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  • 【第127-128号】岩上安身のIWJ特報!原発と核兵器技術の保有はコインの裏表 京都大学原子炉実験所助教・小出裕章氏インタビュー

    2014-02-27 15:48  
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    第127・128号
    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――
              岩上安身のIWJ特報
          原発と核兵器技術の保有はコインの裏表
        京都大学原子炉実験所助教・小出裕章氏インタビュー
    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――
     2月9日(日)に投開票が行われた東京都知事選挙では、元首相の細川護熙氏が立候補したことによって、数ある争点の中から「脱原発」が最大の争点としてクローズアップされた。
    ※2014/01/22 【東京都知事選】細川護熙氏が立候補を正式表明 ~脱原発、新しい経済・生活の形態を訴える
    http://iwj.co.jp/wj/open/archives/120962
     一方、細川元首相の立候補によって「脱原発」を支持する有権者は、票を投じる先に迷うことになった。同じく「脱原発」を掲げる宇都宮健児元日弁連会長が、先行して立候補していたからである。一部の「勝手連」からは、「一本化」を求める声があがったが、両候補にその意志はなく(宇都宮候補は航海で話し合うと回答。細川候補は話し合いを拒否)、「一本化」は実現しなかった。
    ※2014/01/28 【東京都知事選】細川護熙氏が外国特派員協会で会見 宇都宮健児氏との一本化の意志を改めて否定
    http://iwj.co.jp/wj/open/archives/122348
     原発といえば、エネルギー需給の側面から語られることがほとんどである。「脱原発」のシングル・イシューで今回の選挙を闘った細川候補は、再生可能エネルギーの活用によって「原発ゼロ」を達成すると繰り返し主張してきた。
     しかし、原発は、エネルギーの観点からのみ語られる問題ではない。原発は、軍事と安全保障の問題と密接に関わっているのである。
     日本政府は、原発で出た使用済み核燃料を「再処理」してプルトニウムを抽出し、それを再び原発で燃料として使用する「核燃料サイクル」をエネルギー政策の柱として採用している。この「核燃料サイクル」は、原子力に関する技術を日本側が包括的に運用することを認めた、1988年の日米原子力協定によって可能となったものである。現在、高速増殖炉「もんじゅ」の運転停止により、この「核燃料サイクル」の実現見通しは立っていない。
     「核燃料サイクル」によって生み出されるプルトニウムは、核兵器の原料として転用可能なものである。日本には現在、既に44トンのプルトニウムが蓄積されており、長崎型原爆4000発分を製造することが可能であると言われる。「核燃料サイクル」技術を維持し、「兵器級プルトニウム」を蓄積することは、核兵器を潜在的に保有することに、ほぼ等しい。
     こうした日本の原子力/核政策を規定しているのが、日米間で締結されている日米原子力協定である。
     1955年、米国から日本へ濃縮ウランを貸与する目的で、日米原子力協定が締結された。これにより日本は、「原子力の平和利用」の名の下、核に関する技術を運用することが可能となり、原発を稼働させることができるようになった。
     しかし、この日米原子力協定は当初、日本側の核運用に関する細かい「箸の上げ下ろし」まで、米国側の許諾を得なければならないものであった。そこで、「核燃料サイクル」を構築して「兵器級プルトニウム」を蓄積し、独自の「核技術抑止力」を保有することを求めた日本側は、米国に対し、核の「包括的な運用」を求めることになる。それを認めたのが、1988年に改定された日米原子力協定だったのである。これは日本に30年間にわたり、「フリーハンド」を認めるものだった。
     この、日本に潜在的な核保有を許している日米原子力協定が、2018年に期限を迎える。この期限を見越してのことか、都知事選たけなわの1月27日、非常に重要だと思われるニュースが飛び込んできた。
