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ホラゲお化け屋敷は驚くべき経験だった――お化け屋敷P・五味弘文が語るニコニコ超会議の2日間
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ホラゲお化け屋敷は驚くべき経験だった――お化け屋敷P・五味弘文が語るニコニコ超会議の2日間

2015-08-21 21:00
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 お化け屋敷プロデューサー・五味弘文――その名前がニコファーレの「ニコニコ超会議 2015」告知イベントで読み上げられたとき、観客席からは歓声が上がり、コメント欄は驚きの書き込みにあふれた。


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 五味氏は、お化け屋敷にストーリーを持ち込み、古民家を舞台にしたお化け屋敷などを成功させてきたイベント界の鬼才。彼がこれまでにお化け屋敷で動員した人数は、600万人(リピーター含む)にのぼる。毎年のお化け屋敷を楽しみにしているファンも日本中にいる。そんな彼が、今年のニコニコ超会議でニコニコ動画の依頼に応えて、『青鬼』や『魔女の家』などの人気フリーゲームを用いたお化け屋敷を製作したのである。

 そうして迎えた当日、過去最大の来場者数となった幕張メッセの一角に、いまニコニコ動画で最もフリーゲームを楽しんでいる中高生のオタクを中心にしたファンたちが、静かな熱気とともに集っていた。


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 なにしろ開場すると同時に、あっという間に行列ができてチケットが売り切れてしまうという人気ぶり。ネット上においても、お化け屋敷連動の公式生放送は、二日間を通じて最大の来場者数を獲得した。

 今回のインタビューは、こんな場を作り上げた五味弘文氏に、一体どういう思いでフリーゲームのお化け屋敷に挑んだのかを聞いたものだ。はたして、鬼才・お化け屋敷プロデューサーはいかにしてホラゲでお化け屋敷を"つくってみた"のか――。


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五味 弘文 (ごみ ひろふみ)

1957年、長野県生まれ。
1992年、後楽園ゆうえんち(現 東京ドームシティ アトラクションズ)において、初のお化け屋敷『麿赤児のパノラマ怪奇館』を手がけ、キャストの現れるお化け屋敷を復活させて大きな反響を呼ぶ。以降、大人が楽しめるエンターテインメントを目指して活動を始める。その後、従来のお化け屋敷にはなかった“ストーリー”の概念を持ち込んだ催しを多数開催。赤ん坊を抱いて歩くお化け屋敷『パノラマ怪奇館〜赤ん坊地獄』や、手錠に繋がれて歩く『LOVE CHAIN〜恐怖の鎖地獄』、本物の廃屋を移築して作り上げた『東京近郊A市〜呪われた家』など、個性的なお化け屋敷が話題を呼んでいる。
著書に、『人はなぜ恐怖するのか?』(メディアファクトリー)、『お化け屋敷になぜ人は並ぶのか〜「恐怖」で集客するビジネスの企画発想』(角川oneテーマ21)、小説『憑き歯〜密七号の家』(幻冬舎文庫)がある。
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――今回の「超ホラーゲームお化け屋敷」の周辺は、今年の超会議の中でも特に異様な熱気の場所でした。並ぶのに丸一日を費やしてしまったユーザーが出たほどの盛況だったと聞きます。


公式生放送は超会議二日間を通して最も来場者を多く集めた放送になった。


五味弘文(以下、五味):しかも、若い女性が多いから、お客さんの反応が実にビビッドでした。

 普段からお化け屋敷を作りながら、「お化け屋敷というのは"若い女性"のためのものだな」と思うことがしばしばあるんです。これまでの運営からの経験則ですが、まず女性は恐怖に対して「ああ、ここは怖がればいい場所なんだ」とすぐに順応するんです。それに対して、男はとにかく「恐怖」を理性で抑えこもうと必死で頑張って、素直に楽しめない傾向があります(笑)。


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お化け屋敷の中の様子


――男女差があるのですか。

ドワンゴの自作ゲーム担当者(以下、D担):今回のお化け屋敷をニコニコ生放送で中継していたら、ユーザーが驚いた人の反応を「お、今の驚きでの"飛距離"はこれか」と表現して遊んでいたんです。その表現を借りるなら、確かに男性の「飛距離」は軒並み低かったですね。

五味:お化け屋敷は理性的な解釈が不可能なように設計して、人間の恐怖の「蓋」をこじ開けていくエンターテイメントなんですよ。だから、そもそも分析しようという行為そのものが間違っているんです(笑)。

――仕掛ける側からすると、分析はお節介そのものなわけですね(笑)。

五味:ところが、不思議なことに年をとると、なぜか女性までもが反応が鈍くなるんです。どうも人間は年をとると、お化け屋敷における「恐怖」の本質である「想像力」が、働きづらくなってしまうように思います。あるいは、想像力を本当に理性で押さえ込むことがで出来るようになってくるのかもしれません。

――想像力、ですか?

