【創作】高司さんと高柳くん32
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【創作】高司さんと高柳くん32

2014-01-16 01:00

     新しい年の意味とはなんだろう。晴れがましいものだとは思うけれど、それの意味したものはなんだろう。新しい一年が始まって、何が変わるというのだろう。

     心機一転、古い一年を忘れて、また一年頑張ろうという、決意の始まり――。

     新年とはそういうものだというけれど、正月とはそういうものだというけれど、それを学生時分に分かれというのも、それはおかしいと思うわけで……。

     だって、学生にとって一年の切り替わりは、四月ではないか。

    「お正月気分は、あっという間に終わっちゃったねえ」

     室内だというのに高司さんはマフラーを巻いて、ぼんやりと息を吐いた。教室の中で、蛍光灯に照らされて、吐き出された息は白くなる。

    「そうですね、もう普段通りです。授業もいつも通りです」

     高司さんの膝に乗って、高柳くんは受け答えをした。高司さんの長いマフラーが、高柳くんの首にもまかれていて、それはとても暖かかった。

    「ううむ、こないだ初詣に行ったのに、おかしなもんだ」

     高司さんは首をかしげる。いつもいつも、高司さんは時世の流れについていけず、年の始まりは戸惑っている。

    「ダメですよ、そんなこと言ってたら。また先生に怒られますよ」

     高柳くんはそんな高司さんに苦笑いだ。

    「気を付けてはいるんだけどねえ。どうにもねえ」

     ぺろりと高司さんは舌を出す。だらけていると先生に怒られて、「はあ、すいません」とぼんやりと受け答えをして、また怒られて、その過ちを繰り返してしまいそうである。

    「ところでさ、高柳くんは一年の抱負を考えた?」

     思いついたように高司さんは言葉を発した。そのために、話は方向を変えていった。

    「一応は。――まあ、いつも同じなんですけど」

    「へえ、そうなんだ。で、どんな抱負なの?」

    「日進月歩です。大人にならないうちは、ずっとこれで行こうと決めてるんです」

    「……なにそれ。ラーメン屋さん?」

    「違いますよ。一日一日、ずっと進歩を続けるという意味です。そうありたいな――と思って」

    「へえ、すごいんだなあ……」

     感心して高司さんは息をついた。新年の抱負を考えるというのは、先生から命令された課題なのだけれど、高司さんは昔から真面目に考えたことがない。――というより、多分そもそも考えたこともない。

    「高司さんはどうですか?抱負は決まりましたか?」

     首をそらして、背後の高司さんを覗き見るようにして、高柳くんは声を発した。高司さんは声を掛けられて、

    「うーん……」

     ――と小さく唸って、

    「まだなんだよねえ――」

     肩を落としてため息をつく。

    「なんだかね、決められないんだよね」

     口をとがらせて言って、高司さんは高柳くんの頭の上にあごを乗せる。体重が乗っかって、高柳くんは居心地悪そうに身じろぎをして、だけど表情は嬉しそうだ。

    「新年の抱負って言うけど、わたしたちの一年の切り替わりって四月じゃない?だからさ、いつもなんか、今の時期に抱負を考えるのって違う気がしてさ」

     目を閉じて、首をかしげて、へんてこりんな表情で高司さんは言葉を連ねていった。

    いつも新年には、大人たちが目標を立てろと言う。

     いつも学年が変われば、大人たちが目標を立てろと言う。

     新しい一年の目標を、二度も立てろと言う。

     そこのところが高司さんにはよくわからなくて、結局いつ抱負を考えればいいのか決めかねる。新年を迎えてか、学年が変わってか、それともどちらもなのかわからなくなる。

    「それならいいんじゃないですか、抱負なんて決めなくっても」

     悩みを深める高司さんに、ふんわりと優しく高柳くんは言った。一度言葉を切って、

    「そんなものなくたって、ちゃんと頑張ることができればいいんですよ。なくたっていいんです」

     ――と、慰めるようにして続けた。

    「でもねえ、決めたことない気がするから、ちゃんと決めたい気もしてねえ……」

     高司さんは言って、またため息をついて、白く凝固してそれは散っていって――。

    「そもそも、なんで年の切り替わりが二度もあるんだろうね?」

     根本的な疑問をついていった。

    「――なんででしょうね?」

     これには高柳くんも答えがなくて、首をかしげる。二段重ねで、鏡餅みたいになって、二人そろって首をかしげる。

    「新年が一度だけなら、多分困らないのにな」

     そして高司さんは、本当かどうかわからないことを言った。ふわふわした性格で、どんなことだっていずれは「どうでもいいか」で片づける人で、だからその言葉は信憑性が薄くもあった。

    「高司さんに、僕の抱負を上げますよ」

     だから高柳くんは、提案を持ち上げる。

     一度だって抱負を決められなかった高司さんに、自分のそれを分けることにする。

    「ニッシンゲッポ?」

    「そうです、日進月歩です。二人で同じ抱負というのも、なんだか楽しくないですか?」

     高司さんが言って、言葉を受け取って高柳くんも言って、そして高柳くんは笑みを浮かべていく。

    「いいのかなあ、それ」

     高司さんは眉を寄せた。いくらなんでも、仲のいい恋人同士でも、抱負を共有するのはどうなのだろう。きちんと自分で考えるべきであるそれを、手渡しで受け取るのはどうなのだろう。

    それはいったい誰の抱負なのだろう。

    「いいと思いますよ。こだわりすぎるのも、いけないことだと思いますから。簡単に考えて、時には忘れちゃってもいいんです」

    「ふうん、抱負ってそうなんだね。わたしは知らなかったよ」

    「僕の考え方ですけどね。――それで、どうですか?日進月歩」

    「うーん……」

     会話を往復させて、言葉を交わして、一度それは途切れて、高司さんは考えていって――。

    「それじゃあ、日々進化していきますか」

     ややあって、バトンを受け取ることにした。

     悩みすぎても悪いので、こだわりすぎてもよくないので、日進月歩の精神を受け継ぐことにする。

    「じゃあ、そうしましょう。今年の僕らは日進月歩です」

     高柳くんは笑って、

    「そうだねえ、二人で一緒に、どんどん成長していこうね」

     高司さんも笑って、ぼんやりした教室の中で時間は過ぎていく。

     外は寒い。

     教室の中だって寒い。

     陽は落ちて、夜の足音がして、そんな一年の始まり。

     そして、一年の終わり。

     二つの始まりを持つ一年の、特殊な成り立ち。

     意味のあるなしは別として、こんなふうに恋人の会話が生まれるなら、それでいいと思う。

     疑問は結局終わらないけれど、曖昧模糊としててもいいと思う。

     結局二人の懸案事項とは、仲良くいられるかどうかなのだし――。


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