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七月さん製作の楽曲はコチラ(自作ゲーム制作の際に誰でも自由に使用可能)
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同人ゲームで
「これは超おもしろい!これはやらなきゃいけない!!」と興奮
――― 『天使郷 -ヘブン-』('09年)、悔しいほど泣かされました。このノベルゲーム、イラストから音楽、スクリプト、もちろんシナリオまで全部七月さんが作ったそうですね。
七月 実は僕、美大を出てるんですよ。なので絵は描ける……はず、だったんですけど(笑)。
――― イラストの出来栄えは実際に見ていただくとして。作曲も以前から趣味でやっていらしたのだとか。
七月 美大は4年間しっかり通いまして、曲作りの方は高校くらいから始めたただの趣味。それなのに、ゲーム完成後に遊んだ方に感想を伺ってみると、「シナリオ、さすがプロですね」「音楽、いいですね。合っていて好きです」「絵はちょっと……」って(笑)。
▲『天使郷 -ヘブン-』('09年)は七月隆文氏が独力で作り上げたノベルゲーム。総シナリオ量が文庫本5~6冊分、制作楽曲は45曲ととんでもないボリュームで、制作に3年半かかったという。
▲メインヒロインである周祈(あまねき)トエルは、金髪碧眼なのに日本語しか話せないというちょっと変わった女のコ。素直な優しさで、心に闇を抱える主人公を暖かく包んでくれる。ぶっちゃけ、泣かされます。
――― 衝撃的な感想ですね(笑)。
七月 そうだよなぁって自分でも思いました(笑)。当時通っていた大学、現在はコミックやアニメーションをしっかり作れる環境が整っているので、また入り直したいです(笑)。
――― 音楽からイラスト、シナリオまですべてひとりで担当するのは大変です。なぜひとりで全部作ろうと思ったんでしょう。
七月 ズバリ、同人ゲームがきっかけですね。『月姫』('00年・TYPE-MOON)や『ひぐらしのなく頃に』('02年・07th Expansion)といったゲームがおもしろくてドハマりしたのですが、そこで「少人数でもゲームを作れる」「ゲーム制作の環境ができている」と気づきまして。僕は趣味で絵や音楽もやっていましたから、「これを全部をひとりでやった人はあまりいないのでは?」と思い立ち、「これは超おもしろい!これはやらなきゃいけない!!」とモチベーションがガーッと来て……やりました(笑)。
――― そこまでゲーム制作のモチベーションが上がったのには、理由があるのでしょうか。
七月 一番の理由は「これはおもしろい!」と感じたからです。その次にあったのが、「同人活動なら自由にできる」ということ。僕の絵も音楽も商業で通用するにはレベルが足りないわけですが、“同人”のような創作発表の場であればそれでも許されます。内容的にもやりたいことをなんでもやれるし、コミケなどの即売会で人に手に取ってもらえる。そういう場があるなら、自分が好きだと思ったことを“かたち”にしてみたいと思いました。
体験版を出しても反応がなかったのが辛かった
――― それでも初めてのゲーム制作です。いろいろと苦労があったのでは。
七月 とにかく作業量が多くて大変でした。ただ、「楽しい」という気持ちがあったので、全然苦ではありませんでしたね。「NScripter」を使っているのですが、タグやスクリプトを打ち込んでいくと、ゲームのタイトル画面のようなものができてくるわけです。そこで自分の作った画面と曲が出てくると、やっぱり感動するんですよ!
――― 作品の形が見えてくる、そのことがモチベーションにつながったと。
七月 「これゲームだ! ゲームになってる!」と。そういう楽しさがどんどん出てくるし、自分ひとりだからやりたい放題。演出のタイミングもコンマ秒単位で調節できますし、音の消え方や入り方も全部自分で決められます。だからすごく楽しいんです。
――― 音楽面では45曲以上作曲されていますが、同じテンションで仕上げたんですか?