五味:ええ。
 恐怖というのは、本来はとても原始的な情動です。例えば、ライオンがいきなり目の前に現れたら、もうそれだけで人間は生理的なレベルで恐怖に捉えられる。そこには生命体として「死」を避けようとする本能の働きがあるんですね。ジェットコースターなどの絶叫マシンは、まさにこの生理的なレベルでの恐怖を利用したものです。
 でも、お化け屋敷は違うんです。そういう身体的なレベルで死を意識する恐怖なんて、そもそも出せるわけがない。だから、僕たちは「想像力」を使うんです。

 暗くて狭い道を歩かせて、次にどんな仕掛けが訪れるかを想像させて、ビクビクさせながら緊張感を高めていく。そうして毎回、全く理性では予測できない意表をつく仕掛けで驚かせる。これを繰り返していくと、人間は恐怖への想像力を脳内で暴走させてしまい、やがて恐怖に精神がとらえられてどうにもならなくなるんです。

 ところが、想像力の働きが弱くなってしまうと、そもそもこの一連のプロセスが機能しないんです。そういう意味で今回は、若くてビビッドな反応のお客様が多くて、こちらとしても大変に嬉しいお化け屋敷でした。


お化け屋敷P、フリーゲームに出会う


――今回のお化け屋敷の依頼が来たとき、率直に言ってどう思われましたか。

五味:いや、何が何だかよく分かりませんでした(笑)。フリーゲームの世界でホラーが流行っているなんてことも、全く知らなかったですから。でも、わざわざ僕のところに来てくれたのは、それだけですごく嬉しいし、奮い立ちました。

 それに、こういうイベント仕事をしている人間にとって、ニコニコ超会議は実に不思議な存在なので、興味津々だったんです。だって、あんな熱狂的なエネルギーが自然発生的に生まれてくる場所なんて、他にまずないでしょう。実際に足を踏み入れてみたら、さらに僕の想像を超えた世界が広がっていて、驚愕しましたけどね。


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ニコニコ超会議2015 当日の様子


――インターネットで流行しているホラーのフリーゲームを遊ばれたんですよね。

五味:ええ、ひと通り担当者の方から送っていただいたゲームをプレイしました。

 ハッとするような作品もあって、新鮮でした。例えば、『クロエのレクイエム』というゲームはBGMにクラシックを使っていますね。既存のお化け屋敷にはああいう音楽への愛情があまりないのですが、素晴らしいマッチングでした。大変に勉強になりました。
 あとは、やっぱり『DeathForest~森からの脱出~(以下、デスフォレスト)』です。ヨシエの異様な怖さが、まだ自分の中で言語化できていなくて悔しいんです。

D担:ヨシエは超会議の物販コーナーでTシャツにしてみたのですが、最も売れた物販になったそうです。やはり目を引くんですよね。



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デスフォレスト「ヨシエ」がプリントされたTシャツ。


――昔の匿名掲示板なんかで、よく「グロ画像」として貼られていた感じの絵ですよね。

五味: 個人的には、あの可愛いらしくもある造形にヒントがある気がしています。青鬼もそうですが、目がとても大きくて、クリっとしているでしょう。こういう、どこか"かわいらしい"造形というものは、人間はついつい目が離せないんです。そこに秘密がある気がしますね。
 まあ、ヨシエの最も凄いところは「実はただ来るだけ」というところなんですけどね。それなのに、あんなにも怖ろしい(笑)。

――まったくそのとおりですね(笑)。特に難しかった演出はありますか?

