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  • 【第282-287号】岩上安身のIWJ特報! 日本語が「国語」から「現地語」に転落するとき安倍政権による「英語化」政策を警戒せよ! 九州大学准教授・施光恒氏インタビュー 第一弾

    2016-11-01 16:23  
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     9月26日に召集された、秋の臨時国会。今国会で安倍政権が「なんとしてでも」の意気込みで成立させようと目論んでいるのが、TPP承認案である。
     安倍総理による並々ならぬ強い意志を代弁してのことだろうか。TPPを所管する山本有二農水相は、10月18日、東京都内で開かれた佐藤勉衆院議院運営委員長(自民党)のパーティーで、「強行採決するかどうかは、佐藤氏が決める。だから私は、はせ参じた」などと発言。まだ審議の最中であるにも関わらず、「強行採決」を予告してみせた。
    ※農相、強行採決「佐藤氏が決める」TPP審議巡り(日本経済新聞、2016年10月19日【URL】http://s.nikkei.com/2emKtsN)
     民進党をはじめとする野党各党は、この発言に反発して審議の引き伸ばしを図っているものの、10月26日には北海道と宮崎で地方公聴会が行われた。与党は、今国会でなんとしてもこのTPP承認案を成立させたい構えだ。
     TPPといえば、農産物の関税に議論が集中しがちだが、問題はそれだけではない。なかでも、最も重要であるにも関わらず、国会でほとんど議論された気配がないのが、「非関税障壁」のひとつである言語の問題である。
     TPPには「公共調達」に関する事項が含まれている。TPPがいったん発効されてしまえば、日本の公共事業について日本の業者が日本語の文書で入札しようとすると、「外資系企業の新規参入を阻害している」という理由で、訴訟の対象となってしまう可能性があるのだ。その結果、日本の公共事業であっても入札は英語で行われるようになり、外国資本が際限なく参入してくることになるだろう。
     役所で働く者は、中央官庁から中小の自治体に至るまで、英語による文書化・コミュニケーション力が必須となり、英語が「公用語」と化す。役所で英語が「公用語」化すれば、自ずと民間企業でも英語が「公用語」と化してゆく。
     英語ができる者とできない者とでは、仕事につくチャンスが極端に開き、格差が拡大してゆく。日本社会あげて、「自発的」に英語植民地化へ邁進してゆくことになるのである。
     安倍政権のもとでは、見かけ上の「愛国主義的」な装いとは裏腹に、日本の国富を外資に売り渡すTPPと軌を一にして、小学校から大学に至る各種教育機関における「英語化」の流れが推進されている。
     安倍政権は2013年11月に「英語教育改革実施計画」を発表、「小・中・高等学校を通じた英語教育全体の抜本的充実を図る」という基本方針を示した他、2014年8月には、「公共の場での会話は英語に限定する」という「英語特区」構想を打ち出した。
     日本人はこれまで、英語、特にコミュニケーションツールとしての英語に苦手意識を持っていると考えられてきた。なのでこうした「英語化」の流れは、一見すると、日本人のコミュニケーションの幅を広げ、より広い視野を獲得することにつながるようにも見える。
     しかし、本当にそうなのだろうか? こう疑問を投げかけるのが、九州大学准教授で、2015年7月に『英語化は愚民化』(集英社新書)を刊行した施光恒(せ てるひさ)氏である。
     施氏は本書で、外国語を母国語に「翻訳」したうえで、多くの国民が母国語で思考し、活動する環境が存在してこそ、その国の経済や文化は繁栄する、と主張する。そのうえで施氏は、仮に日本で「英語化」が推進されれば、「英語が使える層」と「英語が使えない層」に社会が分断され、中間層は没落して格差が固定化し、日本は外資の「植民地」になってしまうだろう、とも述べている。
     そのときに起こるのが、日本語が「母国語」ではなく、「現地語」に転落するという事態だ。役所に提出する文書や、ビジネスの契約書、アカデミックな論文はすべて英語で作成され、日本語は市井のちょっとした会話でだけしか使われないようになる――。「英語化」とは、こうした極めて売国的な政策であるにも関わらず、「保守」を自称する安倍総理は、これを積極的に推進しようとしているのである。
