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雑魚さん のコメント

24歳、ビラ配りです
No.12
52ヶ月前
このコメントは以下の記事についています
 現在、自作ゲームフェス5の募集が行われている。 上の画像をクリックすると、応募条件のページに飛びます。  応募の締め切りは約1ヶ月半後の、4月30日。読者の中にも制作が大詰めを迎えようとしている人がいるかもしれない。今回は既に発表した作品の応募も可能になっており、現時点で多数の作品が集まっている。大賞の審査は前回に引き続き、今回もプロのクリエイターを呼んで行う予定だという。  というわけで、このブロマガの方でも前回同様、自作ゲームクリエイター応援を目的とした、連続クリエイターインタビュー企画を掲載していくことになった。  連載再開後の初回となる今回は、昨年の「自作ゲームフェス4」で見事に大賞を射止めたフリーゲーム作家・tachi氏にインタビューさせていただいた。  tachi氏の年齢は、弱冠24歳。ほとんど年齢が変わらない読者も、多いのではないだろうか。後のインタビューで本人も語っているように、彼は新卒で入社したゲーム会社を辞めて、2年ほど前から北海道の自宅でひとり黙々とゲーム制作を続けてきた。 tachi氏が出演したニコニコ闘会議の告知映像。  今回の大賞作品『Hero and Daughter』は、ガチャを回して女の子のキャラクターを集めながらダンジョンを冒険していくゲーム。RPGの戦闘部分の楽しみに特化した「ハック&スラッシュ」という、自作ゲームの人気ジャンルに分類される作品だ。選考会では、サクサク感のあるスムーズなプレイ体験とユーモラスなキャラクターたちが審査員から絶賛を浴び、「ドラゴンクエスト」シリーズ開発者の中村光一氏からは「ぜひ一緒に仕事をしてみたい」とのラブコールまで贈られた。ネット上での人気も、公開直後から高い。「ふりーむ!」の 累計ダウンロードランキング では現在でも、歴代2位をキープし続けている。  今回はtachi氏に、一体どういう想いでゲーム制作に打ち込んできたのかを聞いた。「最後のゲームのつもりだった」と語る彼が、大賞受賞作で表現しようとしたものとは――。そこには、インターネットのフリーゲーム文化とRPGツクールへの"感謝"の想いが込められていた。 -------------------------------------------- tachi(たち) 2014年3月発表の『月光妖怪』がニコニコ自作ゲームフェス3で「Magino Drive賞」「Xbox Live インディーズ ゲーム賞 優秀賞 」受賞。実況動画が70万再生を越え、大きな話題となった。同7月には『Hero and Daughter』を発表。ニコニコ自作ゲームフェス4の大賞を受賞した。 -------------------------------------------- 授賞式の楽屋裏で審査員に掛けられた言葉 ――「自作ゲームフェス4」大賞、おめでとうございます。 tachi: あの……ありがとうございます。ただ……僕は本当にコミュ障なので、上手く話せなかったら申し訳ないです。 ――いや、普通に話していただければ、大丈夫です(笑)。授賞式のあとに審査員の3人(※ 中村光一氏、浜村弘一氏、志倉千代丸氏)とお話をされたそうですが、印象的な話はありましたか? tachi: 短い時間だったのですが、色んな話をしていただきました。  そうですね……中村光一さんのお話が面白かったです。「新しいプラットフォームで、誰よりも早く新しいことをするのが大事なんだ」という言葉が印象的でした。  中村さんが言うには、プラットフォームの最初は、誰もがまだ遊び方がよくわからなくて、みんなが同じ土俵で遊んでいる。でも、時間が経つと、最初の状況を前提に上手な人と下手な人が分かれてしまう。