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『花帰葬』が生活のすべてだった――ゲーム制作未経験! 彼女たちの自作ゲームがPS2で発売されるまで
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『花帰葬』が生活のすべてだった――ゲーム制作未経験! 彼女たちの自作ゲームがPS2で発売されるまで

2015-03-27 20:00
  • 39

 ネットで流行した自作ゲームのメディアミックスが増えている。

 昨年夏の『青鬼』の映画化に引き続き、昨年末には人気ゲーム『DeathForest~森からの脱出~』も映画化され、続編も準備中だという。ボカロ小説から始まった、ネット発コンテンツの商業化も自作ゲームに波及しており、『タオルケットをもう一度』や『霧雨が降る森』などの人気作品が次々にノベライズされている。


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2013年12月に作者ふみー氏自らの手で発表された小説版『魔女の家』。

 自作ゲームの商業化は、歴史の中でいくども繰り返されてきた。この連載でも、スパイク・チュンソフト会長の中村光一氏が、自作ゲームの投稿からキャリアを始めたことを聞いている(参考)。最近では00年代に、東方や月姫、ひぐらしなどコミケで人気を博した作品が商業の舞台でも成功を収めた。


 今回はそんな00年代の半ばに、彗星のごとく現れてメディアミックスが展開された女性向けゲーム『花帰葬』について、制作サークル・HaccaWorks*に聞いた。

 コミケでの頒布から始まり、i-modeへの移植やドラマCDの発売、さらにはPlayStation2でのリメイクまで遂げられたこのゲームは、現在も根強い人気を誇る。HaccaWorks*はその後も活動を継続し、最近では『あかやあかしやあやかしの』が人気を呼んでいる。2014年にはPSPで商業ゲーム化もされた。


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10代に人気の漫画雑誌「コミックジーン」(KADOKAWA)でも、『カゲロウデイズ』や『霧雨が降る森』と並んで、コミカライズの連載が始まっている。


 そんな彼女たちの原点となったのが『花帰葬』だ。当時はゲーム制作未経験だった女性たち6人が手探りで、2年の月日をかけて一から完成させたという。一体、彼女たちを駆り立てたのは、いかなる情熱だったのか。「生活の全てだった」と語る当時の日々を聞いた。


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HaccaWorks*(ハッカワークス)

漫画で同人活動をしていたメンバーたちにより、2001年に結成される。
2003年に『花帰葬』初版がコミックマーケット65にて頒布。アニメイトなどで人気を博し、女性向け同人ゲームでは初めて、PlayStation2で商業化される。2011年には第2弾となるゲーム『あかやあかしやあやかしの』初版が頒布。 『月刊コミックジーン』にて漫画化されるなどメディアミックスが展開中。2014年にはPSP移植版が発売。

華南みさき(かなん・みさき)

背景原画やシステム周り全般を主に担当。

清水鳥哥(しみず・とりか)

キャラクター原画やインターフェイスデザインを主に担当。

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語られざる「女性向けゲーム」の黎明期


――少し『花帰葬』が登場した時代背景から話したいんです。年配の男性読者は、00年代前半に東方などの同人ゲームが盛り上がった空気を覚えている人も多いと思います。ただ、女性向けゲームとなると追いかけてない人が大半でしょうし、若いユーザーとなると、大昔から女性向けゲームが存在していたと思う人も少なくないと思うんです。

清水鳥哥(以下、清水):私たちが制作を始めた2001年頃は、ちょうどそういうゲームが世の中に出てきた時期でした。その後、『B's-LOG』や『Cool-B』の前身となる『微熱王子』などが創刊されて、今まで男性向けの美少女ゲームしかなかった市場に、女の子向けのゲームが現れ始めたんです。それを受けて、同人でも制作者が登場してきました。


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『ときめきメモリアル Girl's Side』(KONAMI・2002)。ときメモシリーズの女性視点バージョン。


 私自身は、本来は『フロントミッション』みたいな戦争もののシミュレーションゲームが好きで(笑)、むしろノベルゲームは苦手なゲーマーです。でも、育成シミュレーションという意味では、当時は『アンジェリーク』も、『ときめきメモリアル』も、もちろん「Girl's Side」もやりました。

