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  • 【第107-110号】岩上安身のIWJ特報!従軍慰安婦制度は国際法違反――人権意識の低い日本政府の現実~戸塚悦朗氏インタビュー

    2013-10-08 15:23  
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    岩上安身のIWJ特報!
    従軍慰安婦制度は国際法違反――人権意識の低い日本政府の現実
    戸塚悦朗氏インタビュー
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     「僕たちは奴隷なんです!」
     山本太郎氏の、早口で繰り出される刺激的なスピーチの一節がずっと耳に残って離れない。秋の国会の開会まで全国を回って続けるという遊説キャラバン。脱原発に参院選前から反TPPが加わり、さらに特定秘密保護法案への反対もメニューに追加された。
     いきおいスピーチは長くなりがちなのだが、であるからこそ、急所を貫くショートパンチのような、短い的確なフレーズを繰り出す必要がある。そこで、冒頭のセリフである。
     「僕たちはいったい何者であるのか!?」という問いに対する、彼がたどりついた「回答」。「王様は裸だ」と嘘の言えない「コドモ」がつい口にしてしまったに等しい、「我々日本国民は奴隷なんだ!」という、「コドモ」の、心からの叫びなのだろう。
     ところで、である。
     このメルマガ読者の皆さんは、日本が「奴隷禁止条約」の批准を拒否しているという事実をご存知だろうか?
     1926年、国際連盟が奴隷制度を禁止する「奴隷条約」を制定。その後、第2次大戦を経て、国際連合がこの「奴隷条約」を継承するかたちで、1956年、「奴隷制度廃止補足条約」を制定した。
     この条約では、債務奴隷制度、農奴制度、女子の自由な意思に反した結婚制度・風習、児童への労働を強制する制度・風習、奴隷貿易など、奴隷に反するあらゆる制度と風習の存在を禁止している。
     しかし、わが日本はといえば、制定した1956年から57年も経過した2013年現在、全世界で123ヶ国が加盟しているこの「奴隷制度廃止補足条約」を、まだ署名も批准もしていないのである。
     不気味な話だと、思わないだろうか? 我が国は、奴隷制度を本気で廃絶する気のない、先進国(先進国かどうか、怪しいものだが)では例をみない国なのである。
     「奴隷」状態とは、人間の自由、尊厳、人権が侵されている状態、強い立場にある他の者の意志に嫌々ながら従わされている状態をさす。そしてしばしば、「奴隷」自らの「自由意志」で「隷属」を選んだのだ、それは「対価」を得た「合法的」な「取り引き」だったのだと、強者から偽りのレッテルを貼られる。
     この夏、もうひとつの「奴隷制」について、我々は改めて直面させられ、考えさせられる羽目となった。Sex slave、「性奴隷」としての従軍慰安婦問題である。
     5月13日、大阪市の橋下徹市長が、定例会見の場で、従軍慰安婦制度は「当時は必要だった」と問題発言をした。この発言は、在日米軍司令官に「風俗の活用をすすめた」というもうひとつの問題発言とともに、国内外に大きな波紋を呼んだ。
     私は、従軍慰安婦問題の真実に迫るため、6月24日に、元弁護士で元龍谷大学教授、現在は国際人権学者として国際人権法政策研究所事務局長を務める戸塚悦朗氏にロングインタビューを行った。戸塚氏は、旧日本軍の従軍慰安婦は「性奴隷」であると、国際社会に訴えた最初の人物である。彼は、私のインタビューにおいても、橋下市長の発言を批判し、「従軍慰安婦は性奴隷であり、国際法違反だ」と指摘した。
     戦時中、多くの女性が略取・誘拐され、自らの意思に沿わないかたちで従軍慰安婦として働いていたことは、これまでに多くの証言から明らかとなっている、と戸塚氏は力説する。
     1996年、国連人権委員会に提出された「クマラスワミ報告」では、従軍慰安婦を「軍事的性奴隷」と規定し、日本政府に対して「慰安所制度が国際法の下でその義務に違反したことを承認し、かつその違反の法的責任を受諾すること」という勧告を発表した。
     同じ1996年、ILO(国際労働機関)も、慰安婦は「性奴隷」であり、ILO29号条約(強制労働禁止条約)に違反しているとの見解を発表している。
     さらに、1998年に国連人権委員会で採択された「マクドゥーガル報告書」は、従軍慰安婦制度は奴隷制度廃止補足条約が禁止している「奴隷制」に該当すると結論づけている。
     このように、国際社会から厳しい批判や評価を突きつけられているにもかかわらず、この問題に対する日本政府の反応は鈍く、謝罪や補償には消極的である。奴隷制度廃止補足条約への批准を回避しているのも、そうした姿勢の延長線上にあると言わざるを得ない。
     残念なことに、橋下氏だけでなく、従軍慰安婦は公娼であり、合法だったという「詭弁」を弄する政治家は他にもまだまだ存在する。
     例えば、稲田朋美行革担当大臣は、5月24日の定例会見で、IWJの質問に対し「戦時中は、慰安婦制度が、悲しいことではあるけれども合法であったということも、また事実であると思います」と発言した。
     しかし、戦前に存在した「公娼制度」は「娼妓取締規則」により厳格な規定が設けられていたのであり、略取や誘拐、かどわかしが横行した従軍慰安婦制度は、戦前・戦中の「娼妓取締規則」に照らしても、明らかに違法なのである。
    ※2013/06/14 【IWJブログ:「慰安婦は合法」の詭弁! 安倍内閣閣僚の歴史認識を問う】
    http://iwj.co.jp/wj/open/archives/86615
    ※2013/05/24 稲田大臣、従軍慰安婦制度について「戦時中、合法であったことは事実」~稲田朋美行政改革担当大臣 定例会見
    http://iwj.co.jp/wj/open/archives/81090
    ※2013/06/04 稲田大臣、「慰安婦制度は『合法』」発言について「お話することはない」 IWJからの質問に対する一切の回答を拒否 ~稲田朋美行政改革担当大臣 定例会見
    http://iwj.co.jp/wj/open/archives/83147
