ことのはじまり
「友里さん、ちょっとここの会社に行ってインタビューしてきてよ」
インザループ編集長の直人さんから突然そんな事を言われたのが事の始まり。ユニークな切り口で中の姿を見せている企業がある。しかもそこら辺の広報なら速攻NGを出しそうな見せ方で。それが株式会社LIG。
「どんな会社なのだろう」と調べてみると、「伝説のWEBデザイナーを探して」「夏期休暇の予定をお知らせ致します」などソーシャルメディア上でものすごい話題になっている記事を量産している。中には1万リツート、5000以上のFacebookシェア(「いいね!」含む)を記録している記事もある。
発信者は「ジェイ」という名前の何ともナイスガイな広報担当者。見た目のクールさと相反した言葉遣いは大変うさんくさい。自社のブログでは全裸で登場することもある。正直危ない人だ。と思う。
こんなにエッジ(?)のきいた情報発信をする広報担当者のその心理、戦略、そして企業のブランディングの方向性に興味津々。そこで今回初めてコンタクトを取り、インタビューをさせて頂く事になりました。
場所は台東区、スカイツリーが大きく見える普通の商店街の中の普通のビルの中。倉庫の入り口風の重たい玄関を開け、直人さんと二人、やたらオシャレなLIGに訪問して来ました。
LIGについて教えて下さい
伊藤
この度はインタビュー取材への対応ありがとうございます。正直、オシャレすぎるオフィスとイケメン過ぎる広報の方にビビってますが、早速インタビューを始めたいと思います。まずは御社のビジネスと、主にどんな方々とお取り引きをしているのか教えてください。
岩上
LIGのビジネスは主に、ウェブサイトの企画や開発、それに伴うコンテンツやデザイン、システムの開発。企画から開発、プロモーションなど全て社内で行っていますので、ワンストップでの提案ができます。そして自社メディア「温泉JAPAN」の運営です。主な取引先はメーカー、広告会社、人材系企業、ウェブサービス提供企業などさまざまです。
LIGのソーシャルコミュニケーションについて
伊藤
とにかく気になるのが、自ら顔出しして前線でマーケティングコミュニケーションをしている広報担当ジェイさんの存在。どんなきっかけでこのようなコミュニケーション方法をとる事になったのですか?
岩上
今の企業のソーシャルアカウントは、企業や商品のロゴであることが多いですよね。でもコミュニケーションと言う観点で考えた時に、それは何だか素っ気ないというか壁を作っているようなイメージがあったんです。私たちはファンやフォロワーの人たちに、もっと親しみを持ってLIGに関わって欲しかったので、各ソーシャルアカウントのアイコン写真をリアルな人物、広報担当の「ジェイ」本人の画像にしたんです。
ほら、こうするとソーシャル上でのやり取りにおいて、ファンやフォロワーの人がジェイと会話しているように感じるし、企業アカウントとのコミュニケーションに人の温かみを感じることができると思うんです。実際、以前からの友人のように親しみをもって話しかけてくれる方が多いですよ。
伊藤
なるほど。それはとても納得です。確かに企業のアカウントの運営者は「どこかの誰か」という「人」なのに、やはり企業や商品の「ブランド」というフィルターがあるので、どこか間接的なコミュニケーションをしている様に感じる事はあります。
個人を広報アイコンにすることで様々なリスクがあると考えてしまうのですが、例えばその人が辞めた時の継続リスク、また個人あてにウェブ上で集中的攻撃を受ける可能性など、懸念されたりはしないのですか?
ジェイ
Dont’t worry!
俺はLIGという会社を、そして仲間たちを心から愛している。辞めるリスクなんて毛ほどもないのさ。またソーシャル上でもブログのコメントでも、俺あてにネガティブなコメントが入る事はほとんどない。まぁ、仮にあったとしても気にしないさ。そういった可能性を恐れて、活動ができなくなることの方が心配だぜ。
エッジのきいたユニークなコンテンツはどうやって考えていますか?