ドワンゴの自作ゲームフェス担当者(以下、D担):ちょっと、Wikipediaを映しましょうか(会議室のスクリーンにWikipediaのページを映す)。ここを見ると、まさに『花帰葬』がブレイクした2004年頃に、カプコンの『フルハウスキス』やコーエーの『遙かなる時空の中で3』が登場して、業界が本格的に賑わい始めた時期とされています。

清水:(Wikipediaを見ながら)一般への影響が大きかったのは『薄桜鬼』(アイディアファクトリー・2008)だと思いますね。

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『薄桜鬼』(アイディアファクトリー・2008)。乙女ゲームの支持層を大きく広げた大ヒット作品。2.5次元舞台も最近は話題に。


――そこに『うたの☆プリンスさまっ♪』(ブロッコリー・2010)やスマホの恋シミュなどが来て、現在の状況でしょうか。そもそもコーエーが1994年から始めたネオロマンスシリーズが最初なので、やっと90年代に登場したジャンルですね。

華南みさき(以下、華南):早い時期に入ってきたメイカーとしては、今はなき「KID」さんもありました。この時期は同人も含めてBLゲーが多かったです。今は乙女ゲーの方が多いので、少し状況が違いますね。


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『遙かなる時空の中で3』(コーエー・2003)。コーエーが90年代から手がけてきたネオロマンスシリーズのヒット作。女性向けゲームの認知拡大に大きく影響した。


清水:学園モノやファンタジーで、最終的に男の子たちが愛を告白してハッピーエンド、みたいな内容が多かった記憶があります。

 それもそれで好きなんですけど(笑)、でも当時、私たちが『花帰葬』で作りたかったのは、少し違っていました。確かに儚い少女漫画的なグラフィックではあるけど、別に耽美もBLも目指してはいなくて、女性向けと言っていたのも「作っている人間が全員女だったからそう言っとく……?」みたいな(笑)。「泣きゲー」のカテゴリーで見る人もいましたが、そういうつもりもなかったので驚きました。有難いですけどね。

――ちょうど男性向けゲームで、keyの『CLANNAD』(ビジュアルアーツ・2004)なんかが話題になっていた時期ですね(笑)。そういう時代状況で、女性向けでありながら物語にこだわり抜いていた『花帰葬』に注目が集まった、という感じでしょうか。

清水:ただ、こういう作品は漫画などでは、よく見かけると思うんです。私たち自身、女性向け同人ゲームというジャンルで他にそうした作品がないことが、制作の大きな動機でした。他のサークルとは少し違うことをやりたいという発想は、今でもあるように思います。


手探りで始まったゲーム制作の日々


――そもそも、『花帰葬』はどういう経緯で作られたのでしょうか? 

清水:初期のメンバーは6人で、漫画の同人活動で知り合いました。90年代後半にミステリブームがあった頃、とある新本格作家さんのジャンルで出会いました。

華南:その後に仲良くなったのはネット上でした。夜中にテレホタイム(※)のチャットでその方の作品を話していたら、徐々に気の合う面子が決まり出しました。


(※)NTTが1995年から提供した「テレホーダイ」のこと。深夜から早朝の時間帯に限り、定額料金で利用することができた。そのため、当時はこの時間になると、インターネットを利用するユーザーが一気に増えた。


――制作が始まった経緯を教えてください。

清水:即売会でCG集をCD頒布する人が登場してきた時期で、「自分たちもやりたい」と話していたところ、オマケで「30分くらいのゲームを入れよう」と盛り上がりました。それで、さっそくシナリオ担当の子が原案を書いてきたのですが……どう見ても、30分で終わる内容ではなかった(笑)。しかも、無理に短くしたくないくらいに、面白かったんです。

華南:このゲームの制作が上手く行ったのは、まずは全員が「この世界観は好きだ」と思っていたのが大きかったと思います。
 そこで、ひとまずIT企業でプログラミングを覚えていた私が、さっそくフリーのノベルゲームエンジンで実装を始めました。ところが、徐々にメンバーの演出の要求がエスカレートしてきて……。


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「最初の時点で雪山に記憶喪失の男がいるなどの、このゲームの元型となるアイディアは存在していました」(華南)