     共同通信が伝えるところによると、冷戦時代に米国が研究用として日本に提供し、東海村にある日本原子力開発機構が保管してきたプルトニウム331キロについて、米国側が日本政府に対して返還を要求している、というのである。
    ※米、プルトニウム返還を要求 オバマ政権が日本に 300キロ、核兵器50発分 / 背景に核テロ阻止戦略(共同通信、2014年1月27日
    【URL】http://bit.ly/1j5GRIn)
     そして都知事選が終わり、新都知事となった舛添要一氏が、大雪害をよそに出かけたソチ五輪も閉幕したあとの2月25日、プルトニウム返還の方向で日本政府が最終調整に入ったとの続報がひっそりと流された。
    ※政府、米にプルトニウム返還へ(ロイター、2014年2月25日【URL】http://bit.ly/1dxCYF5)
     日本は戦後、「原子力の平和利用」の名の下、原発を導入した。しかしそれは、岸信介元総理や佐藤栄作元総理などの発言からも分かるように、「平和利用」という大義名分を盾に、原発から出るプルトニウムによって核技術抑止能力を持つための手段であった。戦後の日本は、「原子力の平和利用」「非核三原則」を顕教、核技術抑止を密教とし、そのどちらが日本の本音なのかを明らかにはしないという「あいまい路線」、すなわち「中庸」を取ってきたのである。
     しかし、靖国神社への参拝や集団的自衛権の行使容認といった安倍政権の暴走に眉をひそめる米国は、2018年に迎える日米原子力協定の期限切れを前にして、日本に対して、従来の「中庸」路線をそう易々とは認めないのではないか。今回のプルトニウム返還要求は、中国との間で政治的緊張を高める日本に対して、強い警告を発する米国からの政治的メッセージとも受けとれる。
     今回の東京都知事選で最大の争点となった「脱原発」は、このような軍事と安全保障の観点から捉える必要がある。
    仮に「中庸路線」が不可能となったとき、日本が取るべきなのは、都知事選において61万票を獲得した田母神俊雄氏の主張する、国際的な孤立を強いられてでも核武装に踏み切る、「核武装独立路線」なのか、核保有の技術も、プルトニウムの貯蔵もすっぱりとあきらめる「絶対平和主義」なのか。2011年3月11日の福島第一原発事故直後から、「原発とは、核を抱えている社会の問題だ」と主張してきた京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏に、話を聞いた。
    ▲岩上安身のインタビューに応じる小出裕章氏
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    ◆原発は電気のためではなく核兵器を作るために導入された◆
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    岩上安身「私は今、京都大学の原子炉実験所に来ています。小出裕章先生にこれからお話をうかがいたいと思います。小出先生、よろしくお願いいたします」
    小出裕章氏(以下小出、敬称略)「よろしくお願いします」
    岩上「今、都知事選のまっただなかです(※インタビューの収録は2月3日)。そういう状況で発言をすることは少し控えたいと言っていらしたところに押しかけまして、本当に申し訳ありません。どうしてもこのタイミングで、小出先生のお話をうかがいたいと思いました。
     多くの人が、今回の都知事選の喧騒に飲み込まれてしまって、非常に重要なニュースを見逃しているのではないかと思います。その件について、ぜひ先生のご見解をお聞きしたいと思っています。
     その重大なニュースとはいうのは、アメリカがプルトニウムの返還要求をしてきている、というものです。1月27日に共同通信が一報を流しまして、各紙がそれを載せました(※1)。我々は、これは大変なニュースなのではないかと思いまして、外務省に連絡したんですね(※2)。外務省の担当課は、否定はしませんでした。曖昧な言い方でしたが、否定はできないということは、それが事実なのだろうと思います。
     文芸評論家で早稲田大学の教授の加藤典洋さんが、3.11以降に『3.11~死神に突き飛ばされる』という本を書かれて、その中に、「国策と祈念」という論文を書いていらっしゃいます(※3)。日本の原発の平和利用において、それとワンセットで、核の技術的抑止というものが目指されてきたのだということを指摘されています。
