【創作】高司さんと高柳くん25
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

【創作】高司さんと高柳くん25

2013-11-10 02:57

     くるり――と、少女は体をひるがえして回った。

     ふわり――と、スカートの裾は舞い上がって揺れた。

     少女の衣装は、白と黒のコントラストがとても綺麗だった。

    「どうでしょうか?」

     気恥ずかしそうに頬を赤くして、かすかな笑みを湛えて、眼前で一人座る観客にその人は尋ねる。

    「すごく可愛いです。とてもよく似合っています」

     踊り子を称えるように、観客は何度も手を合わせて喜んだ。たったの二人しかいない、未使用の教室でのことだった。外の世界は闇に落ちていた。

    「はー、よかった。似合わないって言われたらどうしようかと思った」

     安堵の息をついて、高司さんは衣装に身を包んだ自身の姿を確認する。

     メイド服とは、小柄な人に似合うと高司さんは思っていた。だから背の高い自分が着るのをためらっていて、だけれど高柳くんに褒められたので、高司さんはとても安心していた。

    「可愛いです、可愛いですよ。本当に似合ってます」

     高柳くんは椅子から立ち上がり、高司さんの周りをぐるりと回った。高司さんのメイド姿を目に焼き付けようと、前からも後ろからも、当然横からも見ようとぐるりと回った。

    「ねえねえ、そんなに熱心に見るの、やめないかなあ。少し恥ずかしんだけど」

     高司さんは、メイド服のスカートの裾を抑える。文化祭用のそれは、お客さんへのサービスを重要視したそれは、とても丈が短かった。油断すると下着が見えそうになるので、とてもじゃないが気が気じゃないのだった。高司さんは背が高いので、腰の位置が高いので、その心配が大きいのだった。

    「だって、よく見ておきたいじゃないですか。本番になったら、お仕事をするから僕はあんまり見られないんですよ。衣装合わせの日くらい、たくさん見せてください」

    「ううむ、それもそうか……」

     もじもじと頬を赤くして、高司さんは高柳くんに従うしかない。せっかく衣装が完成して、一番に高柳くんに見せに来たので、見せてと言われて断ることはできない。

    「そうだ、写真いいですよね」

     思い出したように、高柳くんは手を打った。高塚さんのメイド姿に見とれて、写真を撮ろうと思っていたことを、すっかり失念していた。

    「えええ!?写真?撮るの?それはやめようよ」

     声を上ずらせて、高司さんは高柳くんを制止する。実はメイド姿は結構恥ずかしいので、永遠に残ってしまう画像データにはしてほしくないと思ってしまう。

    「何を言ってるんですか。撮りますよ、僕は。それに絶対、接客中に撮られますよ。慣れておきましょうよ」

     そう言って高柳くんが取り出すのは、本格的なデジタルカメラだった。プロのカメラマンが使うには物足りないけれど、趣味の写真に使うには上等なものだった。

    「うわ、しかもそんなカメラで撮るの?携帯電話の奴にしようよ」

    「今は携帯電話のカメラだってすごく鮮明だから、どっちも同じですよ。さ、観念して撮られてください」

     高柳くんは珍しく有無を言わさない口調だった。だから恥ずかしいけれど、高司さんは写真に撮られることにした。高柳くんが写真を撮りたがっているし、きっと大きな思い出になるからだ。恥ずかしさというマイナスを考慮しても、きっとプラスに働くと判断したからだ。