清水:みんな漫画をやっていたので、演出がうるさいんですよ(笑)。しかも、彼女がどんどん実装してくれるものだから、ついつい甘えちゃうんですね。

華南:なまじ目が肥えているから、「このシーンは画面を歪ませたい」「画面内に雪を降らせたい」とか無茶を言いだすんです(笑)。結局、半年くらい試行錯誤して、ゲームエンジンを「吉里吉里」にしました。表現の自由度が高いことと、チュートリアルが充実していたこと、私がオブジェクト指向に慣れていたので使いやすかったことが理由です。これで、他のツールでは実現が難しい「雪を降らせる」事が可能になりました。

――画面に雪が降らない『花帰葬』は問題ですね(笑)。清水さんは並行してイラストを制作していたのですか?

清水:既存のゲームを参考に、何となくのイメージで立ち絵を描いてました。しかも、PCのメモリが少なかったので、紙に立ち絵を描いては近所に住むメンバーの家でスキャンさせてもらって、彩色していました。差分や表情パーツも、最初はどう作ったらいいかもわかりません。本当に手探りからの始まりでした。今見ると相当ダメなことをやっているんです、いろいろと……。

華南:キャラクターは、シナリオの子が簡単なイメージラフを描いて、ひとり1キャラずつ作りました。例えば、花白はシナリオ担当のメンバー、銀朱は他のメンバー、というふうに、メインキャラは全員違う人間がデザインしています。

――これは、みんなのモチベーションが上がりますね。

清水:全員が漫画を描けたのは大きかったですね。私は玄冬を担当したのですが、丸投げされたので、勝手に一から作りました(笑)。元ネタは、FF7に出てくるヴィンセントというキャラの過去を二次創作した際の造形です。無口という共通点で、何となくそういうビジュアルイメージになったんだと思います。


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清水「黒鷹には私たちのいたジャンルのミステリ作家の方の銘探偵の影響がありますね。その銘探偵も、シルクハットを被って皮肉を言う、食えないキャラなんですよ」


 そうそう、あと眼鏡ルートには拘ったんですよ。

――最初の方で分岐があって、それ以降、眼鏡をかけた状態の玄冬のストーリーになるんですよね。

華南:眼鏡には、すごく魂が傾けられてます(笑)。単にメガネを掛けてストーリーが進行するだけなのですが、一応ラストの方の火事のシーンで、「メガネが曇って何も見えん」と言ってくれたりします。

清水:きっと、無意味なことをしたかったんですね。ゲームって別に本筋にはなくてもいい無意味な部分が大切だと思っていて、ハッカのコンセプトに「無駄に全力」というのがあります。これも、ストーリー展開も決まっていないのに眼鏡ルートがある事は最初から決まっていました。当時は画期的だった気がします(笑)。

 しかも、途中で玄冬の縮尺ミスが発生して立ち絵を最初から全部作り直すことになり、作業量が2倍になってしまいました。もうシナリオ担当と二人で「玄冬、呪われろ!」と言いながら作業する羽目に……(笑)。


勢いのまま志方あきこさんに"凸"……!


――それと、BGMが志方あきこさんなのですが、一体どういう経緯でお願いされたのですか?


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Harmonia』(2009・エイベックス)のアルバムジャケットより。2005年、葉加瀬太郎が音楽総監督を務めるレーベルHATS UNLIMITEDよりデビュー。PlayStation2ゲーム「アルトネリコ 世界の終わりで詩い続ける少女」や「うみねこのなく頃に」主題歌などを担当。現在はテレビ番組の音楽制作やアニメまで様々な領域に活動を広げている。


清水:長編で制作すると決まったとき、BGMに拘りたいと思いました。でも、当時は宅録も普及していなくて、メンバー内に音楽を作れる人間もいなかった。どうしようかと検討したときに、メンバーの一人がたまたま繋がりがあったのが、デビュー前の志方さんでした。サイトの曲を聴いて、全員一致で「これだ!」と。

華南:その頃、彼女は既に有名だったのですが、ダメ元で慌てて企画書を作って、「世界観にぴったりなので既存の曲を使用させて貰えないか」とお願いをしまして。

清水:大人の分別があったら腰が引けてやらなかったかもしれない(笑)。ところが、なんと志方さんからOKが出たんです。しかも、「面白いから、ぜひ全体的に見させてほしい」とまで言われて。