     安倍総理もまた、国会において「狭義の強制が行われたという証拠はない」と答弁してきた(2013年2月7日 衆議院予算委員会議事録【URL】http://bit.ly/6Y4utC)。
     しかし、私のインタビューの中で戸塚氏は、「証拠は存在する」と安倍総理の答弁を真っ向から否定し、決定的な証拠を提示した。1936年、長崎県在住の日本人女性を「いい仕事がある」と業者がだまして上海に連れて行き、海軍の指定慰安所に送り込んだ事件を、当時の刑法が規定する「国外移送誘拐罪」違反として、長崎地裁が有罪判決を出した際の判決文のコピーを広げてみせたのである。
     この判決文を読めば、従軍慰安婦制度において軍の組織的関与は明白であり、また、しばしば女性をだまして連れ去るなどの犯罪が横行していた事情も明らかである。「狭義の強制を示す証拠はない」という総理答弁は、事実とはいえない。
     にも関わらず、一部の政治家や保守論壇などからは、朝鮮半島などで従軍慰安婦とされた女性に対する「心からのお詫びと反省の気持ち」を表明した「河野談話」の見直しを求める声が後を絶たない。このような歴史を捏造しようとする動きに対して戸塚氏は、「日本は国際法への意識、そして人権への意識が、まだまだ希薄だ」と警鐘を鳴らす。
     インタビューでは、従軍慰安婦制度の問題だけではなく、1910年に日本が断行した韓国併合について、国際法上は無効であるという、日本ではほとんど知られていない、驚きの事実も語られた。2013年2月16日にインタビューした中塚明奈良女子大学名誉教授の話にも響きあう、日本による韓国併合の裏面史である。
     歴史認識の問題は、重く、苦いテーマではあるが、近隣諸国との関係が政治家の恣意によって急激に悪化させられている現在だからこそ、直視しなければならないと痛切に思う。日清戦争における、朝鮮半島での日本軍によるジェノサイド(大虐殺)の真相を明らかにした、北海道大学名誉教授・井上勝生氏へのインタビューの模様も、近日、本メルマガで詳細な注を付してお届けする予定である。
    ※動画本編はこちらの記事からご覧いただけます。
    2013/06/24 「日本軍慰安婦制度は、国内法上も国際法上も明らかに犯罪である」「韓国併合は無効である」~国際人権法学者・戸塚悦朗氏インタビュー
    http://iwj.co.jp/wj/open/archives/86605
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    ◆日本はまだまだ人権途上国◆
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    ▲岩上安身のインタビューに応える戸塚悦朗氏――6月24日、大阪府箕面市
    岩上「戸塚悦郎先生は、元弁護士、元龍谷大学教授で、現在は国際人権法政策研究所事務局長、日本融和会ジュネーブ国連代表を務めておられます」
    戸塚「弁護士時代から、世界人権宣言(※1)と、それを具体化した国際人権条約を、何とか日本に採り入れたい、日本を人権先進国にしたいと思って取り組んで、弁護士としても大学教員としてもずいぶん努力しましたが、うまくいきませんでした。日本は人権先進国ではない。人権途上国です。残念なことですが、後退すらしています。
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    (※1)世界人権宣言:世界中の人々の人権と自由を尊重し確保するため、「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」を宣言したもの。1948年12月10日に行われた第3回国連総会で採択された。しかし、宣言はあくまで条約ではなく決議であるため、法的拘束力はない。1950年の第5回国連総会では、毎年12月10日を「人権デー」とし、世界中で記念行事を行うことが決議されている。
    (外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/)。
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     私は元弁護士で、日弁連でも活動し、国連NGOでも活動してきました。そして政府が悪いと言ってきましたが、自分たちの力のなさも痛感してきました。
     日本で一般の方に人権のことを話すと、過激派のように思われてしまうことが多いように思います。その一方で、例えばアメリカなどに行くと、雰囲気が全然違うのです。アメリカでは、人権の問題を考えるということは、保守的な振る舞いです。
     つまり、人権先進国では、人権を考えることが当たり前のことになっているわけです。私は、日本もそういうふうになってほしいと思って活動してきました。しかし、この間、いろいろな場面で、日本はまだまだ人権途上国だと思い知らされました。
     憲法には人権規定がありますね。しかし、人権の問題はこれだけでは解決できません。憲法98条の2項に『日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする』という非常にいい条文があります。
     この98条2項があることにより、世界人権宣言を実現するために国連が作った人権条約を、日本は自国の憲法で根拠づけることが可能だということになります。つまり、憲法の人権規定だけではなく、98条2項を通じて、国連が作った人権法をも国内の法体系に組み込むことができるのです。日本国憲法の条文を活用することで、日本は一気に人権先進国になれます。私はこの課題に取り組もうと思い活動しましたが、結局はうまくいきませんでした。
     定年で引退されましたが、参議院議員の本岡昭次(※2)さんという方がいました。この方が参議院の副議長をお辞めになった時に、所長をお願いして、国際人権法政策研究所を作ってもらったんです。私が事務局長になり、民主党の国会議員の方々にもメンバーになっていただきました。本岡先生から国際人権法がどのようなものなのかということを研究会で教えもらうとともに、民主党が政権をとった時には実現してほしいと思っていました。
     民主党は実際、2009年に政権をとりますが、民主党政権下の3年間でこの研究所で議論されていた政策はほとんど何も実現しませんでした。唯一実現したのが、高校の授業料の無償化です」