だからこそ、真っ先に面白い遊び方を普及させるのが大事だし、それに成功すればもうずっとそのゲームを遊んでもらえるんだ、というお話でした。 ――中村光一さんの経歴そのものですね。ファミコンに真っ先にアドベンチャーゲームやRPGを持ち込んで、スーファミで声がサンプリングできるようになったら、今度は『弟切草』のようなサウンドノベルを作り……という。 ドワンゴの自作ゲームフェス担当者(以下、D担): あと、受賞式の楽屋裏で3人に「君、才能あるんだから、どんどんゲームを作りなよ」とけしかけられてましたよね。横でその光景を見ながら、昔のハチャメチャだったゲーム業界を知ってる人たちはアグレッシブだなあと思いました。 11月30日にニコニコ本社で開かれた授賞式の様子。 tachi: で……でも、あれは社交辞令以上の話とは受け取らないようにしておいています。  僕、ヒネくれてるんでしょうか。親に怒られながら、一日中部屋でパソコンと向き合っている人生だったので、どう考えていいかまだ実感がわかなくて、ふわふわしている気分なんです。 ――中村さんは『Hero and Daughter』を「面白いゲームなので、ぜひ」と堀井雄二さんに送ったそうですよ。 tachi: (しばし絶句して)……いや、いや、とにかく僕がすべきことは、あのゲームを更新し続けて、終わらせることだと思っています。今はそこしか考えないようにしていますね。過度な期待を持つのは、良くないことだと思います。まだまだ、僕は本当に未熟なんで……。 北海道在住の24歳。仕事は……ビラ配り!? ――わかりました(笑)。今は北海道の実家でずっとゲームを制作する生活と聞きました。24歳ということですが……。 tachi: もう大学は卒業しています。今は一日中ゲームを制作して、その合間に他の人が作ったゲームをプレイして、疲れたら寝る……という毎日の繰り返しです。あとは、時折ビラ配りをしてます……。  見栄を張って言えば、「フリーター」ですが、もう家ではずっと「コイツ、いつまでゲームを作ってるんだ?」という冷たい目で見られている状態です。この賞のお蔭で、なんとか食事中とかも、少し優しい目になっている気がしなくもないですが……まあ、特に何か言葉を掛けてもらえるわけではないんですけど。 ――なんだか、いきなりヘビーな話になっているのですが(笑)。 tachi: すみません(笑)。ただ、今回の大賞は正直に言って、本当に助かってるんです。  実は1年半前に新卒で入った地元のゲーム会社を、「どうしても自分の納得が行くフリーゲームを作りたい」という理由で、1ヶ月半で辞めてしまっているんです。実家に住んでいるのも、両親に期限付きという条件で頼み込んだものです。  しかも、その期限も、親に頼み込んで一度伸ばしてもらっています。前作の『月光妖怪』がアブさんに実況されたことで、ドワンゴの「クリエイター奨励プログラム」から少しだけ報酬が入りました。この作品は、そのお金を元手に「もう一本だけ、ゲームを作りたい。お願いだから、もう少しだけ!」と両親に頼み込んで作っています。  だから、この作品は、僕の中では"最後のゲーム"のつもりだったんですよ。 ――もう辞める予定だったんですか!? tachi: さすがに、もう自分の将来を考えざるを得ない時期だったんです。だから、大好きでずっとお世話になってきたRPGツクールへの感謝を、最後のゲームに込めようと想いました。そして、まずはとにかくユーザーのことは考えずに、本当に自分の好きなモノを目一杯に詰め込みました。  そういう経緯だったので、この作品がインターネットで大きな反響を呼んで、ついには自作ゲームフェスで大賞まで貰えてしまったのは、もうただただ驚きなんです。 「最後なので、戦略を練るのはやめたんです」 ――でも、そうやって好きなモノを詰め込んだ結果は、この大量の女の子たちとイチャイチャする「ハック&スラッシュ」だったわけですね(笑)。 