 結局、最終的にはOPからEDまで同人レベルを超えたオリジナルの楽曲を提供していただきました。私としては、相当な種類の靴音を作っていただいたのが嬉しかったです。靴音フェチなので、もう銀朱隊長が歩くたびにニヤニヤしていました(笑)。

華南:やはり、志方さんのSEやBGMが入ると、臨場感が全く変わりました。

 それに、志方さんは大変にリアリティを追求されるんです。お金の袋を投げるシーンでは「中に入っているのは金貨ですか? 小銭ですか?」と聞かれるし、雪の中を歩くシーンでは「雪は湿っぽいのですか? ふかふかなのですか?」と聞かれる。私たちの方は、その場で考えて、「た……たぶん、パウダースノー系です」みたいな返答をしてました(笑)。

清水:でも、こういうシリアスな物語は、効果音にも相当拘らないと、いざ大事なシーンで音が鳴った時に興ざめします。彼女のお陰で、私たちはそこをクリアできたように思います。

――ちなみに、そういう相談もネットでやっていたのですか?

華南:メンバー向けのポータルサイトを制作して、その掲示板やYahoo!メッセンジャーで進めました。
 当時の生活は、会社から帰宅して、朝の4時まで作業やオンライン会議、そしてまた8時に起きて会社に行くという具合です。朝方に私がグッタリしていたら、今度は昼間に時間のある人が「よっしゃ、ここからは引き受けた」と言って引き継ぐ、みたいな感じです。

――ネトゲにハマった集団みたいになってますね(笑)。

清水:若かったんですよ(笑)。今だと、もう徹夜が2、3日続くと辛いんですけどね。当時は走り始めちゃったら、止まれなかったんですね。

 本当にあの頃は、『花帰葬』の制作が生活の全てでした。会社にいても、家にいても、何をしていても、とりあえず制作のことで頭がいっぱいです。夜中も、みんなでネット上に集まって、「お前がチャットで起きてるなら、俺もまだまだ行くぜ!」みたいなノリでした。


大詰めの修羅場は楽しい


華南:そうしてデバッグ作業を迎えてからは、もう夜中は全員出動です。

――これだけの制作物の大詰めの修羅場って、最高に楽しそうですよね。

華南:2年掛かりましたからね。ああいうマスターアップ直前の、夜中にみんなで集まる合宿感は最高に楽しいです。ただ、そこでもトラブルは起きていて……(笑)。

 最後の最後に、納品した業者さんから「CDがブランクです」という電話がかかってきて、「ええええ」となりました。どうもPCに標準で搭載されていたライティングソフトに癖があったようです。慌てて市販のソフトを買いに走りました(笑)。

清水:もうテンパってて、チャットにも出てこなかったよね。

華南:しかも、マスターを終えた翌日にそのパソコンが壊れて、ヒヤッとしました(笑)。

 さらに、今度は出荷日に雪が降ってしまい、プレス工場から「コミケに搬入できなかったらすみません」という電話がかかってきたんです。西から東への物流が混乱していて、メジャーな運送会社が軒並み動けなくなっていました。何とか業者さんが運送屋さんを見つけてくれて……。ギリギリ間に合ったのが奇跡みたいでしたね。

――これは青ざめますね。

華南:でも、そういう話も含めて、やっぱり直前の時期は楽しいです。

 そうそう、後に制作した「PLUS+DISC」の直前期には、「RGB玄冬」というミニゲームを作ったことがありました。画面1枚だけのコンテンツに、玄冬がおたまを持っている絵があって、画面上のフォームに適当な数値を入れると玄冬の服の色が変わるという内容なんです。

――それは、たぶん疲労の産物ですね(笑)。

清水:すごくどうでも良いコンテンツですよね。マスターアップの前日か2日前に、突然「実装したよ」と言われて、「あ、デザインするんすか?」みたいな感じでした。やりましたけど(笑)。


チーム制作の秘訣は……リアルでのMTG?