     ところが、もしこのプルトニウムを返還しろということを言われたのであれば、日本の核開発の目的というのは、水泡に帰してしまいます。これは、実は大きな選択を迫られるという話なんですね。
     核技術抑止論と言ったり、潜在的核保有論と言ったり、いろいろな言い方はあると思いますが、こういうことを近年、石破さんとか、あるいは安倍さんも、発言をされている(※4)。
     しかしこうなると、周辺諸国、とりわけ中国との関係において牽制するということはできなくなります。曖昧な戦略ができなくなる、ということです。そうなると、もう核兵器を持ってしまうか。それともまったく諦めるかという選択を迫られるのではないか。このように分析しているんですね。
     こんなに脱原発の議論が都知事選がらみで盛り上がっているにも関わらず、この話題が全然議論の遡上にあがらないのです。
    そこで、小出先生にお話をうかがいたいなというふうに思っております。日本の原発の平和利用と言っても、裏側に核燃サイクルと抱き合わせで、このような核兵器保有のための準備をし続けてきたというのは事実であり、そして、このプルトニウム返還要求が、そうしたものの断念を迫られる可能性があるという点について、どのようにお考えでしょうか?」
    小出「日本という国は、原子力の平和利用というような言葉を作って、あたかも日本でやっている原子力利用は平和的だとずっと装ってきました。しかし、もちろんそんなことはありません。
     ずいぶん前でしたけれども、野坂昭如さんが、技術というのは、平和利用だ、軍事利用だと分けることが出来るはずがないとおっしゃっていました。そんなものはない、と。もしあるとすれば、平時利用と戦時利用だということでした。
     平時に使っている技術でも、戦時になればいつでもまたそれが使える、ということです。日本が原子力をそもそもやり始めたという動機も、先程から岩上さんがおっしゃってくださっているように、核兵器を作る潜在的な能力、技術力を持ちたいということから始まっていました」
    岩上「そもそも核保有が出発点であり、電気のためではなかった、と」
    小出「もちろん、そんなのは違います。核兵器を作る力を持ちたかったということで、日本の原子力開発が始まっているわけですし、単に技術力だけではなく、平和利用と言いながら、原爆材料であるプルトニウムを懐に入れるということです。
     そしてもうひとつは、ミサイルに転用できるロケット技術を開発しておかなければいけない、ということです。両方を視野に入れながら、科学技術庁(※5)というものを作ったわけですね。今はなくなりましたけれども。
     科学技術庁は、原子力と宇宙開発をやるわけですけれども、まさに原爆を作るためのものです」
    岩上「なるほど。ひとつの役所が、まるごとそのために生まれたようなものだと」
    小出「そうです。日本人は、日本は平和国家と思っているかもしれませんけれども、国家のほうでは、戦略的な目標を立てて、原子力をやってプルトニウムを懐に入れて、H2ロケットやイプシロンなど、ミサイルに転用できるロケット技術を開発してきたんですね。
     しかし、日本のマスコミは、例えば、朝鮮民主主義人民共和国が人工衛星を打ち上げると、ミサイルに転用できる、実質的なミサイルであるロケットを打ち上げたという。しかし、自分のところが打ち上げるH2ロケット、イプシロンについてはバンバンザイという、そんな報道しかしないわけですね。
     もちろん北朝鮮だって、ミサイル開発と絡んでいると思いますけれども、同じように日本だって、軍事的な戦略を立てながらやってきたわけです。
    ただし、日本の思惑というものが貫徹できるかどうかということは、現状では、完全に米国が握っているんですね」
    岩上「これは、日米原子力協定というもので、拘束されている、と。これはどういうものなのでしょうか」
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    (※1)共同通信は1月27日付けで、「米、プルトニウム返還を要求 オバマ政権が日本に 300キロ、核兵器50発分/背景に核テロ阻止戦略」というニュースを報じた。記事によれば、「複数の日米両政府関係者」が明らかにした話として、茨城県東海村にある日本原子力研究開発機構の高速炉臨界実験装置(FCA)で使用するプルトニウム331キロについて、米オバマ政権が日本政府に対し、返還を要求しているのだという。記事は米国による返還要求の背景として、「『核兵器転用可能な核物質をテロリストの手に渡してはならない』と訴えるオバマ大統領の安全保障戦略がある」と解説している。(【URL】http://bit.ly/1j5GRIn)
