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ファム・ファタール:アルテミスの祝福(作:雅や)
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ファム・ファタール:アルテミスの祝福(作:雅や)

2020-05-30 19:15

     ハリ・パパスはこのところその明晰な頭脳をフル稼働させていた。

     これまでの経緯を考えれば、「そう」なることは想像に難くない。「それ」だけは、なんとしても避けなければ。

    「……やっぱり確実なのは、先手必勝、かな……」

     幾度となく繰り返した脳内シミュレーションで、最善の一手を導き出す。

    「よし……この手なら」

     このところ「それ」を考えている間中、ずっと渋面だったハリ・パパスの顔にようやく笑みが浮かぶ。

    「チェックメイトだ」

     あとは、「それ」を実行に移すだけだった。


     カノン
    J.草薙は、「その日」を目前に悩んでいた。

     だって「彼」は、「食」にそれなりの「こだわり」があるように見えるのだ。

    (だから、私の作ったものじゃ満足させられないような気が……するのよねぇ)

     肥えまくったハリ・パパスの「舌」は。

     そりゃあ、心はもう「めいっぱい」込めるけれども。

    (そもそも、ハリくんの好きな食べものってなんだっけ……?)

     悩みながら廊下を歩くカノンの足元を、ピコポコと軽快な音を立てながらポーとコレがついてくる。その音に気を取られ、正面の通路を曲がって「彼」が姿を現したのに気付くのが遅れた。

    「どうかしたんですか、カノンさん?」

    「ハ、ハリくんっ!」

    「すみません、驚かせました?」

    「ううん、大丈夫……って、私、何か悩んでるように見えた?」

    「ええ。こう、眉間にシワを寄せて……すごく考え込んでいるように思いましたけど……僕で良ければ、相談に乗りますよ?」

    「ありがと、でも大丈……」

    「あ、すみません。そうですよね。僕じゃあ、カノンさんのお悩み相談の相手なんて務まらないですよね……」

     シュン、と顔を伏せてしまったハリ・パパスに、カノンが焦る。

    「あ! ち、違うのっ! ハリくんが頼りにならないとか、そういう事じゃなくて……あのね、えーっと……」

    (でも、本人に誕生日プレゼントは何がいいか聞くのって……うーーーん……)

    「……無理に話してくれなくて大丈夫ですよ……?」

    「そ、そうじゃないの! あー、もういいやっ! あのね、ハリくん! 明日のお誕生日、何か食べたいものない? 簡単に作れるものでっ!」

    「え?」

    「ほ、ほら、ハリくんグルメだし、あんまり手の込んだものは作れないけど、せっかくのお誕生日だし、お祝いしたいなーって思って……」

    「カノンさんが、僕のために手作り料理を……?」

    「イ、イヤじゃなければ、なんだけど……」

    「イヤなわけないじゃないですか! すっごく、すっごく嬉しいです!」

    「……ほんと?」

    「ええ! そうだ、僕カノンさんお手製のハニーケーキが食べたいです!」

    「ハニーケーキって、はちみつのケーキのこと?」

    「そうです。僕の故郷では誕生日のお祝いはハニーケーキが定番なんですよ」

    「へえ、そうなんだ! うん、任せて! 腕によりをかけてがんばるから……って、でも、私、ハニーケーキは作ったことないなぁ」

    「大丈夫です! 混ぜて焼くだけっていうとってもお手軽ケーキだし、それに……僕も一緒に作りますから!」

    「え?」

    「嬉しいなぁ~僕、姉がいないから、昔から『お姉ちゃんと料理する』のが夢だったんですよ」

    「そうなんだ? あ、じゃあ一緒のエプロン付けて作ろう、私、用意しとくね!」

    「ありがとうございます! じゃあ、僕はレシピの材料準備しておきますね」

    「え、それは私が……」

    「いえいえ。僕のために作ってくださるんですから、そのくらいは僕が」

    (あ、そっか。お気に入りの材料とかがあるのかな……?)

    「じゃ、じゃあ……よろしく」

    「ええ。さっそく調達に行ってきます」

     なんだかウキウキと食物倉庫の方へ歩き出すハリに、ピコポコと音を立ててポーとコレがあとを追う。

    「あ、こら。ポー、コレ、ついてくるなよ」

     追い払われて、ポーとコレはコロコロとカノンの足元に戻ってきた。

     なんだかやけに足取り軽く、ハリは去って行く。

    (ハリくん……そんなに『お姉ちゃんと料理』したかったんだ)

     その後ろ姿に、どことなく自身の弟の姿を重ね……

    (あの子は、こんなに可愛げないわ)

     自分の手料理を食べるのをなんとしてでも回避していた実弟を思い出し、カノンはふ~っと溜息をついた。


     そして翌日、ハリ・パパスの誕生日当日。

    ふたりは仲睦まじくおそろいのエプロンをつけ、(主にハリの手によって)つやつやふっくらしっとりの、まるで月のように真ん丸なハニーケーキを見事に焼き上げた。


    そう。この日を目前に、ハリ・パパスはその明晰な頭脳をフル稼働させたのだ。

     これまでの経緯を考えれば、カノンが誕生日に手料理を振る舞おうとすることは想像に難くない。「それ」だけは、なんとしても避けなければ。いや決して、祝ってくれようとする彼女の気持ちが嬉しくないというわけではないのだけれど、断じて。

    「でも……ごめんなさい、カノンさん。僕は……僕は、貴女の手作り料理を口にする勇気がどうしても出ないんです……えへっ」

    見えない角度で、ハリがペロッと舌を出していたことに、カノンはまったく気付かなかった。


    Happy,HappyBirthday Hali Pappas.0530

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