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    (※2)本岡昭次:1980年、日本社会党より出馬して当選、政界入りをはたす。1998年、民主党の結党に参加。2001年から3年間、参議院副議長を務めた。2004年7月、参議院議員の任期満了にともない政界から引退。
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    岩上「高校授業料の無償化は民主党が考えた政策だと思っていたのですが、先生たちが提言されたもので、さらにそのもとには国際人権法があるということでしょうか」
    戸塚「そうです。その国際人権法は、日本とマダガスカルとルワンダだけが批准を留保しています(※3)。つまり、先進国で守らないと言ったのは日本だけということになります。そのために、ものすごく大勢の人が被害を受けています。
     2010年1月、当時総理だった鳩山(由紀夫)さんが『子供の命を守る』と言って、この条約の留保を撤回する、と言いました。しかし、どの新聞も報道しませんでした。鳩山さんの発言を『情緒的だ』と言った大臣もいましたね。日本のマスメディアは、全然分かっていないのだと思います」
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    (※3)高校と大学の学費を段階的に無償化することを定めた国際人権規約第13条について、条約に加盟している160ヶ国のうち、日本、ルワンダ、マダガスカルの3ヶ国だけがいまだに留保している。
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    岩上「分かっていないというか、分かったうえであえて切っているのではないでしょうか」
    戸塚「いやあ、僕はそうじゃなくて、分かっていないんだと思うなあ」
    岩上「先生、メディアはもっと悪質ですよ」
    戸塚「そうですか。ただ、庶民が分かっていないから、そんなことを報道しても売れないという理由で、大手メディアは報道していないのではないでしょうか」
    岩上「それは申し訳ないですが、逆だと思います。大手メディアが横並びになっている時は、お上の顔色をうかがっていて、はっきりと意志を持ってやっているものです」
    戸塚「でも民主党政権になったら、政府は国際人権法を軸とした政策を行うと言ったんですよ。ものすごくいいことを言ったのに、支持されなくて潰されてしまいました」
    岩上「日本の既存メディアは横並びで、情報の統制を行うんです。そういう情報のカルテル状態に少しでも風穴をあけたいと、私はIWJを作ったんです」
    戸塚「私はまだ甘かったんですかね。そういう甘さがあるから、結局日本を変えられなかったんですね。残念ながら私にも責任があるという気がします。さらに、一つずつの人権問題を別々の問題として対応してきたのが間違いだったと最近気がつきました。それについてはまた本を書きますので、本が出たらまたお伝えします」
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    ◆国際判断を嫌がる日本政府◆
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    岩上「戸塚先生は、国連の会議に参加できるNGO日本融和会のジュネーブ代表ですね。学生を国連に連れて行ったり、勉強させたり、従軍慰安婦問題をずっと追及されてきました。法律家の立場で、現実にどのようなことが行われたのか、発掘もされ、歴史家のような仕事もされてきました。従軍慰安婦の問題についてもお話をうかがいたいのですが、それと同時にもう一つ、お聞きしたい大きなテーマがあります。
     それは、日本が韓国・朝鮮を『併合』した経緯についてです。歴史の教育では、『併合』というのは話し合いで合法的に行われた、つまり、近代化にいち早く成功していた日本が、弱々しい韓国を保護しようとし、韓国もそれに同意した、というような説明がされてきました。つまり、日本の朝鮮半島への侵出も『併合』も、『侵略』ではなかった、ということです。
     しかし、これはうさん臭いとずっと思ってきました。僕が韓国人の立場なら、『植民地になることを喜ぶか!』と感じると思います。また、併合自体が、法的に違法、もしくは成立していない、という話もあります。そうなると根本から話が狂ってきてしまいますね。
     こんな大変な問題が今まで隠されてきた、表に出てこなかった。研究して発表しても、メディアは伝えない。先生にはこの問題に関する話もぜひうかがいたいのです。
     先生が従軍慰安婦の問題、さらには朝鮮半島を歴史認識の問題全般に取り組むきっかけとなったのは、やはり、世界人権宣言、国際人権条約を日本に根づかせたいという思いがあったからなのでしょうか」
    戸塚「私はもともと国連の専門家でもない、普通の弁護士です。しかし、スモン訴訟(※4)という大変大きな薬害訴訟の原告代理人を経験し、それが終わったところで、報徳会宇都宮病院事件(※5)の問題にぶつかりました。
     その際に感じたのは、日本で人権関連の法律を改正しようと思っても、全然支援がない、ということです。そこで、やむなく国連に訴えようということを考えました。はじめて国連に行って訴えたのは1984年の8月です。その時は、報徳会宇都宮病院事件問題があったものですから、朝日新聞が大変支援してくれました。社会党も協力してくれて、1987年に精神保健法(※6)ができました。
     私はその後、イギリスに留学して、国際人権法を勉強しました。そして、被害者が最高裁で敗訴した時に国連に訴えるという手続きがあることを知ります。個人通報権条約(※7)といいますが、それを日本が批准してくれれば、長いスパンで見れば日本の人権状態が良くなっていくと考えたのです。通報すると、国連の人権規約委員会が、市民的政治的権利に関する国際規約、これを『自由権規約』というのですが、それに違反するかどうかを審査してくれます。そういうシステムを導入しようという運動をしました。