五味:『青鬼』ですねえ。僕は「着ぐるみは怖くない」と言ってきた人間なんです。やはり、「着ぐるみじゃん」と思われてしまうのは、怖さとして弱いんです。結局、最も人を怖がらせるのは「人間の顔」なんですよ。マスクもフルフェイスにしてしまうと、怖さは薄れてしまう。

 しかし、今回はあえて『青鬼』を着ぐるみのままで剥き出しの演出にしたんです。


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着ぐるみをつけた青鬼


――近づいてみたら、青鬼が無言で立ってるんですよね。で、「うわあ、こいつ来るんだろうなあ」と思っていたら、横に棚があるという(笑)。仕方なく棚の中に入ったら、案の定ガシャガシャやられて、僕の後ろから来て一緒に入った女の子がもうキャーキャー叫んでました。

五味:ええ、あえて剥き出しにしておいて、横を通らせて不安を煽る。その上で、ドアをドカドカして、鉄格子もガンガンする。着ぐるみが物理的にそういう行動をしてくるのは恐怖だと思ったんです。

――あと、みんな怖がっていた箇所といえば『魔女の家』ですね。

五味:あれは、ドワンゴの社員の人たちが大変に上手でしたね。

――あれは社員がやっていたんですか? 僕はてっきり五味さんが懇意にしている役者さんかと……。

D担:社員ですね。『魔女の家』の人もそうですし、青鬼の中の人は、新卒のエンジニアですね。みんなノリノリでやってました。


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「魔女の家」のお化け担当ドワンゴ社員。


五味:もちろんやり方は教えましたが、単純にドワンゴ社員の方たちが、もう本当に上手かったんですよ。あの思いっきりのよさは、なかなか出来ることじゃありません。慣れていらっしゃるんですかね(笑)。


ニコニコ生放送にも衝撃を受けた


――もう一つの変わった取り組みといえば、生放送で実況者が来場者を驚かす企画がありました。

五味:いやもう、僕から見れば、全部ダメ出ししたいくらいにヘタだったんですよ(笑)。タイミングもおかしいし、スピード感もないし……ところが、見ているうちに不思議にも「これでいいじゃないか」と思ってしまったんです。これは衝撃の体験でした。




だって、明らかにお化け屋敷の驚かせ方としては失敗しているんですよ。ところが、それでも成立してしまっている……そんな世界があそこには存在していたんです。結局、お客さんが楽しんでいたら、それは正解ですからね。その意味では、あの生放送は「大正解」です。

――二日目に来ていた子たちなんて、あそこで驚かれるのは前日の生放送で知っていた上で、喜んでましたからね。

五味:本当に面白いですよね。たぶん、僕がこの方法論をそのまま使うことはないと思います。でも、今回の経験は何かのかたちで活かさなければ……と思っています。

D担:あの箇所には、ニコニコの公式生放送のゲーム実況番組のノウハウを詰め込んだんです。

 これはゲーム実況の担当者が言っていたことですが、ホラゲのコアユーザーの実況での楽しみ方は「優越感」だというんです。先にネタを知っている自分が、何も知らない実況者が驚くさまを見てコメントで面白がるという、ある意味で「上から目線」な楽しみ方なんですよ。


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驚き逃げ惑う実況者を面白がる視聴者(参考

 その一方で、自分が得意なものを苦手な人や知らない人に教えるのが、ネットユーザーは大好きです。そういう「育成」の楽しさも生放送の実況にはあって、その要素も投入してみました。あと、ホラゲ実況が人気な理由として、「一人でプレイするのは怖いけど、みんなでプレイすれば怖くない」ということがよく指摘されるんです。基本的には、みんなでわいわい恐怖を通じて盛り上がる文化でもあるんですよ。

 つまり、ホラーゲーム実況というのは、全体的にインタラクティブ性が高くて、共同性にあふれた楽しみ方をする構造が重層的に仕掛けられているコンテンツなんです。今回は、こういう面白さをいかにこのお化け屋敷に持ってくるかに腐心しました。

五味:面白いですよね。通常のお化け屋敷は、怖がらせる側と怖がる側の二つしかないのが、ニコニコ生放送を用いると一気に可能性が広がっていくということですよね。

D担:ただ、コメントが最も熱心だったのが、お化けのプロが演じているときだったのは想定外でした。企画者の視点では、プロの演者の方は現場で企画が成立しなかったときの「保険」のつもりにすぎなかったんですよ……。この辺の、「やっぱり本物の芸は賞賛する」というのもニコニコらしかったように思います。

五味:そう思うと、いろんな楽しみが入ってましたね。僕としては、新しいお化け屋敷の楽しみ方について視点を学ばせていただいたように思います。


始まりは演劇の人脈を使ったお化け屋敷


――ここからは、せっかくなので五味さん自身についてもお伺いしたいです。そもそも「お化け屋敷プロデューサー」という仕事はどんなものでしょうか?