tachi: そうです。沢山の可愛い女の子たちと一緒にダンジョンを探索できて、モンスターと気持ちよく戦いながらレベル上げをする……これって男のゲーマーにとって、最高のデートコースだと思うんです。 ダンジョンにおける戦闘中の画面 ――それは……確かに。 D担: 「小説家になろう」のランキング上位作品みたいなノリですね(笑)。 tachi: これまでは、もっとユーザーの目を意識していたんです。  例えば、ずっと僕が作ってきたのはホラーゲームなのですが、本当は怖いものが苦手なんですよ……(笑)。だから、なぜホラーがユーザーにウケているのかを分析しながら、作っていました。  3年くらい前にゲーム投稿サイトの「ふりーむ!」が一度、ホラーゲームばかりになったんです。その頃からRPGの大作はドンドン相手にされなくなって、ダウンロード数も一気に減りました。僕の知り合いにも、長い時間をかけて制作したRPGが、公開されて何の反応もないまま、すぐにサーっと流れてしまった人がいます。 ――現在の自作ゲームの流行の起点になった、『Ib』や『魔女の家』などの大流行が始まった時期ですね。 tachi: 例えば、最近はホラーゲームならば「ふりーむ!」で新作が出ると、3日以内、ひょっとするとその日のうちにYouTubeやニコニコ動画で誰かが実況するんですよ。  それに対して、もう昔ながらのRPGは悲惨なほど相手にされていません。その様子を見ながら色々と考えて、僕はこの事実は受け止めようと思いました。だから、あるとき、あえてブログに「RPGは遊ばれない」という記事を書いたんです。少し生意気だとは思いましたが、僕なりの決意表明でした。 ――ただ、歴代の実況動画の総再生数を見ると、前作の『月光妖怪』は自作ゲームでも相当に上位のホラーゲームです。この人気も狙ったものだったのですか? tachi: アブさんの実況には、自分のゲームがこんなに楽しくプレイされるなんて……と、本当に感動しました。ただ、かなり意識的にゲーム実況での流行を狙ったのも事実です。それに、あの作品は自作ゲームフェスを意識していたので、誰も見たことがないゲームを作ろうと考えました。僕が「逆ホラー」と呼んでいるあの作品のコンセプトも、そこから思いついたものです。 『月光妖怪』(2014)。男の子の幽霊になって、好きな女の子を死なせないためにポルターガイストなどを起こして、彼女の行く手を邪魔をする。「怖がる」のではなくて、「怖がらせる」というコンセプトの"逆ホラー"ゲーム。  ただ、もう最後のつもりだったので、この作品ではそういう戦略を練るのはやめました。とにかく女の子と沢山会話して、ダンジョンでお金を集めて、どんどんレベル上げしたい……もう、そう考えたらRPG以外にないし、RPGツクールで作るしかないぞと思いました。 なぜ主人公がツクールのデフォルトなのか? ――先ほどから聞いていると、RPGへの思い入れが強いみたいですね。 tachi: 元々は、横スクロールの「スーパーマリオ」や「ロックマン」のような作品が好きでした。自分が上手くなったときに、苦手な人と差がつくようなゲームが好きだったんです。でも、そういう面白さはRPGにはない気がして、元々は好きではなかったです。  ただ、中学生になったときにフリーゲームに出会ったんです。始めたキッカケは……コンシューマーゲームが買えなかったことです(笑)。ゲームが家になくて不満だった時期にパソコンが家に導入されたものだから、すぐにコンパク(※)にたどり着いて、「無料でゲームが出来るなんて!」と驚きました。もう、ひたすらやりましたね。受賞作はほとんどやったと思います。ただ、僕は少しコンパクのリアルタイムに乗り遅れていたので、遡ってプレイしていました。 (※)コンパク……エンターブレイン(現・KADOKAWA)が主催していたゲーム投稿コンテスト「 インターネットコンテストパーク 」 のこと。