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海原海豚さんTwitter
―――海原さんが黄昏フロンティアを立ち上げたきっかけは?

(サイバーボッツ+アストラスーパースターズ)


(村井克成)
【インタビュー記事一覧】
・ならむら「英語圏で出したいというアクションを起こせば機会は増える」(代表作:『GR3』『LA-MULANA』『薔薇と椿』)
・八百谷真「ゲーム作りは欲求不満放出の場」(代表作:『囚人へのペル・エム・フル』)
・なりた「商業に応用できるアイデアや可能性を同人ゲームで探っていた」(代表作:『MELTY BLOOD』)
・cutlass「これからのノベルゲーム文化を自分が背負わないで誰が背負うんだ!」(代表作:『NOeSIS~嘘を吐いた記憶の物語~』)
・奥井晶久「ニコニコはゲームとユーザーの接点を作ってくれる」(代表作:『ワンナイト人狼』)
・支倉凍砂「目標はハリウッドで映画化でした」(代表作:『狼と香辛料』『ワールドエンドエコノミカ』)
・竜騎士07「ニコニコ自作ゲームフェスはいい“試練の場”になる!」 (代表作:『ひぐらしのなく頃に』)
・オガワコウサク「それはもう、祁答院が作るゲームが面白いからですよね」(代表作:『コープスパーティー』)
・ZUN「『東方Project』は自分のライフワークみたいなものになっている」(代表作:『東方』シリーズ)
・SmokingWOLF「2Dゲームでできることはほぼなんでもできてしまうんですよ」(代表作:『シルフェイド見聞録』)
・【後編】泉和良「自作ゲームは一生自分の体から離れないものになった」(代表作:『自給自足』『エレGY』)
・【前編】泉和良「自作ゲームしかなくなっちゃったんですよ」(代表作:『自給自足』『エレGY』)
・八百谷真「ゲーム作りは欲求不満放出の場」(代表作:『囚人へのペル・エム・フル』)
・飯田和敏「自分が面白いと思うゲームを作るのが一番!」(代表作:『アクアノートの休日』)
初制作ゲームが『Eternal Fighter Zero』だった
―――海原さんが黄昏フロンティアを立ち上げたきっかけは?
海原 やっぱり最初は、渡辺製作所さんの『THE QUEEN OF HEART』(98年。以下『QOH』)をプレイして、自分もこんなゲームを作ってみたいと思ったことがキッカケでした。自分は広く浅くな格闘ゲームプレイヤーでもあったんですけど、商業ゲームにはない面白さを『QOH』に感じたんです。
―――それまで海原さんは、ゲーム制作の経験はあったんですか?
海原 本格的な経験はなくて、ツクールを触ってたぐらいでした。最初はやってみたいやってみたいっていう衝動的なノリでしたね。
―――でも、ゲーム制作もほぼはじめてで『Eternal Fighter Zero』(00年。以下『EFZ』)のようなゲームを作れるのは少し驚きです。
海原 うーん、それはそうですね。正直、僕達もなんであそこまで作ることができたか、今でも不思議に思っているところがあるんです。
―――その中で、海原さんがゲームを作るキッカケにもなった『QOH』にはどういう魅力を感じられて、ゲーム作りにどう落としこんでいったんでしょうか。
海原 僕が『QOH』に感じた一番の魅力は、連携が自由にできることだったんです。当時、商業ゲームがストイックな抜き差しの勝負を突き詰めて行くような競技的な路線を志向している中で、『QOH』では連携で自分の個性が出せるんですよ。
―――『QOH』コンボゲーの走りみたいなものでもありますからね。
海原 自分だけの連携を大雑把なものでも緻密なものでも見せて「ドヤッ!」とできるという部分で、自分本位のプレイフィーリングで遊べるのがよかったんですよね。そもそも足払いから追撃できる、っていうのが衝撃でしたから(笑)。

Eternal Fighter Zero』は、美少女ゲーム『MOON~輝く季節へ~』『Kanon』『AIR』に登場する女の子(ヒロイン)たちがプレイヤーキャラクターになった対戦格闘ゲーム。名作格闘ゲームや漫画などからのパロディネタも豊富で、プレイ動画を観ているだけでも楽しめる。