伊藤
そういった点で言えば、トップに近い人が情報発信やコミュニケーションをする事で、企業のベクトルと大きくぶれる様なブランディングにならないというのも強みですね。御社はソーシャルアカウント以外でも自社の情報発信ツールとしてブログを使っていますね。ここでの発信情報は様々なものがありますが、御社の「人となり」が表れる大変ユニークな内容だと思います。ネタは真面目なのに、どこか必ず外して読者を喜ばせるところがあり、そこは本当にうまいなぁ、と思います。
直人
でも、笑える記事なのに画像のクオリティは異常に高かったりしますよね。
岩上
そうですね、作品のクオリティにはすごくこだわっています。ふざけた雰囲気でも、実際の仕事は驚くほどしっかり対応してくれる。事前期待を上回ることで感動が生まれるし、そのギャップを驚き、楽しんで欲しいと思っています。
直人
社長の記事で、顧客に対するレスポンスが遅くなることについて堂々と発言しているものがありました。
岩上
顧客に対するレスポンスも、実際は一般的な企業の平均を上回っているという自信があります。
ネットのおもしろ記事をみて、興味を持って問い合わせてくれた顧客に対して「やっぱりそれなりだな」とは絶対に思われたくないですね。早いレスポンスや質の高いサービスを提供することは、ある意味企業として当たり前なんですが、その「当たり前」を高い品質で軽々クリアできてこそアクロバティックなアピールができる、というか。茶道でいう、「守破離」ですね。基礎がしっかりできてこそ、初めて自己流が通用する。
直人
「やりすぎちゃったなー」ということはないんですか?
私は酔っ払って悪乗りするとよく失敗するんですが・・。
岩上
うちの場合は社員間でバランスを取っていますね。とりあえずコンテンツを作ってみて、たまにやりすぎる時もあるんですけど、公開の直前のチェックで良識ある社員が止めてくれる。「伝説のWEBデザイナー」の記事も、埋められた僕を足蹴にしながら罵倒するシーンがありますが、最初の案はもっと鬼畜な感じでした。ブヒブヒいってる僕を豚野郎!って罵倒するとか。
僕らがやりたいのはあくまでも「笑い」なので、自己満足に陥っちゃいけない。この点はいつも気をつけています。だから第三者的な観点からアドバイスをもらうという事を忘れないようにしているし、一部の人を嫌な気分にさせるような「笑い」は好きじゃないです。それに一人で常に間違いのないものを作るというのはそもそも不可能だと思うんです。だれだってやりすぎることはあるし、だからこそチームワークが大事なんです。
直人
なるほど、実際炎上したりすることはないんですか?
ジェイ
今のところは大丈夫みたいだぜ。
俺たちはあくまでも皆に「笑って」欲しいわけで、怒らせたいわけじゃない。ヒステリックなのは苦手なんだ。それと、炎上させるつもりがないのに炎上した、というのは「誤算」にあたるよな。プロとしてやっていく以上、「誤算」はノー・グッドだ。そこはきっちりクリアしないとな。
「笑い」はコミュニケーションにおける大切なスパイス
直人
WEB制作の会社に来たのに「笑い」のプロからお話を拝聴しているような気持ちになってきました(笑) プロとしての、炎上させない極意はどのあたりにあるんでしょうか?