     「英語化」された先、日本国民にはどのような未来が待っているのか。今号では、私が今年1月26日に行った施氏への単独インタビューをフルテキスト化し、注釈を付してお届けする。(岩上安身)
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    ◆TPPをはじめとするグローバル化により「英語化」に突き進む日本、公共事業の入札資料が日本語から英語に~日本語が「公用語」から「母国語」の地位に滑り落ちようとしている!◆
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    ▲九州大学准教授・施光恒氏
    岩上安身(以下、岩上)「皆さん、こんにちは。本日のインタビューは、楽しみにされている方がたくさんいらっしゃると思います。昨年7月に出たご著書『英語化は愚民化~日本の国力は地に落ちる』(2015年、集英社新書)がベストセラー街道を爆進中です。読みやすく、かつ非常に奥行きが深い。ぜひ皆さんに手に取っていただきたい一冊です。
     この本には、『早期の英語教育がいいかどうか』などという狭い範囲の話ではなく、英語を母国語の代わりのように学ぶことの持つ意味は、実はもっともっと大きな政治的な意味を含んでいるという、大変重要なことが書かれています。
     この本を書かれた、九州大学准教授の施光恒(せ てるひさ)先生にお越しいただきました。施さん、初めまして。よろしくお願いいたします」
    施光恒氏(以下、敬称略)「よろしくお願いいたします」
     
    ▲施光恒著『英語化は愚民化』(集英社新書)
    岩上「ここにご著書の数々を並べています。共著も多いのですが、ハードカバーの非常に専門的なご著書もありますね。『ナショナリズムの政治学 規範理論への誘い』(2009年、ナカニシヤ出版)というご著書の中にも、『リベラル・ナショナリズム』という言葉が出てきます。施さんは、実は英語教育学がご専門なのではなく、政治理論がご専門なのですね」
     
    ▲施光恒・黒宮一太編『ナショナリズムの政治学』(ナカニシヤ出版)
    施「はい、そうですね」
    岩上「政治理論、つまり権力の構造や力のせめぎ合いなどを研究する方が、英語に注目して書かれた本だということがよくわかりますね」
     
    岩上「施さんは、1971年に福岡にお生まれになり、現在は九州大学比較社会文化研究院の准教授でいらっしゃいます。慶応義塾大学大学院法学研究科政治学専攻後期博士課程修了。博士号を取っているんですね。ご専門は政治理論、人権論、政治哲学。特に近年は『リベラル・ナショナリズム』の政治理論を研究していらっしゃいます。自由民主主義とナショナルなものとの理論的関係性について考えるということですね。
     ナショナリズムというと、他国といさかいを起こすような右翼のイメージを持つ人も多いかもしれませんが、施さんは、健全なナショナリズムを土台にしないと、実は自由主義も民主主義も花が咲かないとおっしゃいます」
    施「そうですね」
    岩上「今までの右翼と左翼の対立、不毛な会話の間から、ナショナルなもの、健全なものをきちんと大事にしながら、その上でリベラルデモクラシーを構築しようとおっしゃっているように思います。
     他の代表的な著書に『まともな日本再生会議』(中野剛志、柴山桂太共著、2013年、アスペクト)や『TPP黒い条約』(中野剛志編、2013年、集英社新書)などがあります。中野剛志(※1)さんとの共著が多いですね。人間関係が近いのですか」
            
    ▲『まともな日本再生会議』(アスペクト)       ▲『TPP黒い条約』(集英社新書)
    施「そうですね。それに、中野さんとはやはり考え方が近いのだといえます。私は、自由民主主義の根底には健全なナショナルなものがないとまずいのではないかという研究を、これは英語圏の政治理論ですけれども、近年、興味を持って取り組んできたんですね。
     一方で中野剛志さんは、経済の観点から、安定した社会が発展する、格差がない経済社会を作るためには、やはり健全なナショナルなものがしっかりしていないとまずいのではないか、という考えですので、そういうところで考え方が近いのだと思います」