―――自分本位のプレイフィーリング、というのは言い得て妙だと思います。
海原 だから僕らも、ここがこうつながればカッコいいだろう、気持ちイイだろうというところを重視して、あまり既存の格闘ゲームにとらわれないように作っていこうと思いました。
(サイバーボッツ+アストラスーパースターズ)
×東方=「東方萃夢想」
―――なるほど。では黄昏フロンティアさんは『EFZ』の次回作として、東方Projectの二次創作格闘ゲーム『東方萃夢想 ~ Immaterial and Missing Power.』(04年)を制作されますよね。
海原 そうですね。
―――ほかにも『ひぐらしのなく頃に』の二次創作格闘ゲーム『ひぐらしデイブレイク』(06年)を制作されたりと、黄昏フロンティアさんはサークルとして「二次創作の二次創作ゲームを作るところ」というイメージもユーザー側からはあると思うのですが、そもそも東方のゲームを作ろうと思われたキッカケはなんだったのでしょうか。
海原 うーんと、まず取っ掛かりとしてあったのは『サイバーボッツ』(95年)と『アストラスーパースターズ』(98年)でした。
『サイバーボッツ』は、カプコンから発売された対戦格闘ゲーム。ロボットと搭乗者を選択肢、1対1のロボットバトルで雌雄を決する。「マーヴルVSカプコン」シリーズに登場した、ジン・サオトメは『サイバーボッツ』の主人公。
海原 『アストラスーパースターズ』は、サンソフトから発売された「空中対戦ボコスカアクション」とも呼ばれるアクションゲーム。文字通りキャラ全員が空中に浮くことができ、軽やかな空中コンボを打ち込むことができる。
―――「東方」シリーズを遊んだから、というわけではなく。それにしても格闘ゲームとしては通好みな作品というか……。
海原 ははは、そうですね。この2作品には、どちらも普通の格闘ゲームとは違う面白さのあって惹かれたんです。
―――といいますと……。
海原 『サイバーボッツ』で言うなら、ブーストゲージとかいわゆるリソース管理があったり、1ラインの水平の刺し合いからまた一歩離れたて射撃戦で外側から牽制合戦ができたりとか……一言で言えば、空中戦主体の格闘ゲームですよね。空中で射撃戦ができる格闘ゲームが作りたくなったんですよ。
でも、なかなかうまくいかないんですよね。オリジナルで作ってみたいとも思ったんですけど、そういうゲームを作るとなるとやっぱりキャラクターデザインの数も膨大になっていくし、世界観の形成が大きなネックにって。かと言って、そんな世界観を受け容れられる作品なんてそうそうあるもんじゃないし……という感じで立ち止まっていました。
―――はいはい。
海原 そこで見つけたのが『東方Project』だったんです。これがまた、見事に自分が作りたかったものと世界観の符号がすべて一致して(笑)。
―――ピッタリすぎますよね(笑)。
海原 もう運命的なものを感じましたね。だからすぐにZUNさんにやらせていただけないでしょうかとお願いしました。ZUNさんに了解をいただいてからは、一気に完成にまで至った感じでしたね。
―――制作の原動力そのものだったんですね。では、東方と重ね合わせることで、東方の世界観に影響されて『東方萃夢想』に落とし込まれたアイディアなどはあったんでしょうか。
海原 やっぱり射撃とグレイズのシステムは、東方の世界観を適応させてこそ完成したものだったと思います。飛び道具をバンバン撃てる格闘ゲームというだけで、普通なら「エッ?」と思われるんですけど、東方なら違和感はない。しかも弾幕系シューティングゲームだから、『サイバーボッツ』よりもっと激しくできるんです。

“弾幕アクションゲーム”と銘打たれている『東方萃夢想』は、画面を縦横無尽に飛び回るキャラクター、鮮やかな色使いの飛び道具が特徴的。東方Project原作者のZUN氏は本作のために新キャラクター・伊吹萃香やストーリーを提供し、公式にも「シリーズ7.5弾」としてナンバリングされている。
―――「違和感」という言葉を仰られましたが、違和感がないということは二次創作作品の製作時には必要なことなんでしょうか?
