日本における自作ゲームの歴史は長い。そして、その歴史はメディアの変化と手を取り合ってきたものだった。
古くは80年代のマイコン雑誌に掲載されたコードに始まり、パソコン通信や草の根ネットでの公開、コンシューマー機でも手軽にRPGを作れる『RPGツクール』の登場、そしてそれらを拡散できるインターネットの普及……マイコン以降の日本のコンピュータ文化は、個人による自作ゲームが世界に向けて拡散される環境を整えてきた歴史でもある。
その意味でここ、ニコニコ動画もまた自作ゲームに大きな影響を与えてきた。ゲーム実況者たちが自作ゲームを積極的に紹介してきたことで、アマチュアの作ったゲームを楽しむユーザーが、マニアから一般ユーザーへと解き放たれたのだ。
例えば先日、映画『青鬼』の制作者に取材した際に、彼らは小学生が親子連れでこぞって映画館を訪れていたことに衝撃を受けていた。だが、こうして『青鬼』が映画化されるような状況は――ニコニコ好きならよく知っているように――明らかに2009年のボルゾイ企画のゲーム実況から始まったものである。
一方で、自作ゲームは近年ボカロ小説を出版してきた版元を中心に、次々にノベライズが始まっている。買い手の多くは中高生で、売上も好調だという。その多くが無料文化の中で発展してきた自作ゲームであり、この状況には議論もある。だが、メディアミックスという形ではあるが、海外インディーズゲームシーンとは全く違うアマチュア制作者の出口が、遂に日本でも見え始めたのも事実なのだ。
今回インタビューするのは、そんな自作ゲームの現在から登場してきた二人の女の子だ。彼女たち「ブリキの時計」が昨年夏に発表した『クロエのレクイエム』は、フリーゲーム好きの間で高い評価を受け、キヨや鎌首(かまくび)ら実況者の紹介が話題を呼んだ。先日、ノベライズも発表されている。
その年齢は、まだ16歳と19歳――学校に通いながらゲーム制作を楽しむ彼女たちの姿からは、日本のインディーズゲームシーンのこれからが見えてくる。

--------------------------------------------ブリキの時計(ぶりきのとけい)
ぬばりん(19歳、右)とななしのちよ(16歳、左)によるゲームサークル。
フリーゲーム制作などをメインに行う。2013年10月発表の『クロエのレクイエム』がニコニコ自作ゲームフェス2で「クラシックホラー賞」受賞。ゲーム実況などで大きく話題を呼んだ。2014年には『幻想乙女のおかしな隠れ家』を発表。
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「……光栄です。いつも読んでます。」
ドワンゴの自作ゲームフェス担当者(以下、D担):今回のインタビューの趣旨について説明します。二人も知っているように現在、自作ゲームが大きく盛り上がっています。今回は、そのクリエイターたちを応援するインタビュー企画で、お二人に来ていただきました。
ぬばりん&ななしの ちよ:はい。(緊張の面持ちで)
D担:お二人の前には、スパイク・チュンソフトの中村光一さんとゲームフリークの増田順一さんに出演していただいてます。中村さんは、10代のときに自作ゲームのコンテストに応募して、22歳で「ドラクエ1」を作っています。その後も、『風来のシレン』や『街』などのゲームを作ってきた方です。
ぬばりん:は、はい。
D担:その次のインタビューは、増田さんという現在、ポケモンのディレクターを務めている人です。彼らも元々はミニコミ誌という、現在でいうところの同人サークルのようなところにいて、自作ゲームから始めているんですね。
ななしの ちよ(以下、ななしの):う、うう……。
ぬばりん:……光栄です。いつも読んでます。
D担:お二人からは自作ゲームについて、アツい言葉を頂いてます。
ぬばりん&ななしの:……え!!
――……あの、恐縮させてどうするんですか(笑)。
今回はこれまでと雰囲気を変えて、現役の自作ゲームクリエイターのお二人に取材したいと思います。自作ゲームづくりの面白さや魅力を、ぜひ仲間たちに伝えていただければと思います。
実況好きの知り合いに「クロエの作者なの?」と驚かれた
――『クロエのレクイエム』の現在の状況をどう感じていますか?
ぬばりん:正直に言って、ここまでの人気が出るとは思わなかったので、ビックリしてます。最初はダウンロードが来ただけで喜んでいたくらいでしたから。
最終兵器俺達のキヨさんが実況した『クロエのレクイエム』。ななしの:私は、もう完成したことに感動を覚えて、息絶えてました(笑)。
――お二人が『クロエのレクイエム』を出したときって、ランキングはどんな様子でしたか?
