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エア『スペース・インベーダー』でゲーム作りの楽しさを知る
―――飯田さんがビデオゲームにはじめて触れられたのはいつごろだったのでしょうか?
飯田 1978年の『スペース・インベーダー』です。えっとね、当時小学生だったんだけど、近所の駄菓子屋さんに置かれるようになったんだよね。それで学校内で朝から話題になっていて、放課後にプレイしてみたんですけど、筐体が『2001年宇宙の旅』のモノリスのように置かれていて、神秘的なものを感じました。
―――ゲームに興味を持たれて。
飯田 そう。でも、お金がないからたくさんプレイはできないんですよ。だからビールケースに乗って、大学生のお兄ちゃんとかがやってるところを後ろから覗きこんで。そうだ、だからはじめて作ったゲームも『スペース・インベーダー』だったのかもしれない。
―――どういうことですか?
飯田 今でいうと、「エア」ゲームですよね。他の人のプレイ画面を目で観て記憶して、画用紙を切り抜いて作ったインベーダーを窓ガラスに貼って、インベーダーのゲーム画面を再現するんです。臨場感があるつもりで、ガラスの開閉を利用してインベーダーの動きも再現したりして。だから初作品は『スペース・インベーダー』かも。
―――エア『スペース・インベーダー』を作ってみて、ゲーム作りって面白いと感じられましたか?
飯田 感じた。ゲームをプレイすることも含めて、なにがそんなに魅力的だったのかはわからないんだけど持っていかれちゃったんですよね。
―――そこからゲームが好きになって。
―――『ダライアス』は筐体も含めて印象的ですね。
飯田 ゲーム画面が三面ある筐体だからね。あ、でも今思うと『ダライアス』好きだったから魚のゲーム(『アクアノートの休日』)作ったのかもしれない。
※『ダライアス』では魚の形をした戦艦や海底を舞台にしたステージが登場する
―――ははは。ゲーム作りはどういう方法でやっていたんですか?
飯田 マイコンBASICマガジンっていう雑誌にBASICのプログラムのソースコードが載ってたから、『パックマン』なんかを自分で入力して遊んでましたね。そのままコードを入力するだけなんだけど画面上に線が引けたときなんか本当に喜んだし、慣れたら自分なりにいろんな改造をやってみて、より面白くなるパラメーターを探ったりしてて。ゲームクリエイターになろうと思ったのは大学卒業ぐらいのころだったんですけど、ゲーム作りは小学生のころからやってましたね。
「触覚」といったインタラクションを考えるのが面白い
―――飯田さんの作品は、いずれも飯田さんの持つ強い作家性やアイディアにあふれている作品だと思うのですが、アイディアをゲームにするときに「ここまではゲームにして、ここからは削る」といった落とし所はどうやって考えているのでしょうか?
飯田 落とし所みたいなことはそんなに考えてないです。自分が最初のプレイヤーなので、自分が面白いと思うゲームを作るのが一番ですよ。僕の場合はゲームデザイナーの意図が見えた瞬間に醒めてしまうことがあるし、やっぱり自分で開拓して本質に近づきたいので、『アクアノートの休日』とか、ゲームデザイナーの意図を気にすることなく遊べるゲームを作ってきました。でも、最近はそうでもなくなってきたけどね(笑)。『ディシプリン*帝国の誕生』だと、シナリオ主体でシナリオを順番に読んでいくというゲームなのでゲームデザイナーの意図したストーリーにしか展開しないんだけど、そういうのもいいなあって思うようになってね。
―――どちらが絶対良いということでもない。
飯田 そう。ゲームによって表現の仕方が変わるし、やっぱり自分が最初にプレイするわけだから、自分が楽しいと思った表現が一番いいですよ。
―――ニコニコ自作ゲームフェスでも、自分が面白いと思うゲームを作って応募するのが一番?
飯田 うん。やっぱりはじめて自分で線を引いてみた喜びみたいなところに帰結するのかなと思う。あと、学生時代には「任天堂・電通ゲームセミナー」っていうセミナーに通ってたんですけど、そこで宮本茂(「マリオ」「ゼルダ」の生みの親)さんから直々にゲーム作りについてアドバイスされたことがあるんですよ。セミナーは任天堂の東京支社で任天堂のプログラマーの方にアドバイスをもらいながらファミコンディスクシステムのゲームを作るというものだったんですけれど。
―――そのとき作ったゲームはどんなゲームだったんですか?
飯田 見下ろし型のアクションゲーム。主人公はドラキュラで、満腹になるまで処女の血を吸えばクリアなんだけど、そのドラキュラは100年に一度しか起きないって設定もあるんですよ。そうすると100年後には村はこんなに変わっていた! という村の歴史も描けるし、世代が変わって100年前に吸った処女の孫がこの子っていう人間の歴史も描けるから面白いなと思って。
―――面白そうですね。
飯田 でも宮本さんからは、「血液を吸うという操作と、ボタンを押し込むという動作とうまくマッチングするのかなあ」ということを言われたんですよ。「吸う」と「押しこむ」は逆方向のベクトルを向いているから。宮本さんに「解決するアイディアはあるの?」と聞かれたんだけど、僕は考えてなかった。そこでアイディアだけが面白くてもだめで、操作したらなにが起こるかっていう、インタラクションを考えることがゲームのキモだっていうことを覚えたんです。
―――それは今、自作ゲームを作っている人にも言えることなんでしょうか?