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    (※4)スモン訴訟:整腸剤のひとつであるキノホルム剤を服用した患者が、全身のしびれ、痛み、視力障害などの被害(スモン)が生じたとして、昭和46年5月以降、キノホルム剤を製造・販売した製薬会社とこれを認可・承認した国を相手どり提起された損害賠償請求訴訟のこと。(参考:厚生労働省URL:http://bit.ly/16new9x)
    (※5)報徳会宇都宮病院事件:1983年に、栃木県宇都宮市にある報徳会宇都宮病院で、看護職員らの暴行により精神科の患者2名が死亡した事件。この事件をきっかけに、国連人権委員会で日本の精神医療の場における人権侵害が取り上げられるようになった。
    (※6)精神保健法:1987年、国連人権委員会の勧告をうけて成立した法律。この法にもとづき、精神障害患者本本人の意思にもとづく「任意入院制度」が創設された。
    (※7)個人通報権条約:個人が直接国際機関に人権侵害の救済を求められるよう定めた条約。自由権規約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約等に分類されるが、日本はこれらのどの条約についても、批准手続きをとっていない。
    (日弁連http://www.nichibenren.or.jp/activity/international/iccpr.html)
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     政府にも要請してきたし、弁護士会でも努力しました。ところが政府は、『それだけは勘弁してください』と言うのです。『被害者が、最高裁判決が不服であると国連に訴えると、四審制になるから嫌だ』と言うんですよ。日本は国際的な判断を嫌だと言うのです。
     昔、日本が満州事変を起こした時に、リットン調査団(※8)が国際連盟から来て調査をし、『これは認めることができません。日本は撤兵してください』という決断を下しました。その時に止めていれば、第二次世界大戦を起こさなくて済んだのに、日本はこれを受け入れたくなくて、国際連盟を脱退してしまいました。そして、戦争を起こしてしまった。国際的な違法行為をした場合に国際勧告がなされても、それに従うということは、日本には戦前から慣行としてないんです」
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    (※8)リットン調査団:国際連盟により、満州国と満州事変に関する調査を命じられた調査団。団長はイギリスの枢密顧問官であるリットン伯爵。柳条湖事件に端を発する満州事変は自衛とは言いがたく、満州には中国の主権下に自治政府を樹立するよう提言した。国際連盟の総会は賛成42票、反対1票(日本)、棄権1票(タイ)でリットン調査団の報告書を採択。日本の松岡洋右全権大使はこれを不服として退場し、国際連盟を脱退した。
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    岩上「つまり、憲法98条2項は機能していないということですか」
    戸塚「98条2項は、戦前の憲法にはありませんでした。戦後、憲法を作る時に、日本はあまりにも国際法違反をしすぎたという反省のもと、マッカーサーではなく、外務省側が98条2項を提案したんです。
     こうして戦後は、『国際法を守らなければいけない』ということを、自分たちの憲法にも書き込み、その後にできた条約は全部守ると言ってきました。しかし、学者も一般庶民も、98条2項を読む人なんていないんですよ。報道もしないでしょう。だから、忘れられてしまっているんです。護憲運動は、その点が非常に不十分だったと思います。9条も大事ですが、車の両輪のように98条2項も大事なのです」
    岩上「他方、98条2項は、日本ではものすごく有効に機能している部分があるように思えます。それは、日米関係に関するものです。日米安保に関しては、絶対服従というくらい遵守します。憲法よりも上位にあって、アメリカの言うことは全部聞かなきゃいけないというくらいです。日本のシステムの中では、それがもう自動化されているのではないでしょうか」
    戸塚「日米安保条約が嫌いだから、98条2項は見たくないという人が多いんですよ」
    岩上「それは、どちらかというと左寄りの人ですか? 安保反対のサイドがそうなっているのですか?」
    戸塚「そうかもしれないですね」
    岩上「安保大好きという人にとっては、どうなんでしょうか?」
    戸塚「その人たちにとっては、どちらでもいいんでしょうね。憲法なんて関係ない。アメリカと喧嘩して日本はひどい目にあったから、アメリカと仲良くしようという、国際政治上の考えですから。ただ、たしかに安保が嫌いな人は98条2項も嫌いなんですね、おそらく」
    岩上「だから会話に出ないんですね」
    戸塚「はい。9条と98条2項は、両方大事にしないといけません。憲法は、日本国内だけの問題ですが、国際社会でどう生きていくかということを考えなければ、日本の平和も守れないわけです」
    岩上「私は、98条2項について、先生とは全く違う立場で認識していました。日米安保は完全な不平等条約で、上下関係がどんどん強まっていっている。これでは、日本の主体性がなくなってしまう、この状態の根っこにあるのは98条2項かと思っていました。だから、改正するべきだと思っていたんですよ。
     でも、国際人権条約の話を聞いて、少し考えを改めました。こんなに重要だとは思いませんでした。全然知られていないですね。全く報じられていないですし」
    戸塚「人権は、フランス人権宣言(※9)でできたとみんな思っていると思いますが、そうではありません。フランスの宣言は、男権宣言なんですよ。男の権利なんです。アメリカの独立宣言にも、当時の人権規定がありますが、男の権利と書いてあります。ヒューマンライツ、男と女の権利と初めて言ったのは、国連憲章です。国連憲章の前に1942年の1月1日に連合国宣言(※10)がありますが、ここで初めてヒューマンライツという言葉が出ています」
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    (※9)フランス人権宣言: 1789年8月、フランス革命当初、ラファイエットらの動議にもとづき、憲法制定議会によって裁決された。前文と17条からなり、主権在民、法の下の平等、所有権の不可侵などを宣言している。
