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レーゼドラマ「囚人のジレンマ」
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レーゼドラマ「囚人のジレンマ」

2013-06-05 19:30

     Aは目覚めた。

     そこは見知らぬ部屋であった。

     ドアを開けようとしたが、開かなかった。

     液晶テレビが部屋の四隅に用意されている。

    それが、大音量でとにかくやかましい。

    出来れば即電源を切りたいのだが、肝心のリモコンが見つからない。

    くそったれ。

    その代わりと言ってはなんだが、床を見てみると、2つの携帯が置いてあった。

     液晶テレビの中で、明らかに異様な映像を映し出しているものが一つだけあった。

    自分と同じような部屋に閉じ込められている二人の男の姿である。

     すると、天井からボイスチェンジャーを使用した野太い男の声が聞こえてきた。


    『二つの内、一つを選べ。一つは密告。これは相手を犯人だと私に密告すればその部屋から出られることを意味する。ただし、相手から自分が密告された場合、相殺され、その部屋から出ることはできない。もう一つは黙秘。これは何も変わらない。ただし、全員が黙秘した場合のみ皆がその部屋から出られる。この選択を1時間の間に決定せよ。時間は各々の部屋に置いてある携帯を参考にせよ。

     

     Aはテレビの中の二人の男を観察しつつ、話を聴いていた。

    そこには天井を眺めつつ謎の男の話を聴いている二人の男の姿が映っていた。

    そして、声が途絶えると、あわてて携帯を探し当て、手に取っている様子が見て取れた。


     一方。

     Bは携帯を切ったあと、部屋をぐるぐる歩き回り、「ちくしょう!」と叫んだ。

    しかし、いくら叫んでも、部屋のテレビたちの大音量は鳴り止まなかった。

    実際、気が狂いそうだった。

     ややあって、別の携帯が鳴った。

     出ると、Cからだった。

     Bは

    「あなたは、どなたです? …もしかして、僕と同じく、テレビがいっぱいある部屋に幽閉されているんですか?」

     と聞いてみた。

     しかしCは、

    俺はお前を裏切る。それだけだ」

     とだけ言い残し、携帯を切ってしまった。

     Bは、くそが! と叫んだ。

    こういう何を言っても無駄な奴が一人はいるもんだ。

    このゲームを仕組んだ奴もそれを考慮してキャスティングしたに違いない。

     当初、Bは、あわよくば皆黙秘をして皆助かればいい、と思っていた。

    が、Cの態度に接して、その考えは一変した。やっぱり人間を信じてはダメだ。

     Cは、自分を裏切る、と言っている。では、俺もCを密告しよう。

     しかし、それだけでは俺もアイツ(C)も損をするばかりだ。

     くそっ。

     すべてはCというキチガイのせいだ。

     だが、待て。

     俺の部屋にはもう一つの携帯がある。つまり、俺の部屋には合計3つの携帯があるのだ。

     この3つ目の携帯は、C以外の誰かの存在を示唆していないか。

    1つ目の携帯はこのイカれたゲームを支配している奴へと通じている。2つ目はCの奴へと通じている。では、この3つ目の携帯は誰に通じているのだろう?

     Bは早速かけてみた。

     すると、――Aが出た。


     Bは、Cの存在を隠しつつ、Aを説得しようと思った。

    まずは、俺を密告の対象から外さなくてはいけない。

    B「あ、どうも。あなたも、部屋に閉じ込められている人ですよね。僕の部屋には2つの携帯があり、1つはこのゲームを支配している奴に、そして今使っている携帯はあなたに繋がっていました。あなたの部屋には、何台の携帯がありましたか?」

    A「・・・2台です」

    B「やはり。ということは、同じように部屋に閉じ込められている人は、おそらく、僕たち二人だけということです。ここはお互い、結託しましょう」

    A「つまり、黙秘する、ということですか?」

    B「そうです。そうすれば、お互い、この部屋から出ることができますよ」

     Aは、Bが嘘をついていることを知ってしまった。

     なぜなら、テレビでBとCが話しているのを見ていたからだ。Aは、Bは信用ならない、と思った。

     しかし、Bはなぜこんなすぐバレるような嘘をついたのだろう?