五味:お化け屋敷プロデューサーを一言で言えば、「お化け屋敷を作る人」です。ただ、仕事としては、いわゆるディレクター業務の比率のほうが大きいかもしれません。

 具体的な仕事としては、まずミッションやストーリーを考えて、それをベースにお客様の体験を演出するプランを考えるのがあります。そうして図面を引いて、人形の造形や衣装を作って、美術の人に発注します。そういう制作のプロセスの監修にくわえて、現場の調整をしたり、スタッフのトレーニングを請け負って、実際の運営まで行っていきます。

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五味氏プロデュースのお化け屋敷「呪い指輪の家」(東京ドームシティアトラクションにて2015年8月21日~9月23日開催


――本当に企画から現場からまで、一気通貫で関わってるんですね。あまり聞いたことのない職業だと思いますが、どういう経緯で始められたのですか?

五味:確かに、あまり他では聞きませんね。僕としても、この仕事に就いたのは半ば偶然で、そもそもこの職業自体が、僕が仕事の中で名乗るときに作ったものです(笑)。

 元々は芝居をやっていて、脚本と演出を手がけていたんですよ。ただ、芝居というのは、とても食えるような仕事じゃなくて、公演の合間にアルバイトをして生活するんですね。当時の僕は、自由が効くイベント企画制作会社でアルバイトをしていました。
 転機になったのは、34歳のときのことです。後楽園ゆうえんちで「ルナパーク」という夜の催しを手がけたときに、自分の演劇仲間の人脈を使ったお化け屋敷の企画を出してみたんです。

――『麿赤児のパノラマ怪奇館』ですね。メインビジュアルに丸尾末広さんを起用したり、スタンプが故・ナンシー関さんだったりと、だいぶ今でいうところの「サブカル」の大御所を使われた企画ですよね。

五味:今だとそういうくくりになるのでしょうね。でも、あの頃の彼らは一部から高く評価を得ている知る人ぞ知る才能たちでした。

 僕が彼らを起用できたのは、自分の演劇周りの人脈や、その周辺にあった文化の影響を強く受けていたからです。音楽なんてあのジョン・ゾーンにお願いしてますが、彼も当時は高円寺になぜか住んでいましたからね(笑)。
 そもそも「お化け屋敷」の企画を思いついたのも、白塗りで踊る舞踏をされている「大駱駝艦」という舞踏集団を率いる麿赤児さん(※ 現在は麿赤兒に改名)という方と知り合ったのがキッカケです。つい「あの頭を剃った白塗りの人たちが、闇の中から驚かしたら面白いんじゃないか?」と思いついちゃったんですね(笑)。頼むときは怒られないかと内心ヒヤヒヤしましたが、麿さんが面白がってくれたので一気に話が動いていきました。


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大駱駝艦の公演ポスター


――大駱駝艦は海外にBUTOHを広めるキッカケになった、日本の演劇界の大御所ですね。五味さんには、お化け屋敷に物語性の高い演出を持ち込んだ人物という評価があると思いますが、そのルーツはかなり直接に日本の「アングラ演劇」にあったというわけですね。

五味:少なくとも、最初のお化け屋敷はまさにそういう界隈で作ったものですね。
 当時のお化け屋敷は、今よりもはるかに子供向けという感覚が強くて、大人が本気で入るものではありませんでした。実際、人形がちょっと動いているだけだったりして、冷やかし半分程度で入るようなものだったんです。


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 当時の僕は、そこに本気で大人向けの演出を入れてみたら、何か新しい鉱脈があるかもしれないと考えてみたんです。正直に言って、大駱駝艦に丸尾末広にジョン・ゾーンという座組は、当時としても相当に毛色が変わっていましたけどね(笑)。
 でも、こういう文化的なものに敏感な人たちは反応してくれました。何よりも、一般のお客さんからの反応も上々だったんですよ。それで翌年、翌々年と続いていくことになりました。