ぬばりん:「ふりーむ!」でランキングが伸びたのですが、1位は『METAL_SHINOBI_ASSASSIN』で、大体2位か3位にいました。ただ、同時期に『霧雨が降る森』が出てきたんですね。
星屑KRNKRN氏が2013年秋にリリースした自作ゲーム『霧雨が降る森』。女子中高生を中心に大きく話題を呼んだ。今年春には『カゲロウデイズ』等が連載される漫画誌「コミックジーン」で漫画化、自作ゲームのマルチメディア展開の先頭を走っている。
――『霧雨』がぶつかってきたんですね。やっぱり「くっそー! 霧雨ッ!」みたいな感じですか(笑)?
ぬばりん:いや、もう「ああ、こんなすごい作品が出てきてしまうなんて、私たちはどうしよう」という感じでした。あの時期には、他にも何本も素晴らしいゲームが出てきたんです。周りの凄い作品たちを見て「私たちダメじゃん」と不安になっていた時期でした。
りりはうす氏が制作したフリーゲーム『物年世界』。戦前の関西を舞台にしたホラーで、グラフィックの流麗さも話題を呼んだ。
ななしの:少し前に『物念世界』が出ていて、そのときも「あわわ」という感じでした。
――昨年の後半くらいから、「Ib以降」という感じのホラーゲームが、同時多発的に出てきたんですよね。「クロエ」もその中の一つだと思いますが。
kouri氏が2012年に公開したホラーゲーム『Ib』。洋館を使った謎解きやキャラクターが女性を中心に話題を呼び、pixivの二次創作イラストやノベル等を中心に一世を風靡。現在の自作ゲームブームに繋がる大きな流れを生み出した。
ななしの:みんな、夏休みに入ったので作ったんじゃないですか?
――『青鬼』や『Ib』で遊んできたホラゲ世代が、ちょうどゲームを作りたい年頃になった夏休みだった(笑)。
ぬばりん:本当に、そうかもしれないですね(笑)。
――少なくとも、お二人はそうですよね。ゲーム実況での人気はどう感じていますか? キヨさんや鎌首さんのように、女の子に大人気の実況者さんが投稿していますよね。
ななしの:実は、クロエを出すまで「ゲーム実況」の存在を知らなかったんです。でも、実況好きの友だちから「動画で見たよー」と言われたり、「え? クロエの作者なの?」と驚かれたりします。
ぬばりん:やはり周囲に実況好きの子は多くて、「知り合いの作品をあの実況者さんがやっていて、不思議な気持ちだ」とか言われます(笑)。
クロエはプロットを書かずに即興で作り上げた
――『クロエのレクイエム』で印象的だったのが、謎解きやミッションの魅力でした。彫刻と絵画の謎解きなんて、どうやって思いついたんですか?
ななしの:あー……でも、最初は彫刻家の話だったので、その名残で入れたんですよ。話がその後に変わってしまって……。
ぬばりん:実は「クロエ」って、あえてプロットを書かずに作ってみたんです(笑)。
――えっ!
ぬばりん:簡単な流れと、主人公とヒロインの生い立ちだけは決めておいて、あとは基本的にその場のノリで作りました。もちろん、演奏をしながらクロエの心を浄化していく……みたいな展開は頭の中に入れてましたが。
ななしの:例えば、クラシックの音楽を使おうと決めたのは即興ですね。そのシーンに合った楽曲を入れて、作っていきました。
でも一応、企画書はあるんです。これが、最初にぬばりんさんから貰ったものです。だいぶ内容が変わっていますが。
ぬばりんさんがコピー用紙に手書きで書いた企画書。
ぬばりん:ホラーゲームを作ろうとだけは決めていたんです。それである晩、深夜1時くらいにふと目が覚めて、電気をつけてこの企画書を1時間くらいでガーッと書き上げて……それでまた「バタン」と寝ました(笑)。洋館を使ったホラーゲームを作りたかったんです。
ななしの:で、私のところにこの紙を持ってきて、「これで作るから、よろしく」と(笑)。
――他にも何枚もメモがありますね。
ななしの:アイディアに詰まったら、二人で連想ゲームみたいにコピー用紙に書いていくんです。
2階のメイドの日記の謎解きを考えたときのマップ。「それまでお父さんとお母さんしか出てこなかったので、メイドを出そうという話になったんです」(ぬばりん)「即興だったの!? 随分と堂に入った謎解きだったけど……」(D担)
――マインドマップみたいですね。どうしてもアイディアが出ないときはありませんか?
