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メタフィクション「価値形態小説」
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メタフィクション「価値形態小説」

2013-05-29 19:40

     少し前に、“トイレの底からこんにちわ7回「価値形態」”という動画を投稿したのだが、難解でわかりにくい、という意見があった。ゆえに、今回は小説的なプロットを例にとって解釈していこうと思い立った。 なぜ、これほどまでに「価値形態」にこだわるのか、と言えば、これを知っておけばどんな小説にも活用できる非常に実用的な形式だからである(事実、小説すばる新人賞を受賞した『桐島、部活やめるってよ』もある意味「価値形態小説」に属するのだから)。
     そもそも「価値形態」とは何かというと、字面からいって難解に感じるかもしれないが、なに、しごく簡単な話で、例えば次のようなケースをいう。
     エドガー・アラン・ポーには『盗まれた手紙』という短編がある。この作品は、ある手紙をめぐる複数の視線たちの駆け引きが主軸になっている。
     1つ目の視線は、何も気づいてない視線である。2つ目の視線は、1つ目の視線を騙しきったと思い込んでいる視線である。そして、最後の3つ目の視線は、2つ目の視線の欺瞞を見抜く視線である。
     話ここに到って、私は読者諸氏に問いたいことがある。
     れいの一枚の手紙が、以上の3つの視線を規定していないだろうか? 
     と同時に、3つの視線によって、れいの1枚の手紙が「意味ありげなもの」(価値あるもの)として規定されていないだろうか?
     以上のような状態が、「価値形態」という状態なのである。お分かりいただけただろうか?
     要は中心に何かがあって、それによって登場人物たちが規定され、と同時に、登場人物たちの立ち位置によってその中心にあるものが意味ありげに見えてくれば「価値形態」と呼べるわけだ。このルールを守れば、いくらでも「価値形態」的な小説のプロットが立てられることになる。
     ちなみに、私は先ほどからエッセイのように筆致で書き出しているが、現在、もうすでに“この小説”の内部に入り込んでいる状態であるから、読者諸氏も十分に注意が必要である。
     ラフに考えてみよう。
     私はTwitterでも報告したようにさる526日にうつ病の方々が集まる「定例会」に参加した。そこで、私はある女性と出会い、ある身の上話(物語)を聞かされた。その物語を(申し訳ないのだが)拝借して、この価値形態小説のプロットを考えてみたいと思っている。この時点で、読者諸氏は、「はい、もうそこからフィクション(虚構)ね。バレバレだよ」と思うかもしれないが、その余のことは、527日のニコ生で話したはずである。まだ、TSが残っているはずだから、気になる方は見て、事実か虚構か確かめてみるといいだろう。
     話を元に戻そう。
     彼女の身の上話(物語)の設定は次のようなものであった。
     彼女は、実家の一軒家で三人暮らし(飼い猫も入れると四人だが)をしているそうだ。しかし、その三人の組み合わせが奇妙で、父親、彼女、そして、彼女の男友達らしい。母親は、数年前、大腸がんで逝去したそうだ。そのショックもあり、彼女は精神病になった。そして、通っていたクリニック先で、その男友達と出会ったらしい。二人とも精神病だったということも勿論あるが、彼女と父親との二人の生活がそもそも険悪なものだったらしいから、父親も、「娘に良き理解者が出来た。娘の病気が少しでもやわらぐのなら、俺は構わない」と言い、同居することを認めてくれたという。精神病同士だから、変なこと(いわゆるできちゃった結婚のような如何わしい関係)にならないだろう、という目算もあってのことだったらしい。だから私も、「彼氏」ではなく、「男友達」という言葉を慎重に用いてきたわけである。
     父親は月20万の年金を貰い、かつ現役で働いていたし、彼女も、その男友達も、バイトをしていたというから、生活費的には困らなかったそうだ。ただ、彼女自身、精神的に働くのは週2が限界であったし、加えて、その男友達も不安定な状態が続いていたから、バイトに受かっては一ヶ月で辞め、また、受かっては一ヶ月で辞め、というような不安定な就労状態であったそうだ。
     要するに、大人一人と、下宿人二人、というような形容がふさわしいような生活実態だったのかもしれない。ゆえに三人の関係は、やはり適度にぎくしゃくしていたと推測せざるを得ない。
     さて、以上のような設定を踏まえて、今度は登場人物の名前を決めなければならぬ。名前は、この間ブロマガで批評した村上春樹の『多崎つくる(以下略)』から拝借するとしよう。彼女を白根父親を灰田、そして、男友達を多崎とする。ここまでは、よろしいだろうか?
     それでは、小説を書きはじめてみよう。


