国家緊急権と偽有事体制
   ――反体制の星になった天皇①


▼時代の寿命

 ISIS(イスラム国)に十字軍の仲間呼ばわりされた日本は、テロの標的になるという見方があるが、日本はとっくに十字軍の一味なので、いまさら何をかいわんやである。戦争しないと商売にならない死の商人の思惑としては、日本にもテロを誘い込むようなコケオドシの演出が必要になる。それすなわち有事体制の演出であるが、かかる政府の三文芝居に付き合わされる国民は、今後どういう低予算のドラマを見せてもらえる可能性があるかというと、さしあたり2003年に成立した有事3法の「武力攻撃事態法」に次のような条文がある。

武力攻撃事態等への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限が加えられる場合にあってもその制限は当該武力攻撃事態等に対処するため必要最小限のものに限られ、かつ、公正かつ適正な手続の下に行われなければならない。この場合において、日本国憲法第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。

 この条文は、青字の箇所の意味がわかれば用は足りる。憲法が保障する私たちの自由と権利は、有事にあっては制限される。それが明記されている。自由が制限されるのは、戦時体制ならあたりまえとも言えるのだが、平時にあっても国民の自由と権利は制限されている。それを強化する口実が有事体制であり、実際には有事でなくても政府が有事と認定すれば、この体制は成立する。その際には事実上、国民生活の自由や権利は無化されることも予想される。

 これはテロと称する芝居の規模や被害の度合いにかかわらず、政府がその事態を有事と決めれば成立する。またそもそも憲法は我が国の交戦権を認めておらず、我が国の自衛権は自然法、もしくは国連憲章に基づいている。したがって、実は有事に際しては、最初から憲法は無効である。憲法にだめだと書いてあることをやる以上、その時点で憲法は無化される。

 これは憲法違反というより、憲法が想定していない事態が発生したときになされる超法規的な政治判断である。すなわち国家緊急権による憲法停止である。そういう事態というのは、私たちの生活のリズムが追いつかないほど、来るときはあっという間に来るものである。