【創作】放課後ペパーミント02【再掲】
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【創作】放課後ペパーミント02【再掲】

2014-05-23 00:49

     懐かれてしまったわたしは、学校にいる時間のほとんどをサエコと過ごすことになっていた。
     女子とはグループで過ごすのが常になっていて、入学してから即グループ探しが始まる。そして一度グループが結成されてしまうと、除名や新加入、統廃合などが例外的にあるけれど、たいていは当初結成されたグループのまま卒業までを過ごすのだ。
     そんな群れるような生活をわたしはあまり好いてはいないが、これまでも一応は、わたしもグループに属していたように思う。仮メンバーみたいな感じで、遊牧民のようにふらふらしていたけれど、関わってくるメンバーは決まっていたので、だからグループは一応はあったのだと思う。
     しかしながら、高校ではわたしはグループには入らなかった。
     なぜならば、生まれて初めてペアを組んだからだ。
     それも遊牧民的にふらふらすることなく、完全につけ入る隙のない、くっついて離れない磁石のようなペアを組むことになったのだ。
     それは当然サエコと組んだペアであり、ほかの面々はわたしとサエコとの熱々っぷりを見るにつけ、「こりゃあ割って入れないわ」と敬遠し、結果としてわたしはサエコとペアにならざるを得なかった。
    「あんたとずっと二人ってのも、ちょっとアレよね」
     わたしは群れるのは嫌いだが、二人きりで何かをするのもあまり得意ではないので、半ば苦言を呈すつもりでそう言った。
    「あら、私は構わないわ。アケミと二人でいると、いろいろ教えてくれるし、それに楽しいもの」
     しかし彼女はくすくすと笑い、わたしの意図することを何一つ汲んではくれないのだった。
     そんなわけで、わたしたちのペアは加入も統合もすることはなく、だからきっと卒業までこのままなのだろう。カワカミサエコとセトウチアケミは、ずっとペアのままだろう。
     たった二人きりのペアは、放課後も、休日に外で過ごすのも二人きりだ。
     メンバーが二人しかいないので――もちろんペアだから二人きりなのは当然なのだが――誘う相手が一人しかいないので、本当にどこにいても二人で過ごすのが基本系なのだ。
     あるとき、わたしは買い物をするのに彼女を誘った。一人きりで街歩きをするよりも、誰かと一緒の方が楽しいのでそうした。
     できればもう一人欲しかったけれど、わたしたちはグループではなくペアなので、仕方なく二人で買い物に行くことにした。
     もちろん、常識知らずのサエコが迷子になるといけないので、待ち合わせの場所をきちんと何度も教え込み、くどいほどに刷り込んでから当日を迎えた。
    「わかったわ」
     と神妙にうなずいていたので、サエコは迷子にならないだろうなとわたしは思った。いかに何も知らない彼女であっても、メモすら取っているので、迷子にならないだろうとわたしは思った。
     しかし当日になり、わたしはため息をつくことになる。
     待ち合わせは主要駅の、駅前の広場だ。
     そこは送り迎えの車が乗り入れることのできるようになっているのだが、サエコはその真ん真ん中に立っていた。普通は歩きの人間は隅っこで立って、待ち人が来るのを待っているのだが、彼女はド真ん中に突っ立って、車の往来を防いでいた。
    「ああ、もう……」
     クラクションをブーブーならされている彼女を見て、わたしは思わず顔を覆う。
     ここまでの間抜けをやらかしてくれるとは、わたしは思っていなかった。ここまでのことを、わたしはまったく想定していなかった。
    「何やってんのよあんたは!」
     頭を下げながらサエコに近づき、思い切り叱りつける。
    「あら、遅かったわね」
     あたりの騒ぎに目もくれず、サエコはわたしを見てにこりと笑う。
     ちなみに遅かったと言われても、わたしは時間にはまったく遅れていない。むしろ時間よりも前に来ているので、遅かったと言われる筋合いもない。
    「騒がしいわね、これ。どうしたのかしら?」
    「あんたが堰き止めてるからでしょ。早くこっち」
     すっとぼけるサエコの手を引いて、そそくさとわたしはその場を後にする。
     喧騒から離れる間、わたしはずっと頭を下げていたけれど、サエコは我関せずと、ずっと背筋を伸ばしたまま颯爽と歩いていた。
    「あんたねえ、普通ああいう場所では、邪魔にならない場所にいるもんなの」