ななしの:そのときは「気合い」です!
ぬばりん:「無理なことなどないんだ!」って、自分に言い聞かせます。

取材の際に見せてもらったゲーム制作時のメモ。
でも、夏休みの終わり頃には、ななしのさんは「完成しないよ。もう無理じゃん……」と泣きながら作業してたよね。
ななしの:あのときは泣いてましたね。夏休み中に仕上げるという話だったので。
――たぶん、そこで二人とも喧嘩してますよね(笑)。
ぬばりん:もう「完成するっ!」って言い張りました。
ななしの:意見がぶつかったとき、ぬばりんさんは絶対に折れないんです。そういうときは、「はい、いいよいいよー」ってなります(笑)。
例えば、ピエールというキャラクターが登場するのですが、あれも、ぬばりんさんが突然「双子の男の子を出そう」と言い出したんです。私は、「えっ? えっ?」となってしまって。だって、洋館の二階まで作り終えていたのに、「ここからさらに足すの?」って。
でも、あとで二人で話し合って、キャラクター設定を決めました。結果的に大抵は、彼女の意見で上手く行くんですよね……。
「実は一番好きなキャラクターは、ピエールなんです。ミシェル君は天才で、彼はいくら頑張っても敵わない。そこに共感してしまいます。"ああ、努力家なんだな"と思ったら、愛着がわきました」(ななしの)
――中村さんも増田さんも強調していたのは、ゲームは仲間と一緒に作る方が絶対に面白くなるし、しかも意見の衝突からこそ面白いものが生まれてくるという話でした。
ぬばりん:分かりますね……そもそも、私は一人でゲームは作れないですから。
ななしの:ぬばりんさんは、のんびりしてるんです。だから、私が「ほら、こことここ!」みたいな感じで急かすんです。他にも、ゲーム制作中はお菓子の袋は置きっぱなしだし、電気も私が消すし……晩ご飯のときも、「もう私がご飯作ってあげるから、そっちでゲーム作ってて!」とかやってます。
D担:お母さんみたいだよね(笑)。
ななしの:ぬばりんさんはのめり込んでしまうと抜け出られないから、その間のフォローは私の役目ですね。
ソナタ形式で謎解きを作ってみた
――作業分担はしているんですか?
ぬばりん:え……あんまり考えたことない(笑)。夏休みになったら、二人でお祖母ちゃんの家に行って、パソコンを並べて座って「タタタタ」と打っていく感じですよね。

実際にその場で、普段作業しているときの雰囲気を再現してもらいました。
ななしの:お祖母ちゃんに何度か怒られたよね。
ぬばりん:そうそう、それで「見てろよ」とか言ってたよね(笑)。
ただ、ストーリーに関しては、私が考えることが多いです。児童書が好きで、『ハリー・ポッター』や『ダレン・シャン』、それから上橋菜穂子さんなどをよく読むんです。あとは、『テレパシー少女「蘭」』のような謎解き系の作品も読みます。文章の雰囲気に、ああいうファンタジーの影響を受けているのはあると思います。イラストも基本的には、私が全部書いています。
でも、私の場合は、困ったらすぐに「どう?」とななしのさんに聞いてしまいますからね……。
――物語も面白かったのですが、ミッションも印象的なんですよ。
ぬばりん:ななしのさんのアイディアがかなり使われてますよね。
ななしの:伏線のある物語が好きなんです。小説家では、ミステリ作家のアガサ・クリスティが好きで、読んでます。ノベルゲームも好きなのですが、あれも伏線が沢山あるじゃないですか。プレイしながら、見せ方などの参考にしています。
――音楽も、ななしのさんですよね。作中のクラシックの知識がかなり本格的だったので、高校生だと知って驚きました。ピエールとミシェルの部屋にあったバッハの言葉も、シーンにぴったりで凄いなあと思いました。
ななしの:クラシックはフリー素材を使いました。私はドビュッシーという作曲家が一番好きなのですが、「クロエ」では使えなかったですね……。。
それ以外の音楽はオリジナルを打ち込みました。同じ音楽でも微妙に変えていたりして、例えばエンディングの「クロエのレクイエム」の演奏では、どこか「優しさ」が感じられるように気をつけています。
ストーリーで使った知識については、音楽の高校に通っているので、周囲の友人たちに聞いたり、授業で習った内容を活かしました。
ぬばりん:実は今回、1階の謎解きをソナタ形式で作ってみたんです。
(※以下、ネタバレになる箇所があるため、一部で伏せ字をしています)
――ソナタ形式で謎解き……ですか?