    (※10)連合国宣言:1942年1月に、第2次世界大戦中に枢軸国(日本・ドイツ・イタリア)と戦っていた連合国26か国により署名され、1945年の国連憲章へとつながった宣言。それまで枢軸国側と対する国家群は 「Allies」と呼ばれていたが、この宣言で初めて「United Nations」と呼ばれた。
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    岩上「連合国宣言ですから、当然日本は入っていないんですね」
    戸塚「入っていません。連合国は、日本やドイツ、イタリアに対し、『人権を確立するために戦争をやるんだ』という名目をたてて戦争を始めたんです。その、戦争の目的が実現した新しい国際組織が、国際連合だというわけです。だから、国際連盟の時にはなかった人権に関する規定が、国連憲章の中には入っています。
     国連の考え方の枠組みができあがった時、日本はまだ沖縄で戦争をしています。そのままの状態で、1948年に世界人権宣言ができました。だから、これは国連が作ったといいますが、元を作ったのは、日本の敵国である連合国です。
     日本にもそれを実現しないといけないといって条約をたくさん作ったのですが、残念ながら、日本は批准してもそれを守らない。守らせるためには、98条2項と個人通報権条約が必要なんです。しかし、個人通報権条約の批准を政府は絶対に拒否するのです。
     民主党政権の間に批准を実現しようとしたのですが、大臣たちは『実現する』と言いながら、3年間できませんでした。千葉景子さんは、法務大臣になった日に、首相官邸で三つの約束をしています。その一つが個人通報権条約の批准でした。民主党のマニフェストにも入っています。しかし、結局3年間できませんでした(※11)。
     なぜできないのか、それは正しい報道をしないマスコミにも問題はあると思いますが、官僚が抵抗するんですよ。私は、日本はこのままいくと滅びてしまうと思います」
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    (※11)千葉景子氏は、2009年9月16日に首相官邸で行われた法務大臣就任会見で、国内人権侵害救済機関の設置、個人通報権条約の批准、取り調べの可視化の実現の3点を実現すると表明した。【URL】http://bit.ly/1bE9O80
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    岩上「日本の司法官僚がこの個人通報権条約批准に抵抗しているのですね。悪名高き代用監獄(※12)や、あるいは可視化の否定、弁護士の立ち会いを認めないことなど、刑事司法がとにかく非人道的だと思います。世界中からも指弾されていますね。
     先日も、国連のある会議で、日本の上田秀明人権人道担当大使が、『シャラップ!』と発言したことが大きく報じられています。これは、アフリカの委員からの『日本の司法は中世のようだ』という指摘に対するものです(※13)。先生は、この事件、ご存知でしたか?」
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    (※12)本来は法務省所管の拘置所に収容されるべき勾留決定後の被疑者・被告人を、引き続き警察の留置場に収容する、日本特有のシステム。(日弁連「『代用監獄』の廃止に向けて ─代用監獄問題の新段階─」)
    (※13)国連拷問禁止委員会で、モーリシャス共和国の委員から日本の被疑者取り調べに弁護士の立ち会いがないことを批判された上田秀明人権人道大使が、「シャラップ! シャラップ!」と発言した。動画URL:http://bit.ly/159xkrG
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    戸塚「はい、聞いています」
    岩上「日本の官僚の中は、他国に文句を言われたら『黙れ、うるさい』と言うくらいの認識が当たり前になっているのではないでしょうか。それぐらいふんぞり返って、傲慢で、人権を見下している。こういうことと、個人通報権を認めないということがつながっているわけですよね」
    戸塚「おっしゃる通りです。私はこれまで、スモン病患者さんの健康問題、精神病患者の問題、慰安婦問題、これらを別々の問題として向き合ってきましたが、実はみんな根っこでつながっているのではないでしょうか。その根っこの問題に対応しない限り、事態は変えられません。時間もかかるでしょうね。
     でも、おっしゃる通りだと思います。まず、全体が一体のものだという構造的な問題であるということをしっかりと認識する必要がある。そして、その全体を変えるにはどうするか、もう1回、運動を立て直す必要がある。その点、私の今までの運動は間違っていた、足りなかった面もあると思います」
    岩上「先生の運動が間違っていた、足りなかったというのではなく、相手があまりにも自ら変わろうという意識のない人たちだった、ということではないでしょうか」
    戸塚「私は専門家ではなかったのですが、さまざまな問題に取り組んでいる間に、だんだん全体が見えてきました。その一つがこの慰安婦問題であり、条約の問題なんですね。国連でちゃんとした手続きで被害者が申し立てることができないから、政治的なところに訴えるしかない。それは大ごとなんですよ。時間もかかるしお金もかかるし、難しい。
     でも、せざるを得ないから、スイスの国際融和会などに援助をもらって、国連で訴え出したんです。毎年新しい大きな問題を持っていって、国連に訴えるんですよ。代用監獄もその一つです。精神病患者の問題が終わったあとに、イギリスに行ったんですけれども、その途中で、代用監獄接見交通権(※14)の問題を国連で訴えてきました」
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    (※14)代用監獄接見交通権:刑事訴訟法39条1項は、留置場に拘束され取り調べを受けている被疑者・被告人が、弁護人とは自由に接見(面会)ができることを保障している。しかし、日本の留置場では朝から晩まで取り調べが行われ、弁護人への面会が許されないまま自白の強要が行われるなど、被疑者・被告人の代用監獄接見交通権を司法が適切に遵守しているかどうか、問題視されている。(日弁連HP【URL】http://bit.ly/14BFo0L)