七月 あの頃のモチベーションは異常でしたね(笑)。「こういう曲を作らなければならない」というものが明確にあったし、モチベーションも高かったので、多い時は1日1~2曲作っていました。ゲームの製作とシナリオを進めたら「NScripter」でゲームとして表示させて、その画面を見ながら「ここにはこういう曲がいるな」と音楽を作っていくわけです。
――― 音楽も部分ごとにゲームとして完成させていくことで、モチベーションを上げていったと。
七月 シーケンサーで曲ができてきたら、NScripterを立ち上げて、作りかけの曲を流しながらシナリオを読み、シーンの移り変わりに合うように曲の展開を調整していきます。テキストのタイミングに曲を合わせていく作業も、ひとりだから簡単にできるんです。
▲『天使郷 -ヘブン-』の音楽が好評だったため、'10年に制作されたサウンドトラック。CD2枚組で、31曲を収録している。ちなみに、ゲームのエンディング曲「あまねき祈り」では初音ミクが歌唱を担当。
――― シナリオは得意分野だと思いますが、どのように制作を進めたのでしょうか。
七月 まずはヒロインのルートごとに、プロットを先に全部上げてしまいます。次にスクリプトの改行命令などを入れつつ、シナリオを書いていく。それをNScripterで開いて、文章がどう表示されるかや、テンポを確認しながら読み進め、調整します。ノベルゲームと小説では文章の呼吸が違うので、その点は意識しました。
――― 取り掛かりとしては、シナリオからと言うわけですね。
七月 シナリオを書きながら、同時にネットから拾ったイメージに近い写真を“仮の背景”としてスクリプトに組み込み、シーンの流れや演出もプロトタイプとして作っていきます。その時に曲が浮かんだら、作っていきますし……同時進行ですね。シナリオを書きながらその他も仮置きし、組めるところは組んでいく。「ここはこういう演出に」「立絵の表情」といった指示も、ト書きであらかじめ入れていきます。
――― ふむふむ。そういえば、途中で体験版をリリースされていましたよね。
七月 ゲームを作っている時、ひとつだけ辛かったことがあって。それが、体験版を出した際に反応がそれほどなかったことなんです。
――― え! そうだったんですか?
七月 そうなんです。その時のモチベーションの落ち方が半端なくて、キツかったですよ。自分の経験からのアドバイスですが、完成前に発表する際は慎重にやった方がいいと思います。
▲『天使郷 -ヘブン-』の体験版は'08年と'09年に、複数のサイトで公開された。'08年版はトエルシナリオまでを、'09年版では主人公の年上のいとこ・ナギ姉こと、美ノ里夕凪(みのりゆうな)シナリオ中盤までを収録。
※画面は完成版のもの
▲パワフルで口の悪いナギ姉だが、そんな素の姿を見せるのは主人公の前だけのよう。現在は大学1年生だが、高校時代は伝説の生徒会長としてみんなに尊敬されていたらしい。人には言えない秘密も持ってるとか……!?