ななしの:ベートーベンの『月光』というソナタ形式で作られた楽曲を出したところです。
ソナタって、提示部-展開部-再現部があるんです。提示部で謎が出されて、展開部で謎解きが行われ、再現部で再び最初の状況が再現されるようにしています。まず、最初の部屋で「目がないの」と言われて、次の部屋に行くじゃないですか。そうすると、目のない人形の謎が出されるので、今度は〇〇を〇〇するでしょう。そうすると……。
D担:なるほど! 確かに再現になってる。
ぬばりん:他にも、色々なところでミッションはこだわってます。
ななしの:あの彫刻と絵画のところも、実は、その後の〇〇と〇〇と〇〇の人間関係を暗示する伏線として作ってます。あと、こだわった点では、3階でオーケストラの音楽が流れるのですが、実は作中に出てくる『オーケストラ殺人事件』に登場した楽器のみで作りました。
ぬばりん:実際にオーケストラで演奏されたと仮定して、この配置であればこういう風に音が出ると考えて作曲しています。
――ミッションで一番センスが良いなあと思ったのは、フランス料理のフルコースのマナー通りに作業するところなんですよ。
ななしの:あ……あれは、ぬばりんさんのお母さんのアイディアです(笑)。
旅行に行った帰りに車の中で、「フランスといえばフランス料理でしょ? そしたら、マナーじゃない?」って言われました。「フルコースを出したほうが、フランスらしくなるでしょ」って。
――……いま軽く衝撃を受けているのですが、お母さんはあのミッションの内容を知ってるのですか(※)?

(※)このミッションでは失敗すると、人肉料理のフルコースが登場する。
ぬばりん:いえ、まったく(笑)。教えてるのは、フランス料理を使うということだけです。
普段やっているゲームは……「ギャルゲー」!?
――なるほど(笑)。二人は、普段は自作ゲーム以外では、どんなゲームをやっているんですか? やっぱり謎解き系やホラーゲームですか?
ななしの:ギャルゲーが好きなんです。本当に感動したゲームで、『リトルバスターズ!』というゲームがありまして……。
――……知ってます。
D担:僕たちは、key直撃のループもの大好き世代ですからね(笑)。
ななしの:ループ設定、大好きです。keyみたいな、ああいう感動するゲームを作りたいなと思っています。小学校の3年生だったかの頃に、ぬばりんさんからアニメの『Air』を教わって、のめり込んだんです。
ぬばりん:中学生のときに、彼女に奨めました。私も、keyは本当に好きですね。他には、『D.C. 〜ダ・カーポ〜』や『Routes -ルーツ-』も好きでした。
D担:あの頃の京アニや美少女ゲームって、僕らは完全に自分たちに向けて作られてると思ってたし、作り手もそうだっただろうと思うんです。でも、実は君たちの世代の女の子に結構影響を与えているよね……。
――当時の文脈が見えなければ、単に女の子が活躍しているコンテンツですからね……って、なんかすいません。話がズレてますね。
ななしの:でも、さすがに周囲の女の子はそんなにギャルゲーはやってないですよ!
――はい(笑)。ちなみに、美少女ゲーム以外ではどうですか?
ななしの:最近は『ダンガンロンパ』に衝撃を受けました。「この伏線すごい!」って。ノベルゲームをプレイしながら、見せ方などを研究しています。
ぬばりん:私はドラクエが大好きですね。一番古い記憶は、4のエンドロールを5歳くらいの頃に見て泣いたことです。親がファミコンでプレイしていました。
だから今回、中村さんと同じシリーズに出るという話を聞いたときは、本当にビックリしました。好きなのは、3と5ですね。たぶん、3はもう10周くらいしてます。5は、子供の頃のビアンカが好きなんです。もう可愛くて、可愛くて。
――でも、二人の世代で女の子となると、周囲はFF好きが多いんじゃないですか?
