【創作】高司さんと高柳くん31
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【創作】高司さんと高柳くん31

2014-01-05 22:49

     窓の外をぼんやり眺めると、道は車で混雑していた。一寸一寸じりじりと進んで、すぐに停止して、進行方向へはほとんど進んでいないようだった。

     大変だなあと、ふと高司さんは思った。閉鎖された狭苦しい空間で、長い時間耐えながら目的地を目指すのは、苦しいだろうなあと彼女は思った。

    「僕らはバスで来てよかったですね」

     同じようにして窓の外を眺め、ぼんやりと高柳くんは言った。温かいファミリーレストランのボックス席で、外套を脱ぎ去ってのことだった。

    「うん、歩くのがちょっとしんどかったけど、渋滞よりはましだよね」

     行く道は神社へと続いている。ここいらでは有名なところで、年明けになると初詣の参拝客でいっぱいになる神社だ。年が明けて早々なので、皆々神様に年始のあいさつをしようと集っているのだった。

    「参道の混雑は避けられませんでしたけどね」

    「それでもずいぶんマシだよ。道路で渋滞して、参道で渋滞するなんて、そんなの嫌だもん」

    「確かにそれはそうですね。現に、そのおかげで僕たちはもうお参りも終わりましたし」

    「そうそう。そうしてこうやって、ゆっくりくつろいでいられるもんね」

     高司さんは大きな体で伸びをした。新年早々で、起き抜けに初詣にやってきたので、体はまだ休養を求めているような感じがしていた。

    「だめだ、わたし眠いかもしれない」

     あくびをかみ殺し、目の端に涙を浮かべて高司さんは言う。

    「昨日は遅くまで起きてたんですか?」

     温かい紅茶を飲んで、高柳くんは問いかける。同じものを口に運び、

    「うん、だいぶ夜更かし。年越しそばも食べたし」

     ――と、目を瞬かせながら高司さんは返答をする。

    「高柳くんはどうなの?遅くまで起きてた?年越し特番とか見てた?」

    「僕は早く寝ちゃいました。頑張って朝までと思ったんですけど、生活のリズムは簡単には変えられませんね」

     少し高柳くんは残念そうだった。彼はいつもいつも、年越しは朝まで起きていようと思うのだけれど、それに失敗をしているのだった。子供のように、夜が更けていくと、眠気は高柳くんを襲ってくるのだった。

    「でもそれでちょうどいいかもしれないよ。わたしはだいぶ無理しちゃったから、今すごく眠たいもん」

     言って、高司さんは手で覆ってあくびをした。本当は高司さんだってよく眠る人なので、睡眠時間が少ないのは体に堪えることだった。

    「それじゃあ今日は早く帰っちゃいますか?高司さん、お昼寝しちゃえばいいんですよ」

    「でも一年の計は元旦にあり――でしょ?お昼寝で始まる一年は、ちょっとどうかなあ」

     高柳くんの言葉に、高司さんはカップを傾けながら表情を曇らせた。伝説めいた言葉で、迷信めいた言葉で、それを頭から信じる高司さんではないが、だけれど簡単に破るのもはばかられる。

    「大丈夫ですよ。元旦は、元日の午前中のことですから。午後になってしまえばもういいんですよ」

    「あれ?そうなの。知らなかった。――それならお昼寝をしちゃいたいかなあ」

     高司さんはテーブルに頬杖をついた。そしてまたなんとなく、窓の外を眺めた。

     まだまだ、渋滞の車は連なっている。

     歩道でさえ、歩く人は大勢といる。

     まだまだ、時間は昼の前だ。

     太陽は昇りきっておらず、空の色は透明に近い青だった。

    「――一年ってさ」

     ふと空白が訪れて、小さな間があって、それから高司さんは口を開く。

    「案外、あっという間だよね」

     窓の外に送った視線を、高司さんは正面に向けた。同じように外を向いていた高柳くんも高司さんに向いて、視線は互いにぶつかり合った。

    「……そうですね。あっという間ですよね」

     高柳くんはふんわりとほほ笑む。瞬間に空気が緩くなって、柔らかくなったような錯覚を高司さんは覚える。

    「四月に出会って、もう年明けだもんね。覚えてる?いろいろなこと」

     高司さんも微笑んで、そして手を伸ばした。テーブルの上で、二人は掌を合わせるようにして手をつないだ。

    「それだけ僕たちの生活は、密度が濃いんですよ。いいことじゃないですか」

    「でもそれだと、三年間もあっという間かも。すぐに卒業になっちゃうかも」

    「それでもいいですよ。高校を卒業したって、それで終わりじゃないですから」

    「いいことを言うねえ」

     会話をつなげて、二人はふんわりと微笑んだ。瞬間に空気が緩くなって、柔らかくなったような錯覚を二人は覚える。

    「――あ、ちょっと待って」

     そして高司さんは思いつく。

    「一年の計は元旦にありって、一年を占う言葉でしょ?」

    「――えっと、そうですね」

    「ということはさ、元旦に二人で一緒にいるってことは、この一年は二人でいられるってことだよね?」

    「……それは思いつきませんでした。でもそうですね、その通りだと思います」

    「ふうん――」

     にやりと高司さんは笑った。

     深い深い笑みで、楽しんだような、喜んだような笑みだった。

    「毎年元旦は、一緒に過ごそうよ。そうしたら、きっとずぅっと一緒だよ」

     思いついたのはそれだった。

     高司さんと高柳くんと、二人の幸せをつなげるためのことだった。

     一年の計は元旦にあり――。

     本来の意味は、計画を立てるなら初めが肝心だという意味だけれど……。

    「そうですね。ぞうしたら、きっとずぅっと一緒ですね」

     そんなことは気にしないで、同じようにして高柳くんは笑うことにする。

     一年の始まりは肝心なことだ。

     だから元旦が一年を占うというのは、それは間違ってはいないのだ。

     だからきっと、この一年は二人は一緒で、約束を更新し続けてそれは続いていって――。

     それはただの希望的観測だけれど、でもそいつを信じることは、決して悪いことではないはずだ。


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