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    ◆メディアからのいわれなきバッシング◆
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    岩上「先生が従軍慰安婦問題に取り組み始めたのは、いつからなのでしょうか」
    戸塚「本岡昭次先生が1990年ごろからこの問題に取り組まれていまして、そのころからです。私は本岡昭次先生とおつき合いがありましたので。同じころ、被害者が訴訟を起こしたり、歴史学者の吉見義明先生(※15)が国の関与を見つけて新聞に発表されたり、宮沢総理が韓国に行って謝罪するというようなことがあって、これはそろそろ国連に訴えるべきだなと思ったのです」
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    (※15)吉見義明:中央大学商学部教授。専攻は日本近現代史。日本の戦争責任問題、特に従軍慰安婦問題の研究で知られる。著書に『従軍慰安婦』(岩波新書、1995年)、『毒ガスと日本戦』(岩波書店、2004年)など多数。
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    岩上「この従軍慰安婦問題では、吉見義明さんと戸塚先生は必ずお名前があがりますね」
    戸塚「私は、吉見教授よりもスタートが遅かったですね。だからあとで、松井やより(※16)さんに怒られました。松井やよりさんは、もう亡くなられましたが、朝日新聞の記者で、ずっと昔から慰安婦問題に取り組んでいらっしゃいました。なので、『突然国連に行って勝手なことをするなんてけしからん』と怒られたんです。
     勉強が足りない、と怒られました。確かに足りないんですよ。それから、かなり勉強しました。1992年の1月か2月に、国連人権委員会に行きまして、にわか勉強でしたけども、発言しました。するとものすごい反響があったんですよ。
     実は私は、この委員会の前に、日本政府が個人通報権条約を批准しさえしてくれれば、国連には行かないと法務省と外務省に約束をしていたんです。国連には、人権担当といって法務省の検事さんがいますから、その人たちと話をして、選択議定書に批准してくれれば、私はすることがなくなる。ところが手続きをしないから、私がするしかないんです。
     『これはきっと大ごとになって損をする』と周囲の人に言われました。それまでは、何をしても大ごとにならなかったのですが。ところが、慰安婦問題を国連に持っていったら、途端に爆発してしまったんですよ。大きく報道もされました。
     この後、色々な人が私のもとを訪ねてきました。韓国の女性団体、日本の在日朝鮮人・韓国人たちも訪ねてきました。みんな支援してくれとおっしゃるんです。私は国連の手続きだけは知っていましたから、皆さんに全部情報を開示しました。
     毎回、国連に行くたびに、帰りはソウルに寄って、被害者にご挨拶をしたり、女性団体の方たちと意見交換をしたり、日本に帰ってくると講演をしたり、そういうことが始まったんですね。それが第一段階です。
     それだけでもエネルギーを消耗するのですが、報道機関に非難され、大変参りました。最初の発言のあと、ジュネーブにいる日本の新聞各社に連絡したところ、毎日新聞だけはきちんと報道してくれましたが、他の新聞社にはものすごい対応をされました。
     報道しないだけならともかく、ゆがめた報道をしたり、非難されたりしました。それまではどんな情報でも、提供すれば喜んでくれて、ある程度は客観的に報じてくれました。ところが、その時はすごく非難されたのです」
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    (※16)松井やより:ジャーナリスト、元朝日新聞編集委員。1995年、「アジア女性資料センター」を設立するなど、従軍慰安婦問題をはじめ、戦場での女性への性暴力に関して取材を行う。2000年12月には女性国際戦犯法廷を主催した。
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    岩上「いかに彼らが官僚と同じか、ということですね」
    戸塚「日本が男性社会だからでしょうね。あとから考えたら、それしか考えられない。記者たちは、『こんな終わった問題を、なぜ今ごろ持ってくるんですか!?』などと、日本政府の言い分をそのまま言うんですよ」
    岩上「日本人男性が、みんなそう言うとも思えないのですが」
    戸塚「彼らは、急に愛国者になっちゃったんですね。でも、私だって愛国者ですよ」
    岩上「私も先生と同じです。日本が、民主的で誇るべき良い国になってほしいと思うだけです」
    戸塚「彼らも、良い国だと思っているんでしょうね。ただ、普通の人権問題なら受けつけるけれども、慰安婦やセックスの問題で、日本がこんなことをしたと言われたら、受けつけられないんじゃないですか。私の弁護士の友人たちもそうでしたよ。非常に良心的な方が、『考えるのも嫌だ』と言うんです」
    岩上「失礼ですが、先生はおいくつですか」
    戸塚「71歳です」
    岩上「当時、20年ぐらい前ですから、50歳ぐらいですか。新聞記者はそれより少し若いぐらいですかね」
    戸塚「ある記者からは、『あんた、ただ有名になりたいんだろう』と言われて、とにかくびっくりしました。インターネットを見ると、私の悪口がいっぱい書いてあるんです。その中に『○○新聞に見捨てられた戸塚』などと出てきます」
    岩上「その○○新聞というのは、『あんた有名になりたいんだろう』と言った記者の社ですか」
    戸塚「そうではないです。そちらは想像がつきます」
    岩上「産経ですか。読売ですか」
    戸塚「産経はジュネーブにありません。まあ、とにかく毎日新聞だけは、その時取材してくれて、報道してくれたんです」