ぬばりん:そうです。3Dでないとゲームなんて出来ないという人も多いです。でも、私にとっては「ドット絵が基本でしょ」って感じですね。
「戦闘なきRPG」としてのホラーゲームという新領野
――そんな二人が、どういうキッカケでゲームを作り始めたんですか。
ぬばりん:キッカケは、私が『タオルケットをもう一度』というフリーゲームをプレイしたことでした。もう3年前のことです。
かなしみホッチキス氏が2008年頃に制作したシリーズ作品。独特の絵柄にダークな世界観が垣間見える物語が、ネット上で話題を呼んだ。2014年3月にPHP出版から小説が刊行されている。
個人的に少し落ち込んでいた時期で、「何かしなきゃいけない」と焦っていたんです。そんなときにあのゲームに出会って、本当に感動したんです。そして、なんだか元気が出ました。あんな凄いものをプロじゃない人が作っていたことにも、感動しました。
それで、自分もゲームを作りたいと思ってRPGの制作を始めたのですが……結局、1年経っても完成しなかったんです(笑)。それで「もうダメだ……」と思って、音楽を作曲していたイトコのななしのさんに「手伝ってよ」と本格的に声をかけました。そこで、二人で話し合って、まずゲーム作りに慣れるために1週間くらいで適当なゲームを作ったんです。それが処女作ですね。
ななしの:『クソゲー物語』というタイトルで、「真面目なゲームを制作しています」って一言書いて出したんです。
ぬばりん:でも、完成してみると「動いてる!」「"しらべる"ができる!」「文章が流れる!」みたいなことで、もう一々嬉しいんです。うん、感動でしたね。
『クロエのレクイエム』も、そのRPGの練習に「次はホラーゲームをやってみよう!」ということで作りました。ただ、やはり途中のゲームを投げ出すのには葛藤があって……6月に思いついたのに、実際に制作に入ったのは夏休みの直前でした。
ななしの:公開したのは、10月の頭ですね。だから、制作期間は3ヶ月くらいです。
――それだけの時間で、あの作品を作ったんですね。参考にした自作ゲームはありますか?
ぬばりん:やっぱり、『魔女の家』です。ホラーゲームをやろうと思ったキッカケも、あの作品でした。全体に流れる雰囲気や謎解きが、本当に好きだったんです。
ふみー氏が2012年10月に公開した、ホラーゲーム。魔女の家から脱出を図る。ゲーム実況での人気も高い。
――ホラー系の自作ゲームには思い入れがありますか。
ぬばりん:中学生の頃からずっと大好きで、「
激辛」のようなレビューサイトを見ながら、『青鬼』や『ゆめにっき』を遊んできました。
そういう意味では、私の中で「同人ゲーム=ホラー」という図式ができてしまっているのかもしれないです。『タオルケットをもう一度』も、ホラーの要素が強いですし。ホラーって間延びさせないで、常にプレイヤーに緊迫感を与えられるんです。
ききやま氏が2004年に発表した、夢の中を移動する設定のフリーゲーム。フリーゲーム好きの間でカルト的な人気を博す。2013年には日日日氏によるノベライズも出版。海外での評価も高い。
ななしの:私は「作ろう」と言われたので作りましたが、ホラーは苦手なんです(笑)。「クロエ」も自分で場面を考えたのに「うう、やりたくない」と思うくらいです。
D担:その割には、ななしのさんが書いてるシーンって、容赦なく怖かったですけどね(笑)。
個人的に一つ聞いてみたいのですが、最近のホラーゲームって、要はツクールの戦闘機能を使わずに制作されたRPGとも言えると思うんです。そこはどう思いますか?
ぬばりん:プレイヤーとしてはRPGの戦闘が苦手だったのでありがたいですが(笑)、戦闘がない分だけテンポ作りが難しくなるんです。RPGって、実は戦闘で話を進められる部分がかなりあると思います。でも、私たちは謎解きで進めなければいけないので、そこは難しいところですね。
ななしの:「間」のとり方の問題も悩みますし、謎解きってストーリーにも絡んでくるし、難しいですよね。
――レベルデザインのような苦労がない代わりに、謎解きのみでストーリーを進める別の苦労があるんですね。実は二人のような自作ゲーム作家たちが、今まさに開拓している新しいノウハウかもしれないですね。
クロエは"元気になれる"エンディング
――「クロエ」で一番表現したかったのは、どういう内容ですか?
ぬばりん:今回のテーマは、「自分がいくら欲しくても、上手くいかないことがある」ということなんです。それと、「受け入れがたい辛いことでも、それを受け入れるのが大事」というメッセージも込めました。
あのエンディングって、状況は何一つ好転してないじゃないですか。そもそも取り返しのつかないことですし。でも、それを受け入れて、生きていく決意を固めるんです。まずは哀しみを受け止めて、前に進まなきゃいけない。
……私は、他人と違う生き方をしてきた人間なんです。だから、色々と上手く行かなくて落ち込んだことがあったんですね。でも、そのときに「自分は自分でいいじゃないか」と思えたんです。好転は出来ないだろう、でも、まずは全てを受け入れて見方を変えるだけでいい――そういう瞬間があるんだと思います。そんな体験がシナリオに影響を与えていると思います。
ななしの:私は、ピエール君のミシェル君への葛藤を描きたかったです。裏で努力をしているピエール君の気持ちとか……似たタイプなので、感情移入しているのかもしれません。
――「クロエ」の続編は作らないのですか?