    (※2)1月27日、共同通信の報道について、IWJは外務省に事実関係を取材した。取材に対して、外務省の軍縮不覚散・科学部、不拡散・科学原子力課の主席事務次官は「具体的な中身についてはノーコメント」としつつも、「日本としても核物質のセキュリティ強化を重視しており、国際的な核セキュリティ強化への貢献という観点から、アメリカの取り組みに積極的に協力してきている」と回答するなど、共同通信の報道を否定はしなかった。
    (【URL】http://bit.ly/1dXRSDu)
    (※3)『3.11~死神に突き飛ばされる』の著者である加藤典洋氏は、米国からのプルトニウム返還要求について、自身のTwitterに分析を投稿した(加藤典洋氏の「プルトニウム返還要求の意味」まとめ【URL】http://togetter.com/li/621667)。
     加藤氏は2月4日、岩上安身のインタビューに応じ、次のように語った。「『非核の選択』を書かれた杉田弘毅さんに直接お聞きしましたが、核の技術抑止政策というのは、いつでも核武装ができる最高度の技術だと。日本はそれを持ってしまった。非核三原則が盾となって、核の技術抑止が可能になった、という面があるのです。日本の政策は、非核三原則と核の技術抑止をセットにする、というものでした。それが今回、安倍政権の暴走で、このセットが破綻することになったのではないか。米国からプルトニウムの返還がなされたのには、このような背景があるのではないでしょうか」(【URL】http://bit.ly/1jOQ59e)
    (※4)自民党の石破茂幹事長は2011年10月の雑誌「SAPIO」のインタビューで、「原発を維持するということは、核兵器を作ろうと思えば一定期間のうちに作れるという『核の潜在的抑止力』になっていると思っています」「私自身は、安全保障の面から、日本が核兵器を持てることを否定すべきではないと思う」「日本は、核の平和利用を原子力発電の技術によって営々と積み重ねてきた。なればこそ、テクノロジー面においても、マネジメント面においても、世界で一番安全な原発を作っていかなければいけない。これは、世界に対する日本の責務だと私は思う。だから、私は日本の原発が世界に果たすべき役割からも、核の潜在的抑止力を持ち続けるためにも、原発をやめるべきとは思いません」と述べ、「核技術抑止」の観点から、原発を維持すべきだと主張している(【URL】http://bit.ly/1f5D0JB)。
    2002年5月13日、安倍総理(当時は官房副長官)も、早稲田大学の大隈講堂で行われた講演会で、「自衛のための必要最小限度を超えない限り、核兵器であると、通常兵器であるとを問わず、これを保有することは、憲法の禁ずるところではない」「核兵器は用いることができる、できないという解釈は憲法の解釈としては適当ではない」と述べている(【URL】http://bit.ly/1j3VJ7I)。
    (※5)1956年に総理府の外局として設置。2001年の中央省庁再編の一環として廃止され、その業務は内閣府と文部科学省に引き継がれた。原子力安全・保安院の前身である原子力安全局や航空技術研究所などを抱え、主に原子力技術と宇宙開発技術を担った。初代長官は、読売新聞社主で「原子力の平和利用」キャンペーンを行って原発の導入を推進した正力松太郎である。(科学技術庁 Wikipedia【URL】http://bit.ly/N2zGTv)
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    ◆米国の属国だからこそ可能だった日本の原子力政策◆
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  • 【第123-126号】岩上安身のIWJ特報!自衛隊が米軍の「下請け」になる日~山口大学副学長・纐纈厚氏インタビュー

    2014-02-04 19:23  
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    第123・124・125・126号―――――――――――――――――――――――――――――――――――
    岩上安身のIWJ特報!