毎月受賞作が発表されて、ネット黎明期の自作ゲーム文化に大きな影響を与えた。 D担: 2003年~2004年頃ですよね。僕はちょうどtachiさんより3歳年上ですが、RPGツクール2000が出てからの3年間が、ネットの自作RPGが最も盛り上がっていた時期でした。WOLF RPGエディターのウルフさんが、あの『シルフェイド見聞録』を連載されていたのも、その頃のことですね。 SmokingWOLF 氏が作った名作ゲーム『 シルフェイド見聞録 』。氏は以降もフリーゲームの第一線で活躍して、数々の名作を発表してきた。近年は、自身の制作経験をもとにWOLF RPGエディターを開発。ゲームコンテストを主宰するなど、精力的に活動を続ける。 tachi: ああ、懐かしいですね。シルフェイドは、本当に半端なく素晴らしいゲームでした。  僕がハマっていたのは、リィさんという方の『旋風仮面』です。RPGツクール2000って、デフォルト戦闘が出尽くしていたから、みんな変わった戦闘をやりだすんですよ。その中でも、彼は特に斬新なゲームシステムを作っていました。風を起こして、自分の足元にあるタイルを吹き飛ばして敵を倒したあとに、その相手を踏んづけるんです。  あれほどRPGツクールを使いこなした人を、その後も僕は見たことがありません。誰も知らない名前かもしれないけど、現在も僕にとっては「神」の一人です。前作の『月光妖怪』は、彼の影響を強く受けたものです。 D担: たぶん当時の自作ゲームって、大学生や入社したての社会人くらいの暇な大人たちが、仲間内での評価を求めて発表したものが多かったと思うんです。でも、僕らのような下の世代は、お金がなかったせいもあって(笑)、それを普通に商業ゲームと一緒にプレイしていたんですよね。 tachi: だから、ずっと一緒に遊んできたRPGツクールで、誰が見てもツクールらしさに溢れたゲームを最後に開発したい――そう思ったんです。娘たちは手描きのオリジナルキャラなのに、あえて主人公をツクールのデフォルトアイコンにしている理由は、そこにあります。あれは、僕の中では絶対にそうしなければいけないものだったんです。 主人公ラルフのアイコンは、RPGツクールのデフォルトキャラクター。この作品ではレベル1で冒険させられる。 ――ところが、そんな"自分のため"のゲームこそが、かえって大人気を呼んで、審査員からも高い評価を得てしまった。でも、中村さんや浜村さんが感心したのは、まさにユーザーのプレイ体験を考え抜いたゲームデザインでした。 tachi: ありがたい話です。僕としても、そうは言っても自分の思い出を押し付ける内容にはしたくなかったんです。  プレイ体験という点で、僕が自分なりに大事にしているのは「プレイヤーの納得」です。ゲームのルールももちろんですが、例えば選択肢を選ぶときでも反応が悪くてイライラさせてしまわないように、レスポンスの部分まで含めて細かく気にしているつもりです。  他にもあって、僕は強いボスを出す際には、低レベルでの攻略を可能にしておくんです。  というのも、ボスに当たったときに、レベル上げ以外に勝ち方がないのは、人間にとって理不尽に感じることだと思うんです。ゲーマーならば特にそうだと思います。でも、「魔法反射」のような仕組みを入れたり、ボスに行動パターンをつけさせたりすると、ちょっとした知恵の絞り方次第で勝てるようになる。そうなると、「納得」の度合いは一気に上がるんです。 ――確かに、レベル上げしなければ勝てない敵って、RPGを中断する要素ですね。 tachi: そういう意味では今回、中村光一さんの『風来のシレン』から、かなり学んでいるんですよ。あのゲームって、ランダム性が強くて実は凄く理不尽なのに、面白くて何度もやってしまうじゃないですか。どうして人間がそんなことに「納得」してしまうのか、その謎を自分なりに分析してみたんです。 ――どういう結論が出たんですか? tachi: 色々と考えてみたのですが、僕なりの結論は「死に方」が重要だということでした。  