――そう聞くと、本当にお化け屋敷を仕事にされたのは"たまたま"ですね。

五味:そうですね。もちろん、僕の世代はホラー映画が盛り上がっていて、それなりにホラーへの興味もありましたが、別に海外の古典を遡るような熱心なファンではありませんでした。

 ただ、今思うと小学生の頃、夏がくるたびにお化け屋敷を作っていたんです。部屋を暗くして、段ボールで通路を作って、親戚のおばさんを驚かしたりね(笑)。でも、当時はこんな仕事に就くなんて夢にも思っていなかったし、思春期になったら辞めていました。やはり偶然の結果、たどりついた仕事なんだと思います。


お化け屋敷の演出の極意とは?


――そうなると気になるのは、五味さんが登場するまでのお化け屋敷の歴史なんです。そもそもお化け屋敷は、どういうふうに始まったものなんでしょうか。

五味:僕も聞きかじった程度の知識なのですが、江戸時代の天保期に、怪談噺や幽霊画が盛り上がっていたんです。そのときに瓢仙という医者が、江戸の大森に「化け物茶屋」というものを作って、自分の家の離れに人形や幽霊の掛け軸を大量に下げて展示したのが先駆けと言われています。

 ただ、これが可能になったのは、そもそも日本の美術や工芸の分野に、生き人形や幽霊画の伝統があったからですね。当時は、歌舞伎でも鶴屋南北の『東海道四谷怪談』が人気になった時期だったそうです。そういう恐怖を楽しむ機運が色んなジャンルで生じてきたなかで登場したものの一つが、この大森の化け物茶屋だったんでしょうね。


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五味氏の著書「お化け屋敷になぜ人は並ぶのか 「恐怖」で集客するビジネスの企画発想 」。
この本がD担の愛読書だったことが、今回の企画の実現につながりました。この辺りの歴史の話も書かれています。


 とはいえ、そこまでは言えると思うのですが、これ以上に詳細な議論をしていくと、お化け屋敷の定義論争に関わってしまうんです。「化け物茶屋」も部屋に展示しているだけですから、今風の「迷路状の部屋をまわりながら恐怖を覚える」というお化け屋敷とは厳密には違うものでしょう。

――今風のお化け屋敷の起源はどこにあるのでしょうか?

五味:戦前の博覧会ブームの影響が強いようですね。読売新聞などが南洋のジャングルや山脈を室内に再現した見世物を出していたのですが、その一つに怪談を再現したネタがあって、大当たりしていたそうです。僕は迷路状の屋内を回遊していく現代のお化け屋敷の原型は、ここで生まれたんじゃないかと考えています。

――とすれば、そういう「博覧会」由来の複数の怪談を横断していく手法に対して、「演劇」由来の一本のオリジナルストーリーで恐怖を生み出していく手法を確立したのが、五味さんだったということですよね。ところが、今回のホラゲお化け屋敷は、むしろ複数のホラゲを横断していく点で、従来の型に近いというか……。

五味:ええ、そうでした。ただ、今回はお客さんが各々のホラーゲームを知っていたので、いきなりスポンと世界観にハマってくれたんです。既に話の土台が共有されていることは、かくも強いのかと驚きました。
 要は、恐怖を与えるために世界観を構築することが本質であって、既に世界観が出来上がっているのであれば、それをいかにイメージ通り、もしくはイメージ以上のものとして再現するかが大事になってくると思うんです。これは僕の普段の手法とは全く違いますが、成立することはよく分かったし、大変に発見がありました。

――とはいえ、複数の世界観のゲームを一つの箱に収めるのは大変だったと思います。

五味:今回の場合、発想の最初の取っ掛かりはレイアウトでした。

 お化け屋敷というのは、最後に「あれ、出ちゃったぞ」という感じでお客さんを帰すと、失望されてしまうんです。そうならないための一番シンプルな対策は、最初のシーンと最後のシーンを揃えることですね。この手法を使うと、途中がかなりバラバラになっても「あれ、最初のシーンに戻ってきたな」と思えて、「ああ、終わったぞ」という印象を引き起こすんですね。


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 そこで今回は、『魔女の家』と『デスフォレスト』の二つの「森」で挟み込みました。そうなると、お化け屋敷であるからには最後は脱出のイメージで出て行くのが美しいので、ヨシエをラストに使いたくなります。とすれば、冒頭は『魔女の家』になる――ここまで決まれば、あとはお客さんの感情に沿って動かすだけです。