    岩上「僕は戦後世代ですけれども、親はフィリピンに出征しています。親は『慰安婦はあった。慰安婦制度が存在した』と言っていました。みんな性病にかかっていたとも言っていました。それは周知の事実じゃないですか。その周知の事実が、国連で取り上げられるのが、恥ずかしいということなんでしょうか」
    戸塚「そうじゃないんですよ。終わった問題、過去の問題だ、というんです。『あんた、それでも法律家か』とも言われましたね。彼らのほうでは、日本の性の問題を、こんなところで、法律家である日本人が持ち出すのはけしからんと思ったんでしょうね。傷ついたんじゃないんですか。
     でも、私は当時、一応司法試験も受かって、弁護士会に登録して、会費も払っていましたから、もしかしたら間違ったことを言っているかもしれないけれども、法律家なんですよ。本当にそこが一番カチンときました。新聞記者だって、『あんた、それでも新聞記者か』と言われたら怒るでしょう。
     ただね、その人がそう言ってくれたから、私の活動は続いたんです。つまり、怒ったんです。私は朝鮮問題の専門家でもないし、ずっと慰安婦問題を続けるつもりも本当はなかったんですよ。毎年国連に新しい大きな問題を持っていっては、そこで何かを言う。そうすると、『こんなことが続いてはかなわない』と、日本政府が早く個人通報権条約を批准するのではないかと、そう思ったわけです。
     歴史認識のような政治的な問題は、お金も時間もかかるし、しかも難しい。実はあまりやりたくないんです。私のことを批判している学者もいるし、『金儲けでやっているんじゃないか』と言う人もいます。
     裁判所で『あんた、法律家か』と言われた場合は、裁判で勝利すればいい。ですから私は、国連で勝訴判決を取ろうと思ったんです。判決ではないですけれども、国連に認めてもらおうと思ったわけです。認めてもらえるまで『お前は法律家か』と言われ続けるだけですから。それで、そのあと無我夢中になって勉強しました」
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    ◆日本は奴隷制を禁止していない◆
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    岩上「温厚な人を怒らせたらいけないですね(笑)。例えば女性が体を犯されて、売春を強いられて、泣き寝入りしているという事件があったら、何とか力になってやろうと思う。それは法律家の魂じゃないですか。『性奴隷(セックススレイブ)』という言葉を使ったのは、先生が最初ですか」
    戸塚「間違いないです。ほかに表現方法を思いつかなかったんです。国際法違反であるということを言わなければいけないので。奴隷禁止法は国際法としては一番古くて、国際慣習法でも、日本政府以外はほとんどの国が認めているんです。日本政府だけは国際慣習法ではないと言っているんですよ。文章に書いていますからね」
    岩上「日本は、奴隷制を禁止するということを、認めていないということですか」
    戸塚「奴隷を禁止する奴隷条約(※17)が1920年代にできましたが、日本はそれをいまだに批准していません」
    岩上「恐ろしい国だな。それは知りませんでした」
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    (※17)奴隷を禁止する奴隷条約:1926年、当時の国際連盟が奴隷の存在を禁止する条約を制定。これを継承するかたちで、国際連合は1956年、奴隷制度とそれに類似するあらゆる風俗や慣習の存在を禁止する「奴隷制度廃止補足条約」を制定、採択した。2013年現在、123ヵ国が加盟しているが、日本はいまだ批准していない。
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    戸塚「確立された国際法規と批准した条約は守らなければいけない、日本国憲法98条2項にはそう書いてあるわけです。確立された国際法規とは、国際慣習法のことです。それは、世界中の人が認めていることですね。だから、『奴隷』という言葉を使えば、世界の人はわかってくれると思ったんです。
     また実際、自分がもし女性で、1日に10人も20人も日本兵のセックスの相手をしなければいけないという状態に陥ったら、たまらないと思ったんですよ。とても生きていられないですよ。女性たちの体験談を読んで、これは奴隷としか考えられないと思ったんです」
    岩上「意に沿わぬことで、拘禁され強いられていたということですね。『自由で拘禁もされていない状態で、自ら行うのであったならばその人は商売でしょ』という言い方をする人は、今もいるわけです。自由もなく、意に反して強要され、だまされて連れてこられた人たち、それは性的な目的で奴隷状態に置かれた人だと、そういう定義になるだろうと考えたということですね」
    戸塚「そうですね。奴隷というのは所有物なんですよ。所有者が所有物に対して性的強要をするということは、人権を認めていないということです。そういう関係ですから、ほかには考えられないということで、この言葉を使ったんです。これは強制されて言ったわけではなくて、自分の判断で言ったのですが、あとで考えてみると、当たっていたという気がしますね。
     日本の弁護士にも、これは軍属だという考えを持つ人がいます。しかし、軍属だったら恩給を出さなければいけないはずです。それに、自分の意思で軍属となった人はいなかったんじゃないかと思います」
    岩上「いたとしても、少ないか」
    戸塚「いろいろな事情から追い込まれて、そうせざるを得なかったんでしょう。貧困かもしれません。でも、ほかに道がなかったのだから、奴隷じゃないですか。だから、性奴隷(セックススレイブ)という判断を、私はしました。別に、日本政府が憎いわけでもなく、私は日本政府には、個人通報権条約を批准してほしかった」
    岩上「私は西岡力(※18)さんと面識がありますが、先生はあります?」
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    (※18)西岡力(つとむ):東京基督教大学教授。現代朝鮮研究者で保守系の論客として知られる。救う会(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)会長、国家基本問題研究所企画委員兼評議員。西岡氏は戸塚氏を「反日日本人らが慰安婦性奴隷説を国連に持込み、国際的に嘘を拡散させている」と批判している。(「従軍慰安婦=性奴隷」説を世界中に広めたのは日本人弁護士、SAPIO2012年8月22日・29日号【URL】http://bit.ly/R9FogK)