海原 必要だと思います。二次創作のゲームでは、どんなシステムだって、違和感さえなければ、自然にプレイヤーにも受け容れられていくんだと思うんです。そして、作品ならではゲーム性になっていく。
―――確かに、設定だけ拾ってきたパロディゲームなんかだと、どうしても違和感があります。
海原 自分が注意を置いているところとして、「原作の世界観を漏らさず作品に生かしたい」「作品の世界観からして明らかに違和感を覚えるだろう、ということは入れない」ということがあるんですよ。それは「リスペクト」なのか「世界観への尊重」なのか、どういう言葉になるかはわからないのですが、二次創作としてゲームを作る場合は必ず念頭に置くようにしています。
―――黄昏フロンティアさんのゲームが公認を得られる理由の一端がある気がします。
海原 『東方萃夢想』にしても『東方緋想天~Scarlet Weather Rhapsody.』(08年)にしても、開発につまずいたこともあるんです。でも「これは東方の世界観として反してはダメだ、東方を知っている人は納得しない」ということを考えることで、最後のアイディアが搾り出すことができたんです。
自作ゲームのピースがあとひとつ足りない時は……
―――陳腐な言葉かもしれませんが、作品への尊敬がある二次創作ゲームはちゃんと面白くなるというか。
海原 そうだと思います。そういう意味でありがたかったのは、「東方」は少しなら悪ふざけしても、世界観への尊重を守っていれば許されることがある世界観でもあるのかなというところなんです。
―――「東方」の世界観の魅力の源泉はどこにあるのでしょうか。
海原 いやあ、それはビールだと思いますよ。ZUNさんが飲まれる、果てしない量のビールで醸成されたとしか考えられません(笑)
―――ははは。
海原 でも、ひとつあるとしたら、ZUNさんの世界観をどれだけ広げても破綻を起こさない、才能とセンスが源泉にあるんだと思います。新しいキャラが増えすぎると世界観が膨張しすぎて面倒になることが普通だと思うんですけど、「東方」ではすぐにそこに居るのが当たり前になっているというのがスゴイんですよね。
―――東方の二次創作ゲームには面白いものがたくさんありますが、面白さのひとつとしてZUNさんの才能とセンスで生み出された世界観に理由があるかもしれない?
海原 そうですね。例えて言うなら、東方にはいろんなところにいろんな形のジグソーパズルのピースがあるんだと思います。そして僕の場合は、こういうゲームを作りたいというジグソーパズルの完成図があったんだけど、どうしてもひとつだけピースが足りなかった。
―――オリジナルを作るパワーはなかったし、“射撃戦をやる格闘ゲーム”というシステムを受け容れる世界観を探していた。
海原 そして、足りない場所にピッタリはまるピースは、『東方Project』にあった、ということだと思うんです。「東方の二次創作ゲームには面白いものがたくさんある」ということですが、面白い東方ゲームというのは、やっぱりどうしても、東方というピースが必要だった、必然性があるものなんだと思うんです。だからこそ、世界観もちゃんと尊重しているし、世界観の魅力を漏らさずゲーム化している。
―――ただ東方をくっつけて出そうとしているわけではないからこそ、面白い。そして黄昏フロンティアさんは『ひぐらしデイブレイク』も制作されています。「ひぐらしのなく頃に」と竜騎士07さんの作り出す世界観の魅力はどこにあると思いますか?