――まずは最初と最後を決めて、感情の導線の大枠を作ったわけですね。

五味:そこから、今度は全体のイメージを練り上げていきます。どういうシーンが演出に使えるかを考えつつ、自分の中にあるお化け屋敷の理論にどうハマるかを調整していく。すると、だんだん「最初はじわっとした不安から始まって、徐々にショックが大きくなって……」みたいに具体的なレイアウトが見えてくるんです。
 ただ、感情のピークに来るところで、どの作品のどういうシーンが使えるかなどは、素材を探してくるのも、それを上手く当てはめるのも大変です。そこはもう、ひたすらに感情の起伏を作り出すために、並べ替えパズルですよ。

――感情の起伏というのは、やはり「緊張」と「緩和」を上手く作ることですか。

五味:ええ。そして、その二つ以外にないというのが「お化け屋敷」なんです。

「来るぞ来るぞ来るぞ」という不安で恐怖の緊張が高まっていき、フワッと驚いて緩和する。この繰り返しです。まあ、実はその緩和した瞬間を狙って、もう一度驚かすのがコツなんですけどね。二段階で驚かすのが、プロのお化けです(笑)。


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緊張が緩和した瞬間に飛び出すプロお化け


この緊張と緩和というのは「カタルシス」そのものであり、快楽でもあるんです。しかも、この恐怖を利用してカタルシスを得るという快楽の回路は特殊なもので、代わりが効きません。だからこそ、夏のお化け屋敷を毎年楽しみにするお客さんがいらっしゃるんでしょうね。


「謎解き」と「グロ」は取り扱い注意!?


――少しホラーゲームに則した質問もさせていただきたいのですが、先ほどの恐怖と想像力の関係を聞いていると、「謎解き」と「恐怖」は相性が良くないように思います。

五味:実は相反する……とさえ言えるでしょう。

 例えば、脱出ゲームとコラボするときの難しさはそこにあるんです。頭がパズルを解くモードのときにお化けが出ると、クリアを妨げる「障害物」に見え出してしまう。「いいから、いいから」みたいな感じになって、怖くなくなっちゃうんですね。一見相性が良さそうに見えて、なかなか工夫がいる企画なんです。
 ただ、僕自身が謎解きを使わないかといえば、むしろ相当に入れるんですよ。でも、それは観客の行動をコントロールするためです。通常は見に行かないような「押入れの中」みたいな場所を、謎解きのためには覗かなきゃいけないでしょう。ホラーゲームも同じ構造があるはずですよ。とはいえ、謎解きが苦手な人には、やはり恐怖の想像力を阻害するのは否めないでしょうね。

――もうひとつホラーゲームという話で言うと、わりとグロテスクや不快感の怖さで攻めてくる人が多いと思うんです。ただ、その怖さに頼るの自体には議論もありまして……その辺はどう思いますか?

五味:それは、お化け屋敷を作る人も頼りがちなんですよ。実際、ウワッと来ますからね。

 ただ、実はグロテスクがもたらすのは正確には「嫌悪」や「不快」の感情であって、「恐怖」や「不安」と必ずしもイコールではないんです。ですから、あまりにグロテスクなものは、かえって理性が働いてしまって、恐怖の暴走を抑えこんでしまうんです。扱いが大変に難しいんですね。

 ただ、「グロテスク」の中に恐怖が内在していないかというと、それも違うと思いますね。つまり、あれは"美しい顔"のような形あるものが崩壊して拡散していく姿のことでしょう。それって新陳代謝を繰り返しながら、やがて死に近づいていくという、人間の本質を露わにしているように思います。そして、「死」というのは人間の防衛本能と結びついた、いわば恐怖の「源」なわけですよ。だからこそ人間はそれを恐れ、常にあらゆるものを整理し、解釈することで抗してきたわけです。

 ですから、私なりの回答としては、グロテスクは「死」を想起させる演出に取り入れられれば恐怖の効果に結びつけられるでしょう――というものです。しかし、素材のままでゴロンと見せると、恐怖よりも理性のほうが働くリスクがある。あまりお奨めはできないですね。

――五味さんはイベントのような三次元のエンターテイメントに、フィクションやストーリーを持ち込まれている、稀有な方だと思います。一方で、フリゲなんかは二次元のメディアですが、そこに怖がらせ方の違いはあると思いますか?