ぬばりん:続編を作るのは違うと思っています。色々な人が死んでしまっているし、何よりエンディングのあとの展開は、みんなに想像して欲しいんです。あのエンディングは、ななしのさんにも意見を聞いたりして、色々と考えたのですが……。
ななしの:ぬばりんさんの伝えたいことを伝えていると思います。だから、あれでいいと思います。
――変にプレイヤーを意識しだすと、「やっぱりハッピーエンドで」なんて思ってしまうところですが、そこは違う、と。
ぬばりん:もちろん、まだまだプレイヤーに不親切なところはあるので、そういう部分は直していきます。でも、最後は自分のやりたいことを貫くのが大事だと思います。
ゲームで一番大事なのは「作りたい!」という気持ち
――今後はどういうゲームを作りたいですか?
ぬばりん:もうすぐ『幻想乙女のおかしな隠れ家』という次の作品が出ます。(※インタビュー後、リリースされました)

ブリキの時計制作の『幻想乙女のおかしな隠れ家』。
今から帰って作業を続ければ、今日か明日で完成すると思います。今回はオリジナルで作っていて、ドット絵は素材屋さんを使いませんでした。立ち絵も「クロエ」と同様にオリジナルで作っていますが、最近ベルント君というキャラクターが100枚を超えました。「クロエ」のキャラクターはあえて無表情にしたのですが、今回のこのベルント君は表情が豊かなんです。
ななしの:私も、クロエでは5、6曲しか作らなかったのですが、今回は50曲か、ヘタすると60曲くらい作ってます。
――そんなに短期間に曲って作れるんですか?
ななしの:なんだかパソコンの前に向かっていると、気がついたら2,3曲できていたりします(笑)。
ぬばりん:最近、気がつくと5,6曲とか増えてるんですよ……。
――二人とも、もうゲーム作りに夢中なんですね。今後、ゲームでやってみたいことはありますか?
ぬばりん:まだ完成していない1作目のゲームが、「現実と向き合う」というテーマを発展させたものになります。たぶん、これは今後もテーマの一つになっていくと思います。
ななしの:同人ゲームは企業のゲームと違って趣味なので、プレイヤーの「こうした方がいいよ」という意見を取り入れつつ、自分の作りたいものを作るのだと思います。
私の場合は、『リトルバスターズ!』みたいな美少女ゲームが大好きで、プレイすることで元気になれたし、「明日からまた頑張ろう」と思えたんです。そういうふうに人を元気づけるゲームを、これからも作っていきたいです。
――「クロエ」って、人によっては「鬱エンド」と呼ぶようなエンディングでしたが、二人の中では人間を元気にさせて現実に立ち向かわせる物語なんですね。
ぬばりん:精神的にストレスを抱えた子どもたちが、そのストレスに向き合う物語だから、そうだと思っています。
――最後に、自作ゲームを始めたいけど迷っているような人に、二人からゲーム作りの楽しさを伝えてください。
ぬばりん:やっぱり、ワイワイできたのが楽しかったです。くだらない落書きをたくさん書いたりして!
ななしの:昨日も徹夜したんです。その少し前も徹夜しました。楽しみながら作るのが一番です。
ぬばりん:夏休みは、もう私たちの中では「ゲームを作る期間」という感じになってますね(笑)。
ただ、本気で取り組むのは大事だと思います。情熱を懸けた作品からは、作者のこだわりのようなものが、必ずプレイヤーに伝わると思います。私はゲームって、色んなものが寄り集まって全体で出来ていると思っていて、絵やストーリーのような一つ一つの能力が凄くなくてもいい気がしています。大事なのは「作りたい」という気持ちだと思います。
ななしの:ゲームって、完成させたときの感動が凄いんですよ。大変そうだなと思う人も、10分くらいの作品でいいから、ぜひ作ってみてほしいです。私たちも、これから色んなジャンルに挑戦して力を蓄えていきます。(了)
【聞き手・構成:稲葉ほたて】
自作ゲームフェス4PVこのインタビューの一部がPV中に収録されています。