――それにしても、まさかこんなに「手探り」で必要なものを集めながら、あんな壮大なゲームを作ったとは思いませんでした。普通のサークルだったら崩壊しそうですよね。

華南:一応、私が取りまとめていて、「最後まで作り切らせる」ことだけは肝に銘じていました。

清水:あの頃、企画だけなら周囲でも沢山立ち上がっていたんですよ。クオリティを云々する前に、そもそも終わりまで作れたら凄い。そういう世界でした。

――でも当然、作っていれば喧嘩も起きますよね。

華南:もちろん、ありましたよ。でも、すねて引っ込むなんてカワイイことは、もう途中からは出来ませんでした(笑)。
 当時は、よく勝手に立ち絵や背景が増えていて、「ふざけるな」と小競り合いをしました。気の置けない間柄だったのもあって、チャット内で言葉で殴り合うようなこともしていたと思います。

――そういうときは、どうするんですか。やはり一歩引いて、客観的に……。

清水:いや、遠慮せずに言い合いましたね。

華南:お互いに主観で言い合いですよ(笑)。でも、そのくらいのことが出来ないチームは、完成になんてこぎつけられないです。

 私たちの場合は、「本当に必要なのか」の議論を徹底的にやります。しかも、私なんかは「勝手にタスクを増やすな!」と言い返しても、「でも、実装できないと思われると悔しい……!」と思い返しちゃうんですよ。そんな感じで勝手に収まっていきますね。

 結局、どんなアイディアだって実現できた方が良いんです。だったら、時間とやる気の問題ですよね。

――なぜHaccaWorks*はそれほどの結束力を持てたのですか。

華南:まず、『花帰葬』に関してはシナリオが先に仕上がっていて、完成形が早い段階で見えたのは大きいです。
 あとは、ゲーム作りが目的でなかった――のは、重要かもしれません。その目的が先にあってメンバーを集めていたら、かえって最後まで上手く行かなかった気がします。元から気の置けない間柄の集団がゲームを作ろうとしたからこそ、変に遠慮せず最後まで走り抜けたんじゃないでしょうか。

清水:あと、月一で必ずリアルで集まるようにしたのは、重要かもしれないですね。

 制作中は、池袋の喫茶店で月に一度、短くて5時間、長くて10時間はMTGをやってます(笑)。内容は、単に言いたいことを言い合う雑談なんですけどね。みんなでシナリオを見ながら妄想するんですよ。

華南:例えば、黒鷹の部屋に自作の絵があるのですが、一体この絵を描くのにどんなストーリーがあったのかとか、喫茶店で延々と妄想するんです。店の人にはいい迷惑ですけどね(笑)。


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華南:「ちなみに、この絵のタイトルは『素敵な私』といいます」、D担:「やっぱり、ナルシストなんですね(笑)」


 そのネタは追加discに反映したり、設定資料の本に記載することもありますが、我々の内輪で終わることもあります。この会合は本当に大事にしていて、スケジュールが一人でも合わなければ、必ずリスケします。だって、喧嘩するにも対面の方がいいでしょう。これなら、どんなに出て来づらくても、顔を出さなきゃいけないです(笑)。

――現在は色々と反省を重ねて、もっと効率的な運営になっていますか。

清水:いやあ、システマチックにはならないですね(笑)。やっぱり、一人でも「これは違うよ」となれば、作り直します。きっと、自作ゲームの場合は、効率化しない方がいいんです。

華南:だからこそ、続けられるんです。

 自分たちで全てやっている以上、効率化なんて無理ですよ。 それに、変えたくなったらすぐに変えられるのが、自作ゲームの良さです。先ほど話した火事の場面も、あれほど重要なシーンなのに、付け加えたのは後からです。
 そういう意味で、私たちが気をつけているのは、「全員が発言した上で、全会一致で納得したこと」しか絶対に採用しないことです。最初の頃なんて、私から「必ず何か言うように」と無理に発言させたくらいです。

――それは、なぜですか?