     騒ぎを抜け、商店街のアーケードの、その隅っこに場所を移して、わたしは改めてサエコを叱りつけた。
    「……そうなの?知らなかったわ」
     表情も変えずに、けろりとサエコは言ってのける。
    「――はぁ、知らな過ぎるって言っても、あんたいい加減にしなさいよね」
    「いいじゃないの。教えてもらえて、私はありがたいわ」
     ああそうですかと、わたしは口の中だけで呟く。
     こいつはまったく、絶対に自分を中心に世界を回しているに違いない。
    「……ていうかね、あんたその恰好は何?」
    「――何か変かしら?」
     変も何も、サエコの服装は上は半袖の体操服で、下は制服のスカートだった。
    「もっと普通の服装でこられなかったの?」
     わたしは思わず苦言を呈すが、
    「だって、生徒手帳には休日の格好は体操服か制服と書いてあったわよ。ああ、合わせるのはよくないのかしら?」
     ――と、不思議そうな顔をするのだった。
    「いや、そうじゃなくってね、普通は体操服でも制服でもないのよ。普段着でいいの。わかる?」
    「……生徒手帳には嘘が書いてあるの?」
    「いや、そうじゃなくってね、本来そうするべきらしいんだけど、だけどちょっと違って――、ああもう、よくわかんなくなってきたわ……」
     なんとかへんちくりんな格好をするのをやめさせようと説得を試みるが、だけどそもそも実は生徒手帳に書いてあることが正しいので、実にいかんともしがたいのだった。あれはどう考えても建前なので、守ってるやつなどいないのだが、しかしじゃあどうやってそれを覆すかというと、それもまた大問題なのだ。
    「いいから、休日は普段着でいいの。わかった?」
     そして最終的にわたしは、説得もできずに、力技でごり押してしまう。
    「ふうん、私服でいいのね」
    「わかってもらえたようでうれしいわ」
     わたしはもう、買い物に行く前からすでにもう疲れ切ってしまった。
     ため息を何度ついただろうかと、思わず指折り数えそうになった。
    「でも困ったわね、私は私服を持ってないのよ」
     そして顎に手を当てて、サエコは困惑してみせるのだった。
    「……あんたマジ?」
    「ええ、マジよ?」
    「これまでずっと?」
    「……多分そうね」
    「――はぁ?」
     わたしはまた素っ頓狂な声を上げてしまった。
     まさか私服を持ってない人間がいるなどと、わたしは思ってもみなかった。それも長身美人で、ファッションリーダー然としたサエコが私服を持っていないだなんて、まるで青天の霹靂だ。
     しかし思ってみれば、サエコは制服もどノーマルで着ているのである。わたしはそれを何かのポリシーがあるのかと思ったのだが、なんていうことはない、自己流のカスタマイズなんて頭になく、正しい姿のまま着ているだけなのだった。
     彼女はだから、ファッションなんて考えず、ただ生徒手帳に書いてあることを順守しているだけなのだろう。
     だから休日でも私服が必要なく、だから持つこともなかったのだろう。
    「……それでよくやってこられたわね」
    「そう言われても、どうしてかしらね?」
     そこで初めて、サエコは首をかしげるのだった。
     わたしはと言えば、行動には移さないものの、首をかしげたいことばっかりだ。
    「あ、ジャージーならあるわ。これは私服よね?」
    「……どうでもいいわよそんなこと」
     そしてまた、わたしは深くため息をつく。
     まさかそのジャージとは、体操服の上に着るアレではないかと思ったが、深く突っ込むのはやめておいた。
     そして結局この日は、サエコのための私服を買うために費やされるのだった。

     そしてわたしは、このペアの行く末を不安に思うのだった。

     これはいつ頃だっただろうか。
     カワカミサエコとは、だからおかしな子なのだ。
     基本的にはいい子なのだけど、とてもおかしな子なのだ。


     だから、ずっとヒントはあったのだろう。


     そのヒントに気が付いて彼女を避けていれば、わたしは普通でいられただろうか。
     それともわたしは気づいていても、彼女と一緒に居たのだろうか。


     ペパーミントのような放課後を、ずっと過ごしたのだろうか。


     


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