まず、あのランダム性の理不尽さは、そもそも喜怒哀楽を引き起こすものなので、人間をゲームに惹きつけ続けるのには有利だと思うんです。しかし、そのままでは、死ぬたびに「俺のせいじゃねえだろ」と思ってしまう。でも、本人の主観の中で納得のゆく形で死ぬことが出来ていれば、客観的に見てどんなに理不尽な死に方をさせられていても、「俺のスキルに問題があったのかな」と人間は思ってしまうんですね。  ここが重要だと思ったんです。そのカギは、戦闘の中で負けて死ぬところにあるのかな、と思っています。戦闘を上手く使うと、あたかも自分の責任だと「納得」できる死に方を作れると思うんですよ。今回の受賞作でも、この自分なりの仮説を、宝箱やダンジョンにランダム性を導入することで色々と試しています。 ――システム面で気になったのは、このゲームではダンジョンで全滅すると、村がそのたびに発展することです。これにも意図がありますか。 tachi: いま自作ゲームをやっているライトユーザーを意識しました。たぶん、特に女性ユーザーにはRPGをやっていない人も多いだろうし、そういう人はレベル上げなんて面倒だろうと思うんです。その子たちに、どう納得のゆく理由が与えられるかを考えました。  それで思いついたのが、買い物をしてポイントが貯まるようなイメージでした。戦闘で負けてしまっても、村が発展してゲーム内で可能な行動がわかりやすく増える。こういう仕掛けと一緒にレベル上げの重要性をチュートリアルすれば、「RPGって悪くないな」と納得してもらえる気がしたんです。  ちなみに、その発想のヒントになったのは『リーフ村村長物語』というフリーゲームです。村がどんどん発展していく着想を採用できたのは、この作品でその面白さが単体でしっかり成立しているのを知っていたからです。 Valkyrie氏制作の『リーフ村村長物語』。村長に立候補した女の子になって、村を発展させていく。 ――自作に影響を与えた作品に、『風来のシレン』のような商業ゲームの名作と並べて、フリーゲームが挙がるのが面白いですね。 「ユーザーの感想は制作者にとっての"希望"なんです」 ――ここからは、少し最近の自作ゲームの状況について、現役プレイヤーの立場からお聞かせ下さい。tachiさんは、ゲーム実況のような新しい遊び方にも好意的ですね。 tachi: ネタバレのような問題はあると思うのですが、「ゲーム実況」はまず素晴らしいものだと思います。上手な実況者がツッコミを入れながらプレイすると、むしろゲームの魅力が120%引き出されている気がします。  実際、僕のゲームはアブさんなどの実況者にプレイしていただいて、ダウンロード数が一気に伸びました。彼らが実況を入れてくれると、ただの絵ではないキャラクターと冒険している気持ちになれるんです。だからこそ、ユーザーたちが「自分もやってみよう」と感じてくれた気がするんですね。  そもそもゲームを落とすときって、先に「やりたい」と思うから落とすわけですよ。その最初の「やりたい」という気持ちを喚起してくれる意味で、ゲーム実況は凄いメディアだと思います。それに、僕なんかはそう思いさえすれば、お金を払っても構わないとすぐに思ってしまう人間です。まあ、この辺は人によるかもしれませんが……。 ――実況の内容は参考にしていますか? tachi: はい。『月光妖怪』にしても『Hero and Daughter』にしても、ゲーム中のどういうシーンで、ユーザーがどういう反応をするかがわかりました。アップデートの際などに、かなり参考にしています。少なくとも、僕にとってはゲーム実況動画を見ることは、どんなゲームを作るべきかの重要な反省材料です。ゲーム全体への感想だけでなく、各々のシーンの単位で反応を見ることが出来るのは、「ゲーム実況」以前にはなかった状況ですね。   ただ、ゲーム実況に限らず、個人のゲームに感想が返ってくるのは、制作者にとっての「希望」なんですよ。