猪瀬直樹ブログ
[MM日本国の研究847]「30年後の『ミカドの肖像』猪瀬直樹の自己解題」
⌘ 2015年05月21日発行 第0847号
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■■■ 日本国の研究
■■■ 不安との訣別/再生のカルテ
■■■ 編集長 猪瀬直樹
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今週のメルマガは現在発売中の月刊「サイゾー」6月号の特集「日本人が知
るべき天皇問題」に掲載されたインタビュー「30年後の『ミカドの肖像』猪瀬
直樹の自己解題」を、さわりだけ!
「生ける歴史遺産となった昭和天皇、GHQに十字架を負わされた今上天皇」
という副題のごとく、近代天皇制の切り口を余すところなく語っています。
「菊花紋章」から皇室報道まで、論点を網羅した特集も読みごたえあり!
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「30年後の『ミカドの肖像』猪瀬直樹の自己解題」
日本における「天皇」とその“影”を深く長い射程距離をもって抉り出した
ノンフィクションといえば、猪瀬直樹の『ミカドの肖像』をおいてほかにない。
猪瀬氏は『天皇の影法師』でデビューし、『ミカドの肖像』から始まる“ミカ
ド3部作”、そして09年にも『ジミーの誕生日』を書いてきた。その当人に、
『ミカドの肖像』連載から30年たった今あらためて、同書で描き出そうとした
ものはなんだったのか、この期間に日本社会と「天皇」の関係はどううつろっ
てきたのか、読み解いてもらった。
○猪瀬さんが1985年に雑誌で『ミカドの肖像』の連載を始められてから、30年
になります。本格的なデビュー作である『天皇の影法師』に続いて、昭和末期
のあの時代に、あらためて「天皇」という存在に着眼されての大著に挑まれ
た背景から教えてください。
●猪瀬 一番大きなテーマは、当時の日本人がみんな「自分たちはどこにいる
のだろう」と感じ始めたということ。ちょうどこれを書き始めたとき、僕も40
歳になるかならないかの頃だったのだけど、敗戦から40年経って歴史的な体験
が風化して、自分たちの依って立つ場所が見えなくなり出していた。高度消費
社会というものが成立して、まるでディズニーランドのように「何が本物か」
のリアリティが隠された社会になってしまった。アメリカを暗黙の番人にした
ままでね。だからこの頃から若者たちが「自分探し」に迷うようになっていく。
村上春樹の文学は、そんなアメリカの影を意識しつつ、消費社会の「見えな
い」「わからない」感覚を描いたものだったわけだ。
でも僕の場合は、それは自分たちの身近なミステリーを辿ることで解き明か
せるはずだと考えた。まず、『ミカドの肖像』の最初には何が書いてあった?
○フランスのデュオMIKADOが、原宿のクラブ「ピテカントロプス・エレクトス」
でライブを行ったことですね。
●猪瀬 そう。MIKADOというデュオが、「ミカドゲーム」なんて歌を歌ってる。
なぜこの人たちは「MIKADO」なのか。それで聞いたら、どうやらヨーロッパに
は「ミカドゲーム」なるものがあるらしい。
そのゲームになぞらえて男女の恋愛を歌った歌だったんだけど、そもそもな
ぜそんな名前のゲームがあるのか?いきなり「天皇」というテーマがあったの
ではなく、そういう素朴な疑問から入っていったんだよね。
調べてみれば、「ミカドゲーム」は竹の串を使うゲームだという、日本人が
知らない事実があった。
本のタイトルを『ミカド』とカタカナにした理由はそういうこと。日本人の
固定観念で天皇を論じようとすると、どうしたって右翼と左翼それぞれが手垢
のついた主張をぶつけ合うような不毛なものにしかならない。そうではなく、
一度欧米人の持つ「ミカド」という見方に立つことで、僕たちの社会の姿を浮
き彫りにすることができると考えたんだ。
○つまり、もはや政治的には無意味で、国民の実生活とは無関係な存在のよう
に見える天皇制を世界的な視点から異化して見ることで、見えづらくなった日
本社会の自画像が描けるようになる、と。
●猪瀬 そう。フランス人の哲学者ロラン・バルトは、皇居を指して「空虚な
中心」と呼んだ。周りには高層ビルや高速道路があって経済活動がせわしなく
行われているけれど、真ん中だけぽかっと、禅の「無」を思わせるような静寂
の森がある。むしろ何もないことによって、驚異的な成長を遂げた高度な資本
主義社会全体を駆動させる神秘があるんじゃないかと、フランスの哲学者は洞
察したんだよね。
『ミカドの肖像』は、その漠然とした描像が具体的にどう働いているかを検証
した本だといえる。例えば、皇居のそばに昭和49年に竣工した東京海上のビル
が建てられようとしたとき、不可解な圧力で30階建てから25階建てに制限され
てしまった経緯。あるいは原宿駅に皇室専用のホームがあって、「お召し列車」
を運行させるときには頭上を別の列車が通る不敬を起こさないよう、「スジ屋」
と呼ばれる職能人たちが15秒単位の信じられない緻密さでダイヤを管理してい
ること。
我々の日常世界のすぐ隣に、実はそんな見えざるタブーに動かされている世
界があるんだってエピソードを引き金に、僕たちの社会の内なる天皇制の機能
の仕方を意識しようというところから、この本は始まっている。
□消費社会を駆動する“究極のブランド”としての天皇■
○そこまでをプロローグとして、大きく3部構成で本論が展開していきますね。
第Ⅰ部は、西武グループの創業者である堤康次郎が、次々と皇族の土地を取得
して「プリンスホテル」などのブランドを確立していき、軽井沢のようなレジ
ャー観光地を打ち立てていく経緯でした。
●猪瀬 当時のプリンスホテルの勢いはすさまじかった。週刊誌の新年号には
毎年、康次郎の息子で、中核の鉄道事業やホテル事業を継承した堤義明のイン
タビューがあったほど。一方で異母弟の堤清二もパルコを皮切りにセゾングル
ープの百貨店事業を成功させて、この頃には有楽町マリオンに消費の殿堂を築
き上げていた。
そういう80年代の消費社会を牽引した西武グループのブランド力の源泉がど
こにあったのか。プリンスホテルの「プリンス」とはどういう意味か。それは
もともと、敗戦直後に没落した朝香宮の静養地だった軽井沢の土地を、康次郎
が手練手管で安く取得したことに端を発している。そして最初の「千ヶ滝プリ
ンスホテル」を開業するんだけど、ここが今上天皇明仁が皇太子時代に美智子
さんと出会って戦後社会を沸かせる「テニスコートの恋」の舞台になった。
(「サイゾー6月号」から抄録)
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「日本国の研究」事務局 info@inose.gr.jp
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