    「じゃあ、はい」

     顔の横で、高司さんはピースサインを作った。赤くした顔で、なんとかかんとか笑みを作って、恋人の手の中で四角い枠に収まるのだ。

    「撮りますよ――」

     高柳くんは、ひとつ声を合図に小さく指を動かす。電子音が鳴って、ぱしゃり――と、シャッターが下りる。

     四角く思い出は切り取られて、永遠の中に閉じ込められた。

     気恥ずかしそうに笑った、とびきり可愛らしい大好きな女の子が、彼の手の中に収まった。

     そして小さく時間が過ぎて、二人だけの撮影会は続いて、そして終わった。

    「はあ――、緊張した」

     ようやく高司さんは腰を下ろす。窓際の席の、その椅子を壁に沿わせて、そこに腰を落とす。

    「高柳くんは、意外と撮りたがりだね。あんまり撮られて、どうしようかと思った」

     高司さんは頬を膨らませる。

    「だって、滅多にないことですからね。普段は制服なのに、メイド服ですよ?」

     高柳くんは満足そうに笑んで、高司さんの隣の席に座った。デジタルカメラのディスプレイに成果を映し、繰り返し眺めながら笑った。

    「もう見ないの。家に帰ってからにしなさい」

     手を伸ばして、高司さんは高柳くんからデジタルカメラを没収する。

    「ああ、なにするんですか、高司さん」

     高柳くんは取り返そうと手を伸ばすけれど、背の高い高司さんが腕を目いっぱい伸ばしたので、背の小さな高柳くんにはどうしても届かなかった。ぴょんぴょんと、子犬のように跳ね上がって、しかしすべてが空振りに終わるのだった。

    「あー、これは意外とよく撮れてるねえ」

     ディスプレイに映ったままの自分を見て、小さく高司さんは感心する。確かにこれは、思ったよりも似合っているかなと高司さんは思う。あんまり恥ずかしがらなくてもいいかなと、ちょっとだけ思う。

    「ねえ、これってどうやって使うの?」

     高司さんはカメラを胸元に引き寄せ、高柳くんに訪ねた。

     高司さんはあんまりこういうものを使ったことがない。興味がないし、そもそも機械が苦手だ。

    「教えますよ。何か撮るんですか?」

    「うん、撮られたから、撮りかえすよね」

    「――僕を撮るんですか?」

    「そうだよ。――だから我慢したんじゃない」

     にやり――と、高司さんは笑った。

     撮られる恥ずかしさというマイナスを考慮しても、きっとプラスに働くと判断したから写真に納まったのだ。高柳くんが写真を撮りたがっているし、きっと大きな思い出になるし、それに――。

    「これ、なんだと思う?」

     高司さんはスーツバッグを取り出した。それは高司さんが着替える前まで、いま着ているメイド服が仕舞われていたものと同じものだった。

    「えっと、なんでしょうか?」

     半ば答えを知っていて、高柳くんはそらとぼける。

     そう、だからプラスになるのだ。

     これはとてもプラスになるのだ。

    「断らないよね?高柳くん。だって、わたしをたくさん撮ったもん」

     満面の笑顔で言って、高司さんは揃いのメイド服を取り出した。サイズの小さい、子ども用みたいなそれを取り出した。

    「接客に出るかどうかは別として、撮らせてはくれるよね?」

     念を押すように、高司さんは高柳くんに尋ねる。

     高柳くんは顔を赤くして、苦笑いをして、

    「いや、それは――」

     ――と口ごもるしかなかった。

     それ以上には、言えることはなかった。

     自分だけたくさん撮っておいて、撮られるのは嫌だなんて言えないのだった。

     罠にはまったのだった、高柳くんは。

    「じゃ、じゃあ、僕着替えますね」

     選択肢なんて、最初からない。

     撮って、撮られて、一緒に四角い枠に収まって――。

     二つのピースサインが並んだ。

     二人のピースサインが並んだ。

     

     二人の収支は、互いにゼロになった。

     いや、もしかしたら、お互いにプラスの方がとても大きいかもしれなかった。

     プラスとマイナスが重なって、気恥ずかしさと満足感が、一緒にいっぱいになった。

     満足感は、どうやらとびぬけているようだった。

    「これはいい思い出だね」

     そして二人で並んで、デジタルカメラのディスプレイで、成果を何度も確認する。頬を赤らめて、笑い合って何度も確認する。

     着替えは済ませて、サイズ違いのメイド服が、壁にかかって寄り添っている。

     準備は諸々整った。

     そして――文化祭はやってくる。


    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。