清水:全員が「これがいい」と納得していないと、最後まで作るモチベーションは保てないんです。だから、遠慮しちゃダメです。それに、下手でも自分が好きだと信じられるものを作れたら、あとで叩かれても気になりません。どんなことを言われようと、「私はやりたいことをやったんだ」と思えます。

華南:私たちは、最初に出てきたシナリオを読んだ瞬間から、「この世界観は好きだ」と思っていました。そうなれば、制作中も離れられません。それに、好きなことをやりきれば、世間の評価はどうあれ達成感は得られます。

――ついつい良い物を作ろうとするほど忘れがちですが、実は「自作」の大事な「精神」ですよね。


「担当者はこのゲームを好きか?」メディアミックスの心構え


――そして、リリース後には怒涛の展開が始まりますね。

華南:ただ、少し話題になるまで間があったんです。コミケでリリースしてから1年ほど経った頃でした。初めてのゲーム制作を終えて燃え尽きていた時期だと思います。ぼちぼち、次のコミケに向けて「ファンディスクを作ろうか」と話し始めていた矢先でした。

 突然、委託先のアニメイト福岡店から連絡が来たんです。旅行中に駅のホームで電話を取ったら「フェアをやりたい」と言われてしまい、ビックリしたのを覚えています。どうも物珍しさからか売れ行きが良かったらしく、その後はキャンペーンカードにイラストが入ったり、原画展が開かれたりと、アニメイトさんに次々とプッシュしていただけました。

――同人周りの"目利き"たちが注目したんですね。

清水:一応、当初の想定よりはだいぶ多めに刷っていたのですが、特に爆発的に売れたわけではないんです。ただ、ユーザーさんには出した直後から予想外の好評をいただいていて、とはいえ、基本的には隅っこの方でやっていくつもりのニッチな作品という認識だったので、お声がけいただいた方には「売れるとは思えません」とぶっちゃけていました(笑)。

――そして、2005年に入るとFOMAで携帯アプリが出て、翌年にはPlayStation2からもリメイクされました。

清水:あの年は、もうドラマCDも含めて、色々なお話が舞い込んできました。でも、私たちの方は、ひたすら「ファンディスク」の制作中です。外の動きについては、「一体、何が起きてるんだろう」という感じでしたね。

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華南:外部の方との折衝は、ほぼ私が一人でやっていました。今でも覚えているのが、最初に話を聞きに行ったのが、三田にある大きなビルの高層階だったことです。「だ、大丈夫か……」と思いました(笑)。

 あの頃は会社が終わったら、夕方に先方と打ち合わせ、そして家に帰ったら開発……という生活で、みんなに「死ぬなよ」と言われてました(笑)。でも、雑誌や広告で人目に触れて、驚かれたんでしょうね。コミケにも一般のゲーム好きのお客さんが来るようになりました。

――ただ、言ってしまえば、同人でワイワイしながら作ったゲームが、お金の動く"大人の世界"と関わったわけですよね。商業ならではの難しい部分には、どう向き合いましたか。

清水:最低ラインを我々の中に設けました。

 とにかく、「担当者さんがこのゲームを好きか」を見たんです。やっぱり『花帰葬』は難しいんです。煽り文句一つで見え方が変わるので、原作が好きでないとさじ加減が厳しくて……。

――「コミケ発、BLゲーム!」みたいな感じですよね。

清水:もちろん、ユーザーさんがBLとして楽しむのは全く否定しません。私たちも、そういう楽しみ方には触れてきました。

 ただ、やっぱり派手派手しく、「儚く美しい世界で美青年たちが~~」みたいな煽り文句で販売されてしまうと、この作品の場合は「それは違うよ」となるんです。何よりもファンの人たちがどう思うんだろう……と考え込んでしまいます。私たちがやりたかったのは、逆の話ですから。

華南:確かに、見た目のビジュアルこそ、雪が散らついた綺麗な世界観のイメージなんです。でも、雪の中を一度掘り返してみると、実は全然違う。下はぬかるんでいて、決していいことなんてない。世界は儚くて美しそうに見えるけど、実は結構、誰かがいつも酷い目に遭っている――そういう話を描いたつもりだったんです。