岩上
結局、攻撃し合う人達もそれが好きでやっているんだと思うんです。それぞれのブランディングというか、立ち位置が大切ですよね。
その、憎しみの連鎖の中に入って行かないようにするのが大事です。他人を気にするんじゃなく、ひたすら純粋に、自己の「内なる笑い」を追求していく、と。そうすれば、その「内なる笑い」に邪念がない限り絶対に炎上とか攻撃に結びつくことはないわけです。全てのコンテンツは「笑って欲しい」「人に喜んでほしい」、そういう気持ちで生み出されるわけですから。
直人
クッ・・・、「内なる笑い」に「邪念」とか(笑)
岩上
笑いを軸にして、コンテンツを作ってお金を稼ぐ、ということをやってみたいです。今、WEBというセグメントに限っては、笑いで食べていってる会社ってないと思うんですよね。リアルではよしもととか色々あると思うんですけど。
WEBの笑いって、やっぱりテキストだと思うんですよね。間のとり方とか、視点のずらし方とか、僕は昔から探偵ファイルとか侍魂とかが大好きで、自分自身でもサイトをやっていたんです。その時、そんな個人の馬鹿サイトに共感してくれる人が出てきた。それがWEBで笑いをやりたい、ということの原体験としてあるのかも知れません。
直人
なるほど。
お話を伺っていると、LIGさんでは「笑い」を、「メッセージに対する味付け」という副次的な要素として捉えていらっしゃるのだと強く感じます。
普通、お笑いって「おもしろい事」自体がコンテンツであり、主題じゃないですか。でも、御社の場合「デザイナー募集!」や「LIGってこんなに楽しいよ!」っていうメッセージ、本当言いたいことがあって、「笑い」というスパイスを使ってそのメッセージを味付けしている。その方がメッセージ単体を伝えるより、相手にとって受け取りやすいし、それによってネット上にある拡散メカニズムの恩恵を受けることもできる。
「特定の誰かに向けたメッセージ」という特殊なコンテンツが、「笑い」というオーラをまとうことによって「誰にとっても有用なコンテンツ」に変化する。そしてその手法は発信者ではなく伝達者が情報流通の主導権を握るソーシャルメディアとの親和性が非常に高い。
ジェイ
That’s right.
俺たちがやりたいのはそういうことなのさ、ブラザー。
直人
だから、ネットにおける「笑い」のビジネスが今のLIGさんの延長線上にあるのだとしたら、それは「あらゆるメッセージをネタ化する」ことなのかもしれないな、と思いました。
で、ネット上で企業が発信するメッセージって「認知獲得」と「興味喚起」の2軸で考え、訴求していかないといけない、と思っているのですけど、LIGのコンテンツづくりはその両立が非常にうまいんですよね。認知を獲得できても、ユーザーが「これは自分にとって必要なものかもしれない」という興味喚起できなければそれは無駄。見て、触ってもらえば興味喚起できるものでも、知ってもらえなければ無意味。
岩上
確かに、LIGの「伝説のWEBデザイナー募集」でもたくさんの求人応募がきたのですが、「将来伝説のWEBデザイナーになるので雇ってください」というものがかなり多かったです。知ってもらったその先で、正しく送り手の意図に結びつけるのは難しいですよね。
ビジネスへのインパクト
直人
求人以外の面での成果はいかがですか?
岩上
問い合わせの件数自体は1年前の5倍くらいになりました。また、「笑い」をやっているからといってとんちんかんな問い合わせが増えたわけでもないですね。そういう意味ではきちんとビジネスにつながる成果は出ています。現在積極的な求人を行なっているのも、問い合わせが増えすぎて人材が間に合わないというのが背景にあります。
また、当社のディレクターが顧客に訪問すると「ああ、ジェイね!知ってるよ」と言ってもらえることが増えたと聞いています。僕たちにとってはこれが一番嬉しいですね。現場のディレクターを支援するというのが一番の目的だったので。
初めて会った時から自分たちのことを知ってもらえているというのは結構大きいです。まず自分たちのことを説明する必要がないんですよね。私たちの考え方や人間性についてクライアントがある程度知った上で問い合わせや発注をくれるので実際のプロジェクトへの入り方が非常にスムーズです。
直人
ブログを見ていると「社員同士の仲がよさそうな会社だなー」というのは感じますね。
ジェイ
俺たちが社内の情報をブログやソーシャルで発信するに当たって、見ている皆ともっとフレンドリーになりたい、というのがあるんだ。その為に社員同士が仲良くなれるようなイベントをやるし、アットホームな雰囲気で、見ているみんなを巻き込んでいきたい。その輪をどんどん大きく広げていって『クライアントが全員友達』みたいなシチュエーションを作りたいと思っている。my dream.
LIGのこれから、仲間たちへ向けた想い
直人
なるほど、会社としては将来どのようにしていきたいですか?