     多崎がその写真を発見したのは、灰田と白根が出かけた後であった。
     白根は父親である灰田と顔を合わせるのが気まずかった。ゆえに、大抵は無理にでも8時前には自転車で家を出るのだ。その日は月曜日で、バイトが入っていた。
     続いて灰田が、9時ごろ駐車場から車で家を出た。
     その頃多崎は無職であったから、ずっと家(二階)にいた。
     お昼になったが、家に目ぼしい食べ物はなかった。昼飯を近所のセブンイレブンに買いに行かなくてはならない。多崎は嫌々ながらも外へ出た。
     そこで、一枚の写真を発見してしまったのだ。
     写真は、駐車場と歩道の境目に落ちていた。おそるおそる近づき、写真を見てみると、――中高年とおぼしき男の、出っ張った腹部と、勃起したペニスが映っていた。
     瞬時、多崎の頭の中でそのだらしない腹部が灰田の体型とかぶってしまったゆえ、多崎は頭をふって、それを取り消そうと必死に努力した。さらに「性器の写真」という象徴から、自身の性生活がおびやかされている気もしてきた。特にやましいことなどないはずなのに
     駐車場の内側なのか、外側なのか、かなりきわどかった。外側ならば無視したっていいわけだが、どうにも気持ちが落ち着かない。あくどいイタズラだ、と多崎は思った。
     誰がやったのだろうか?
     置いていった奴自身の写真なのか、それとも、赤の他人の写真をイタズラ好きの奴が置いていったのであろうか?
     わからない。
     次いで、一番大事なことを忘れている、ということに多崎は気づいた。
     犯人はいつこの写真を置いていったのか、という一点である。
     夜の間か、早朝以外にない。
     おそらく、白根はこの写真は見ていないと断言できる。なぜかといえば、白根は玄関から出て行ったからだ。以前は駐車場に自転車を泊めていたのだが、何かの折に自転車が車に倒れ、灰田の車体に傷をつけてしまって以降、自転車は玄関に置くことになったのだ。
     では、灰田はどうであろう。灰田は、飼い猫が車の下にいるのか調べる癖があるから、そのときに気づいた可能性はある。しかし、もし発見していたとしたら、なぜ灰田はその写真を放置したのだろうか?
     ふと気がつくと、多崎は無意識の内にその写真を拾っていた。
     そして、二階の自室へ持っていき、シュレッダーにかけて粉砕した。かけてから、しまった、と思った。本来ならば、「こんな写真が落ちていたんだけど」と三人で話し合った方がよかったからだ。
     しかし、多崎には、――いや、三人には、この写真について語り合うような勇気と関係性がなかったのだ。


     といった具合に話が進められるわけだ。冒頭で紹介したポーの『盗まれた手紙』でいうところの“手紙”が、この物語では“写真”となっている、という寸法だ。
     説明が済んだところで、話を「作中作(“この小説”の中の小説)」に戻そう。
     この「作中作」を、起承転結でいうところの、「起」の部分、転じて、第一章の終わりの部分まで書き進めてみよう。そうすれば、「価値形態」が輪郭をもって見えてくるはずである。


     
     多崎は、二階の廊下の突き当たりの窓から、外を見下した。
     眼前には保育園とそれに隣接した公園があった。午前中は、子供たちの「お遊戯の時間」でうるさい。夕方には、保護者の方々が車や自転車で集ってくるので騒々しい。何より、監視員を務めている高齢者が周辺を見回っている。こんな人目のつく場所で、わざわざ性的なイタズラをする神経が多崎にはわからない。
     しばらく見ていると、家の前を中高年のどてっ腹の男が歩いていくのを見た。多崎は、写真の男と体型が似ている、とすぐに思った。ウォーキング中らしく、サングラスをしていた。が、そのくせ、何度もちらちらと家の洗濯物を見たりしているのだ。多崎は、怪しい、と思った。
     その中高年の男は、保育園の方へ歩いていくと、監視員の高齢者と話し込みはじめた。もしかしたら、この辺一帯でも顔の知れた有名人なのかもしれない。多崎はそういった「ご近所事情」にとんと疎かった。しかし、そういった顔が知れていることをいいことに堂々と不貞を働くこともあるかもしれない。――などと、頭の中の邪推は尽きなかった。
     ああ、それにしても、あの写真は誰に向けてのものだったのだろうか
     考えてみれば、誰にでも当てはまる。白根に対するセクハラとも取れるし、同じ体型である灰田への嫌がらせとも取れるし、――考えにくいが、自分(多崎)へある種の性的な罪悪感を喚起させんとした、とも取れる。
     ああ、わからない。



