【創作】放課後ペパーミント04【再掲】
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【創作】放課後ペパーミント04【再掲】

2014-05-30 02:34

    「私勉強したのよ、男女の仲のことを」
     唐突にサエコが宣言したのは、わたしが彼女に唇を奪われて、それからしばらくたってからだった。
     それは昼休みの、机を寄せて昼食を食べている最中だった。
    「……あんたは何をまた急に」
    「だって、アケミは言ったでしょう?そういうことは女の子同士ではしないって。男の子と女の子でやるんだって」
    「――やるとか食事中に言わないで」
    「あら、あなたが直接言うなと言ったから、こう言ったのに?」
    「……あのね、食事中にそういうことは話さないの。マナーよ、マナー」
    「ふうん、そうなのね。面倒くさいのねえ」
     ため息交じりに呟いて、サエコは焼きそばパンなんぞをぱくついている。そしてそいつを牛乳で流し込んで、一息つく。
     
     サエコには焼きそばパンも、パックの牛乳もとても不釣り合いだ。
    「……じゃあこの話はやめた方がいいのかしら?」
    「――何の話よ?」
    「だから、男女のそういう話よ」
    「……話せば」
    「……いいの?」
    「いいわよ、途中でやめるのもあれでしょ」
    「話し始めたら途中でやめるのはよくないのね。それもマナーかしら?」
    「――みたいなもんかな」
     一切れの卵焼きをさらに箸で分割しながら、わたしはサエコの質問に答える。マナーかどうかはあんまりわからないが、なんとなく話を途中で中座させるのはよくない気がする。そういう風潮な気がする。
     
    「でも、あまりエグいことは言わないでね」
    「マナーね、いいわ」
     ふふん――と、今しがた覚えたことをサエコは復唱する。サエコはいつも、新しいことを教えられると、得意げにそれを披露するのだ。
    「やっぱりそういうことは、男女の間だけじゃないと思うのよ」
     そして続けたと思ったら、そんな話だった。
    「……どういう勉強をしたのよ」
    「そういう本を買って読んだのよ。成人指定のアレよ。学校帰りに買ったりしてね」
    「つまり……エロ本?」
     眉をひそめ、わたしは尋ねた。
    「あら、直接はダメなんじゃなかった?」
    「この場合は許しなさいよ。ちょっとした確認なんだから」
    「まあ、そうね」
     さらりと、サエコは言った。
     ……何を考えてるんだこいつは。何が悲しくて、女子高生がエロ本を買って性の勉強をせねばならんのだ。
    「――あんたねえ、何をしてんのよ。ていうか、それ制服でやってないでしょうね?」
    「……だめなの」
     そして真顔で答えるのであった。
    「ダメに決まってるじゃない。成人指定よ?成人指定。あんたそういうのはきちんとしてるんじゃないの?」
    「でも男の子はもっと早いうちから持っていると聞いたわ」
    「ああ、確かにそうね」
     そこはグレーゾーンというべきところなんだろう。成人指定と言われているし、成人しか買ってはいけないとされているが、こっそり男子はそういうものを手に入れるものだ。思春期とはそういうもので、男子はそういうものに群がるものなのだ。
     しかし思春期はそういうことに敏感なものだが、気になるものだが、だけれどだからといって女子高生がそんなものを買っているのは信じがたい。
     それも学校帰りに、制服姿で買っているなんてもっと信じられない。
    「あんたね、気を付けないと、いつか補導されるわよ」
    「大丈夫よ、もう勉強は終わったから」
    「ああ、そうなの?随分早くに終わったのね」
    「ええ、だって、すぐに答えは出たもの」
    「ふうん。――で、その答えって何よ?」
    「やっぱりあなたが好き」
     言って、サエコは焼きそばパンの最後の一口を口の中に放り込んだ。包みに使われていたラップフィルムをくるくると丸め、机の上にひょいと置く。
    「……あんたさ、この間の冗談、まだ続いてんの?」
     わたしは思わず問いただした。
     いったいサエコは、どうして真面目な顔でそんなことが言えるのか。
    「冗談じゃないわよ。第一、男の子同士だって、女の子同士だって、恋愛は間違ってないらしいじゃない。本で読んだもの。言ったでしょ?勉強は終わったの」
    「ああそう……」
     どうやらこいつは誤った文献まで参照したようである。
     いや、誤ったと一概に言うのも何か変だが、一般的ではないというかなんていうか……。私じゃあ嫌なの?」
     そしていたずらっぽく、サエコは微笑むのだ。
     片手に牛乳パックなんぞを握りしめているのに、魅惑的に微笑むのだった。

     ――瞬間、先日の唐突なキスをわたしは思いだす。白昼の往来で行われた、情熱的な女同士のキスを。

     思わず、顔が赤らんだ。

    まんざらでもないんじゃないの?」
     今度はくすくすと、サエコは笑った。
    「からかってんでしょ」
     上目づかいで、恨めしくじろりとサエコを睨んでやる。
     日ごろ甘やかしているからか、もしかしてわたしは舐められているのかもしれない。
     サエコの遊び道具にされているのかもしれない。
    「それは後々判断しなさいよ」
     言い残して、ひょいとサエコは立ち上がる。 最後の牛乳を吸い込んで、パックをへこませて、ひらひらと手を振りながら教室を出ていく。
    「――バカサエコめ」
     わたしは頬を膨らせて弁当の残りをかきこみ、頭に張り付いてしまった光景を打ち消すのだった。


    それはサエコとわたしの――。


    「……バカみたい」
     呟くわたしは怒り心頭で、だけれどこの時既に、わたしはあの子に取り込まれ始めていた。
     あの大人びた少女の奔放さと美貌にやられて、磁力に寄せられるように惹かれはじめていた。


     男女の中でしか恋愛はあり得ないなんて、そんなことはないのだと、わたしは感じ始めていたのだった。



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