    岩上「なかなか話題になりにくいのですけれども、TPPの中には、最初に発表された21分野に及ぶ交渉分野の中に、公共調達、つまり公共事業があって(※2)、日本全国津々浦々、地方に至るまで、これを英語で入札しなさい、英語でホームページを出しなさい、英語で文書処理しなさい、などという、もういきなり英語帝国主義のような要求があります。
     ではアメリカが日本語のパンフレット、日本語の入札資料、日本語のホームページを書くのかというと、書かないですよね」
    施「そうですね」
    岩上「参加国がそれぞれの言語を大事にして、何でもそれぞれの言語で文書処理しましょうというならわかりますけれども、全部英語にしてくれというのは、大変な問題ですよね」
    施「この公共事業の入札は、かなり大きな問題だと思いますね。今日は大筋合意に至った条文を持ってきました。この中の15章に『政府調達』という項目がありまして、『やはり公共事業の仕様書や発注の調達計画の公示は英語を用いるように努めるべきだ』ということが入っているんですね。
     非常に大規模な公共事業については、今も国際入札をしているんですけれども、今後TPPに入ったら、市町村に至るまで、かなり額の低いものまで、国際入札にしなければいけなくなる。その時に、全部英語で仕様書を作成し、おそらく入札手続きも英語で行わないと、文句をつけられると思うんですね」
    岩上「そうですね。英語で問い合わせが来て、いちいち英語で返していく、ということになってしまう」
    施「もうそうなると、事実上英語が公用語にならないとまずいわけですよね」
    岩上「霞が関の本省のエリートならともかく、全国津々浦々に至る市町村まで、英語で文書を出さなくてはいけない。そうなるともう、皆がてんやわんやで英語を勉強するか、あるいは、申し訳ないけれども英語ができない人は閑職に退いてもらって、英語ができる人を急いで雇わなければならないということになりますね」
    施「そういうことになりますね。もう一つの問題は、ここにビジネスチャンスが生じるということです。英訳をする業者、外資系にそういうノウハウを持っている会社が多いのでしょうけれども、おそらくそういう業者に、地方自治体がべったり頼ることになるでしょうね」
    岩上「アウトソーシングするか、もしくは、その1部門を丸抱えしてもらうということですか?」
    施「はい。情報も駄々漏れになるでしょうし、お金も全部そっちに流れてしまいますね。大きなビジネスの機会が出てきます」
    岩上「そうですね。長い年月を経れば、官庁用語は英語だということが染みついてしまう」
    施「ええ。そうなると思いますね」
    岩上「官庁用語が英語ということは、英語が『公用語』で、日本語が『生活語』だということになりますよね」
    施「もう、日本語はいわゆる『現地語』になってしまう。作家の水村美苗(※3)さんが『日本語が亡びるとき』(筑摩書房、2008年)という本を出しまして、『英語が公用語になると、日本語は天下国家を論じられる国語ではなく、旧植民地諸国の身近なこと、喫緊なことしかしゃべれない現地語に落ちてしまうのではではないか。難しい言葉がしゃべれない言語になってしまうのではないか』ということを論じていました。
     まさに、ビジネスも学問も行政も、日本語では立ち行かなくなる。日本語が単なる現地語に落ちてしまう可能性が、本当に目前に迫っていると思うんですね」
     
    ▲水村美苗『日本語が亡びるとき』(ちくま文庫)
    岩上「植民地そのものですよね」
    施「そう思いますね」
    岩上「今現在も、この地上には帝国然とした国があり、そこから解放された、あるいはまだその支配下にあって事実上の植民地状態にある国へ行くと、本当に日本と違って、本1冊読むのも、自分たちの本来の言語で読めないんですね」
    施「そうですね」
    岩上「当たり前のことが学べない。ものすごく簡単なものしか学べなくて、高等教育あるいは世界の文学、世界の知にアクセスできない。例えば英語、ロシア語など、その領域を支配している最大の支配言語を学べなければ、一級市民になれない」
    施「そうですね」
    岩上「だから、国の独立が果たせないんですね。これは大変なことですよ。日本自ら、今、植民地になろうとしている」
    施「そうですね」