     白根はバイト帰り、言いにくそうに多崎に告げた。
    「あのね、……黙ってたんだけど、パンツが一つ、見当たらないんだよね」
    「なんだって?」と多崎は驚嘆した。
     事件は忘れた頃にやってくるものである。
     三ヶ月後、今度は白根の下着(パンツ)が盗まれたのである。
    「…パンツって、庭に干してあった奴か?」
    「ううん、違くて」白根の顔は冷静さを保つために青ざめていた。「おととい、干した下着をずっと一階の居間に置きっ放しにしてたの。そしたら…」
    「無くなってたのか!?」多崎の顔も青ざめはじめていた。
    「うん」白根はか細く答えた。
    「たぶんさ」多崎は眉尻をひそませながら、「昨日、オレらが家を留守にしている間に盗まれたんだよ」
     その頃になると、多崎もバイトを週4で始めており、おとといは自宅にいたが、昨日はバイトで留守にしていた。同じく白根も昨日はバイトで家にはいなかった。灰田は、言わずもがなである。
     家にいたのは、飼い猫だけであった。
     飼い犬ならば番犬にもなろうが、飼い猫はその点、まるで役に立たない。その上完全な家猫ではないから自由な出入りのために居間の窓を少し開けておく必要がある分、むしろ防犯上はマイナスでしかない。
     犯人はそこをついたのだ。
     それも今度は、駐車場ではなく、家の内部に置いてあったものが盗まれたのだ。
     白根は勿論のこと、今回の件に到っては、さすがの多崎も恐ろしくなってきた。それは当然、二度目の性的なイタズラだ、といことを知っていたからだ。二人は呆然と「事件現場」に立ち尽くしながら、警察に届け出ようか出まいか相談しだした。
    「窃盗罪と家宅侵入罪だよ、これは。警察に言うべきだ」と多崎。
    「でも」白根は不審そうな顔をして、「だったら、窓を閉めておけ、で終わっちゃわない?」
    確かに」と多崎は苦笑して、「これで、みゃんこ(飼い猫の名前)がいなければ、万事解決するんだけどな。コイツがいるから、真昼間から居間の窓を開けておかなければならなくなる」
    「そんな言い方しないで。わたし、みゃんこの存在にずいぶん助けられているんだから」と白根は反発した。
     多崎はため息をついて、
    「まぁ、とにかく、警察に言っても無駄だろうな。では定期的にパトロールしましょう程度の話で終わるだろうからね、十中八九。でも、」と言いかけて、多崎は口をつぐんでしまった。
     以前の“写真”の事件を思い出していたのである。白根はれいの“写真”の事件を知らない。性的なイタズラが今回で二度目だということを知らない。本来なら、GPS(発信機)をつけた下着(えさ)でも干しておくべきぐらいの事態なのだが、――白根の精神状態を考えると、そんなことはとても言い出せるものではない。
     いや、逆に言ってしまおうか。
     むしろ、今しかチャンスがない、とすら言えないか。今まで隠してきたけど、三ヶ月前、駐車場にペニスを露出した写真が捨ててあったんだ。だから、これで性的なイタズラは二度目なんだ。――そこまで台詞を考えて、やはり無理だ、と多崎は悟った。
     多崎は、
    「・・・とにかく、灰田さんには、黙っておこう。より面倒なことになりそうだから」
     と言った。
     白根も一もなく二もなく、
    「…そうね」
     とそれに同意した。
     もとい、多崎がそんな余計な心配をしなくても、白根の精神状態は徐々におかしくなりはじめていたのである。



