描いていますけど(笑)。
―――ZUNさんの「寛容かつ不干渉」というのは本当に徹底されていると思います。だからこそ、『東方』の市場やコミュニティを説明するときに難しいだと思うんです。「ファンクラブ」的とか、それこそ「東方は宗教」的なものともまた違うというか……。
ZUN 古参も新参も、ゲームから入った人も二次創作から入った人も全部許容して、ケンカするのもアリにしているんですよね。僕が「ケンカするなよ」ってことも言わない。たとえばファンクラブだとケンカすることを禁止して排除して健全化を図るんでしょうけど、入ってくるのも出てくるのも、完全に自由な状態ですからね。今はガイドラインとかもありますけど、それもすでにあるものに対してこれぐらいまでだったらいいかな、と現状に合わせていったという感じですから……寛容とはまた違う気がします。元々二次創作の市場を求めて作った作品ではないっていうのもありますしね。
―――儲けとかではないんですね。でもZUNさんのバランス感覚は、ほかの人はなかなか真似はできない部分だとも思います。
ZUN 言ってしまうと『東方』はちゃんと儲けが出てますよ。「儲けることはどうか」に関してもよく聞かれるんですけど、同人ゲームで儲かったらいけないってことはないし、儲けを狙っている人を叩くことはないと思うんですよ。だからと言って、儲けるために同人を始めるのは得策ではないと思うけどね。「第2の東方を目指す!」なんて頑張るのはオススメしないです。
同人ゲームの一番のポイントは、作ることを楽しむことだと思っているんですよ。「楽しんで作って売って、そこで儲けることも楽しくなった」というのは問題ないと思うんです。でも、「第2の東方を目指す!」といった目標が先行して仕事としてやるのは同人的ではないですよね。同人は自分の好きにやれていれば成功しなくてもいいし、成功してもいい、というところがいいんですよ。でも、儲けたいときにはなるべくひとりでやったほうがいい、ということだけは言えるかな。2人だと取り分が半分になるからね。
―――ははは。同人は売れる/売れないで考えるものではないと。
ZUN 僕はそう思います。商業ゲームはどうしても「売れるゲームを」から入ってきますよね。そうするとどうしてもマーケティングが重要視されますし、需要にあったものを作らないといけないとなりますし、ブランドイメージも重要になってきます。商業がいい悪いじゃなくて、同人文化にはそういった商業的な手法を持ち込みたくはないという気持ちは正直あるんですよ。あと、同人ゲームは「なんでこのゲームを作ったの?」「俺が好きだから!」と言えるものじゃないと評価もされないんじゃないか、という風潮があるのも好きなので。結局のところ、遊んで面白くなくたっていいんですよ。作っている本人が楽しければ。
逆に今の商業のゲームはユーザーの意見を取り入れることが、以前よりもさらに重要になってきているんです。そうすると、ほとんどの場合作ることが楽しくなくなっていくんじゃないかなと思うんですよ。ゲームは面白くなるんだけど、作っている人はどんどん苦しくなる。仕事だったら当然だという人もいますけど、じゃあ仕事でなくてもいい同人ならそれを先に考えるのはやめようよ、楽しくないならやるなよって、どうしても思っちゃうんですね。
ニコニコ自作ゲームフェスは
新しいゲームの流れを生み出す?
―――「ニコニコ自作ゲームフェス」にも繋がる話です。
ZUN うん、だから作る人が楽しめるかどうかということが、自作ゲームフェスでも一番大きいポイントになるんじゃないかなって思います。
―――「ニコニコ自作ゲームフェス」ですが、現時点では約150作品の応募をいただいているんです。
(「ニコニコ自作ゲームフェス」の応募作品をいくつか見せる)
ZUN これって全部遊べるんですか?
―――はい。参加する際には、ゲームをダウンロードできるURLを動画投稿文に表記するのが条件のひとつになっていますので、応募されている作品は一応すべて遊べるようになっています。ちなみに作品は途中までしか作っていなくてもOKです。
ZUN 途中まででもいいんだったら、いい宣伝になりますよね。若干のネタバレ感はありますけど。でも、あとニコニコ自作ゲームフェスもそうですけど、今までの同人ゲームやフリーゲームが新しい見方で注目されるようになっているなって思います。
たとえば最近、「インディーゲーム」という言葉も出てきて、メディアも注目していますよね。
―――最近では京都でビットサミットというインディーゲームのイベントもありました。
ZUN ビットサミットは日本のインディーゲームを海外に紹介するっていうイベントでなんですけど、けっこう日本のメーカーや海外のメーカーの人も集まるんですよ。で、それは商業ゲームが創作的には行き詰まっているからだなと思っていて。
―――行き詰まっていますか。
ZUN 行き詰まっていると思います。今は大きいプロジェクトとか、続編であるとかある程度の数字が見込めるものでないと商業ゲームは動けなくなっているんです。じゃあ、「少人数でゲームを作って、ネットで話題になったりしてヒットする」という作り方がiPhoneアプリとかでは普通になってきて、そのやり方に飛びついてみよう。そこで昔から細々とある同人ゲームと結びつくことで、同人ゲームは「日本発のインディーゲームの源流である」として脚光を浴びるようになったんだな、と考えていて。
―――同人ゲームを取り巻く環境が変容していくことでインディーゲームのような新たな流れが生まれている。
ZUN そうだと思います。同人ゲーム自体もいろんな形で変わっていっていますね。
―――ニコニコ自作ゲームフェスに投稿されている作品たちも「同人ゲーム」や「インディーゲーム」とはまた違う、新しい流れのひとつになり得るんでしょうか?