飯田 うん。とくにiPhoneとかのタッチデバイスのゲームならユーザーインターフェースもより直感的にやりたいことがやれるほうがいいだろうし、体に何らかの錯覚を起こさせるということもできるから、インタラクションを考えるのは面白いと思うんだよね。
―――錯覚を起こす。
飯田 ガラスでできた画面をタッチしてるんだけど「柔らかい!」と錯覚させる仕掛けとかね。「敵が固い」とかシューティングゲームで言いますけど、あのときはやっぱ固いと錯覚してるんですよ。そういう画面の向こう側に存在している世界の触感みたいなものは、タッチデバイスでゲームを作るときはよりちゃんと考えたいし、自分も大事にしたいポイントだと思ってます。
日記のようにゲームを毎日作っていくこと
―――もし飯田さんが自作ゲームフェスの審査員になるとしたら、どんなゲームを遊んでみたいですか?
飯田 とにかくビックリしたいっていうのはあります。ビックリにも技術のビックリとアイディアのビックリがあると思うんですけど、僕は欲張りだから両方欲しいんです。でも独創性のあるものっていうのは見たことのないものだから、どういうゲームかっていうのは言い難いですね。
―――ゲームでできる独創性を開拓できる余地が眠っていそうなところはどこかなと考えたりしていますか?
飯田 ものすごく広く言っちゃうと、インターネットにはまだまだあると思いますよ。大学や会社、東京とかニューヨークみたいな物理的な場所や都市からではなくて。インターネットを別の言葉に言い換えるなら「コミュニティ」になると思うんですけど、コミュニティからどういう刺激を与えられたっていうのはゲーム作りの参考になるんじゃないかなあ。だから僕はニコ生はけっこう面白いなと思っていますよ。
―――ニコ生からゲームのアイディアは浮かんだりしますか?
飯田 『ディシプリン』は、弾幕コメが流れていく感じとかけっこうニコ生を意識して仕掛けを入れたんですよ。『ディシプリン』はゲーム実況者と一緒に発売前にエンディングまで実況した動画があるんですけど、それを観てみてほしいです。
「発売前のゲームを実況プレイしたら売れねぇだろ【開発者自演】 part1」
―――最近、自作ゲームのなかで面白いなと感じられたゲームってありますか?
飯田 ニコ生の番組でやらせてもらったんですけど、やっぱり『ゆめにっき』は面白かった。RPGツクールで作ってると、普通はRPGを作っちゃうじゃないですか。でも「ゆめにっき」は、RPGツクールがすごい力を入れて開発している部分はまったく使っていないってことに驚いて。不気味な世界を彷徨う感じも良かったし、グラフィックも簡易なドット絵なんだけど、すごい豊かな世界だなと思いましたね。あとは、フラッシュゲームも面白いものがあるからちょくちょくあるんだけど、それは名前忘れちゃったなあ。あとは『ぐんまのやぼう』かな。Web上やスマートフォン向けに供給されるゲームは自作でも商業作品でも関係なく遊んでもらえるのがいいですよね。新しかったり面白かったら遊んでもらえるから、もっといろんなゲームが出てきてほしいです。
―――ニコニコ自作ゲームフェスをきっかけに自作ゲームを作ってみようかなとしている人に向けて、これはやってみたらいいよといったことはありますか?
飯田 さっき独創性のあるゲームがやりたいと言いましたけど、そこにたどり着くために、またとりあえず一歩目を踏み出すためには、やっぱりゲームをいっぱい作ってみるしかないと思っています。今はBASICみたいな簡易なゲームが作れる言語っていうのは流行っていないけど、その代わりにゲームの種類にはそれぞれ特化しているけど簡単にゲームが作ることができる制作環境がたくさんあるので、まずは触れてみてほしいですね。NScripterとか吉里吉里とかね。
―――3Dゲームの制作環境もありますからね。
飯田 3DならUnityというゲームエンジンが使いやすい。UnityだとMikuMikuDanceをアニメーションツールとして利用できるし、CGアート作品をプログラムを通さずに、パソコン1台でそのままゲーム画面上にエミュレートもできる。僕が今作ってる『イージーダイバー』もUnityで作ってるんですけど、とてもやりやすいですよ。専門知識がなくてもいろいろとできる制作環境はたくさんあるので、それこそ日記のように毎日作っていくことで、自分だけが作ることができる独創性のある作品にたどり着けるんじゃないかと思います。
―――ニコニコ自作ゲームフェスではUnityさんともコラボさせていただく予定なので、Unityで制作した作品もたくさん応募して来てほしいです。
飯田 へー、僕も応募してもいいですか?
―――もちろんです!(笑)。
(村井 克成)
【インタビュー記事一覧】
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・八百谷真「ゲーム作りは欲求不満放出の場」(代表作:『囚人へのペル・エム・フル』)
・なりた「商業に応用できるアイデアや可能性を同人ゲームで探っていた」(代表作:『MELTY BLOOD』)
・cutlass「これからのノベルゲーム文化を自分が背負わないで誰が背負うんだ!」(代表作:『NOeSIS~嘘を吐いた記憶の物語~』)
・海原海豚(黄昏フロンティア)「自作ゲーム制作にはブッ飛んだ愛が必要」(代表作:『東方萃夢想』『ひぐらしデイブレイク』)
・奥井晶久「ニコニコはゲームとユーザーの接点を作ってくれる」(代表作:『ワンナイト人狼』)
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・竜騎士07「ニコニコ自作ゲームフェスはいい“試練の場”になる!」 (代表作:『ひぐらしのなく頃に』)
・オガワコウサク「それはもう、祁答院が作るゲームが面白いからですよね」(代表作:『コープスパーティー』)
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