大学生の頃に、初めての自作ゲームをネットで公開したときに、たった1000DL程度の数ではありましたが、それでも時折は感想をもらえたんです。  そのときに――ああ、これがネットなんだ、と思いました。実は、そのゲームは大学のコンペに応募して、東京ゲームショウに出展された作品だったのですが、会場で貰った反応とはまた違ったものがありました。そして、自分の中に希望の光が灯った気がしたんです。会社を辞めたあとも、その「希望」を頼りに制作してきた気がします。 ――ただ一方で……これは触れなければいけないのですが、先日のアップデートが、まさにユーザーの間で波紋を呼んでいますよね。(注:この取材は、大賞の受賞直後に行われました) tachi: あれは、完全に僕のミスです。もう最近はずっとそのことばかり考えています……。  実は、HPなどの能力値が9999まで上げられる仕様だったのを、アップデートで上限値を強制的に1000に揃えたんです。まさか、能力値をそこまで上げるほどやり込むユーザーが登場するとは、想定していなかったんですよ。 ――自分の趣味を詰め込んだだけのゲーム、でしたからね……。 tachi: そもそも、あのゲームは勇者を取り巻く娘たちの個性を、上手くパーティを作って補い合って進める楽しさを目指していたんです。でも、ユーザーが能力値をマックスまで上げてしまい、「たたかう」を連打すれば勝てるようになると、そのために調整したバランスどころか、本来の面白さまで壊れてしまうんです。  だから、本当に悩んだあげくにアップデートしたのですが……正しかったのか結論が出ないです。すごく苦しいですね。 D担: でも、それはソーシャルゲームやオンラインゲームのような「運営型」のゲームでは、最も怒られるアップデートの典型ですよ。特に能力値が下がるのは本当に怒るんです。だって、自分が一生懸命に溜め込んだものが消えてしまうわけですから。 ――アップデートを長期的に継続する流れが定着した結果、なぜか自作ゲームに法人が作るゲームのような運営ノウハウが必要になりだしているという話でもあって……難しいですね。 tachi: やはり、ユーザーからは「理由を話してくれ」と言われるんです。でも、それはそれで、また争いが起きる気もしていて……。 D担: 参考になるかわからないのですが……『ロード・トゥ・ドラゴン』というスマホゲームが、アップデートでユーザーの怒りを買ったことがあるんです。でも、運営はその際にしっかりと説明をして、謝罪したんです。信頼の回復には時間がかかりましたが、コアなユーザーはそのときの対応を知っているから、かえって運営を信頼している人も多いです。 tachi: ……やっぱり、ちゃんと謝って、理由を説明した方がいいですね。謝るべきだと思いました(※)。 ※編注: その後、ブログで謝罪が行われました。 ゲーム制作を続けられた理由 ――ところで、聞いていいのかわからないのですが、会社を辞めた理由って……具体的には何だったんですか? tachi: いや……どうしよう、本当に恥ずかしいのですが(苦笑)。もう本当に、自分が作りたいゲームの制作をしたかっただけなんです。  ゲームを作る楽しさに学生時代に目覚めたものの、ゲーム会社への就職が決まってしまったんです。でも、ゲームを仕事にするということは、自分の作りたいゲームではなくて、お客様の欲しがるゲームを作ることじゃないですか。だから、自分の中に「けじめ」をつけようと決めて、入社する直前の3週間で『囚体』という作品を作りました。 ――その作品は、完成したわけですよね。 tachi: でも結局、会社に入っても、ゲームの制作を止められなくなっていたんです。今度は『もしも死ねぇ』というゲームを作り始めてしまいました。……いや、ダメな話ですよね。 ――やっぱり、そういうオチなんですね(笑)。 