ZUN ニコニコ自作ゲームフェスのゲームはまた違った感じになると思いますよ。どちらかというともっと純粋に、「ゲームを作って自己顕示欲を満たす」という場所になりそうかな(笑)。
―――インディーゲームとの違いはどこで生まれたりしますでしょうか。
ZUN インディーゲームはちゃんとした方針のもとで日本の同人ゲームを海外にアピールして、成功したら会社にするとか商品にするとかも視野に入れているんだと思うんです。逆にニコニコ自作ゲームフェスのゲームは仕事の片手間で作ったものでも投稿できるし、気軽に多くの人に観てもらえるから、「自分さえ楽しければいい」みたいなゲーム内容のものでもOKになっている。だからニコニコ自作ゲームフェスのゲームはそこの部分がほかよりも色濃い作品が多くなるんじゃないでしょうか。
あと「自分さえ楽しければいい」んだけど、ニコニコ自作ゲームフェスは動画と合わせて発表するし、反応が速くて良い意見も悪い意見もすぐに返ってくるから、人に楽しんでもらいたいという部分が強いゲームが、同人やインディーズよりも多くなるかもしれない。またそこがニコニコ自作ゲームフェスの魅力になるかもしれないですよね。
―――自己顕示欲はしっかり持っておいたほうがいいんですね。
ZUN 自己顕示欲は大事だと思いますよ。同人ゲームやインディーゲームって、作者の顔が見えるっていうことがとても重要ですから。作者がゲームに対して責任が負えなければ、同人ゲームなんて遊んでもらえないと思うんですよね。そのためにはちゃんと自己顕示欲を出したほうがいい。
僕もできる限り表に出ている理由のひとつとして、自分が『東方』の作者ですと言うためというのもあるんです。今の同人ゲームを取り巻く環境や今の『東方』の状況を考えると、個人情報が武器になるなと思い至って、いろんなところに出るようになったんです。
―――たしかにいわゆる「自作ゲーム」は、作者の個性も合わせて有名になったものが多いかと思います。商業ゲームよりも先んじて「作家性のあるゲーム」が確立されていたというか。
ZUN 商業ゲームの人で言うと、飯野賢治さんはまさにそういう人だったんですよね。小規模で、それこそバンドみたいにチームを率いて、飯野さんはリーダーとして、個人情報を武器にして外に飛び出して責任を一身に背負う。飯野さんが積極的に表に出ていたときに観ていて、その責任の取り方に憧れていた部分もありました。だからこそ、飯野さんには自作ゲームやインディーゲームがこれから流行っていくだろうっていうこの時代に、居て欲しかったんですけどね。
叩かれたら喜ぶぐらいの心構えを!
―――ニコニコ自作ゲームフェスやインディーゲームなどの新しい流れを、ZUNさん個人としてはどうご覧になっていますか?
ZUN 喜ばしいことだと思います。マイナスになることはないでしょう。これから、今までとは違った考え方のゲームがどんどんできていくだろうし、自分もいずれそういうゲームたちに影響を受けるかもしれない。楽しみですよ。
―――ニコニコ自作ゲームフェスが、ゲーム業界全体に影響を与える可能性もある?
ZUN すぐにではないでしょうけど、あると思います。ニコニコ自作ゲームフェスもインディーゲームも、たとえば参加している人がゲーム会社とかに就職して個性を発揮できるような仕事をするようになったなら、商業ゲーム界が新しい場所へシフトしていくと思いますよ。そういった人を会社に入れるなら、シフトさせないと意味がないですしね。あと、1回でもこういうことをやると、たとえニコニコ自作ゲームフェスが1回で終わっても……1回で終わるんですか?