岩上
LIGの社員全員が、よその会社にいっても通用する人材であって欲しいと思っています。
技術系のブログを書いてもらっているのは、アウトプットすることで学んだスキルの定着率を図りたかったというのもあるんです。ブログで人に技術情報発信するって、ある意味で人に教える先生みたいなものじゃないですか?そのためには中途半端な情報は出せないし、出すにしても論拠や出典を明らかにしようとするし、それがわからなければ調べるという、いいサイクルができています。
あとは、みんなが自分たちの楽しいと思うところ、興味のあるところを掘り下げて欲しいと思っています。「笑い」というのもそのひとつですね。そのためには社内で「おれはこう思うんだけど」とお互いの主張をぶつけ合うよりは、広く社外に情報発信して世の中の人にお伺いを立てた方がフィードバックも多いですし、主張に対して否定的な意見があったときでも受け入れやすいのではないかと思います。
このポリシーは必ずしも利益主義ではないですが、例え上場や拡大を目指したとしても僕が経営に関わっている限りは変えないつもりです。
おまけ:社員が喚起されるインナーブランディングとは
LIGの岩上さん、ジェイさん、インタビューへの対応ありがとうございました!
インタビューはここまでなのですが、せっかくこんなにユニークな企業の話しが聞けたので少しおまけを。LIGの社外のブランディングについては伺って来ましたが、最後にインナー=社内のブランディングに関するエピソードをお話します。
インタビューの終わりに「そう言えばうちにはこんなものがあるんですよ」と見せて頂いたものがあります。
これ、なんだと思いますか?
実は全社員に配っているブランディング(特にインナーの)カードなのです。表面はLIGのコーポレートメッセージ「わくわくをつくる。」が記載されており、裏面はこの様になっています。社員、お取り引き先、様々な折衝の場を想定した分かり易い行動理念は、社員としてとても実践し易いものだと思います。行動理念を形骸化させず、きちんと企業のDNAとして根付かせる為にも、実務に即したものをつくることは大切だと思います。
社員が増えて行く過程で、非常に多くの経営者、そして広報担当者が悩むのが「経営者の想い」「ブランドの理念」をどう共有するか。
毎日朝礼します?社内報で訴え続けます?メディア掲載バンバン取って、外堀から埋めます?そもそも社長に語らせますか?
そう、ここ。そもそも経営理念は社長だけが語るものなのか、という部分でハッとしました。
LIGにおいてはここで経営理念や、会社の想いを伝える役目を担っているのは、広報担当の「ジェイ」。彼がエヴァンジェリストとなり、企業のインナーブランディングを進めています。
「これ(ジェイから伝えるという形にしたこと)の狙いはなんですか?」と聞いたところ、このような話しをして頂きました。
「社長からいくら『こうしなさい』『こういう心構えでいなさい』と言っても、あくまでトップダウン。社員は上から指示を出されている様なイメージに捉えてしまうことがあります。なので、より近しい存在から伝えることを考えたのです。それがジェイでした。ここに書かれている理念や指針がジェイからの言葉だというだけで、同じ事を言うにしても『しょうがねぇなぁ、ジェイがそう言うならやるよ。笑』といった反応が返って来ます。これは仲間同士が行動喚起しあういいきっかけになるのです」。
伝える以上に共感から行動を喚起させることは非常に難しいです。その壁に多くの経営者が悩むのです。そこをLIGではこのような形でアプローチしたのです。
またLIGでは、この行動指針に沿って行動できたことを、社内のメーリングリストで社員同士が共有し合う仕組みがあります。ただ、提示するだけでなく、実践と評価の場をきちんと作っているところも素晴らしいと感じました。
詳しくはLIGのコーポレーサイト、社長ブログに記事がありますので、是非ご覧下さい。
■経営者の想いを社員に伝える。クレドで価値観を共有する方法について。
http://liginc.co.jp/president/archives/4862
それではお読みいただきありがとうございました! そして本記事執筆のためにご協力頂いた社無内外のみなさまありがとうございます。 また面白そうな企業があったら取材に行きたいと思います^^
by 伊藤 友里