【創作】ナツゾラ15-2 不都合な適格者
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【創作】ナツゾラ15-2 不都合な適格者

2015-06-01 23:12

    「店の手伝いはいいの?」
    「――きみについていろと言われたから」
    「そうよね。だからあんたは、一緒に居てくれてるんだわ」
     ミライは苦笑いのような表情になった。この数日で、それが微笑もうとしているのだとは、僕は知っていた。
    「お母さんも、どうも私にはなじんでくれないのよね」
    「……きみは、何度も夏子さんに会ってるのか?」
    「ええ、そりゃあね。家族だから当然よ。でも初めてあの家で出た時から、ずっと困惑されてるように感じるわ」
     自嘲気味にミライは言う。
     ――出た、というのは、そのままの意味なのだろう。
     会った、とかではなく、出た、なのだ。
     彼女はいつも、ふらりとあらわれるとかではなく、突如として浮かび上がるのだ。

     たしか、多重人格というやつ――だったと思う。
     そう、ミライはミクちゃんのもう一人の人格なのだ。

    「療養所に入るまでの間、結構あの家でも出てたけど、そのたびにどうしていいかわからない顔をするのよ、あの人は」
    「――それは嫌われていたのか?」
    「……だったらまだマシだったんだけどね。違うのよ。ミクの中にあるもう一人を、どうしていいのかわからない――そんな感じだったんでしょうね」
     そして彼女は、また苦笑いになる。
    「嫌われるのなら、慣れてるのよ」
    「――」
     そうと言われて、僕は無言だった。
     返す言葉を見つけられず、いや、本当は見つけていたけれど、その言葉をミライに言うのはなぜかためらわれた。
     知らずの間に、ミライへの対応はどんどん冷血になっていくのだ。

     夏子さんは、ミクちゃんは壊れてしまったといった。
     実の母親からの虐待を受けて、壊れてしまったといった。

     それは、結局はこういうことだったのだろう。


     ミクちゃんは、性格を分離させ、もう一人の自分を作り出してしまったということなのだろう。


     それは意外とよくあることだという。
     辛い思いをした人間は、つらい思いから逃げるために、つらい経験をしているのは自分じゃないと思い込もうとするのだという。そして仮想の人格を作り出し、それにすべてを押し付けるのだという。
     そうやって、別の人格を作り出してしまうのだという。
     時にその人格は完全に固定され、独り歩きしてしまい、主人格と交代で表に出ることがあるそうで、それが多重人格というやつだった。
     つまりミライは、ミクちゃんが辛さから逃れるために作り出したもう一人で、ミクちゃんの辛さを肩代わりするためにミライは何度となく現れて、それは見た人に恐怖を植え付けたのだろう。

     想像するといい。
     突然人格が入れ替わる様子を。

     瞬間前までの誰かと、なにも変わらないのに変わってしまう様子を。

     きっとうすら寒い気持ちの悪さを感じるはずだ。
     そして当人をよく知る人間ほど、人格が変わるさまを恐ろしく思うはずだ。


     だから、壊れたと夏子さんは表したのだ。


     その表現をするのには躊躇いがいくつもあっただろう。
     だけど結局、そうというしかなかったのだ。



     天久ミクという少女は壊れたと、そう言わざるを得ない状況だったのだ。



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