海原 竜騎士さんはZUNさんといい意味で対照的な方だと思っています。ZUNさんは「やりたいことをやりな」という感じで、仕上げのところをキチッと見ていただける方なんですけど、竜騎士さんは一緒になって遊んでくれる方なんです。
『ひぐらしデイブレイク』を作っているときも、「今回のひぐらしならこうだね」「こうやっちゃっていいよ」と一緒に遊ぶように作ってくれて。
―――それは羨ましい話です……。
海原 キャラクターのセリフとかモーションも考えてくれて、こちらのために、竜騎士さん自ら『ひぐらしのなく頃に』を世界観を拡張してくれたんです。本当に同人ゲームの作者冥利に本当に尽きることだと思います。おふたりともに共通しているのは、自分の領域をちゃんと持っているということですよね。そこから逸れなければ大丈夫だという確固たる意思があるからこそだと思います。

竜騎士07氏は『ひぐらしデイブレイク』のために、新規のシナリオを書き下ろしたことでも話題に。また本作は、後にPSP対応ゲーム『ひぐらしデイブレイクPortable』として商業ゲーム化もされている。
―――では改めて、二次創作作品を題材したゲームを作るときのアドバイスがあれば教えていください。
海原 何度も繰り返してしまうのですが、コレはないだろうというツッコミがないようにするのが一番で、整合性には気を遣わないといけないと思います。そこを外したものを作ってしまうと、ゲーム性自体も損ねてしまいますし、ユーザーからもゲームの外からツッコミを受ける。二次創作でゲームを作るときの怖いところだと思いますね。
―――自分に合ったピースを見つけることが大切なんですね。あとは愛があれば大丈夫というか(笑)。
海原 ブッ飛んだ愛で突っ走っもいいんだと思うんですよ。ブッ飛んだ愛があれば、どんなに荒削りでも相手側に届くかもしれない。届けばそれは正義になるんだと思います。でも届かなかったときはタイヘンなことになりますね。愛は重いですよ(笑)。
―――「ニコニコ自作ゲームフェス」に応募しようと思っている人に、ひとつアドバイスをするとしたら?
海原 やっぱりまず、「完成させよう」っていうのが第一ですね。どんなに雑でもいいんで、とりあえず動くようにする。そうすると、作る側は面白くなっていくんです。面白くなると、過程でもっとやりたいことも生まれてきますから。自分も『EFZ』でそうやって試行錯誤していました。
あと、ゲームを完成させた後には、誰かに認識されるということが第一だと思うんですが、それは「ニコニコ自作ゲームフェス」が手助けしてくれると思います。やっぱりゲームを始めるには買ったりダウンロードしたりインストールしたりと手間がかかるので、なかなかそこまで辿り着いてくれなくて悩むんですけど、動画を観るだけなら簡単だし、「ユーザーさんからゲームに来てくれる」というキッカケになるということはゲーム制作者にとって良いことだと思いますね。
―――「ニコニコ自作ゲームフェス」でとりあえず動くようなものを出してレスポンスをもらい前進しつつ、回を重ねるごとに完成させていくという試みも面白そうかもしれないです。
海原 あー、でもそれは諸刃の剣かも。ちゃんと「次に繋げるために!」みたいな意識がないと……キツいコメントがあれば凹んでしまうし、自分が打たれ弱いならやめたほうがいいですね(笑)。
(村井克成)
【インタビュー記事一覧】
・ならむら「英語圏で出したいというアクションを起こせば機会は増える」(代表作:『GR3』『LA-MULANA』『薔薇と椿』)
・八百谷真「ゲーム作りは欲求不満放出の場」(代表作:『囚人へのペル・エム・フル』)
・なりた「商業に応用できるアイデアや可能性を同人ゲームで探っていた」(代表作:『MELTY BLOOD』)
・cutlass「これからのノベルゲーム文化を自分が背負わないで誰が背負うんだ!」(代表作:『NOeSIS~嘘を吐いた記憶の物語~』)
・奥井晶久「ニコニコはゲームとユーザーの接点を作ってくれる」(代表作:『ワンナイト人狼』)
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・竜騎士07「ニコニコ自作ゲームフェスはいい“試練の場”になる!」 (代表作:『ひぐらしのなく頃に』)
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・【前編】泉和良「自作ゲームしかなくなっちゃったんですよ」(代表作:『自給自足』『エレGY』)
・八百谷真「ゲーム作りは欲求不満放出の場」(代表作:『囚人へのペル・エム・フル』)
・飯田和敏「自分が面白いと思うゲームを作るのが一番!」(代表作:『アクアノートの休日』)
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『MOON~輝く季節へ~』
何その題名は綺麗だけど超鬱ゲーっぽい作品w
ところで二次創作の二次創作ってどういうこと?
売れるゲームよりも愛あるゲームを作る。今のゲーム業界を見るとなかなか
理に適ってるなと思う。沢山のゲームを作っていることから恐らくそそっそ
逃げたくなる程行き詰まることもあっただろう。でも愛があれば作れます。
「げげっ確かに!」と思う。こういう人は面白いゲームを沢山つくってくれ
つまり・・・なつのかげろうが出るって事か
『MOON~輝く季節へ~』に吹いてしまった 何故混ぜた