【創作】高司さんと高柳くん24
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【創作】高司さんと高柳くん24

2013-11-03 15:29

     すっかり夜の闇に落ちた後でも、そこは煌々と灯りがともっていた。ささやかな喧騒に満ちていて、そこここで声が上がっていた。

     文化祭の準備が始まっている。どのクラスでも、各々の催しを成功させようと、生徒たちは皆々帰宅を遅くして努力をしている。

     だから校舎はどこを見ても、大体灯りがともっている。

    「なんだか違和感があるよね」

     ――と、複雑な表情で高司さんは言った。

    「そうですね、不思議な感じはありますね」

     ――と、そわそわした様子で高柳くんは言った。

     二つの缶ジュースを、机の上に二人で置いた。コン――と、かすかな音と手ごたえがあった。二人の頭上では、点けたばかりの蛍光灯がちらちらと瞬いていた。

    「ううむ、落ち着かない。ヘンな感じ」

     人気のない未使用の教室で、高司さんと高柳くんはこそりと休憩をとる。二人のクラスの催しは、準備より本番が忙しいところがあるので、今は手空きが多くて休憩も多い。二人のクラスの生徒たちは、準備のためというよりも、夜に学校にいるという特別な時間のため、皆々遅くまで残っているのだ。

    「でも、楽しいですよね」

     にこりと、高柳くんは笑って見せた。高司さんだって、落ち着かない様子ではあるものの、その表情はほころんでいるのだった。

     二人そろって、飲料の缶を開缶する。外気が冷えてきたので、季節相応になった温かいそれを口にする。

    「確かに楽しいねえ。こういうのはあんまりないからねえ」

     浮き浮きとした気持ちは、どうしたって抑えようもない。来たるべき文化祭のための準備は、楽しくって仕方がない。夜中まで学校に残っていられるという、特別な違和感に浮つかないわけがない。

    「メニューの試作品はどうなってるのかなあ?」

    「どうなんでしょうね。あとで行ってみます?今日は確か、家庭科室を借りてるんですよね?」

    「あ、試食する気だ。高柳くんはくいしんぼだねえ」

     冷かすように高司さんは笑う。高柳くんの柔らかい頬をつついて、

    「そんなんじゃないですよ」

     ――と、少し彼の頬を膨らませてしまう。

    二人のクラスは、メイド喫茶をする予定だったが、それはめでたく決定事項となった。クラスでは飾り付けの支度をしているが、メニューの試作を家庭科室で行っている。

    「でも、わたしもお腹すいたけどね。何が食べられるかな?」

    「簡単なものって言ってましたね。多分、焼き菓子とかじゃないですか?」

    「なるほど、じゃあ長崎カステラとかかな」

    「フィナンシェなんかもそうですね」

    「んむ?フィ、ふぃなん、なに?」

    「金塊みたいな形をした、バターケーキの一種ですよ。おいしいですよ」

    「ははあ、じゃあそれも楽しみにしておこう」

     ちらりと斜め上を見て、知らない焼き菓子を想像して、高司さんはそういった。その幸せそうな表情は、新しい星の痕跡を見つけた天文学者のようだった。

    「実際は、何を作ってるんでしょうね。メイド喫茶と言えば、定番はオムライスなんでしょうけど、それは出せるんでしょうか」

    「ううん、手間がかかるよね。作り置きもできないし。そういうお料理系はできないんじゃないかな?」

    「ですよねえ。僕、あれは結構好きなんですけど」

     小さく高柳くんはしょんぼりする。夜に落ちるまで学校に残り、お腹はかなりすいていた。まるで夜空に浮かぶ月のような、半月型のそれを想像して、ぐぅとお腹が鳴るようだった。

    「ふむ、じゃあ今度うちにおいでよ。作ってあげるよ、オムライス」

    「本当ですか?高司さん、お料理得意なんですか?」

     大好きな恋人の一言で、高柳くんの表情はぱぁっと輝いた。好物を、恋人に作ってもらうなんて、そんな幸せはそうそうない。

    「ううん、全然やんない。でも多分、オムライスは作れるよ」

     にこりと笑い、豊かな胸をそらして高司さんは言った。高柳くんは、少し不安になり、

    「なるほど、ええと、楽しみにしてます」

     ――と、曖昧に笑みを浮かべて言葉にする。

    「だいじょうぶだよ、練習するから――」

     そんな高柳くんを見て、少し高司さんはふてくされたようだった。不器用なのだと思われた気がして、それが少しいやだった。

    「大体、高柳くんだってどうなの?お料理できるの?お料理班になれないと、本当にメイド班にされちゃうよ?」

    「僕、簡単なものなら作れますよ。お休みの日は昼食を作ったりしますから」

     仕返しをするように高司さんは言って、高柳くんは当然とばかりにさらりと返事をする。それを受けて、高司さんは、

    「――え?」

     ――と、頓狂な声を上げてしまう。

    「どうしたんですか?」

     不思議そうに首をかしげ、高柳くんは高司さんに問い返した。高司さんは、

    「ううん、なんでもないよ?」

     ――と、誤魔化すように取り繕って笑った。

     実は高司さんは、他の女子たちと高柳くん用のメイド服を支度していた。高柳くんをメイドにする気満々で、万端準備を整えていた。

     ――もしかしたら、取らぬ狸のとなりそうで、それはかなり想定外だった。

     休憩時間はまだ続く。

     二人でのんびり過ごして、そしてややあって、高司さんは立ちあがる。

    「そろそろ行こうか。いつまでも休んでたら、さすがに怒られちゃうよ」

     高司さんは手をのばして、

    「そうですね、そうしますか」

     高柳くんはその手を取って、

    「――よいっと」

     高司さんに引き上げられて高柳くんは立ち上がる。

     飲み干した缶飲料の、その空き缶を手に手に取って、空っぽの教室の灯りを消して去っていく。

     あっという間に、そこは闇になった。誰もいなくなって、気配はなくなって、さみしくなってしまった。

     本来この時間にあるべく、当然の姿に戻っていった。

     喧騒は満ちている。

     夜の中で灯りがともり、違和感の中に校舎は佇む。

     浮ついた空気の中で、浮き浮きとした時間を過ごして、学生生活だけの特別な空間で彩られて――。

     この日常が素晴らしいのだと、きっといつか気が付く時が来るはず。


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