    自衛隊が米軍の「下請け」になる日 
    特定秘密保護法と集団的自衛権行使容認の先にあるものとは何か
    山口大学副学長・纐纈厚氏インタビュー
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     1月24日に召集された通常国会の施政方針演説で、安倍総理は解釈改憲による集団的自衛権の行使容認に対し、改めて強い意欲を示した。
     「戦後六十八年間守り続けてきた我が国の平和国家としての歩みは、今後とも、変わることはありません。集団的自衛権や集団安全保障などについては、『安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会』の報告を踏まえ、対応を検討してまいります」
    ※第百八十六回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説(首相官邸ホームページ【URL】http://bit.ly/1ivBTV4)
     安倍総理の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(通称・安保法制懇)は、第2次安倍政権発足から約2ヶ月後の2013年2月8日に召集され、以後、5回にわたり会合を開催。座長代理の北岡伸一・国際大学学長を中心に、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認に向けて議論を進めてきた。
    ※政策会議:安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(首相官邸ホームページ【URL】http://bit.ly/1bs1Uwt)
     菅義偉官房長官は1月7日、BSフジの番組内で、集団的自衛権の行使容認を提言する「安保法制懇」の報告書が、4月にも政府に提出される見込みであることを明らかにした。与党の公明党は行使容認に慎重な姿勢を崩していないが、安倍総理は外交・安全保障政策で考えの近いみんなの党や日本維新の会と政策協議を行い、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認を目指す構えだ。
    ※菅長官、安保法制懇報告書は4月提出の見通し(産経新聞、1月7日【URL】http://on-msn.com/1hDJJIw)
    ※首相、みんなと政策協議へ 集団的自衛権の解釈変更見据え(産経新聞、1月27日【URL】http://on-msn.com/1mNlV66)
     いよいよ現実味を帯びてきた、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認。山口大学副学長で、日本の有事法制に詳しい纐纈(こうけつ)厚氏は、「集団的自衛権の行使容認により、自衛隊は米軍の”雇い兵”になる」と警鐘を鳴らす。特定秘密保護法の強行採決、日本版NSCの創設、防衛大綱の改正、そして集団的自衛権の行使容認により、日本の自衛隊は、日本国民のためではなく、ただ米軍のためだけに、戦争をすることができる部隊へと変貌するというのである。
     米国のために、軍事属国化につき進む安倍政権。その起源は、戦前・戦中に制定された軍機保護法や国防保安法といった秘密保全法制、そして戦後の「安保再定義」の中で押し進められた有事法制の整備にあると、纐纈氏は指摘する。
     外交・安全保障、そして軍事の問題について、歴史を紐解きつつ分かりやすく解説した、必読のインタビューである。
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    ◆インタビューのポイント◆
    1.「安保再定義」と有事法制
     1950年の警察予備隊の設置、1952年の保安隊への改編、そして1954年の自衛隊への改編と、日本の軍事力は、ソ連と中国という共産主義国家の脅威に対する「反共の防波堤」として、米国の意向を反映するかたちで整備された。
     しかし、ソ連の崩壊など東西冷戦構造の終焉に伴い、日米安全保障条約と自衛隊はその存在意義を問われることになった。「安保再定義」の必要に迫られた日米両政府は、1997年9月の日米ガイドライン(日米防衛協力)改訂、1999年5月の周辺事態法、そして2001年9月11日の同時多発テロ事件以降に制定された武力攻撃事態法などといった一連の有事法制を整備し、日米の軍事的一体化を押し進めた。
     安倍政権による特定秘密保護法の制定、日本版NSC(国家安全保障会議)の設置、集団的自衛権の行使容認、敵基地先制攻撃論は、こうした「安保再定義」以降に行われた有事法制の延長として理解することができる。