 だから、「この人は中身をやってないぞ」と分かったら、すぐに「ごめんなさい」とお伝えしていました。


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――そうなると、かなり徹底的に監修されているんですね。

清水:ドラマCDでは、脚本も全てこちらで書きました。上がってきたものは、相当に確認を入れています。

華南:職人技的にこだわりました。PS2のときも、追加シナリオなどの諸々の監修に加えて、音楽も志方さんにチェックを入れて頂きました。

D担:なんだか、とても参考になりますね。ネットの自作文化でも、やっぱり、特に若い子なんかは「君の作品が小説化!」とか「アニメ化もあるよ」なんて言われると……。

清水:まずは、嬉しくなっちゃいますよね(笑)。

華南:私たちの場合は、お陰様でメディアミックスでのブレはほとんどありません。関わってくださった方も、『花帰葬』が好きな人たちばかりで、きちんと携わっていただけました。やっぱり、本当にその作品を好きな人間が手掛けているかは、お客さんは見抜いてしまうんですよ。



「ただ遊んでいては、こういう仲間は得られません」


――今のお二人にとって、HaccaWorks*はどういう存在ですか?

清水:特殊な結びつきの友人にはなりましたね(笑)。もう、運命共同体ですよ。
 たぶん最初は『花帰葬』の制作に、私だけの役割があったのが嬉しかったんです。あと、やっぱりゲーマーだったから、ゲームを作りたかった。だから夢中でしたよね。

 いまは、もはや家族みたいな存在ですね。まあ、失われたものもありますけど……。

D担:何が失われたんですか?

清水:うーん……20代の時間(苦笑)。

――その結果が『花帰葬』なら良いような気も(笑)。

華南:私の場合は、家族とも違うかな……。強いて人に説明するなら、「腐れ縁」かなと思います。というか、もう腐っても離れられない(笑)。

 たぶん、HaccaWorks*の皆とは、このまま縁が続くのだろうと思ってます。ゲームを自作して良かったところですね。ただ遊んでいては、こういう仲間は得られません。制作中に時折、全員がランナーズハイみたいになる"奇跡の瞬間"があるんです。本当に一瞬だけなのですが、「ああ、いま最高に面白いことが起きているなあ」とワクワクします。貴重な体験をしているんだと思います。

――普通はそういう仲間なんて、きっと一生に一度も得られないでしょうね。

清水:他の人が作り上げてきたものが組み合わさると、すごく楽しいんですよ。

 自分だけの作業の方となると、常に楽しいわけでもないんですけどね(笑)。だから、ゲーム制作の醍醐味はみんなで集まる修羅場と、合宿中のデスマーチみたいな雰囲気、あとは完成した瞬間ですね。

――さっきから興味深いのは、二人とも大変そうな場面を「面白い」と言っているんです。

華南:大変だからこそ、面白いんです。こういうのを作り始める人は、きっとハードルが高いんです。だから、気がついたら大変なところにいる。

清水:そうそう、マゾっ気(笑)。私もやっぱり、何だかんだ言いつつ続けてるのは、完成までこぎつけると、自分の中で何かが一段、ステップアップするからです。一人だとわりと何事も諦めがちなんですけど、連帯責任なら何かを成せるぞと(笑)

――今日は久々に『花帰葬』の頃を思い出して、どうでしたか?

華南:あの頃は本当に四六時中、『花帰葬』のことばかり考えていたんですよね。まるで恋をしていたようだったな、と思います。

清水:あいつと出会っていなければ、こんなことにはなっていなかった(笑)。

華南:要らぬ苦労もしなかっただろう、とかね(笑)。

 それにしても、10年も経った作品なのに、こういう形でインタビューしていただけるのは本当に不思議です。作った当時は、こんなことになるとは思いませんでした。
 そういう意味では、巣立った子供のようにも思います。頑張ってお腹を痛めて産んだのに、「一人暮らしするわ」と出て行っちゃった息子、みたいな感じでしょうか。でも、最近は時折、「帰省しようかな」みたいに電話をかけてくるんです。そして、今日みたいな日には、私も昔のアルバムをめくるんです。

(了)


