猪瀬直樹ブログ
[MM日本国の研究852]「二人の若者が興した日本初の警備会社」
⌘ 2015年06月25日発行 第0852号
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■■■ 日本国の研究
■■■ 不安との訣別/再生のカルテ
■■■ 編集長 猪瀬直樹
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日本の「安心・安全」はどうして成り立ってきたか――。敗戦・占領、再武
装、復興の象徴・東京五輪警備……。民間警備会社の黎明期の秘話から戦後史
の謎を解き明かす猪瀬直樹の意欲作「民警」が「週刊SPA!」誌上で大好評
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号「二人の若者が興した日本初の警備会社」から、さわりをお届け!
「昭和37年(1962年)5月。東京・帝国ホテルで二人の日本人青年が来日中
の国際警備連盟会長フィリップ・ソーレンセンを待ち構えていた。日本初の
警備会社設立を認めてもらうため、起業精神に燃える二人はそこにいた……」
占領期、日本版CIA構想の挫折にいたった“闇ドル事件”の謎から一転、
楽天的な夢に満ちあふれた若者たちの起業物語が始まる連載第8回。口髭の北
欧人から青年たちに放たれた言葉とは?!
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「二人の若者が興した日本初の警備会社」
帝国ホテルのフロントの前で二人の青年が緊張した面持ちである人物を待っ
ていた。
フランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテルは、落成披露当日に関東大震災
に遭遇するという数奇な運命をもってスタートした日本を代表するホテル建築
である。
日比谷通りに面したファサード(正面外観)は、睡蓮の浮かんだ池を前景に、
両側に大谷石を装飾的に彫り込んだ東洋風の屋根をもつ建物がシンメトリー(左
右均衡)に配置されている。誰でも日比谷通りを歩きながらふと振り返る印象
的な建築物である(このフランク・ロイド・ライトの代表作は、昭和42年12月
に解体されその姿は都心から消え、いま愛知県犬山市の明治村に移築されてい
る)。
二人の青年、一人は眼が大きく眉が濃い29歳の飯田亮、もう一人は切れ長の
眼で頬がほっそりと整った顔、30歳の戸田寿一である。二人とも日本人として
は長身で170センチ代半ば、身体もがっしりしている。飯田は学生時代にア
メリカンフットボール部のランニングバックでキャプテン、戸田は野球部でセ
カンドを守った。
昭和37年(1962年)5月である。ツツジが満開の日比谷公園を横切って、
約束の時間より早く帝国ホテルに着いている。
やがて50代の金髪で口髭の北欧人が現れた。二人に気づくと、相好を崩して
両手を拡げ、身振り大きく握手を求めた。北欧人と聞いていたが、背格好は同
じぐらいで威圧感はない。戸田はカナダ育ちで流暢な英語を話すことができる
ので、たちまち打ち解けた。
だがロビーに坐ると、その北欧人フィリップ・ソーレンセンは険しい表情で
言った。
「新しいビジネスは最初にやる人のモラルのつくり方が、そのビジネスの方向
を決めるのです。社会に与える影響は大きいので、スタートのところで間違っ
てしまうと、とんでもないことになってしまいます」
ソーレンセンは、戦後の復興を果たして高度経済成長が始まりかけている日
本は、これから大きな市場になるだろうと睨んでいた。だから、徒手空拳のこ
の若者たちに、欧米における警備業の歴史、歩んできた道程のなかでぶつかっ
てきたさまざまな課題を、きちんと説明しておきたいと思ったようだ。
飯田と戸田は、それまでにソーレンセンと手紙のやりとりをしていた。
「このたび日本ではじめて警備会社をつくることになりました。ついては国際
警備連盟に加盟させていただきたい」
戸田が英文の手紙を書いた相手が、国際警備連盟会長のソーレンセンだった。
スイスのベルンに連盟の本部があった。
これまでにないベンチャー企業のつもりで起業しようとしていた二人は、警
備業についての外国の文献を読み漁っているうちに国際警備連盟というものが
あると知り、これに加盟できれば箔が付く、と考えたのである。
ソーレンセンは、1930年代からスウェーデンで警備会社を経営して、類
似の会社を吸収合併しながら規模を拡大してきた実績がある。アジアへの進出
も考えていた。実際に香港で警備業の立ち上げの計画があったが、現地法人と
の調整がうまくいかず商談がご破算になっている、その時期に戸田の手紙が届
いた。すぐにソーレンセンは、「ちょっと待て」という返事を書いたのである。
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