    2.米国の東アジア戦略の変化
     2013年10月3日、米国のケリー国務長官とヘーゲル国防長官が来日して日米安全保障会議(2プラス2)が行われ、日米両政府は2014年末までの日米ガイドライン再改定で合意した。
     既に発表された日米共同文書でもその一端をうかがうことができるが、現在、実務者レベルで協議が行われているガイドラインの再改定では、米国の「対中国海洋戦略」が明確に打ち出されるものと見られる。
     この、米国による「対中国海洋戦略」において最前線に投入されることになるのは、米軍ではなく日本の自衛隊である。米国は、経済的に交流が進んでいる中国との関係を考慮し、いざとなれば戦争の責任を日本側に押しつけようとしているのである。
    3.秘密保全法制と戦争
     戦前の秘密保全法制は、いずれも戦争の直前に制定されている。軍事上の秘密を保持する目的で軍機保護法が制定されたのは、1904年に日露戦争が始まる直前の1899年。この軍機保護法は、満州事変が始まる直前の1931年に改正されている。さらに、政治上の機密事項の取り締まりを目的に、日米開戦の直前である1940年、国防保安法が制定されている。
     このように、日本における秘密保全法制はいずれも、戦争が始まる直前に制定されていることが分かる。このことから、特定秘密保護法も、戦争に備えるための法律であると考えることができる。
    4.中国には戦争をする意図も能力もない
     現在の日中関係の「躓きの石」になっている尖閣諸島の領有権問題について、中国の人民や多くの知識人は、共同管理による非武装地帯化など、穏便な解決方法を望んでいる。また、現在の中国政府には、米国を敵にまわしてまで、尖閣問題をきっかけに日本と戦争をする意図も能力もない。
     軍事力を増強しているのは、中国人民解放軍ではなく、実は日本の自衛隊のほうである。自衛隊は「ひゅうが」や「いせ」、そして「いずも」といったヘリ護衛艦を保有しているが、これらの実態は、いずれも戦闘機の離着陸が可能な空母である。日本の海上自衛隊は、既に専守防衛のための部隊ではなく、海外への進出が可能な「外征型」に変化している。
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    ◆特定秘密保護法の可決が危惧される日に◆
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    ▲纐纈厚氏
    岩上安身「みなさんこんにちは。ジャーナリストの岩上安身です。本日は、山口大学副学長の纐纈厚(こうけつ あつし)先生にお話をうかがいます。纐纈先生、はじめまして。よろしくお願いいたします」
    纐纈厚氏(以下、敬称略)「よろしくお願いします」
    岩上「本日(2013年12月5日)、参議院の国家安全保障特別委員会で集中審議が行われていまして、16時頃に自民党が質問をすることになっています。その質問の直後に強行採決が行われ、特定秘密保護法が委員会で可決してしまうのではないか、と言われています。
     そんな日に、有事法制、あるいは軍事史の専門家である纐纈先生にお話をうかがえるのというのは、本当に。これはいいタイミングと言って喜べることでもないんですけれども」
    纐纈「ええ、喜ばしいことではありませんね」
    岩上「でも、先生にお話をうかがえるのはたいへん貴重な機会と思っておりますので、よろしくお願いいたします」
    纐纈「こちらこそ、よろしくお願いします」
    岩上「まず、先生のご著書を紹介させてください。まず、『侵略戦争と総力戦』(※1)。こちらは社会評論社というところから出ているたいへん分厚い本です。
     それから『侵略戦争』(※2)という、ちくま新書から出ているコンパクトな本があります。『有事法制とはなにか~その史的検証と現段階』(※3)という、インパクト出版会から出されているご著書もありますね。
    このように、戦前戦中の大日本帝国時代の歴史を総括するお仕事、それから、つい最近の有事法制のあり方を研究されていらっしゃる訳ですね。
    さらに、『監視社会の未来』(※4)というご著書もあります。ご専門にされている戦時体制と、国民を監視するような監視国家化というのは表裏一体な関係ということですね。それと、『防諜政策と民衆』(※5)というご著書。これは秘密保護法に非常に深く関わるお仕事ではないかなと思います。
     それから、こちらが12月8日に発売される『日本降伏~迷走する戦争指導の果てに』(※6)。先生、たいへんな多作でいらっしゃいますね」