【聞き手・構成:稲葉ほたて


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他29件のコメントを表示

女だからって取り上げられるというより、叩かれすぎたりまったく理解されてなさすぎな方面のほうが多い記事とコメントに見えますが…w

個人的には、周りが好きだと言ってたのと志方さん先行で「これゲームの曲だったのかー」という認識は持ってた作品。
同人ゲームは詳しくないけど、少しでも創作や表現に関わったり書いてみたことがある人間には羨ましいやら「やっぱここまでしないとそうはならんのだな」と思えるし普通に感嘆する。
社会人で多数人で色々やって完成させたら展開して、ってだけでも凄いと思えるのに、単に自分がキモチワルイと思うとか女性向けだし(又は男性向けだし)…などの理由で突っぱねられるのはどんな事例でも虚しいですね。
そりゃあ創作同人やヲタがいまだに理解されないのも仕方なくなる。

No.32 99ヶ月前

ストーリーがどうとかというより、作り手のこだわりがどれだけ本気が大事だと思う。納得のいかない展開やエンディングでもそれが見えたらプレイできてよかったと思えるというか。商業もその辺り、思い出して欲しいよね。

No.33 99ヶ月前

「あかやあかしやあやかしの」をなんかで聴いてどんな意味なんだろうって調べたらBLゲーでびっくりした記憶
男でノンケなんでゲームはしないけど曲はかなり好き

>>32
無駄に理解されていわゆる「にわか」に踏み荒らされてる事例をみると住み分けって大事だと思いますがね。
「オタク」ってだけなら現状十分に受け入れられてるし、ディープな欲望の部分をさらけ出したら引かれるのはどの分野でも同じ。
ましてや二次趣味なんてその部分がかなり見えやすいジャンルですし。いわゆる非オタの人たちはそこら辺を抑えてかっこつける努力をしてるのです。※DQNを除く
かっこつけるより趣味に生きる選択をしたのがオタクでしょう。オタク趣味でなおかつ理解されたいなんて少し都合がよすぎやしませんか。
あと創作同人に関してはただのブランドの問題です。品質保証のされてない品物に金や時間を使うのは勇気が要ることなんです。創作同人の世界でも口コミという保障がある作品の方が売れるでしょう?

No.34 99ヶ月前

正直、ノベルゲームって『ゲーム』とは思えないんだよな、
あれも結局、多少分岐があるだけで『電子小説』というひとつの形にすぎんだろ

No.35 99ヶ月前

利益や名声が欲しくて創るよりも好き過ぎて創られたやつのほうが完成度が段違いだし特に愛がある。
同人作品ってのはそうゆうもんでしょ

No.36 99ヶ月前

薄桜鬼すき

No.37 99ヶ月前

何かを成し遂げた人っていうのは、誰になんと言われようとも誇りを持っていて凄いと思う。
誰かの顔窺って何も書けない自分よりも、まだガキの頃に好き勝手書いてた時の方が楽しかった…。

偏見持ってて全然名前も知らなかったけど、これからも頑張れー!

No.38 99ヶ月前

>>34
所謂リア充ってやつは趣味と実生活両方を充実させたやつのことをいうんだぜ?
かっこつけてなお趣味も取れるような努力をしてこなかったオタクがわるいのさ
彼女もちでオタク趣味も理解を得られてるやつなんざ俺含みいくらでもいるし
理解されないのは努力もせず自分のコミュニティに引きこもってるキモオタっていう人種が悪いのさ

No.39 99ヶ月前

ここのコメントを見ていて『花帰葬』をBLゲーだと認識している方が多くてびっくりした。
いや、確かにその解釈もあながち間違いではないんだろうし、そういう紹介のされ方もしているのかもしれないけれど、自分はまったくそう認識していなかったので本当に驚いた。

絵柄はあまり好みではなかったけど、音楽が本当に好きだったのでPSP版をプレイしてみたが、プレイした途端に世界観に呑まれた。シナリオも音楽も、あまり好みでない絵柄も全て『花帰葬』の世界観にはきちんと嵌ってるんだと自分は感じた。
自分たちの作りたいものを妥協せずにしっかりと作り、作品として完成させたというのは本当にすごいと思う。
作ってらっしゃるのが全員女性ということなので確かに、女性うけのほうがいいとは感じたけれども、女性向けゲームというよりHaccaWorks*さんの世界観を楽しむゲームだと自分はとらえている。

No.40 99ヶ月前

伊予柑のノベルゲーム推しが反映された記事かと思いました(小並感)。

No.42 98ヶ月前
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