     ――もしかしたら、他の囚人たちの様子が映っているテレビは俺の部屋にしかないのかもしれない。そうしたら、全ては合点がゆくではないか。

    携帯が2つしかない代わりに、このテレビを与えられたのだ。

     このテレビによれば、俺(A)の他に、2人いることは確たる事実だ。

     十中八九、Bともう一人の奴だろう。

     そして、Bはもう一人の奴(C)と話をしていたことも確たる事実だ。俺は、テレビでその様子を見ていたのだから。

     Bはそのもう一人の奴(C)と結託の末、俺を貶めようとしている可能性がある。

     しかし、俺(A)はもう一人の奴(C)と連絡がとれない。

     ならば、コイツ(B)をうまく騙して、もう一人の奴(C)が俺の味方になる可能性に賭けるほか道はない。

    A「わかりました。黙秘しましょう」



     一方。

    B「おい、Aは黙秘すると言ったぞ。俺だって、もちろん、そうしたい。おまえの考えは変わらないのか?」

    C「ああ、俺はおまえを裏切る

    B「ああ、そうかよっ!」

    Bはぶち切れた。

    「俺もお前を裏切る! おまえを密告してやる!」そう激高して、携帯を切った。

     Aは、その様子をじっと見ていた。

     様子がおかしい方がBだと仮定すると、これは交渉に失敗したと見ていいだろう。

    ということは、別段、BとCは結託などしていなかったのではないか。

    そうなると、

     BはおそらくCに密告される

    ゆえに、仕返しとしてBはCを密告するだろう。

    また、道ずれに俺(A)も密告することだろう。

    そうなれば、トントンで誰もこの部屋から出られない。

     Cの態度を変えられればすべてはうまく行きそうなものなのに。

    歯がゆい。



     一方。

     Bは思う。

     Cを説得するのは無理だ。奴は必ず俺を密告する。だが、そんなことをしてなんの得になる? なぜ、そんな頑なに俺(B)を貶めようとする? 絶対、俺(B)が仕返しとして密告し返すことは容易に想像できることなのに。 

     もしや、――CはAと結託しているのか?

     いや、いくら二人が結託していても、俺が二人のうちの一人を密告すればそのうち一人は取り残されることになるのだ。

    いやそもそもCの態度(密告)から考えて、CとAの結託はありえない。

     そもそもの「正解」は、みんなが黙秘することだ。

     そうすれば、みんなが平等にこの気が狂いそうな部屋から出られる。

    なのに、Cは俺(B)を裏切るとぬかしやがる。

     では、一転して、AとCは関係ない、と考えるべきなのか。

     もうだめだ。

    わからない。それにもう時間がない。

     BはAに電話をかけた。

    B「すみません。いきなりなんですが、――たぶん俺たちは一生この部屋から出られません」

    A「なぜです?」

    B「もう一人いるんです。Cってやつが」

    A「知っていましたよ」

    B「え?」

    A「知っていたんです、はじめから」

    B「あ、あんた、もしかして、このゲームの参加者じゃなくて、支配者なのか!?」

    A「まさか。違いますよ」

    B「ちくしょう! あんた、俺を試していたんだろう!? くそったれ!」

     BはAを憎んだ。

    Aがこの狂ったゲームの支配者だったのだ。

    つまり、Aは囚人のふりをしているが、いつでも自由に部屋を出ることができるのだ。

    きっと、それを知ったCも自棄を起して、俺を道連れにしようと考えたに違いないのだ。

     くそったれ。

     Cの奴は最初から助かる気などなかったのだ。

     …こうなれば。


     一方。

     Aは、万事休す、と思った。

     Bは、俺(A)とCを密告することだろう。そして、Bは俺(A)とCから密告される。堂々巡りだ。話は原点に戻るばかりだ。

     どうする?


    囚人のジレンマ(しゅうじんのジレンマ、英:prisoner’s Dilemma)】

     ゲーム理論の用語。

     個人に二つの選択肢(協力/非協力)を与えられた、二人の人間が遭遇するジレンマ。

     個人にとっては、(自己の利益の最大化という個人にとって合理的な判断である)非協力行動を取った方が望ましい結果が得られる。

     が、それは自分&相手の両方に言えることで、二人が非協力行動を取ると、二人が協力行動を取った場合よりも、望ましくない結果が生じる状態。



     結果。

     AはBを密告した。

     BはAを密告した。

     肝心のCは黙秘した。

    なにより、誰からも密告されなかった。

     なぜ?

     理由は簡単、AもBも、Cのことは、お互いにどちらかが密告するであろう、と暗黙のうちに決め付けていたからである。

    結果、どちらも相手任せになり、どちらもCを密告しなかった

     それにしても、なぜCは黙秘を選んだのだろうか?

     あれほどBに対し、

    俺はおまえを裏切る

     と言ったのに。

     そう。

     文字通り、Bの態度自体を裏切ったのだ

     Bは携帯での会話中に、

    おまえを密告してやる!

     と言った。

     だから、それを裏切り、「黙秘」を選んだのだ。

     

     Bの携帯が鳴った。

    「ゲームオーバーだ、お二人さん」とC。

    「Cか! おい、どういう意味だ、ゲームオーバーって!それに、お二人さんってどういうことだ!? 俺とAが出られないっていうことか!?」とB。

    「そうだね」とC。 

    「それでおまえだけはこの部屋から出られるって言うのかよ!? おい、冗談だろ!? おい、なんでだ!? おまえは何を選んだんだ!?」と激高するB。

    黙秘さ」とC。

    「じゃあ、出られる権利なんかねーじゃねーか! 黙秘は皆が同時に選択しなければ意味がないんだぞ! おい、ちゃんと説明しろ!」とB。

    「説明も何も、君に言った通りさ。僕は君を裏切った。それだけさ」とC。

    「答えになってねーぞ! それがなぜおまえだけが部屋を出られることに繋がるんだよ!? ちゃんと答えろ!」とB。

    「……確かに僕は黙秘を選んだからルールに従えばそのまま残らなくちゃいけない。けど、ここが僕の家だとしたら別に残っていてもかまわないと思わないかい? ああ、楽しかったよ、囚人くん。また、見回りにくるからね」

     そう言い残し、Cからの電話は切れた。

     Bは呆然として肩を落とし、一言、

    アイツ(C)がこのゲームの支配者だったっていうのかよ…」


     AはテレビでCが部屋の扉を軽々しく開けるのを見て、

    「な、なぜだ!? なぜ、こんなことに…」

     と言い、頭を抱えて絶望した。



    THE END


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