※画面は完成版のもの
――― 体験版は1ルートと2ルート途中までの収録でした。その時点でまだかなりの量が手つかずだったと思いますが、モチベーションはどうやって回復したのでしょう。
七月 実際に制作したことがある人なら分かると思いますが、作品を他人に見せた時、「大したことないよ」と言われたり、「ふーん」と流されたりすると、本人も作っているものへの愛着を維持するのが難しくなります。急に自分の作品が色褪せて見えるというか。そこをなんとか乗り切ったのは……。「ここまでやったんだから」という“意地”ですね。意地で完成させました。
――― その意地、見習いたいです。
七月 ゲーム製作で一番大事にしてほしいのは、「自分で何かを作る」ことの“ワクワク感”だと思うんです。そこが一番の醍醐味だし、一番大事にしてほしい。その先に商業的な成功があるかは分からないですが、情熱って大事だと思うんです。例えば、『東方Project』のZUNさんが自分の好きなことをブレずにやって今の成功があるように、結果がどうなろうと「やりたいからやる」「作ることが楽しい」という感覚を大切にすることが、何より重要なんじゃないでしょうか。
「自分の中に宝物をしまっているような感覚」
を大事に持ち続けて
――― ここまでお話を聞いてきて、七月さんの情熱に正直圧倒されています。創作への情熱を保ち続ける秘訣があればお願いします。
七月 「俺が作っているのはすごいものかもしれない」という気分を持つ楽しさが大事だと思います。特に学生にはそういう気持ちを持ちながら創作を続けてほしい。そうしたらどんどん上手くなっていくし、プロへの道も開けるかもしれない。とにかく学生のうちは「作ることが楽しい」という気持ちを持ち続けてほしいです。
――― いい意味での“中二病”というか、自分のすごさを疑わないことが大事だということでしょうか。
七月 僕が表現するとすれば、「自分の中に宝物をしまっているような感覚」ですね。「いつか人に見せるんだ」「人に見せてびっくりさせるんだ」、そう考えながら創作をすることが、僕の一番のモチベーションです。
――― 『俺がお嬢様学校に「庶民サンプル」として拉致られた件』が大変なヒットで、小説家としてお忙しいと聞いています。本業と並行して、今後もゲーム制作を続けられるつもりでしょうか。
七月 ゲームは出したいですね……。もっといい絵師さんにお願いして、クオリティを上げたバージョンを出したいという気持ちはあります。僕にとって次のステップは、いろいろな人の力を借りて、いいものを出すこと。ひとりだけで作るのはもうやってしまいましたし、今後に期待してください(笑)。
――― ぜひ、「ニコニコ自作ゲームフェス」にも投稿をお願いします。本日はどうもありがとうございました。
(インタビュー・市川美穂)
【インタビュー記事一覧】
・管理人「こんなにおもしろいゲームなのになんで有名じゃないんだろう」(ゲーム紹介サイト『フリーゲーム夢現』)
・上原「携帯ゲームの世界に入ってこいよ!と伝えたい」(代表作:『上原の冒険』『上原パズル』)
・【ならむら「英語圏で出したいというアクションを起こせば機会は増える」(代表作:『GR3』『LA-MULANA』『薔薇と椿』)
・なりた「商業に応用できるアイデアや可能性を同人ゲームで探っていた」(代表作:『MELTY BLOOD』)
・cutlass「これからのノベルゲーム文化を自分が背負わないで誰が背負うんだ!」(代表作:『NOeSIS~嘘を吐いた記憶の物語~』)
・海原海豚(黄昏フロンティア)「自作ゲーム制作にはブッ飛んだ愛が必要」(代表作:『東方萃夢想』『ひぐらしデイブレイク』)
・奥井晶久「ニコニコはゲームとユーザーの接点を作ってくれる」(代表作:『ワンナイト人狼』)
・支倉凍砂「目標はハリウッドで映画化でした」(代表作:『狼と香辛料』『ワールドエンドエコノミカ』)
・竜騎士07「ニコニコ自作ゲームフェスはいい“試練の場”になる!」 (代表作:『ひぐらしのなく頃に』)
・オガワコウサク「それはもう、祁答院が作るゲームが面白いからですよね」(代表作:『コープスパーティー』)
・ZUN「『東方Project』は自分のライフワークみたいなものになっている」(代表作:『東方』シリーズ)
・SmokingWOLF「2Dゲームでできることはほぼなんでもできてしまうんですよ」(代表作:『シルフェイド見聞録』)
・【後編】泉和良「自作ゲームは一生自分の体から離れないものになった」(代表作:『自給自足』『エレGY』)
・【前編】泉和良「自作ゲームしかなくなっちゃったんですよ」(代表作:『自給自足』『エレGY』)
・八百谷真「ゲーム作りは欲求不満放出の場」(代表作:『囚人へのペル・エム・フル』)
・飯田和敏「自分が面白いと思うゲームを作るのが一番!」(代表作:『アクアノートの休日』)