tachi: いまも結局、この賞を受賞してしまって、またゲーム制作を始めています。気がつくと、メモ帳に新しいゲームのアイディアの企画をまとめはじめてしまうんです。当時もそうでした。我ながら、もはや狼少年みたいだな、と思い出していますが……。 ――それだけゲームづくりに夢中ということだと思いますが……でも、会社をやめるのは一線を越えた決断ですよね。 tachi: 当時は仕事が大体、夜の22時に終わって、23時に帰宅。そのあとに制作を始めて、また朝の9時には出社。最初は気合いさえあれば出来るはずだと頑張りましたが、僕には体力的に難しかった。  そこで、今度は土日を使って作りはじめたのですが、平日に作れないもどかしさにイライラしてしまった。それで結局、5月には会社に退職届を出してしまいました。お蔭で『もしも死ねぇ』は、しっかりと病んだゲームになりましたけども……。 『 もしも死ねぇ 』 小さな部屋で謎の電話から始まる謎を解く、不気味な内容のマルチエンディング・ホラーゲーム。 ――オチがついた(笑)。でも、実は会社で喧嘩して上司に殴りかかって辞めたとか、まさかそういう話じゃなかろうかと不安になっていたので、安心しました……。 tachi: そっちの方が、僕なんかの話よりずっと格好いいと思いますよ!  もうただ、自分の頭の中に生まれてしまった、「自分のゲームをとにかく作りたくて仕方ない!」という気持ちのままに、行動してしまっただけなんです。フリーゲームをこんな風に作れるのは今しかない。このタイミングを逃したら、俺は老人になったときに絶対に後悔してしまう――そういう思いに駆られて、どうしようもなくなちゃったんですね。  ただ、そのときに一つだけ抱いていた希望は、良い作品を作りさえすればフィードバックが貰えるという、大学時代に知ったあの楽しさです。プレイした人たちの感想があったからこそ、ずっとやって来られた面はあると思います。 ――でも、生活のことはあると思いますが、こうなるともうゲームの制作は止められないですね。 tachi: 不思議ですよね。例えば、僕は絵にコダワリがあって自分でも描くのですが、絵師にはならないんです。同様に、ストーリーだけでも、プログラムだけでも、ダメなんです。たぶん、絵も小説も各々のジャンルは無限大の可能性を秘めているんですよ。でも、ゲームはそのあらゆる無限大の可能性を集めた先にある、本当に凄まじいカオスみたいなもので、そこに惹かれるのかな……なんて思っています(笑)。 ――今後、どんなゲームを作ってみたいですか? tachi: 一つ考えているのが、あえて学習の階段を設けない横スクロールゲームです。 僕はエンターテイメントの技術って、どこかで必ず見慣れてしまうものだと思うんですよ。だったら、ゲームデザインのセオリーにもそれは当てはまる気がしていて……実際、ソーシャルゲームのチュートリアルって、そういうところがある気もするんですよ。  もちろん、まだ面白くする方法はまったく見つかってないですし(笑)、レベルデザインの裏をかくには、もっとレベルデザインそのものを理解しなければいけないと感じています。でも、こんな変な可能性について考えることが出来て、自分の手を動かしさえすれば挑戦できてしまう。それが、僕の考えるフリーゲームの良いところですね。 ――最後に、自作ゲームフェス5に応募を考えている、他の自作ゲームのクリエイターに一言お願いします。 tachi: 作って公開することが、クリエイターの第一歩です! (了) 【聞き手・構成: 稲葉ほたて 】 勉強会の参加と合わせて、自作ゲームフェス5への皆様のご応募をお待ちしております。募集要項は、 コチラ よりどうぞ。 「自作ゲームフェス5」に投稿されている作品は コチラ !
RPGアツマール
ニコニコ自作ゲームフェスは、「ゲームを作るひと」「遊ぶひと」「二次創作」をするひとをつなぎ、個人で作ったゲームがもっと多くのひとにプレイされるようになることを目指すお祭りです。