     白根はやがて物音一つにもびくつくようになり、しまいには「部屋に鍵をかける!」と言い出してきかなくなった。この家の近隣に変質者がいるという事実が、白根を過剰防衛へと向かわせてしまったのである。
     こうなってしまうと、多崎が何を言っても、もう無駄であった。
     ある日、白根は「確か…」とぶつぶつ呟きながら、居間にある小さな箪笥を調べていた。
    「なにしてるんだ?」と多崎は不審顔で質問した。
     白根は、
    「――この家を作るときね、ドアの鍵付けとかを担当した下請け会社のネームプレートが、このへんにあったはずなのよ…」
     と言って、しつこくがさごそと探している。
    「まさか、部屋に鍵をつけてもらうつもりなのか?」と多崎は驚きの態で詰問した。
    「あった!」と白根は言った。もはや、多崎の話などろくすっぽ聞いてない様子である。
     元々、この家の設計は灰田が知り合いの工務店に頼んだのだが、ドアの取付けなどはまた別の下請け会社が担当していた。当然、その下請け会社も灰田とのコネがあった。
     白根は、さっそくそのネームプレートに書いてある電話番号にかけて、「二階の部屋に内鍵をかけてくださいませんか?」と懇願した。
     そして、灰田がいないであろう時間帯と曜日を選び、「父にではなく、ちゃんと私に電話するようにしてください。おねがいします!」と釘を刺し、電話を終えた。
    「これで、よし!」白根はほっとした様子であった。
     しかし、結果は悪い方向へと進んでしまった。
     翌日、バイトが休みの多崎は一人家にいた。すると、午前10時ごろ、一本の電話がかかってきた。
    「多崎くんか? ――きみ、俺は恥をかいてしまったよ」
     灰田からの電話であった。
    「どうしたんです?」と多崎。
    「なんでも、娘(白根)が、内鍵を作ってくれ、とS(下請け会社)に電話したそうじゃないか。『内鍵をかけたい、なんて、どうしたんですか? 一体』なんて俺の携帯にかかってきて、びっくりしたよ。いいかい? きみに言っても仕方がないことだが、鍵を取り付けるのには多額のお金がかかるんだ。娘(白根)が俺のことを嫌悪しているのはわかっているが、悪いが、娘の部屋まで覗くつもりはないからね。そう、娘に言っておいてくれたまえ」と呆れたような調子で言って、電話を切った。
     灰田には“写真”の件も“パンツ”の件も話していないせいか、灰田は最近の白根の行動を自分のことを嫌悪しての行動だと勘違いしていた。
     けれど、その勘違いの半分は当たっていたのだ。
     なぜならあの日以来、白根は父親である灰田のことをほとんど無視するようになってしまったのだから。その理由は性的なイタズラをする不審者=灰田くらいの年齢の男性と思い込むようになってしまったからであった。
     そして多崎にとって、もはや犯人探しはどうでもいいことになってしまった。
     問題は、写真やパンツのせいで三人の関係が悪化してしまったことにあった。
     当然、親子同士(灰田と白根)の関係は(以前から気まずい関係ではあったが)以前よりも悪くなってしまった。灰田は、なぜこんなにも急に娘から嫌悪されるようになったのか一向にわからず、ただただ困惑している様子であった。
     そして多崎としては、れいの“写真”の一件以来、白根に対してずっとプラトニックな関係であったことに対して泥を塗られたような気持ちがずっと心の奥深くにあり、その実、白根に対して以前ほど甘えたりすることができなくなってしまっていた。
     多崎は自分自身に問う。
     僕はなんだかかんだ言って白根に性的な欲望を抱いているのだろうか?
     そんははずはない、そんなはずはない、と繰り返し打ち消してみても、れいの“写真”と“パンツ”の呪いは、そんな疑惑をいくども反芻させるのだった。・・・・



     ――とまぁ、こんなところである。「価値形態」、お分かりいただけただろうか? 
     冒頭で述べたことを、繰り返し述べておこう。
     以上のように、“写真”やら“パンツ”やらなんでもいいが、何か一つのアイテムを中心に置くことによって周囲の人々の視線が規定され、と同時に、周囲の人々の視線によって、その一つのアイテムが意味ありげなもの(価値あるもの)に見えてくる、というのが価値形態小説なのである。
     と同時に、以上のようなことを解説したり、時に「作中作」を挿入しながら構築していくのが、“この小説”の全貌でもあるのである。
     こうして「小説を書くということを書く小説」を「メタ・フィクション」と呼ぶ。
     ややこしいジャンルだが、イタズラ好きの僕としては大好きなジャンルの一つでもあるので、これを機にぜひ覚えて帰ってもらいたい。小説は、もっと自由であっていいはずなのだから。
     この小説において、どこまでが虚構で、どこまでが事実かは、言わないでおきたい。ヒントは随所に残しておいたはずだから。それも含めて、楽しんで欲しい。
     それでは、また次回。(TwitterDMを貰ったNさん、こんなところでご要望に応えられたかな?)


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