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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その3
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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その3

2018-04-11 13:58
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    [本号の目次]
    1. 生きているダイオウイカの発見
    2. 日本海の中腕型雄標本
    3. 日本海の短腕型雄標本
    4. 日本海の短腕型・中腕型・長腕型

    生きているダイオウイカの発見


     2002年年明けに、ショッキングなニュースが日本海の若狭湾にある京都府海洋センターの和田洋蔵さんから送られてきた。1月15日に京都府網野町五色海岸で釣り人が岩礁の隙間で動き回っている巨大なイカを発見したという。近隣の住人が協力して捕獲し、近くの港まで牽引してきたとのこと。その時撮影された写真が送られてきた。黄金色に光らせた眼を見開いた巨大イカが、長い腕で岩礁にしがみついている姿が記録されていた。間違いなく、ダイオウイカである。この写真は、生きているダイオウイカを撮影した最初の写真として、新聞をはじめ多くのメディアで紹介された。ただちに、和田さんに冷凍保存してくれるようにお願いして、2月初めに車をチャーターして標本を受け取りに現地に赴いた。この個体は外套長約1.7mで最長腕が外套長の1.2倍ほどで日本海産中腕型の成熟雌と査定された。発見当初は生きて動いていたとのことだが、その後二日にわたり港で海中に係留されていたため、損傷が著しく触腕も失われていた。

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    2002年1月5日、京都府網野町五色浜で発見された生きて岩にへばり付くダイオウイカ

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    港に係留されていたダイオウイカ


    日本海の中腕型雄標本

     分類学的に頭足類の種類を検討する場合、比較する標本は雄で成熟状況がほぼ同じものが望まれる。今までに小笠原から長腕型の雄標本は得られているが、日本海の雄は謎のままだった。2003年1月11日、京都府舞鶴市沖に設置されている野原水産株式会社の大型定置網にダイオウイカが入網したとの連絡が、京都府水産センター上野陽一郎さんから入った。上野さんにお願いして標本を冷凍保存してもらい送付していただいた。両触腕は失われていたが、状態のよい標本であった。早速解凍して調べてみると外套長1.36m、外套長と最長腕の比率が1.3の中腕型と判定された。外套膜を切り開いたところ長い陰茎と発達した精莢嚢、貯精嚢をもつほぼ完熟の雄標本であることが分かった。さらに第4腕の先端部を確認すると、吸盤が失われて肉畝状に変形しており、交接腕変形部と判断された。これで、待望の日本海産中腕型の成熟雄標本が手に入った。あとは、短腕型である。

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    2003年1月11日、京都府舞鶴沖の定置網に入網したダイオウイカ(触腕は二本とも失われていた)

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    第4腕先端部。吸盤が無くなり、肉畝状に変形している

    日本海の短腕型雄標本

     そこで1996年に最初に入手した鳥取県気高町に打ちあがった短腕型の標本を再度調べてみることにした。最初のダイオウイカ標本とあって、解剖することは控えていたのだ。大型のホルマリンタンクに保存してあった標本を取り出してよく水洗いをした後、外套膜を切り開いた。中に残っているホルマリンが目や鼻を痛く刺激するが、外套膜の中には立派な陰茎が体後部から漏斗に伸び、漏斗開口から先端が飛び出していることが観察され、明らかに成熟した雄個体であることが分かった。第4腕の先端部を調べてみると、中腕型の雄と同じように吸盤が失われて肉畝状になっていた。これで成熟状態がほぼ同じの雄三型の外部形態の比較が行える。

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    1996年鳥取県気高町の砂浜に打ち上げられたダイオウイカ(外套長1.4m)

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    外套膜を切開した内部。中央の太いチューブが陰茎で先端が漏斗口から飛び出ている

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    第4腕の先端部。吸盤が失われて肉畝状に変形している

    日本近海の短腕型・中腕型・長腕型


     これら成熟雄の形態の比較では、腕の長さ(外套長に対する割合)や腕吸盤の大きさ、交接腕変形部の形態さらに交接腕基部の吸盤数に明らかな違いが認められ、各々別種あるいは亜種レベルで種分化しているもの判断された。

    短腕型:腕は太く短く、最長の第4腕は外套長の97%。雄の左右第4腕の先端部12-15%は吸盤を欠き交接腕変形部となる。交接腕変形部は中央の溝とその左右に約40-45の肉畝からなり、その基部に125個前後の吸盤を数える。

    中腕型:腕は比較的太く、最長の第4腕は外套長の121~130%。雄の左右第4腕の先端部12-14%は吸盤を欠き交接腕変形部となる。交接腕変形部は中央の溝とその左右に約35-40の肉瘤からなり、その基部に150-175個の吸盤を数える。

    長腕型:腕は比較的細く長く、最長の第4腕は外套長の150~170%で、腕側膜が発達する。成熟雄でも第4腕先端部は変形せず250~260個以上の吸盤を数える。

     各々の型の特徴は上記のように纏められた。長腕型は明らかに箕作・池田博士が報告したArchiteuthis sp. = japonica と判定されるが、中腕型や短腕型は未記載種の可能性がある。しかし、論文としてまとめる過程で大きな壁にぶち当たってしまった。


    ・・・その4へ続く。

    一番最初からから読みたい方は下をクリックしてください。
    その1:http://ch.nicovideo.jp/juf25sui/blomaga/ar1471337

    *著者情報
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    【窪寺恒己(くぼでらつねみ)】
    水産学博士 国立科学博物館名誉館員・名誉研究員 日本水中映像・非常勤学術顧問
    ダイオウイカ研究の第一人者。2012年に世界で初めて生きたダイオウイカと深海で遭遇。

    専門分野:海洋生物学/イカ・タコ類/ダイオウイカとマッコウクジラ/深海生物
    主な著書:「ダイオウイカ、奇跡の遭遇」新潮社 2013年
         「深海の怪物ダイオウイカを追え!」ポプラ社 2013年 他

    詳しいプロフィールはこちら
    www.juf.co.jp/seminar/kubodera/

    「烏賊解剖学のススメ」を日本水中映像チャンネルにて公開中!是非ご覧くださいhttp://ch.nicovideo.jp/juf25sui



    *頭足類の映像もあります
     日本水中映像YouTube https://www.youtube.com/user/suitube7

    *講演情報などもアップしています
     日本水中映像FaceBook https://www.facebook.com/japanunderwaterfilms




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