【創作】放課後ペパーミント08【再掲】
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

【創作】放課後ペパーミント08【再掲】

2014-06-26 20:26

     あの子は、サエコはなぜ突然、あんなことを言ったのだろう。
    「どこか遠くに行ってみたいと思わない?」
     などと、突然言い出したのだろう。
     もしかしたら、なにか大きな悩みをサエコは抱えたいたのだろうか。わたしはそれに気づかず、サインを無視して、彼女を失望させてしまったのだろうか。

     手をしっかり握っておけばよかったと、今にしてみれば思う。
     あれから数日が経過して、わたしはそうと思う。
     なぜ嫌がってしまったのだろう。
     嫌がるそぶりを見せてしまったのだろう。

     いまだに手の中にぬくもりが残っている気がする。

     あのサエコの、女の子くせに大きくて、なのになめらかで柔らかな手の、その手触りと、ぬくもりが残っている気がする。
     そして逆に、なんにも残っていない気すらする。
     二つの矛盾する感情が、感覚が、手の中にあるような気がする。

     結局、わたしは手を放してしまった。

     結局、サエコのあれは本音だったのだろうか。

     遠くまでとは、いったいどこまでなのだろうか……。

     一人ぼっちの学校はとてもさみしいものだ。
     いつでもそばにあった存在は、喪失してみて、初めてその大きさに気付くものなのだ。
     わたしは今、影を背負っているだろう。
     深く、大きく、闇よりも闇色の影を――。

     どうしてわたしは手を放してしまったのだろうか。
     苦笑いで、行ってきなさいよなどと言ってしまったのだろうか。

     そんじゃあいっしょに行くわよ。

     言葉は喉まで出かかって、だけれど飲み込まれてしまった。
     だって、わたしはあれはサエコの気まぐれで、いたずらで、いつものことだと思っていたのだ。


     いなくなってしまうなんて、思ってもみなかったのだ。


     時間の過ぎるのが、いつもより二倍も、三倍も遅い。
     何度も何度も見上げても、時計の針が進んでいない錯覚を覚える。

     日増しに時間が過ぎるのが遅くなっている気がする。

     このままでは、いつか一日が千年になりそうだ。
     一人きりの時間は、それだけわたしに重くのしかかっているのだ。

     もともとわたしとサエコは、たった二人だけのグループだ。
     わたしセトウチアケミと、カワカミサエコだけのペアだ。
     片割れがいなくなってしまえば、たちどころに一人になるのだ。

     わたしはだから、結局のところ一人なのだ。

     周囲の音がやけに大きい。
     錯覚が錯覚を呼び、圧力に負け、わたしはどんどんちっぽけになっていく。
    「どこにいるのよ、あんたは――」
     声にならない声で、口の中だけでサエコに問いかける。

     どこか、遠くに行ってしまったサエコに――。

     せっかく幸せだったのに、どうして一人になんかするのよ……。


     ――と、今度は胸の中だけで。



    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。