―――2回目、3回目も開催できるようにしていきたいと思っています。
ZUN 1回で終わると影響はそこまで期待できないのかもしれないけど、一度やっていろんな人に知られるようになれば勝手に自作ゲームをやる人も増えてくるでしょうし、それもそれでいいと思うんですよ。運営が動かなくても、有志たちが勝手に「第2回ニコニコ自作ゲームフェス」みたいなタグを付けて2回目3回目をやるようになるかもしれない。ニコニコ動画だと、そういう可能性もありますからね。
―――ニコニコ自作ゲームフェスに応募しようとしている人にアドバイスするとしたら?
ZUN 危惧することがあるとしたら、賞レースも含めてある程度の順位をつけることですね。あと、賞を獲って人気が出てってことで注目されてくると、まずはボロクソに叩かれることは覚悟しなきゃいけない。ニコニコ動画は、喜びのコメントも罵倒のコメントもすぐに一緒に来るから余計にそうだと思います。でも人気になると叩かれるっていうのは当然だと思うんですよ。人気が出て人が増えたときに必ず叩かれるもんだから、叩かれたら喜んだほうがいいです。人が増えていいゲームという証拠だって思えばいいんですよ。動画を上げ慣れている人なら、ボロクソ言われても大丈夫なのかな。だから、最初から「叩かれるぞ!」ぐらいに心構えていたらいいですよね。そういう図太い心を持っていたほうがゲームも長く作れるし、結果としていいものが作ることができるんじゃないかと思います。
―――ちなみに「ニコニコ自作ゲームフェス」は二次創作のゲームも、版権を持つ人に了解が取れれば投稿できるんですけど、『東方Project』の二次創作もOKでしょうか。
ZUN それはOK……なんだけど、難しくない?
―――たしかに、これでほとんどの賞を『東方』の二次創作作品が占めるとなったら、出来レース感しかしないですね。
ZUN じゃあ僕が『東方』の新作をここで出してもいい? っていう話にもなるからね。じゃあ、「OK……」ぐらいにしておいてください。
伴さん(近くで聞いていたニコニコ動画二次元担当部長) ダメだよ、それじゃあ萎縮して誰も送ってこないよ!
ZUN ははは。

※『ZUNビール』本番後のZUNさん。本番含め10杯程度を完飲しながらこの笑顔。本番後は深夜の街に消えていった……。
(村井 克成)
【インタビュー記事一覧】
・ならむら「英語圏で出したいというアクションを起こせば機会は増える」(代表作:『GR3』『LA-MULANA』『薔薇と椿』)
・八百谷真「ゲーム作りは欲求不満放出の場」(代表作:『囚人へのペル・エム・フル』)
・なりた「商業に応用できるアイデアや可能性を同人ゲームで探っていた」(代表作:『MELTY BLOOD』)
・cutlass「これからのノベルゲーム文化を自分が背負わないで誰が背負うんだ!」(代表作:『NOeSIS~嘘を吐いた記憶の物語~』)
・海原海豚(黄昏フロンティア)「自作ゲーム制作にはブッ飛んだ愛が必要」(代表作:『東方萃夢想』『ひぐらしデイブレイク』)
・奥井晶久「ニコニコはゲームとユーザーの接点を作ってくれる」(代表作:『ワンナイト人狼』)
・支倉凍砂「目標はハリウッドで映画化でした」(代表作:『狼と香辛料』『ワールドエンドエコノミカ』)
・竜騎士07「ニコニコ自作ゲームフェスはいい“試練の場”になる!」 (代表作:『ひぐらしのなく頃に』)
・オガワコウサク「それはもう、祁答院が作るゲームが面白いからですよね」(代表作:『コープスパーティー』)
・SmokingWOLF「2Dゲームでできることはほぼなんでもできてしまうんですよ」(代表作:『シルフェイド見聞録』)
・【後編】泉和良「自作ゲームは一生自分の体から離れないものになった」(代表作:『自給自足』『エレGY』)
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さすが、zunさん。
なんかあれだよね、漫画/編み物/東方/スポーツ ←こんな感じw
同人ゲームのなかの「東方」ってかんじがしないw
なんか創作意識があがりました!
なんかもう、この記事を読んで改めて東方に感動したわ。ZUN氏の回答も凄くユニークで面白い!
東方に出会えて本当に良かった!!!
ZUNさんは、やっぱり偉大やでえ・・・
好きなゲームを作りたい→周りの反応は二の次
この考え方はすごいよなぁ・・・ なんか深い。深イイ。
ZUNさんはやっぱり凄いな~
東方に出逢えて良かったと思うほど凄い
この人はぶれんなぁ
流石ですね
素晴らしい方ですZUN氏は
ZUN氏がいて良かった
東方に出会えて良かった
東方に関わるすべての人に感謝せねば
いまのとこ呼んでてふ~ん程度の感想だけど、なんにせよZUNさんなりの考えでZUNさんの思うように東方を製作してくれればいいかな。薄情かもしれないけど面白いゲームであれば好んで買うし付いていくだけだし
少なからずまだまだお世話になりそう