五味:あなたのおっしゃる「二次元」と「三次元」で表現が大きく変わるというのは、確かにあると思いますね。

 やはり三次元の場においては、空間をいくらデザインしても、体験を設計し尽くせないんですよ。もはやインタラクティブ性なんて言葉で表現すらしきれないくらいに、複雑で濃密な人間のコミュニケーションが生まれてしまいますから。そもそも、テレビゲームは一人でプレイすることが多いでしょうが、我々の世界では複数人が一緒に体験するのはザラです。そうなると、ある人間は大きく反応するけど、ある人間は全く反応しないなんてことも珍しくないし、しかもそれが互いに見えてしまうんですね。
 僕たちは、そういう興奮する人も冷めている人も同時に存在している前提で、体験を設計していくんです。お客さんの存在がどうしても前提になるデザインなので、ゲームのように完璧な設計は難しいのも事実です。しかし、その代わりに僕たちには、複雑で多様な"制御しがたいもの"を、それでもなんとか制御しようとしていく――そういう楽しさがあるように思います。


なぜお化け屋敷を作るのか?


――エンターテイメント全体の商業的な趨勢は、漫画やアニメのような二次元の娯楽から、リアルイベントやアイドルのような三次元の娯楽が盛り上がる方向へと進んでいます。そういう動向のなかで、実は五味さんは表現の緻密さやフィクションの扱いにおいて、三次元のエンターテイメントの最先端を走っていると思うのですが、こういう表現活動を行う醍醐味はどういう部分にありますか。

五味:おそらく、僕は明確にコミュニケーションが出来る瞬間が好きなんですよ。しかも、それは普段のコミュニケーションでは味わえない次元での濃密なコミュニケーションです。

 それが僕にとっては、人間が恐怖に囚われたり驚いたりする瞬間なんですね。僕の仕掛けに誰かが驚く――その一瞬に、なにかコミュニケーションの火花がパァンとスパークしたような感覚があるんです。僕はきっと、そのお客さんのことを知らないし、話したこともない。でも、大勢の人がそういうスパークを浴びて帰っていく。全くもって、奇妙で不思議な体験です。でも、そこにはやはりリアルイベントを作ることでしか味わえない快楽があるように思いますね。

――いまお話を聞きながら、やはり根っこのところには「演劇」がある方なんだなと思いました(笑)。


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五味:ちょっと寺山修司みたいな言い方をしてますよね(笑)。『ノック』【※】みたいな。でも、やっぱり人がいることこそが面白いんですよね。


【※】ノック
劇作家・寺山修司が1975年に行った、30時間におよぶ伝説的な市街劇。街の一角に複数の役者を配置して、リアルタイムに複数の物語を進行させた。(参考


――そういう人間へのこだわりは、きっと着ぐるみに不安を覚えていたことや、最初のお化け屋敷で演劇を導入したことともあわせて、五味さんのお化け屋敷の根底にあるものなんでしょうね。

D担:今日お話を聞いて、本当に五味さんにお願いしてよかったなと思いました。

 五味さんが今までのノウハウをフルに活かしながら、あれほど丁寧に彼ら彼女らの文化を理解しようとしてくれたことが、幕張メッセの片隅にああいう熱気の空間を生んだように思いました。
 やっぱりホラーゲームって、若い子にとってこれほど巨大なジャンルになっているのに、ニコニコ動画全体では決して注目されているとは言えないですから、みんな嬉しかったのかなとも思います。

五味:そう言ってもらえると、嬉しいですね。きっと彼らは、僕には想像もつかないような思いを抱えて、あの場に来たんでしょうね。
 僕としては今回、あまりにも多くのものを得すぎて、自分の中で言語化が追いついていないんです。あのニコニコ生放送を、あれから僕は何度も何度も見返しているんです。すごく面白いと思うのですが、その解釈がどうにも追いつかない。

 ただ、あの場所に若い人たちが塊としていて、そこに何かが求められていることだけは肌感覚で理解したように思います。今後の仕事にどう反映できるかはわからないですが……ともあれ、とてつもなく大きな宿題をいただいた仕事だったように思います。

(了)

【聞き手・構成:稲葉ほたて


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