    纐纈「にほん(日本)降伏です」
    岩上「にっぽん(日本)ではない?」
    纐纈「破裂音ではありません」
    岩上「にほん(日本)降伏。それはなにかこだわりがあるんですか?」
    纐纈「もちろんあります」
    岩上「では、そのことも含めて後ほどうかがわせてください。さらに、『日本はなぜ戦争をやめられなかったのか』(※7)というご著書も同じ12月8日に出ます。こうしたご著書に沿ったお話もうかがおうと思います。
    ですが、なんといっても今日は特定秘密保護法、それからこれに関連する日本版NSC設置法や集団的自衛権の行使容認など、現在の話を中心にお話をお聞きしたいと思います。これらは突然降ってわいたものではなく、十数年間にかけて用意されていった一連の法整備の果てにあるものなのではないでしょうか。さらには、これら現代の有事法制が、戦前戦中の法制度と比較して、何が重なりあい、何が違うのか。このあたりのお話をうかがっていきたいと思います。
     まず、『にっぽん(日本)』ではなく『にほん(日本)』だと。これはなぜなんですか?」
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    (※1)纐纈厚『侵略戦争と日本』(社会評論社、2011.07) 出版社紹介文「われわれは、侵略戦争を強行してきた戦前社会と同質の社会を生きているのではないか。連続のキーワードとしての「総力戦体制」の形成と挫折、その現代的復活を通史として明らかにする」(【URL】http://amzn.to/1l6s9jn)
    (※2)纐纈厚『侵略戦争~歴史事実と歴史認識』(ちくま新書、1999.07) 出版社紹介文「日清戦争から十五年戦争にいたるまで、日本を貫いてきた侵略思想とは何だったのか。明治期、西欧に対抗するべく強大国家=覇権国家を建設する過程で形成された帝国主義は、なぜ南京大虐殺や慰安所設置に代表される暴虐を生み出したのか。歴史事実の実証を通じて、自己本位の侵略思想が再生産される構造と体質を明らかにするとともに、歴史認識の共有による”平和的共存関係”への道を探る」(【URL】http://amzn.to/1dYUOS6)
    (※3)纐纈厚『有事法制とは何か~その史的検証と現段階』(インパクト出版会、2002.03) 出版社紹介文「戦前期から現在に続く有事法制の変遷を概観し、その歴史的かつ政治的な位置確認を行うことでその危険性を指摘し、露骨な軍事主義に貫かれた今日までの有事法制に対して反論の機会を創り出す」(【URL】http://amzn.to/1cMMpmP)
    (※4)纐纈厚『監視社会の未来~共謀罪・国民保護法と戦時動員体制』(小学館、2007.09) 出版社紹介文「国の安全と引きかえに何が失われるのか?戦前・戦中の治安立法の制定過程から有事法制・共謀罪の危険を読み解く」(【URL】http://amzn.to/KnUgwl)
    (※5)纐纈厚『防諜政策と日本~国家秘密法制史の検証』(昭和出版、1991.01) 出版社紹介文「防諜(スパイ防止)政策は戦前期日本の民衆動員と統制を目的として強行された。それは民衆の監視態勢を用意し、最終的に民衆の弾圧・排除へと突き進んだ。いま、民衆支配の実態の一端を告発する」(【URL】http://amzn.to/1g5cHAc)
    (※6)纐纈厚『日本降伏~迷走する戦争指導の果てに』(日本評論社、2013.12.08) 出版社紹介文「本書は、1945年、ポツダム宣言という形で「降伏勧告」を受けながら、結局ソ連参戦、原爆投下という外圧によってしか『終戦決定』=『天皇の聖断』に漕ぎ着けることができなかった日本の政治・政治指導の実態を木戸幸一、高木惣吉、近衛文麿の日記などの史料を丁寧に読み込ながら明らかにする。『終戦決定』は国民無視の『国体の護持』のみに奔走した結果、たどり着いた政治指導者の無責任な結論だった。本書が明らかにするその実態は現在の日本の政治指導に通底するものであり、本書は『終戦決定』に至る過程の深層だけでなく、現在の政治・政治指導の根源をも解き明かしている」(【URL】http://amzn.to/1bDl2qH)
    (※7)纐纈厚『日本はなぜ戦争をやめられなかったのか~中心軸なき国家の矛盾』(社会評論社、2013.12.08) 出版社紹介文「なぜ、近代国家成立以後の日本は、一貫して中心軸なき国家となってしまったのか。なぜ、自立と主体性とか、独立国家として不可欠な要件を満たしてこなかったのか。その理由はどこにあるのか」(【URL】http://amzn.to/JNt9dm)