    岩上「これまでもずっと、軍事的にはある意味植民地だと思われてきましたけれども、本当に魂の内実から植民地になりかねない」
    施「はい。その方向にどんどん進んでいるように思います」
    岩上「進んでいますよね。いや、本当に恐ろしいと思います」
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    (※1)中野剛志:評論家、経済産業省特許庁総務部総務課制度審議室長。TPP反対派の急先鋒として知られる。著書に『TPP亡国論』(集英社新書)、『国力とは何か~経済ナショナリズムの理論と政策』(講談社現代新書)、『日本防衛論~グローバル・リスクと国民の選択』(角川新書)、『反・自由貿易論』(新潮新書)など多数。
     「経済ナショナリズム」を研究対象とし、デイヴィッド・ヒュームからアレクサンダー・ハミルトン、フリードリッヒ・リストといった「経済ナショナリスト」の思想を再解釈することで、新自由主義とは異なる「保守」のための経済政策を提起することを目指している(参照・慶應MCC通信てらこや、中野剛志『異端の思想 経済ナショナリズムとは何か』【URL】http://bit.ly/2chVOut)。
    (※2)TPPの中には、最初に発表された21分野に及ぶ交渉分野の中に、公共調達、つまり公共事業があって:2015年10月5日の米国アトランタ会合で大筋合意したTPPは、農産品の関税だけでなく、知的財産、金融サービス、電子商取引、公共調達など21分野に及ぶ。
     TPPにおける「公共調達」に関して、立教大学教授の郭洋春氏は著書『TPP すぐそこに迫る亡国の罠』(三交社)の中で、次のように指摘している。
     「今でも、日本政府が公共事業を発注したり、モノを買ったりする際に、外国の企業は参入できます。その時は、政府のホームページなどに、50日間掲載し、広く募集します。ただし、現状では、規模の小さい仕事については、すぐに取りかからなければならないことを理由に、外国産業が参入できる仕事の予定契約額に、一定の基準を設けています。
     しかし、日本がTPPに加われば、そうした基準は撤廃され、事業の規模に関係なく、あらゆる分野に外国の企業が参入してくる可能性があります。そうなると、日本国内の建設会社などが受注できる機会が減ることになるでしょう」[140]
     岩上安身はこれまで、TPPの危険性について、郭氏に複数回にわたりインタビューを敢行している。
    ・2013/02/21 「TPPは現代の植民地政策」 米韓FTAの惨状からTPPを考える ~岩上安身による郭洋春氏(立教大学経済学部教授)緊急インタビュー
    http://iwj.co.jp/wj/open/archives/59749 
    ・2015/01/30 世銀・IMFがもたらす「構造調整」という名の「破壊的経済モデル」~新自由主義的圧力で進んでゆく間接的植民地化――郭洋春・立教大学経済学部教授に岩上安身が聞く
    http://iwj.co.jp/wj/open/archives/229091 
    (※3)水村美苗:作家。東京生れ。12歳で渡米。イェール大学仏文学専攻。同大学院博士課程修了。プリンストン、ミシガン、スタンフォード大学で日本近代文学を教える。著書に『続明暗』(芸術選奨新人賞)、『私小説 from left to right』(野間文芸新人賞)、『手紙、栞を添えて』(辻邦生氏との往復書簡)、『本格小説』(読売文学賞)などがある。
    (参考:Amazon.co.jp【URL】http://amzn.to/2apSmLC)。水村氏は『日本語が亡びるとき~英語の世紀の中で』(ちくま文庫)の中で、「英語化」の流れについて次のように記している。
     「英語が<普遍語>になるとは、どういうことか、それは、英語圏をのぞいたすべての言語圏において、<母語>と英語という、二つの言葉を必要とする機会がふえる、すなわち、<母語>と英語という二つの言葉を使う人が増えていくことにほかならない。そのような人たちが今よりはるかに増え、また、そのような人たちが今よりもはるかに重要になる状態が、百年、二百年続いたとする。そのとき、英語以外の諸々の言葉が影響を受けずに済むことはありえないであろう。ある民族は<自分たちの言葉>をより大切にするかもしれない。だが、ある民族は、悲しくも、<自分たちの言葉>が『亡びる』のを、手をこまねいて見ているだけかもしれない」[67]