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    戸塚「ないんです」
    岩上「西岡さんも、会ってみると良い人なんですよ。温厚な感じの人です。ところが、文章だけ読んでいるとものすごく攻撃的で、西岡さんが戸塚先生のことを悪しざまに書いているのを見ると、胸が痛むんですけど」
    戸塚「誤解があるんでしょうね」
    岩上「先生のことを反日の人だって書いています」
    戸塚「私が反日というよりも、日本が一種の病気なんだと思います。病気だったら病気であることをしっかり認識しなければいけない。診断を受けて治療しないといけないでしょう。そうしないと日本にはもっと病気が広がってしまうわけですよ」
    岩上「日本は何病ですか? 人権を理解していないという病気でしょうか?」
    戸塚「人権を理解していないというより、自分の病識がないということなんですよ。病識のない人が最初にするのは、診断を拒否することです。診断を認めないので、治療も受けない。重病にかかった人の典型なんですよ。
     死んでいく人たちの研究をサポートしたキューブラー・ロス(※19)は、人は死を、最初は拒否すると言っています。それからだんだん受け入れていくんですけれども、日本はまだ受け入れられない状態です。
     もともと日本では、不治の病を本人に告げなかったじゃないですか。今でも言わないんじゃないかな。お医者さんは本人に言わないで、その人の子供に言ってみたりするでしょう。ショックを与えたくないからというのはわかります。上手に言わなければいけないとも思いますが、自分の状態は苦しくても認めたほうがいいのではないかと思います。
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    (※19)エリザベス・キューブラー・ロス:1926年スイス生れの精神科医。1969年「死ぬ瞬間」(On Death and Dying)を発表(日本語版は1971年に刊行)し、「5つの死の受容のプロセス」と呼ばれているキューブラー・ロスモデルを提唱。それによれば、人間は死の間際に、「否認」(自分が死ぬということは嘘ではないかと疑う)、「怒り」(なぜ自分が死ななければいけないのかと怒りを覚える)、「取引」(なんとか死なずにすむよう取引を試みる)、「抑うつ」(何もできなくなる)、「受容」(自分が死ぬことを受け入れる)という5つのプロセスを経るとされる。死の間際にある患者の心理状態の研究や、ターミナルケア施設の創立など、先駆的な功績で知られる。
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     また罪を犯した加害者には、黙秘権がありますね。本人は認めにくいのだという理解が昔からあるんです。自分で悪いことをしたと認めるのは大変なことです。さらに、私たちは、罪を犯した当時の人間ではないわけです。
     しかし、昔の人たちが行った結果を、日本国家として責任が続いているから、現在の私たちも日本人としてそれにどう取り組むのか考える義務があります。本当は、自分がしたことではないから、過去の反省はしやすいはずなんですよ。それをしない限り、日本は立ち直れないわけですよ。病気を治さないとどうなるかというと、もっとひどくなって滅びてしまうわけです」
    岩上「原発問題でもそうですね」
    戸塚「今の日本は、企業や国家のほうが大事だということになっているんです。極端に言うと、国家が残れば一億人全員死んでしまってもいいと思われているのではないでしょうか。神国が残っているから、国体が残っているから、英霊が残っているからでしょう。
     人間としての、本当の精神の健康が蝕まれているということじゃないですかね。私はそれには原因があると思って、今、論文をいくつか書いています。原因は歴史にあると思います。歴史を見ないとだめです」
    岩上「軍国主義は、昨日今日生まれたわけではありませんよね。武家政権の時代で育まれた『武士道とは死ぬことと見つけたり』などという葉隠精神、死ぬことばかり美徳化した倫理にすでに見られますね」
    戸塚「それがいじめ問題にもつながっています。いじめと遊びの区別がつかないのは、いじめられる人の感性がないからです。いじめているほうの天下ですから。
     体罰もそうでしょう。殴られる人の感性があれば、またスポーツ科学の観点からいったら、間違っていることがわかるはずですが、とにかく勝てばいいといって殴るわけでしょう。そういう精神主義はまだ日本にそのまま残っています。『遊んでいるんだから』『教育しているんだから』『訓練しているんだから』、だからいいじゃないかという論理です。
     暴力は犯罪なんですよ。それを処罰しないということは、慰安婦問題で加害者を処罰しないということと同じなんですよ。私は、最初に精神病院の暴力の問題を知った時、なんでこんなひどいことをするんだろうと思いました。虐待も不法監禁も横行していて、数が多くて処罰しきれなかったんですよ。
     はじめは精神病院だけの問題かと思っていました。ところが実際は、いじめの問題も、体罰の問題も、家庭内で夫がDVをしたり、恋人を強姦したりすることも、処罰しない例がとても多かった。日本では、刑務所人口はすごく少ないです。処罰すべき者を処罰しないという慣行がずっとあるんです。それは精神病院だけじゃなかった」
    岩上「ヘイトスピーチもそうですね」
    戸塚「ヘイトスピーチもそうです。それから会社の中の犯罪もいっぱいあるでしょう。インサイダー取引なども、みんな同じものなんですよ」
    岩上「要するにホワイトカラー犯罪ではあるけれども、暴力はそのまま横行しているということですね。しかし日本では、会社ぐるみになって不祥事隠しをしたり、不正行為をしたり、不正利得を上げたりする」
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    ◆従軍慰安婦制度は完全に違法◆
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